妹よ(哀愁編)


最近、妹がボクの事を「アニキ」と呼ぶようになりました。
なンとなくムカつかンでもないですが、まあそれはさておき。


妹から電話。

あ、アニキ?明日ヒマ?っつうかヒマでしょアニキ。
そンなの決まってるじゃんねえ?なに分かりきってるコト聞いてんだろ私、あはははは。
ねえ楽しい?アニキ今?ねえねえ楽しい?生きてて?あはははは。

…なンの用?

ああゴメンゴメン。実はサ、 ノートPCを新居に置こうと思ってるんだけどさあ。
アニキそういうの詳しいじゃん。明日付き合ってよアキバ。

…ほう。僕が素直に付き合うとでも?

まあまあ、そう構えないでさ。最近せっかくいい関係を築いている事だしさ。
いやマジで頼むよアニキ。っつうかそんぐらいしかとりえないでしょねえ。
せっかく私がその無駄な知識を有効活用してあげようって言ってあげてるんだからさあ。

(以下略)


という事で今日はアキバに行ってきました。
2時間程方々を引っ張り回され、ようやくノートPCを購入した頃には、もう日が傾いていました。


ふう、さて帰るか。

ん… あ、アニキ、今日はホントにありがとう。

む、やけに素直じゃない、ん?

…って言うか、最近やっと少し分かりかけた気がするの。
私は今まで本当にいろんな人に支えられて、ここまで来れたんだなあって。
ええと、もちろん今までも頭では分かっていたツモリだったの。
でもその重みに気付いてなかったの、たぶん。分かってるフリしてたの…

…そう。よくわからないけど、まあ… ヨカッタじゃん?

…ん。


そうだね、せっかくノートPCも手にいれた事だしね。
何かゲームでも買ってあげようか、ん?

えっ!マジ!っつうかなに?なに照れちゃってんのアニキ、ダッサ。

うるさいよ、黙ってついてこいよ!

はい!






LAOXゲーム館前。

パソコンゲームはここの地下1階が品揃え最高なんだよ。

へえ〜〜〜

ああ周りをみちゃ駄目。階段を降りたら一気に店の奥まで行くよ。

え?なんで??

混んでいて邪魔になるからねレジの前は。さっ、奥までまっすぐ脇目もふらずに進んで。

う…うん、あれ?なんかムッとした臭いがするねココ。

ああ、それはパッケージの臭い、気にしないで。さあ奥へ…!

アニキ?ななにかヘンだよ、なんか異様にメガネ率と脂肪率がたかいよ?

アニキ?っつうか女性の人、一人もいないんだけど?

ねえアニキねえ?ななんでアニメ絵の女の人が縛られてる箱がやたらあるの?ねえ?

あ、アニキ!今あの人私のコト見てぐふって笑ったぐふって笑った!ねえアニキ?アニキ?

アニキ!アニキ!みんな私のことチラッと見て何故かその後目をふせるの!どうして!ねえ!

っていうかここエロゲ… ?アニキ?何故黙るの!ねえ!!

アニキ?アニキ?ねえアニキ!ねえ?


……アニキじゃないだろ。

え? ど、どうしたのアニ…

アニキじゃないだろ、そンな呼び方じゃなかっただろ昔は。

あアニ…

そうじゃない、ボクが求めているのはそうじゃないンだ! 思い出せ昔を、幼きあの頃を!

お…おにい…??

!!!!! そう!(ゴクリ)そうだ。さあもう一度…

お、おにいちゃン眼がヘン… ここわい…

さあ次はこの箱を持ってもう一度お兄ちゃんと言ってごらん妹よ。

おにいちゃン?どどうしたのおにいちゃ?おにいちゃ?

さあ!さあ!さあ!さあああああああああ!!

おおおおにいちゃンのばかああああああああ!!!!



ボクの頭頂部を持っていたノートPCの箱のカドでおもいきり一撃したあと、
「すす少しでも少しでも信じた私がばかだった信じた私がばかだった!」
そう絶叫しつつノートPCをブンまわして、秋葉原中央通りの歩行者天国を全力疾走していく
妹を見ながら、ボクは「がンばれ妹よ」と心の中で小さく呟きました。


手の中には「加奈〜いもうと〜」のパッケージ。

真直ぐ続く中央通りの脇にそびえる高層ビルの隙間からは、赤い夕日が。


そしてボクはもう一度小さく 「
さよなら」 と呟きました。


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