危険球一球で男を上げたドジャーズ 黒田投手の胆力 ロサンゼルス・ドジャーズの黒田博樹投手(33)が、たった一球で男を上げた。その一球は、0勝2敗で迎えたフィリーズとのプレーオフ第3戦、3回2死で、相手打者の頭の上を通す危険なボールを投げたことだ。 その前に伏線があった。黒田の女房役マーチン捕手に、デットボールが当たった。黒田の一球は、その報復行為と見られている。この一球に激怒した対戦相手ビクトリノは、「首より下に投げろ。頭に投げるのは許されない」と言う仕種を数回行った。 当の黒田は何食わぬ顔で、相手をファーストゴロに切って取る。ところがアウトになったビクトリンが、ファースト近辺で黒田に何かを口走り、一瞬で乱闘の空 気が漂った。両軍がベンチから飛び出す。結局、乱闘は起きなかった。この時、前のフィリーズ戦で頭にデットボールを喰ったドジャーズの主砲ラミレスのこと も伏線としてあったらしく、ラミレスは、この乱闘寸前の状況で、「あの位で、興奮するな。オレは実際当てられている」と言わんばかりに、相手チームに食っ てかかる行為に出た。 結局、この一球に、翌日7700ドル(77万円)の罰金が出た。相手は確か1000ドルだから、少し不平等な気もする。 しかし大リーグの公式ホームページでは、直後の記事で、「黒田はたった一球でチームメイトの信頼を勝ち得た」と報じた。同時に、チームメイトのマーチン捕 手は、「黒田は忍者かサムライだ」と絶賛をした。この一球によって、チームがひとつになり、6回を投げて、二点に抑えた黒田は、二敗していたフィリーズに 一勝をもたらし、地元(ロサンゼルス)ファンを熱狂させたのであった。地元の有力視、ロサンゼルスタイムスは「デットボールを受けると謝罪する国から来た ルーキーが3500万ドル(35億)の価値を証明」と妙な褒め方をした。 この黒田のエピソードを見ながら、日米の野球における感覚の違いを強く感じた。アメリカの野球では、報復という行為は、セオリーの中に入っていて、それに よって、チームも熱くなり、ひとつになる効果を発揮する。もしも、黒田が、あの一球を投じなかったら、別に非難されることもなかったと思うが、これほど評 価されることはなかったはずだ。日本では、ぶつけた場合に、投手は打者に頭を下げる風習がある。頭を下げない場合は、「帽子を取れ」とぶつけられた打者が 要求することもある。アメリカでは帽子を取ったら、それだけで、勇者にはなれず、「腰抜け」とチームメイトから軽蔑されかねない。この文化の違いは面白 い。 ドジャーズの名将トーリ監督は、黒田の一球を「故意かどうかはわからないが、けがをさせるつもりがなかったのは確か。・・・仲間は助けなければならない」(共同)とコメントをしたようだ。 今期大リーグ入りした黒田だが、公式戦の投球は、好投しても点が入らず結局9勝10敗に終わったが、内容的には、少なくても13勝から15勝の分の働きは あった。それでも、ワールドシリーズへの勝ち抜き戦(プレーオフ)で、二勝目を上げた黒田投手の評価は高まる一方だ。 松坂(レッドソックス)と岩村(レイズ)のプレーオフ第一戦での力と力の対決も面白かったが私は、開拓者野茂が在籍していたドジャーズの一年目で、早くもアメリカ野球の水にすっかり慣れた印象の黒田の力投の方を買いたい。 |