本の中から”イマジン”が聞こえてきた


N・チョムスキーの新著を読む
 

 ◆チョムスキーを読んだら”イマジン”が響いてきた・・・

ノーム・チョムスキーの新著「すばらしきアメリカ帝国」(原題「Imperial Ambitions」(帝国の野心)を、ワクワクしながら読み終えた。

これは04年に行われたインタビューを著作化したものだ。話は、イラク戦争の分析から始まって、現代アメリカの問題点をユーモアを交えながらズバリと突いている。

彼の本を読むと、私の心に、ジョン・レノンの「イマジン」が鳴り響いてくるのを感じた・・・。

ジョンは、イマジンに、世界平和の理想と、文字通り「想像力」の大切さをメッセージとして込めた。今や世界中の人々が、「天国も地獄もない世界をいっしょに想像してみよう」というジョンのメッセージを自然に受け止めるようになっている。

何故、ノーム・チョムスキーという一介の言語学者が、アメリカを代表する知性と呼ばれるのか。その背景には、「イマジン」が言うところの「想像力」という心の眼をもって、この人物が、アメリカを見、世界を曇りない眼で見て、反アメリカとも言うべき、アメリカ政府への厳しい叱責を良心に基づいて繰り返しているからに他ならない。

 ◆イラク戦争−世界平和の脅威としてのアメリカ

チョムスキーは、第一章(「アメリカが掲げる帝国の野望」)からアメリカの新しいドクトリン「予防戦争」の概念を容赦なくこき下ろす。

 「・・・世界を支配するアメリカに挑戦しようとする者が現れた場合−それが差し迫っていなくても、あるいは捏造や空想であっても−それが脅威に発展する前に消滅させる権利が、アメリカにはあるということです。これは・・・予防戦争であって、・・・先制戦争ではないのです。・・・イラクのケースでも、実際にそのように行われました。・・・驚異的なプロパガンダの離れ業でしたね。アメリカ政府は、サダム・フセインはただの極悪人ではなく、私たちの生存に対する脅威だと、世界の常識に反してアメリカ国民に信じ込ませるよう手をうちました。

 (中略)世界の大部分は、圧倒的にこの戦争に反対しています。イラクへの攻撃だけが目的ではないという事実に気づいているからです。・・・注意していないと、次のターゲットだぞ、と言われたようなものですね。今や大勢の人々、おそらく世界の人口の半数以上が、アメリカを平和に対する最大の脅威と考えている理由はここにあります。ジョージ・ブッシュ大統領は、1年も経たない間に、アメリカをひどく恐れられ、嫌われ、憎まれる国に変えることに成功しました。
(本書「第一章 アメリカが掲げる帝国の野望」12−13頁)」

20年前のソ連邦崩壊以降、唯一の超大国となったアメリカは、その圧倒的な軍事力を背景に、アメリカに敵対すると思われる国家をターゲットにし、傲慢なやり方で、その相手に対して、アメリカ的民主主義を押しつけてきた。

その典型が、イラク侵攻だった。何しろイラクのサダム・フセイン政権は、核開発とタリバンへの関与を疑われ、アメリカが政権を転覆させ、民主主義政権の樹立どころか、3兆ドル(ジョセフ・E・スティグリッツが「世界を不幸にするアメリカの戦争経済」=徳間書店08年5月刊=で詳述)とも言われる莫大な戦費を使いながら、ベトナム戦争以来の泥沼化の様相を呈しつつある。

 ◆国家による虚偽のプロパガンダを見抜く方法

第二章(付随的損害)では、アメリカ人とアメリカ文化が、ブッシュ政権のイラク侵攻へのプロパガンダを信じ込んだ理由について、次のように興味深い見方を披露している。

・・・恐怖が利用されていることが背景にあります。おそらく先住民を抹殺しなければならなかったアメリカ大陸の征服と関係があると思います。奴隷制度のもとで、いつ反乱を起こすかわからず危険視していた集団をコントロールしてきたためでもあるでしょう。」(38ページ)

その上で、チョムスキーは、プロパガンダを見抜く方法について、簡潔に次のように語る。

テクニックなどありません。人並みの常識だけです。・・・正気な人間なら、証拠はどこにあると聞くでしょう。そう尋ねた途端に議論は破綻しています。・・・もちろん、すべての教育機関とメディア・・・から自由にならないかぎりは、プロパガンダの餌食になる可能性が高いでしょう。」(40ページ)

 ◆チョムスキーは現代アメリカ史の語り部

ブッシュ政権のイラク侵攻時に流布された虚偽を、ほとんどのアメリカ国民は見抜けなかった。アメリカの同盟国であった日本国では、小泉首相がいち早くブッシュ政権の軍事行動に賛意を表したことは記憶に新しい。このチョムスキーの政府のプロパガンダの虚偽を見抜く眼力こそが、私は「イマジン」の言う「想像力」だと思うのである。

私は、このチョムスキーの04年のインタビューを読みながら、矛盾だらけの世界で真実を見極める眼、それが「想像力」ではないかと痛感した。超大国アメリカにいて、そのアメリカの民主主義の限界を、自身の良心を交えて語るノーム・チョムスキーは、まさに現代アメリカ政治の「語り部」と呼ぶにふさわしい人物だ。
すばらしきアメリカ帝国 すばらしきアメリカ帝国
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2008-05
★★★★


2008.9.19 佐藤弘弥

義経伝説
思いつきエッセイ