アル・ゴア主演
映画
不都合な真実
を観る


ー 地球温暖化とアメリカー


映画「不都合な真実」(デイビス・グッゲンハ イム監督 2006年 米国)を観た。主演はもちろん数年前、現アメリカ大統領ジョージ・ブッシュに僅差で敗れて、大統領になり損ねたあの「アル・ゴア」 その人である。あの時の印象から、私の中でゴアは、最後の最後まで自分の勝利を信じて粘り抜いたタフな人物というイメージがある。

私は9.11事件が起こった時、こう思ったものだ。
「もしもブッシュでなくゴアであったら、この悲劇は起こらなかったのでは」と。

それほど、アメリカ大統領という職責は重いものだ。世界を一変させてしまうほどのパワーがある。ゴアは、21世紀 の地球の姿をアメリカから変えようとした。それは大量消費型社会から省エネ型の社会へのシフトであった。事実、彼は「環境保護」やITによる「情 報スーパーハイウェイ構想」などのスローガンを掲げ、21世紀の世界を「情報集約型の省エネ社会」へと導こうとし た。しかし残念ながら、ゴアはアメリカ大統領戦に惜しくも敗れてしまう。大きな挫折だったとその時の心境をゴアは隠さない。しばらくして、彼はその夢が破 れた時、自分の前に、たったひとつだけ進むべき「道」があるのを発見する。それは「ライフワーク」ともいうべき差し迫ったテーマだった。

それが環境問題であり、「地球温暖化を止める」活動であった。以後、彼はまさに「地球温暖化問題」の伝道者となって、アメリカの各都市から始まって世界中の都市を巡ることになった。この映画「不都合な真実」では、アル・ゴアという人物がいかにしてこの地球温暖化の問題と出会い、どのような活動をしてきたかを映像 で語っている。

周知のように、アメリカという国家は、年間で全世界の4分の1ものCO2を排出し続ける国だ。石化燃料を湯水のよ うに消費し、省エネという言葉も空しく響くようなムードがすらある。石油関連企業は相変わらずの政治力を持ち、何よりも、ブッシュ大統領のブッシュ家その ものが、石油会社を持っているほどである。言わば現政権は、利益の代弁者というよりは、利益の当事者なのである。現代アメリカを動かしているパワーそのも のが、石油を湯水のように消費する軍需産業であり、自動車産業に代表される重厚長大スケールの企業群である。彼らが、化石燃料からエネルギーを循環型に転 換すべき、というスローガンを簡単に受け入れることは、実際のところ難しいというべきだろう。

しかし明らかに消費者であるアメリカ市民が、エネルギーが有限であり、「省エネ」というライフスタイルを受け入れ つつある。例えば、アメリカで、トヨタやホンダのエコ・カー(ハイブリットカー)がかなり売れていることも事実だ。某有名俳優などが、エコ・カーに乗っ て、颯爽とアカデミー賞の授賞式に現れるなど、ひとつのブームにもなりつつある。

それと、「不都合な真実」の中でも紹介されていたが、全米の各州各都市の単位で、温暖化に取り組む姿勢を鮮明にす る地域が増えてきているということは、明るい事実である。この映画の中で、京都議定書を批准していない先進国は、米国とオーストラリアである、とアル・ゴ アは言った。それと急激に経済成長を遂げ、CO2削減の取組が遅れている中国もある。経済と環境というバランスの中で、ともすれば、経済が優先されてきた 現代にあって、すでに1990年のレベルまで、CO2を削減するという目標を掲げた京都議定書そのものが、CO2の急激な上昇に伴って起きている温暖化の 破滅的な上昇の前では陳腐化している可能性が高い。

私たちはこの映画によって、アメリカという国家にとって極めて「不都合な真実」を知り得たことになる。この真実を 多くの人に知らせ、自分でできる行動を始めなければならない。まずは環境と温暖化に鈍感あるいは無関心な政治家や企業というものは、明確に社会からはじき 飛ばされていくに違いない。また口先だけで、環境や温暖化阻止を語る連中も登場するはずだから、そのウソを見抜く眼も大切になる。

映画として評価するならば、いささか最後の方が、政治的スローガンが過剰であった。多弁に走り過ぎて、見終わった 後の深い感動が薄れてしまうところがある。またどこかアメリカ人特有の楽観論もあるのかなとも感じた。それでも、人類の生存を脅かす温暖化というものを、 多くの人に知らせるということでは意味のある映画だと思う。

実はこの映画、始まったばかりと思っていたら、この07年2月9日で打ち切りとなるようだ。実に残念なことだ。こ のような私たちの無関心が母なる地球を蝕み、過剰な石化燃料の大量消費の背景となっている事実を、ひとりでも多くの人にこの映画を観て知ってもらいたいも のだ。佐藤弘弥

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