妹よ(結納編)


拝啓ガトー様、その後つつがなくお元気でしょうか?
ボクはますます虫ですが……

ガトー



本日は妹の結納に絡んでお互いの家族全員の顔合わせをするゆえ、18:30分、
辻堂の料亭に集合せよ、これは訓練ではないくり返すこれは訓練ではない、との厳命を
受けてしまった僕は、電車に1時間ほどコトコトと揺られながら辻堂へと向かいました。

店に30分も早く着いてしまったので、チンチンブクロのポジションを修正したり、
周囲をキョロキョロと挙動不振に見回して道行く人々にヘンな目で見られたりしながら、
暇つぶししていたら、妹がやってきました。

久々の再会。さっそく「妹よ兄は還ってきたぞ!」と威嚇の挨拶をかましてみました。
おや?ニッコリとした笑顔を返されただけです。いつもの恐怖におののく顔はどうしたの?
ヌヌヌぬうあああああって唾を飛ばしながら更に威嚇してみましたが無反応。アレ?
面白くないのでジーク!って大声で叫んで昔のトラウマを思い出させようとしました。

(微笑ましい笑顔で) 
はいはい。ジオン…だっけ。お兄ちゃん、これで満足?」
「だからもう今日は大人しくしていてね。後ね、ひとり言とかブツブツ言っちゃ駄目よ」

…ハイ、とか虫のように呟きながら、はやくも死にたい気分になりました。


15分後、お互いの家族全員が集合したところで、宴が始まりました。
妹の旦那さんとなる方を観察しながら、コジャレた感じの方だなあ、あごひげをさりげなく
延ばしているところがオサレだなあ、さすがは芸能プロダクション関連のギョーカイ人だなあ、
でもなンでバッチリ決めたスーツに対して原色バリバリの真っ赤な靴下をあわせていらっしゃるのですか?

そうこうしているうちに、その方が話しかけてきました。

「****って知ってる?」
「はい、知ってます」
「ボクの勤めている事務所で始めてブレイクしたバンドなんだよ、もう嬉しくてさあ」
「へえ、ソレハスゴイヤ〜」
「あ好きならライブとかチケット手配しようか?」
「わあホントですかあ、うれしいなあ」
「お兄ちゃん良かったね☆」

実はそのミュージシャンあんまし好きじゃありません。
口先だけの笑顔をニコニコと振りまきながら、ますます死にたい気分になりました。


隣ではボクの両親と相手方の両親が、お互いに仏のような笑顔を浮かべながら歓談していました。

「イヤッハハハ、本当にいいお嬢さんですなあイヤッハハハ」
「イヤッハハハ、イヤイヤ***君こそ、本当に好青年ですなあイヤッハハハ」
「イヤッハハハ、雑な性格の息子で困っていたんですがこんなにイイお嬢さん(以下略)イヤッハハハ」
「イヤッハハハ、本当に料理もろくにつくれないダメ娘で(以下略)イヤッハハハ」

相手ホメチギリ身内ヘリクダリ・トークを延々と聞かされ続けた30分後には、
ボク自身、何を聞かれても虫スマイルで「イヤッハハハ」としか返さなくなっていました。

「お兄さんは、お仕事は何をやっておられるのかな?」
「イヤッハハハ」
「お兄さんは、どちらにお住まいなのですか?」
「イヤッハハハ」

白痴を見るような視線がサクサク突き刺さるのを感じながら、さらに死にたい気分になりました。


そのうち宴もたけなわですが(以下略)のようなお約束やりとりがあり、ようやくおひらきかな?
という雰囲気が漂いはじめた頃、相手方のお母さんが無言で音一つたてずに席をたちました。
それを見たボクの母もまるで隠密のように物音一つたてず席をスッ…とたちました。
30秒後、外から以下のようなやりとりが聞こえてきました。

「いやいやいやいや、今日は私共が払わさせて頂きます」
「いやいやいやいや、そういう訳にはいきませんわ。是非ともここは私共に…」
「いやいやいやいやいやいや(以下略)、本当に本当に今日は私達が…」
「いやいやいやいやいやいや(以下略)、いやですわ奥様、ここは是非とも私共に…」

どうしようもなく死にたい気分になったところで宴はやっとおひらきとなりまして。


仏スマイルと虫スマイルの入り交じった両家族全員の記念写真を撮ったところで解散となりました。
トイレに行きたくなったので一旦戻って用をたした後、店をでたら妹とコジャレお婿さん(でも靴下は赤)が
ディープ・キスをしながら乳繰りあっているシーンと御対面してしまいました。

「あっ!イヤッハハハ、いやいや、お兄さんにまずいところを見られてしまったなあイヤッハハハ」

「イヤッハハハ、いやあビックリしましたあ〜イヤッハハハ☆」

その後、ボクは虫スマイルを顔面に貼りつかせながら家へと帰りました。
もまだ虫スマイルで顔面が固まったままなのですが…





拝啓ガトー様、その後つつがなくお元気でしょうか?
ボクはますます虫全開です。
ガトー様、貴方様のようになりたいのです。それのみを切に切に願うのであります。
燐とした表情に確かな意志を感じさせつつ、背中に哀愁を漂わせる漢になりたいのです。
どうすればどうすればどうすれば貴方様のようになれるのでしょうか?


#まずは後ろ髪を延ばして縛るところからはじめてみようかと思います。


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