[MySelf]


11月14日

<フィアー・オブ・ザ・ダーク>

結論から言うと奴等は妙齢の女子的な「キャッキャ!」では断じてなく、
皆いちように下卑た親父っぽさを含む"いやらしさ"満点の「ニヤニヤ」笑いをするのである。
そんな確固たる事実及び知られざる集団習性を至近距離で目撃することにより、どうして腐女子は
うら若きメスが主体な筈なのに男オタ同様、いや時としてそれを軽々と上回るキモキモ臭を周囲に
撒き散らすのですか?という常に理由の分からない負感覚をミーにもたらし続けた不可解きわまる
命題についての解が見事示されたこの前の富士急ハイランドにおけるランティス祭であったが、
そんなオタ以外にとっちゃ死ぬ程どうでもいい戯言はさておき、空き時間があったので戯れにと
搭乗してみた「ええじゃないか」というジェットコースターが冗談抜きでとんでもなかったので
その尋常ならざらぬ恐怖体験をここに記録として残しておくことにする。

まず下記スペックをご覧いただきたい。
 ・総回転数 - 14回(ループ2回+レールひねり5回+座席回転7回)
 ・最高部高度 - 76m
 ・最大落差 - 65m
 ・最高速度 - 126km/h
 ・最大傾斜角 - 89°
 ・最大加速度 - 3.67G
 ・コース全長 - 1153m
 ・所要時間 - 約2分
 ・総工費 - 36億円

ちなみに総回転数はギネス記録、体感Gは戦闘機の離着陸時にかかるそれとほぼ同義だそうである。
ざっと眺めただけでも「あ、これはかなりヤバげ」と十二分に思わせるだけの数値なのではなかろうか。
が、ただ漫然とそのデータから性能を予測するのとそれを実際に体感するのとでは大違いどころか、
その考えそのものが大間違いであり、それは例えるなら本来なら架空の産物である筈のモビルスーツに
おける「最大スラスター出力」「ジェネレータ出力」などの設定データからそれがどの程度のもので
あるかをなんとなく想像力するに等しき陳腐な行為であると言わざるをえないほど、味わったその現実
には凄まじいものがあった。

まあ搭乗時に眼鏡を外し忘れていただけで「絶対ダメです!」「あとポケットにある持ち物は全て
例外なくそのロッカーに入れてください」と厳重注意されるほど熱の入った念押しように気圧され、
更にはむやみやたらとゴッツいプロテクターにより座席にボディを完全拘束された上、
スペースロマン系のアニメにおける戦艦発進描写にありがちな「ヴィーヴィー」というアラート音と
ともに甲板エリアが沈下してスルーホール構造のコースター床面から下肢部が露出し、意思をもった
自律的歩行を行うに必要不可欠と思われる地表との接地を完全に奪われたことで、たかがお遊びだろ
的な浮ついた気分がみるみる引くと同時に僅かではあるがはっきりと形をなした不安感を感じ始めた
のが、今思えば最初の予兆だった。
ついでに言うとその途方もない軽薄さが緊張感をほぐすことを想定・目的としたチョイスと思われる
バックミュージックが、むしろその軽さにおけるベクトルの矛先は我々の「命」そのものへ向けられて
いると考えた方が自然なほどブラックな方向へ小バカ感溢れる空気を作り出していたことにより、先程の
僅かなる不安感が着実なる恐怖感へとメモタルフォーゼを遂げはじめたのもまた確かなる事実ではあった。
「ええじゃないか♪ええじゃないか♪くさいものには紙を貼れ♪ええじゃないか♪ええじゃないか♪」
いやあ、全然よくないような気がするわー

ところがである。いざコースターが動き出し、密閉感一杯のドッグから青空広がる屋外へとその身を
躍らせ、ゆっくりとレール上をせりあがって初期目標である最高度到達地点へ進行していく道中にて、
心地よいと言えなくもないそのコトコトした振動を浴びているうち、不思議なことにすっかり気分が
高揚してきてしまったというわけである。
上半身の固定部を除けばほぼ全身剥き出しかつ椅子ごと宙吊り状態という、このやりすぎを通り越して
むしろ潔しと思えるくらいの開放感、そして揺れに合わせリズミカルにブラブラしている足元から上へと
立ち昇ってくるこの圧倒的浮遊感たるや。この感覚…まるでモビルスーツのコクピットにでも座っている
かのような… つまり気分はすっかりアムロである。あ、いや、この有効視界範囲から考えるに全天周囲
モニター型シートを想定すべきだろうからファーストより後のZ時代と考えるのが妥当?
つまり今、俺はカミーユ?「そんな大人、修正してやる!」「遊びでやってるんじゃないんだよォ!」
ホワイトベースのカタパルト上にて発進を今か今かと待ちうけるガンダムのエースパイロット気取りで
脳内妄想を膨らませるのもこれはこれでなかなかオツなものである。ぶっちゃけ今ちょっと楽しいわ。

10秒後。我が脳内の名セリフは「おーい、だしてくださいよう、ねえ!!」一色に塗りつぶされた。
いやはやこの異感覚、ただ事ではない。遠心力のせいかこめかみとうなじがチリチリする。胃の辺りは
まるで煮えたぎったマグマのようだ。いやさループ時はまだいい、下向きに滑走…いや"落下"していく時の
脅威的な気持ち悪さときたら…この「振り回されて」「落とされる」負感覚は完璧に常軌を逸している。
そして搭乗時どんだけ厳重なんだと思っていたプロテクターをよもやこんなにも頼りなく感じようとは… 
うおォン 今の俺はまるで室伏アレクサンダー広治に全力で投げられたハンマーだ。
普通こういう時なんて思うのだろう?「死ぬー」だろうか。冗談ではない。「死にたい」である。
「死ぬ」を通り越し、この苦しみが続くくらいならいっそ自死するか、もしくは殺してくれと本気で
そう願うくらいの恐怖。そう表現すれば少しは伝わるだろうか。

そして今の俺には分かる。
かつて綾波レイは言った。「ごめんなさい。こういうときどんな顔をすればいいかわからないの」。
だが今の俺にはよく分かる。こういうとき、どんな顔をすればいいのかということが。
想像してみてほしい、例えば自宅でのんびりとくつろいでいる時、突如押し入ってきた強盗に全てを
奪われた末「悪いが証拠は残せない、お前はここで殺す」と言い放たれ、額に「S&W M500」を押し当て
られたときのゴリっという生々しい感触を頭蓋越しに脳へもろに感じたとき、果たしてどういう顔を
すればいいのかということが。死に至る直前の自分の顔というものが。

  (コースター内設置カメラより)

ものすごく努力を試みた結果。
あ、自分は命乞いする時こういう顔するんだなー、というのが分かっちゃったことだけが収穫だった。

こんなんで「ええじゃないか♪ええじゃないか♪」て、いいわけないだろ馬鹿。
これに三時間行列して乗る?ドマゾどころの話じゃない、史上最強の罰ゲームだと思う。
だが、もし貴方が自殺願望者であるなら、あえてコレへの搭乗を止めはしない。
その代わりと言っちゃなんだが、終了後「飛び降り」という選択肢が確実に減ることをここに約束しよう。


[MySelf Next]