• 初伝

    その一 相手の中心をずらせ

    剣道は、中心の取り合いというが、中心を取り合っているうちに知らず知らず中心と中心を合わせてしまっていないだろうか。そして、そこからの攻め合いはまさに、直線的、力とスピードの世界。写真をご覧ください。これは、高岡 英夫氏の「ハラをなくした日本人」のなかで紹介されていることの一つです。氏は、今日の相撲と過去の相撲の違いをこの写真で説明しています。

    鉛筆のおしりとおしりでやっているのが今日の相撲。鉛筆の先と先でやるのが昔の相撲。と言い切っています。これは前者が、力とスピードの筋力まかせに対して、後者は、まっすぐ押せない技術とでもいいましょう。この写真から、わたしは、剣道もこれと同じと思いました。いまの剣道は離れたところからすっ飛んでいくだけ、前者のイメージです。ですから、後者に示すような、剣道を想像してみてください。そうです。剣道は、相撲や柔道のように組まないから、「相手の中心をずらす。」ということに無頓着になってい ると思います。その代わりに、竹刀で中心を取りにいくことに注意を払っているのです。もし、完全に相手の中心さえずらしてしまっていれば、遠くから、力とスピードでミサイルのように飛んできても、自分の体のほんの少し横をかすめて飛んでいってしまうのです。そして、逆にこの時こちらの体が相手の中心に向かっているのですから僅かな力とスピードで相手に届くのです。

    「ハラをなくした日本人」から具体的な、方法にご興味をお持ちの方は、いつでもお声をお掛けください。


    その二 武士であること

    ひとつのお話を紹介しましょう。剣道の審判規則の中に、「竹刀放し」というのがありました。現在では、特に宣言をしないようですが、この「竹刀放し」は、試合規則から言うと「反則1回」となります。この「反則1回」について、ある先生は、「竹刀は真剣、なれば、これを落としたら即、命をなくすはずだから、反則1回ではなく。1本というのが妥当ではないか。」それを聞いた他の先生も、「本当にそのとおりだ。反則ではなく1本のほうがいい」ということで、小川忠太郎先生の見解を聞いたそうです。その時、先生は、少しの躊躇もなく。「武士の情けですよ」とおっしゃったとのことです。

    如何ですか? みなさんはどうお考えですか。試合中、相手が竹刀を落とした時、直ぐに加えた打ちは1本に認められています。しかし、このお話を聞いた貴方は、もう丸腰の相手を打つことは出来ないのではないでしょうか。試合に勝つ絶好の機会を逃すとばかり、竹刀を落とした相手に慌てて、打っていくよりも、位攻めで相手が竹刀を拾うのを待つことを選ぶのではないですか。「武士」とはそうあるべきものではないでしょうか。

    さて、この事をもう少し進めてみてください。つまり、今、手にした竹刀が真剣なら、貴方はどういう剣道をするのですか? 相手に隙があるからと人を殺しにいきますか? そうしたら、貴方は人殺しになってしまいます。

    ここは、いろいろと迷うところと思います。また、剣道のとらえ方、取り組み方でも違います。でも、この答えを持って(あるいは探しながら)稽古をすることは、悪くないでしょう????



    島野 Mail: shimano@st.rim.or.jp