下痢、軟便


下痢や軟便は、特に飼育下においてはしばしば見られます。健康なリクガメの便 は、形がしっかりしており、水分も少なく、中を割ってみると非常に繊維質が多 く含まれているものです。色は食べたものの影響を強く受けますが、通常は黒っ ぽい色をしています。
下痢、軟便には様々な原因が考えられます。症状も少し便がゆるいといった一時 的なものから、一時的であってもひどい下痢であったり、軟便が長い間続いたり、 さまざまなケースがあります。下痢や軟便はリクガメにおいては、体調の善し悪し を判断するための貴重なポイントになります。
まず一時的な軟便から見てみます。1〜2回程度軟便であってもすぐに便が適度 な硬さに戻る場合には特に心配はないでしょう。摂取した水分の量によっても 微妙に便は変化しますし、食べた物によって便の硬さも色も変ります。また、移動 その他のストレスにより一時的に激しい下痢をする場合もあります。

次に、軟便が長期に渡って続く場合ですが、この場合は、どこか飼育環境あるいは カメ自体の体調が悪いと考えられます。リクガメが下痢・軟便を起こす主な原因は、 以下の3つです。
   ●飼育温度が低すぎる。
   ●食事に含まれる繊維質が足りない。
    (水っぽいものを与えすぎている。)
   ●寄生虫(特に原虫類)がいる。

□(冬期の)温度管理 □
もし、便の中に、未消化なものが多く含まれているようでしたら、消化不良が考え られます。まず、環境温度が低すぎないかを見直してみて下さい。夏期であれば問 題になることはありませんが、冬期には、しばしば低温が原因で慢性的な軟便症状 を起こしている個体がいます。リクガメがその代謝機能を十分に働かせるためには、 28度程度の体温度を必要とします。そのためには体温を上げることができる場所 が飼育環境内に必要です。通常ホットスポットと呼んでいますが、白熱電球などで、 リクガメが体温を充分上げることが可能な場所を造ってあげましょう。すでにホット スポットを用意してある場合には、温度計で、リクガメの甲羅の高さの温度をチェ ックして下さい。28〜35度程度の温度が必要です。温度が低すぎる場合には電 球の高さを調整するなどして、適切な温度が得られるようにしてあげましょう。
リクガメを温める場合には、腹甲側(お腹)から温めるより背甲側(背中)から温 める方が効果があります。リクガメは、背甲のすぐ下に毛細血管が張り巡らされて おり、これが太陽熱のリセプターの役割をしているからです。ここで集められた熱 が各臓器へと運ばれていく仕組みになっているのです。これに対して、腹甲は厚い 構造になっているため、こちら側だけから温めるのは効率が悪くなってしまいます。 また、遠赤外線のフィルムヒーターやパネルヒーターを長時間、直にカメの下に敷 いてしまいますと、低温火傷の原因となってしまう可能性もありますから注意が必 要です。これらの器具は、夜間にお腹側から冷えるのを防ぐ目的で、補助的に利用 するのには向きますが、ホットスポット的な使い方には適しません。
ホットスポットで温める場合、乾燥し過ぎるという難点があります。これを防ぐた めには、水入れを用意するか、あるいは加湿器で部屋全体の湿度調整をするといい でしょう。
カメを温める方法として、肺の中に温かい空気を送り込むという方法もあります。 リクガメの肺は、体積にして全体の3分の2ほどを占める大きなものです。呼吸す ることでこの大きな肺内に温かい空気を取り込むと、体温を上昇させることができ ると考えられます。肺のすぐ下に胃、大腸などの消化器官がありますので、肺内の 温度上昇は消化器官の活性化に有効です。乾燥に弱いタイプのリクガメや体調が悪 くホットスポット下に出てこないリクガメの場合には、環境全体の温度を上げる方 法が必要となってきます。

□食事内容の見直し□
温度を調整しても軟便や下痢が続くようでしたら、食事も見直してみます。
飼育下のリクガメでは、水っぽい物の与え過ぎや食事に含まれる繊維質が不足する ことで、慢性的な軟便となっている個体が多いです。特に、雑草がなくなる冬期に は、この問題が出てきますので、繊維質の多い野菜を意識して与えるようにすると いいでしょう。冬期の食事用に、雑草(クローバー、タンポポ、芝、アルファルファ 、ソバなどの穀類など)を自家栽培するのもおすすめです。
リクガメの食事を参照して下さい。
また、食事の時間帯が問題となる場合もあります。基本的には、食事の時間は朝カメ が起きて身体を温め終わったころが理想的です。一日のうちでは、午前中です。この 時間帯に与えれば、日中気温が高いうちに消化ができるからです。特に冬場に、夜の 気温が下がる寸前にあまり多くのものを食べさせてしまうと、やはり消化不良の原因 となってしまいます。

□寄生虫の可能性□
さらに、軟便・下痢の原因として、寄生虫が考えられます。
寄生虫の中で、原虫類が増えてしまうと下痢や軟便になります。原虫類の中には、 肝臓・腎臓系に大きなダメージを与えるものもいますので、獣医師に相談をし、 検査を行ない、必要に応じて駆虫などをするといいでしょう。
詳しくは寄生虫のページを参照して下さい。

長期に渡って、下痢、軟便が続く場合、水分が過度に排泄されるため、リクガ メが脱水気味になってくることもあります。食事は、便がゆるいから水分の 少ないものを与えるというのはかえって脱水症状を招きますので、通常の食 事をさせるようにして下さい。


便秘(排便しない)


リクガメの便秘の原因として考えられるものを挙げてみました。
   ●環境の変化などからくるストレスで代謝不良を起こしている。
   ●脱水を起こしている。
   ●卵詰まり(あるいは抱卵)
   ●異物で腸管が閉塞されている。
   ●寄生虫による腸管閉塞

リクガメの便秘は、幾つか症状があります。比較的多いのは、飼い始めの個体で 環境にも馴染んでおらず、食も細く、排便もしないというケースです。まず、4〜5 日以上便がでない場合これは問題があります。極度に脱水症状になっているケース も考えられます。水分を多く摂取させてみて下さい。お風呂に入れ代謝を促進させ るのも効果があります。リクガメのお風呂を参照して下さい。

食欲がある場合は、個体差もありますので上記の方法をためしてみます。
効果が見られない場合は獣医さんに相談してみて下さい。以下の食欲がない 場合と共通の可能性があります。

食欲もない場合、何らかの病気を考慮してみることも必要です。
成体の雌の場合、卵詰まり(あるいは抱卵)の可能性があります。或るときから突 然便が出なくなったという場合は疑ってみても良いと思われます。獣医さんに レントゲンを撮っていただくと卵の有無が確認できます。
また、屋外飼育をしている場合、小石などをかなり飲み込んで、腸管などが 閉塞している可能性もあります。これもレントゲンを撮ると過度な場合はすぐ にわかります。屋内飼育の場合にも何か異物を飲み込んでしまっている可能性 もあります。

場合によっては、寄生虫が腸管に多数寄生して閉塞を起こしている可能性も あります。通常詰まる以前に便の中などに虫体が混じって排泄されるため、 寄生虫の有無は分かりますが、いると分かっていてこれといった処置をして いなかった場合には可能性もあります。特に蛔虫は多数の場合腸閉塞を起こ すことがあります。

次に糞は時々するが、カチカチの糞をするケースや、ポロポロとした感じの 鹿のような糞をするケースです。これは大抵水分の不足によるものです。 水分を多く摂取させてみて下さい。お風呂に入れてあげるのも効果が あります。リクガメのお風呂を参照して下さい。
また、食事に含まれる繊維質の不足が原因となっていることもあります。食事内容 の見直しもしてみましょう。


便の中に虫がいる


寄生虫のページを参照して下さい。


尿に色がつく


尿の異常はどちらかというと困難なケースが多いようです。ただ、色に関しては よく分かっていないのが現状です。正常なリクガメの尿は無色で、サラっとした 水といった感じです。これに緑色っぽい色が付く場合には次項の(尿が臭う)の 項目を参照して下さい。時に、尿が赤っぽくなることがあります。体にこれとい った異常が見られずに尿に色が付くケースは実際時々経験するのですが、食物の色素 によるものか、リクガメの代謝による原因なのかあまり文献もありません。ただ、 明らかに、血液が混じっている場合などは見分けがつくでしょう。うっすらと 赤みがかっているといった場合には、屋内飼育されている場合は、スポイトなど で尿を採取して小さいシャーレや小ビン(フィルムのケース)などに入れて、 簡単にできる尿検査をしてみましょう。
薬局で人用の尿検査試験紙を購入し、尿中の潜血を調べることもできます。ヘモグロビンの 有無を判定できます。もし陽性であれば血液が含まれていますので、内臓の病気 の可能性があります。同時に蛋白質・ブドウ糖などの試験もできます。潜血反応が あれば、獣医さんにご相談ください。 腎臓機能の低下などの疑いがあります。この場合治療はかなり長期化します。まだ リクガメの透析の技術は確立されておりませんので、水分を大量に摂取させること によって、排尿を促し老廃物を体外に排泄させることになります。リンゲル液など を個体の状態に応じて、毎日5〜10ml程度経口投与し、数カ月は続ける必要があります。

それ以外には、結石の可能性もあります。排泄控までの間に結石や尿酸の固まりなど がつまってしまい、内臓を痛めて出血している可能性があります。この場合にも獣医 さんとの相談になります。レントゲンを撮っていただくと結石は判定できます。 結石の種類によっては、薬で溶かしだすこともできます。 結石が大きい場合には、手術で摘出するなどの処置が必要になってきます。


尿が臭う


本来、無臭の尿から強いアニモニア臭が発せられる場合には、次のような原因が考え られます。
    ●ヘキサミタ症の疑い
    ●重度の脱水症状
    ●肝臓・腎臓系の機能障害の疑い

□ヘキサミタ症の疑い□

リクガメの尿は普通無臭です。尿が臭う場合は体調にどこかおかしいところがある と考えてよいでしょう。尿が強いアンモニア臭を発している場合、そしてドロっと した粘性のある尿をする場合など、寄生虫が原因である可能性があります。原虫の なかにヘキサミタとよばれる鞭毛虫がいます。この寄生虫に感染しているリクガメ の尿は大抵ドロっとした感じで、強いアンモニア臭を放ち、色が緑がかっています。 このような症状がありましたら、ヘキサミタ症の可能性を疑ってみる必要があります。 特に、新しく飼い始めたばかりの個体ですと、輸送時の環境の悪さが原因でヘキサミ タ症が見られるケースが多いです。疑わしい場合には、便や尿のサンプルを持って、 早めに爬虫類に詳しい獣医師へご相談ください。
詳しくは
寄生虫のページを参照して下さい。

□肝臓・腎臓系の機能障害□

寄生虫以外に、肝臓や腎臓、膀胱などの泌尿器の病気の可能性があります。リクガメの窒素の排出は全窒素排出量に占める%で比較すると、
アンモニア----5%
尿素------------10〜20%
尿酸------------50〜50%
といった割合であるといわれています。リクガメの窒素代謝を考えると、余剰なアミ ノ酸などの窒素化合物は、臓器特異性が著しく、ほとんどが肝臓においてアンモニ ア、尿素、尿酸などに分解されています。アンモニアには肝外に由来するものもあり、 血中遊離アミノ酸の中で最も濃度の高いグルタミンを小腸粘膜がよく代謝し、その 結果門脈中に放出されるアンモニアの意義が大きいともいわれます。よってアミノ 窒素処理機構としては、小腸粘膜---門脈---肝臓を一つの系として考えられます。 また、尿素合成活性は様々な酵素により制御されるため、酵素の活性の影響も大きく 一概に小腸粘膜---門脈---肝臓に障害があるとも言えません。尿素サイクルの後半で アルギニノコハク酸シンテターゼという分解酵素が役割を果たしますが、この酵素は 腎臓にもかなりの活性があり、その他の臓器でも活性が認められるため、障害のある 臓器断定が難しい理由でもあります。ただ肝臓はアンモニア分解における全身臓器 より放出されたプリンおよびピリミジン体を分解する役目をになうためリクガメに とっては大変重要な役割を果たしています。アンモニア臭が強いということは、尿 中のアンモニアの占める割合がかなり多くなってしまっている訳ですから、アンモ ニアの分解がうまくできていないことになります。この場合獣医さんに相談して、 診断していただくのがよろしいでしょう。血液検査を合わせてやっていただくと 効果的でしょう。


何か白っぽいものを排泄する


リクガメを飼いはじめて、驚いてしまうことの一つに尿酸の排泄があります。 オシッコやウンチと異なる白っぽいドロっとしたものをリクガメは排泄します。 それが尿酸です。けっして異常ではありません。体内にたまった不要な窒素化合物 を、動物は色々な物質に分解して体外に排泄します。リクガメは鳥と同じように 尿酸というかたちにも窒素化合物を分解して排泄しているわけです。
次項目の写真を参照して下さい。


尿酸が固まる


尿酸がドロっとした半液体状ではなく、ジョリジョリとしたかなり個体状の固まりになって排泄される場合があります。それ自体で病気という訳ではありませんが、その個体は脱水気味であると考えられます。尿酸自体は比較的水には溶けないので、通常濃縮された状態で水分に混じって排泄さ れるためドロっとした感じになるのです。それが水分が少ないと固まり状になって きます。排泄された尿酸が乾くと白いカチカチの固まりになるのはよく目にする光 景です。脱水気味のままであると尿酸が体内で固まってしまうことがあります。そ の塊が少し大きくなってしまったりすると、リクガメは排泄ができなくなってしま う場合もあります。そうなる前に対処したいものです。
また尿酸の固まり具合については、かなり個体差があります。わが家のほぼ同じ 大きさのギリシャリクガメの 草薙 と すみれ を比較すると食事も生活環境も 同じですが、尿酸の硬さに違いが出ます。草薙が正常な尿酸の状態であっても、 すみれの尿酸がジョリジョリ状態だったりもします。その個体によって適した水分 摂取をさせる必要があると思われます。
写真は すみれの排泄した固まり状の尿酸(左)と草薙の排泄した正常な尿酸(右)です。比較するとよくお分かりいただけると思います。
また尿酸の量は、摂取したタンパク質の量によって、当然変化します。あまり尿酸 が固まり気味の個体に対しては、食事を見直して、タンパク質の摂取量を控えるこ とで、かなり改善されると思われます。


尿酸が出ない


何日もの間、リクガメが尿酸を排泄しないケースです。尿酸が体内で結石となって いる可能性も考えられます。これは前述にように、レントゲン検査で調べることが できます。
これ以外にも、尿は排泄するのですが、尿酸をほとんど排泄しない状態が続くとい う場合もあります。日常の行動を観察していても、こ れといった特別の症状も見当たらず、健康そうに見えるのですが、どこか正常では ない状態でしょう。これは稀な状態とおもわれますが、原因その他はっきり分かって いません。ホルスフィールドリクガメのオスにこの症状が出たことがありました。 どこか肝臓機能に問題があることが予想できますが、断定できていません。 尿の成分分析等必要かもしれません。アンモニア、尿素、尿酸の含有比較ができれ ば状態を多少把握できるものと思います。

リクガメは余剰な窒素化合物を主として尿酸として排泄していますが、アンモニア、 尿素としても排泄しています。生活環境の変化によって、乾燥地帯に棲むリクガメ 程、尿酸排出形に傾くことは知られています。これは、尿酸が水にあまり溶けない ため、排出に伴う水分の損失をおさえられるからだと考えられています。鳥類、昆虫 類も飛ぶのに体重を軽くする必要から、多くの水分を持ち運ばなくてよい尿酸排出形 の機能を身に付けていると思われます。
ただリクガメでは同じ個体でも環境によって尿素排出形と尿酸排出形との間を揺れ 動くことが、エジプトリクガメのケースで報告されています。これがホルスフィールドリクガメの場合あてはまるものかにつきましては、現在はっきりしていません。
さらに、体内で有毒なアンモニアを尿素に換えるには、肝臓内でオルニチン回路と いう反応経路を経ています。人間などの哺乳類では、この回路が常設されています ので、つねに尿素が作り出されているわけです。
 基本的には尿酸排出形であるメキシコゴーファーリクガメのケースでは、通常 は、肝臓に存在しないこのオルニチン回路が、状況によっては現れることが知ら れています。面白いのは、この状況というのが「脱水」だということです。
何が面白いのかというと、前述の論理で考えると、尿酸排出というのは、水分を 節約するための機構であるはずなのに、脱水状態になると、水分節約できるはず の尿酸排出形から、水分を多く排出してしまう尿素排出形へと、わざわざ切り替 えてしまうことです。
 この機構については、まだ研究中のようなのですが、どうやら、体液の浸透圧 と関係しているのではないかと言われています。尿素は水溶性ですから、体液中 に多く放出されると、体液の濃度を上げ、その結果、細胞内の浸透圧が上がりま す。すると、浸透圧作用により、細胞内により多くの水が取り込まれ、体外へ放 出する水分を押さえることが可能なのではないか、と言われています。不溶性の 尿酸では、この浸透圧を上げる作用をもたらすことができない訳です。
前述のホルスフィールドリクガメの場合、獣医さんと相談し、多量の 水分を摂取させるようにしましたところ、尿酸を排出するようにはなりました。 これが上記のメキシコゴーファーリクガメのケースと同じであったとは言い切れ ませんが、可能性の一つではあると思われます。またこのホルスは、他のホルスに 比べて、日光浴の時間が異常に長いことが観察されました。詳しくは現在研究中です。