小沢征爾の21世紀への提言

 
 
 
指揮者の小沢征爾が21世紀への提言を聞かれて、色紙に次の二つの言葉を書いた。右上に「個」、そして左下に「平和」。小沢はそのことの意味を、あの人特有の飾らない笑顔でこのように答えた。

「やはり平和ということが大切だと、思いますね。で平和というものは、個と個、つまり個人と個人の関係において実現するものではないでしょうか。どんな集団においても、例えば先生が学生に教える時も、学生の側からすれば、「先生と私」という個と個の関係ですね。すべてにこのことが言えるんです。先生が、学生にちょっと一言「君は素晴らしいね」と言うだけで、その関係は素晴らしいものになる。そのような個と個の関係があって、平和が生まれると、私は思うんですね」

小沢征爾の師は、桐朋学園の故斎藤秀雄氏である。彼は斉藤先生から、指揮の方法を教わり、その指揮法をポケットに入れて、ほとんど無一文でヨーロッパに渡った。

そして様々なオーケストラと競演の折りには、唯一の財産であった斉藤先生の指揮の仕方をポケットから取り出して、オーケストラを指揮したところ、「君は素晴らしい」「天才だ」という評価を次々と得て不思議に思った。「斉藤先生から教わった通りにやれば、大丈夫なんだ。世界で通用するんだ」と。

その後、カラヤンやバーンスタインのような巨匠たちからも大絶賛を受け、小沢はあっという間に、大指揮者の地位を築くことに成功した。小沢は、今年65歳。2002年よりアメリカのボストン交響楽団の常任指揮者の地位を離れ、ウィーン国立歌劇場の音楽監督になることが決まっている。

小沢征爾は、斉藤先生への感謝と恩返しの意を込めて、9年前より、毎年夏の時期、長野の松本市で、サイトウキネンフェスティバルと題された音楽祭を開催するようになった。そこで斉藤先生に教えを受けた多くの音楽家の仲間が、年に一度世界中から集まって、オーケストラ編成し、演奏会を催しているのだ。その名もサイトウキネン・オーケストラ。実に豊かな音色を奏でるオーケストラでフェスティバルもサイトウキネン・オーケストラも今日最大級の世界的評価を得るに至っている。

また音楽祭の期間は、松本に、若手の音楽家を集め、後進の指導も怠らない。きっと小沢征爾の中では、「亡き斉藤先生への恩返し」は、若い音楽家の指導と心に決めているのであろう。

個と個の関係が基本にあって、平和が生まれるという小沢征爾の21世紀への提言、確かに心に深く刻みつけておくことにしよう。佐藤

<関連>
小沢征爾の挑戦
http://www.st.rim.or.jp/~success/ozawa_ye.html
 


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2000.9.6