千歳サケのふるさと館

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※入館



「サケ」を通して千歳川の自然を広く知ってもらうことを目的につくられたというこの水族館、
北海道の玄関口「新千歳空港」と近い距離にあることも関与してか、旅行中の家族連れやカップル達で
随分と賑わっていた。

入り口付近には「インディアン水車」なる、例のハムスター拷問器具の親分みたいなオブジェが展示されていた。
説明文によると試行錯誤の末にやっと作り出された、サケを捕獲する為の罠の一種らしい。
ただこのプレートを見た子供達が父親に向かって「インディアンは何処ー?」と聞いているのを見るにつけ、
その努力の過程はともかく、このネーミングセンスには完全に問題があるようだ。


※2800キロの彼方より.

入ってすぐのところに設置されていたのは、沖縄の南東にある「琉球列島」に住む魚達を紹介した
「マングローブの海に住む魚達」コーナーだった。
極北のこの地にて何故に沖縄?とは思ったが、ここ北海道ではまずお目にかかれないような魚ばかりを
展示しているのを見るにつけ、現地視点で見るなら、なるほどこれが正解なのだと思い直した。



まず左から「テングヨウジ」。
パット見、そのイトミミズ然、または「寄生獣」の「ミギー」然としたフォルムに少々唖然とするも、
よくよく見れば顔のあたりはちょいドラゴンっぽくもあり、見る角度を変えてみることで随分と印象が
違ってくる魚だと思った。

で、その右の地味〜な感じの奴は「オオクチユゴイ」。
稚魚のうちは海で生活、全長25ミリぐらいになると川に遡上して成魚となる出世魚らしく、
川の綺麗さをあらわす象徴にもなっているらしい。ふむ、そう言われてみるとなかなか綺麗な魚のような…
まあいかんせん観賞魚としては地味すぎるけれども。



カニ系を2連発でいってみよう。
左は「ノコギリカザミ」、ワタリガニの仲間では最大のカニだそうで、もし挟まれようもんなら
確実にスッパリいかれそうな勢いの代物をダブルで振りかざしておられた。エロハンドも真っ青だ。
このカニ、デンジャラスなだけでなく1匹1万円ぐらいの値が付くかなりの高級品だそうで、
食うとすこぶる美味しいらしい。「美味しんぼ」にもまだ登場していないことだし、先物買いの意味も含めて、
機会があれば是非ともチャレンジしてみたい。

で、右のは「ヤエヤマシオマネキ」。
てかコレ「天外魔境2」に出てきた「右のガーニン」先生そのものじゃないスか。
「旋風一閃右手が襲う」というキャッチを背後に付けてあげたくなるくらいの、
無駄に立派なハサミの造形にほれぼれと… あ、よくよく見たらこちらは左手なんですね、失礼しました。


※エースの風格



奥手に一歩足を踏み入れたところで、その壁面に相当の規模を誇る巨大水槽を見る。
高さ5メートル、幅12メートル、厚さ28センチ、総重量266トンにも及ぶこの水槽、
淡水規模では日本最大級のものだとか。
その負荷を支えているアクリルのサンプルを見れば、その荷重の凄まじさがお分かり頂けると思う。




周囲に圧倒的な質感をアピールしているアクリル板も確かに目を引いたが、
ここの一番の見所はその中を優雅に泳ぐ魚達の姿をひきたてているライティング演出だと思われる。
そのテラテラとした体表にキラキラと光を反射させながら泳ぐ大型魚達の姿はたいそう美しかった。
ちなみにここの水槽内の主戦力は左の「チョウザメ」、右の「イトウ」を筆頭に、
他「ニジマス」「サクラマス」「ブラウントラウト」など。


※魚類ヒエラルキー



こちらは実際の川を模して作られた「千歳川渓流水槽」と名のついた水槽群、
上から上流、中流、下流ときて、終点に支笏湖をイメージした上部開放型水槽が設置されていた。
それぞれの流域に展示されていた魚達の主力は、上流から「アメマス」「ニジマス」、
中流は「ウグイ」「ドジョウ」、下流が「イトヨ」「モツゴ」「タナゴ」ときて、
終点の湖が「コイ」「ナマズ」「ソウギョ」「ライギョ」など。

ミーの偏見かも知れないが、やはり上流に住む魚の方が、その顔つきといいボディラインといい、
何かこう上品なものがあるように見うけられた。
魚社会に人間界と同じようなヒエラルキーがあると仮定するならば、いわば上流側が広尾系シロガネーゼ、
下流側が新宿系ダンボーラーといったところだろうか。
この説を証明するためのサンプルとして、次頁に上流代表として「ウグイ」、下流代表として「ライギョ」を
並べてその姿形を比較してみた。



スマートかつ凛々しい顔つきをしている左の「ウグイ」に比べ、
右の「ライギョ」のあからさまにホームレスっぽい風貌はどうしたことだろうか。
その姿に10年後のミー自身を見てしまい、もっと頑張らなきゃと少々思ったりも。
とりあえず「上流」と「下流」との比較実験は、ミーの想像通りの結果となったようだ。


※蹂躙の磯コーナー



魚類との直接的触れ合いを旨とする「磯コーナー」にて、総出でプレイにいそしんでるファミリーの姿を見る。
磯コーナーにおいては相応の危険度を持つと思われる「ザリガニ」さんの必殺チョキをものともせず、
ガッと背中から鷲掴んだのち水面へと叩きつけて、自らの内面に潜むデストロイ欲求を思う存分発散させまくるチャイルド達。
そんな孫のはっちゃけぶりをニコニコ見守る優しそうなグランパー、その横でひたすら写真を撮りまくって
その幸せの形を記録に残しまくるヘルマザー。

食物連鎖ピラミッドの頂点に立つ万物の長たるホモサピエンスの力、その結束力をまざまざと見せつけられたような気がした。
この手のコーナーにおいては、常に逆側に生まれ変わった時のことを考えながらの接触を試みるミーのような
人間の方が希少ということなのだろう。たぶん「火の鳥・鳳凰編」の読みすぎだと思う。


※ドモ アリガット、ミスターロボット.



館内最深部にて、どことなくエロ本自販機的なアングラ臭を感じさせるアトラクションコーナーを見つけてしまった。
誰もが見つけた途端に好奇心をそそられ、ほぼ衝動的にその作動ボタンを押すものの、
少なからず人を小バカにしている気味な顔つきのロボットが、極めてスローモーな動きで水槽の中の魚群に
ノソノソと餌をやる様を最後まで見届けてやるほど根気のある人物は皆無のようだった。
誰もが程なくして興味を無くし、まだ動き続けている彼を尻目に去っていく。

そして後に残されているのは、誰も見ていない舞台上にて、ただ己が定められた役割を黙々とこなすロボットだけ。
そんな彼の道化っぷりに「STYX」の名曲「ミスターロボット」のPV場面、もしくは「ドラクエ7」に登場する
ロボット「エリー」の悲哀を重ねあわせ、少々感情移入してしまったり。
そんなミーの感傷を無視してロボットは今日も動き続ける、壊れて動けなくなる時が来るまで…
というか半年後に再び訪れたら、本当に壊れて只の残骸と化していた。あまりに貧弱ゥ貧弱ゥ…


※絶倫の昆虫王国.

隅っこの目立たないゾーンに「水生昆虫コーナー」の存在を見てとり、
すっかり嬉しくなってしまったミーは、いそいそと我が眷属のもとへと駆け寄った。



まずは左から「ゲンゴロウ」。
コックローチ然としたその風貌、水中を縦横無尽に動き回る敏捷性、自分の体と同じくらいの大きさの
メダカやタナゴを捕らえてガツガツ食らうその獰猛さは、まさに水生昆虫界のキング・オブ・キングスと
言っても過言ではないだろう。
ただその体をつかまれた途端、頭部と胸部の間から白くて臭い液を放出して単なる先走りカウパー君と化す、
哀しき素人童貞さんな一面も。

で、右は「タガメ」。
日本全国の水田や池、川、またそれらの水辺に生息しているものの、実際に採集することは極めて
困難とされている幻の昆虫らしい。繁殖シーズンになるとオスは自らの体からバナナ臭を放出して
メスに自分の存在を知らしめ、いざ行為に及ばんとするときは脚を3ヘルツ周期で伸縮させつつ
腹部を水面に打ちつけながらオラオラするとのこと。
たかがセックスするのに随分とまあ労力をかけるものだ。だが試す価値はあるかも。
つまりはナンパのメッカたる渋谷センター街あたりでバナナ片手に波紋でコオオオオということか?
死んでも真似したくないと思った。



で、こちらは「ミズカマキリ」。
その名前に反して実はカメムシの仲間という、まごうことなきエセ野郎。
ちなみにこいつは飛ぶそうだが、それもまたクジラのダンスかアリンコの涙ばりにエセっぽい(注:本当です)。
ただそんな詐欺師まがいな彼もやるときはヤる、しかもバックからときたもんだ。
ついでにそのまま食われたりもするそうで、いくら子孫繁栄の為とはいえ、あまりにプレイがハードコアすぎると思った。

しかしまあ水生昆虫もなかなかやる。水中という、人類にとって未知なる領域をたかだか虫ケラの分際で
征服しただけあり、そのモア・レポートまで実に個性的である。


※野生の証明



最後に、水族館に隣接する千歳川の川底をダイレクトに覗くことのできる、
「千歳川水中観察室」なるレア設備を観賞してみた。その対象魚は「ウグイ」「サケ」など。

「水面下に設置された窓から垣間見る夢の水中風景」的コンセプトは、ここ道内じゃ「オホーツクタワー」などでも
具現化されているが、これを海ではなく川で実現している施設は世界規模で見ても少ないそうで、
そのうちの一つがここ日本にあると言うのは、実に誉れ高いことだと思う。



なるほど、確かに普段はまず見ることのないであろう川の中を、サイドからピーピングするというのは、
なかなかに興味深い体験だ。
水上視点からは穏やかそうに見えた川の流れが、内から見ると実は相当な激流であることなど、初めて知った。
その容赦なきパーフェクトストームに巻き込まれた魚達がもみくちゃにされる様なども非常に良く見える。
あれ〜という叫び声(脳内補完)をあげながらあっというまに吹き飛ばされていくヤツ、窓際のくぼみに体をねじこんで
仲間が翻弄されるザマをのんびり見物する如才ないヤツ、川底にへばりついてひたすら耐えているマイウェイなヤツ、
一口に魚類と言えど実に千差万別な振る舞いをするものだ。

「水槽」という保護された環境下ではまず見ることが出来ない、厳しい自然環境に晒されてこその予測不能な面白さと
いうものがここでは味わえる。



こちらは敷地の外から撮った風景。
川に面しているコンクリートの下側に上述の「水中観察室」が設けられている模様。
一見穏やかそうに見えるこの川の中に、あのような阿鼻叫喚地獄があることなど、誰が想像しえようか。
普段は優しそうに見えるあの娘が心の奥底で考えている真実、その表層部からは決して伺い知ることの
できないペルソナの姿とは? 清流の中をいきいきと泳ぐ汚れなき魚さん達を見つめつつ、己自身の
人間関係の棚卸しをするもまた良しというものだ。

後日、札幌に住む友人から、この水族館に対する補足文を頂いた。

オフシーズンに行ってしまったようで勿体ないなあと。
 インディアン水車が動く時期には、水中観察室からたくさんの遡上してきたサケが水底で待機している
 姿が観られます。自分の生まれた川に大変な苦難を乗り越え戻ってきて、骨と皮になったサケの皆さん
 (もう美味しくない)が人工的に作られた小さな滝の直前で溜まります。
 「ここを越えれば卵を生むのに適した場所にたどり着ける」というサケ魂を揺さぶるのに適度な大きさの
 滝らしいのです。で、最後の力を振り絞ってその滝をのぼったサケの精鋭たちを待ち受けているのは
 「インディアン水車」という名の人間の罠で、ぺちょん、と水車にひっかかり、人間様のサケの人工孵化に
 使われるのでした。ひどい仕組みです。しかしサケのふるさと館はその残酷なインディアン水車の様子を見てこそ。
 ぺちょん、ぺちょんと全力を出しきったサケが生け捕られていくさまを観察してこそなのです


なるほど。つまり、サケの産卵が本番を迎える秋こそが、この水族館の魅力をマックスまで引き出す
「旬」ということらしい。来訪予定の方においては上記点の考慮をお忘れなきよう。





※総合.

全体の規模、水槽における工夫、巨大水槽や千歳川観察室におけるインパクト、
ほぼ全ての要素において平均点はクリアしていると思われ。
サケに興味のない方においては「これ!」といったパンチが希薄なことは否めないが、
日本古来からの川魚の姿をのんびり眺めるぶんには、ほぼ不足や不満を感じさせない完成度だと考える。
北海道旅行を終えて帰途につく際、フライトまでの空き時間などを利用して、緩く温く楽しむが吉だろう。

ファミリー ★★★★☆ 旅行中ファミリーがウヨウヨ
カップル度 ★★★★☆ 同上。いつもロンリーなミーには同情を推奨。
わびさび ★☆☆☆☆ その名前に反して、実に近代的
学術度 ★★★☆☆ 2F図書館にて充実
お得感 ★★☆☆☆ 標準レベル
建物装飾 ★★★☆☆ 科学館的イメージ
水槽装飾 ★★★☆☆ バリエーションに富む
総合調和 ★★★☆☆ 開放感あり
憩い場所 ★★☆☆☆ 外の公園にて
磯コーナー ★★★☆☆ かなり盛況
ペンギン度
レア度 ★★★☆☆ 野生の魚そのものがレア
総合 ★★★☆☆ あくまで私的観点と個人的意見から


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