被災地栗原から道と紅葉のレポート

岩手・宮城内陸地震から早五ヶ月


 荒砥沢ダムの秋
 現在ダム周辺は紅葉シーズンの終わりに差し掛かっている。調査のためか、貯水は僅かだった 。近々防災担当相が視察に来るという話だが、震災から一ヶ月 後に訪れた時と道路を含め周辺地 域は何も変わっていないという印象を受けた。(08年11月9日昼頃筆者撮影)

時の移ろいは早いもので、今週金曜日で岩手・宮城内陸地震が発生して、5ヶ月となる。連日、新聞などを見ると、復旧へ向けた前向きな記事が見られるように なった。そこで被災地住民の生活も、早晩、平常時に戻る過程にあるのかなと、少し楽観的に物事を考えるようになった。

08年11月9日付け河北新報(本社宮城県仙台市)朝刊のトップページには、栗駒山の宮城県側の登山口にあたるいわかがみ平に取り残されたままになってい た車両19台が、およそ5ヶ月振りに、運び出された記事(※注)が載っていた。

※注1河北新報11月9 日朝刊


この記事だけを見ると、道路の修復もかなり進んでいるように思えてしまう。ところが、実際に地元に行って、栗原周辺の道路を走ってみると、地震の際に道路 に現れた亀裂や段差がけっこうそのままになっていて、知らずに通常のスピードを出していると、地震による道路の歪みや段差で、ガクンと来たりする箇所が少 なからず見られた。

地元住民に、道路の件を聞くと、小声で「予算がないのか。それとも、直す気がないのか、しょうがないです・・・」と半分諦めているような言葉が返ってき た。

もちろん国道4号線のような大きな道路は、問題ないようだが、少し国道から県道や市道に入ると、たちまち、道路の具合が悪くなる。というより、栗原、一 関、平泉地区などを走ってみて、大地震の起こった時に、亀裂箇所の応急処置をした後、抜本的な修復に、ほとんど取りかかっていないという印象を受けた。

例えば、一関から萩荘を通って栗駒出る道は、国道(457号)であるにも関わらず、小さな亀裂や段差もそのままになっているところが至るところにあった。 また国道から宮城の県道42号(被害の大きかった耕英地区に到る)入っても、小さな亀裂が段差を修復した様子は見られなかった。

また岩ヶ崎や細倉地区から荒砥沢ダムに到る県道179号も到るところに、亀裂や段差があって、とても危険な感じがした。

栗駒地区や文字地区の道路は、地元住民の生活道路である。生活道路でありながら、これらの修復が放置されたままで、現在報道だけを信じて見ると、あたか も、国や県、市などの復旧への対応は、万全であるような印象を受けるが、地元に来て、実際道路を走り、地元住民の声に耳を傾けてみると、まったく違う現状 が見えて来る。



 被災地で稲藁の取り入れ
 荒砥沢ダムの二迫川下流(文字地区)では崩落現場前で稲藁の取り入れが続いていた。もうすぐ栗駒 山から初雪が舞ってくるはずだ・・・。


マスコミの報道の姿勢に対し、もう少し公の発表をそのまま信用して、報道するのではなく、地元の住民の声や、実際の道路の現状を見た上での記事を書くこと が大切ではないかと思った。

また河北新報の記事を出して悪いが、11月7日(※注2)には、「土砂と格闘道開く 栗原・県道復旧工事」という少し県の工事関係者におもねり過ぎではな いか思われる記事が掲載されている。これは耕英地区の南側の行者滝の崩落現場で関係者が機材を使って土砂と格闘している様子が写真三枚で報道されているも のだ。しかしよく考えて見ると、この記事は、冒頭で紹介した「いわかがみ平」の自動車の運び出しの宮城県の努力を紹介する前段記事なのだ。

※注2河北新報11月7 日朝刊


要するに、この記事は、宮城県の復旧工事を主導する関係者を褒めるための記事である。はっきり言わせてもらって、このタイトルを見ながら、正直なところ 「大本営発表のような印象」を持ってしまった。もっと地元住民の気持ちを汲み取った報道をすべきではないのか。5ヶ月前の地震で、もっとも被害の大きかっ た栗原地区周辺の道路を走りながら、心底そう思った。



 川台渓谷
 三迫川の栗駒ダムの紅葉の名所である川台渓谷(沼倉地区)は、崩落現場のキズ跡の脇 で紅葉が艶 やかに色づいていた。この道路の亀裂の彼方に崩落現場がある。これは断層帯だろう。

河北新報社は、大地震発生以来「特集記事」を組んで、これまで5ヶ月大地震から立ち直る被災地の様子を伝えてきている。その姿勢は大いに評価したい。緊急 出版した「特別 報道写真集 岩手・宮城内陸地震」(河北新報出版センター 08年7月1日刊)も、被害の実態をズバリと伝えていて素晴らしい。それだけ に、今後とも、宮城県の取組姿勢などには、メディア・リテラシーを持って厳しいチェックを加えると同時に、被災住民の動向には、被災地の現状レポートのみ ならず地元住民の生の声を大いに記事に反映してもらいたいものである。

2008.11.11 佐藤弘弥

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