[MySelf]


12月2日

<恒例>

まことに… まことに残念ながらいつも通りの結果となってしまったことをここに報告しておく。
つまりお馴染みの「も」である。今度こそ、「は」になれ「は」になれと必死に念じてはみたものの
蓋を開けてみればそこにあるのはやっぱり「も」。その意味するところはつまり「今年も」である。

それどころか「販売研修」と銘打った某家電量販店への短期出向がただでさえ憂鬱な気分をより暗く
より重くさせている真っただ中へ偏屈そうなツラしたじじいが「畳ある?」とこうくるわけである。
まったくどこをどう辿ったらパソコンや冷蔵庫を売っているようないわゆる「電器屋」に畳があるという
思考に至ってしまうのか正直不思議でならない。つまるところ我が常識の範疇に置き換えるなら本来は
確実に「沙汰の外」な筈なのであるがホラそこはやっぱりお客さん、懇切丁寧に説明してやるが一店員で
ある自分の職務であろうと健気にも考え「いえ、お客さま…」と実直に切り出した次第が、

 「いえ、お客さま。あいすみませんが畳は置いておりませんで…」
 「…畳、どこ?」
 「いえ、お客さま。当店は家電製品を中心に取り扱っておりますのであいにく畳は…」
 「…調べて」
 「…………と、申しますと?」
 「チッ…! …だから! 畳が!何処にあるか!調べてよ!!」

と、何故かこうなった。ポルナレフがありのまま起こった事を話すガイドラインに照らしてみるなら
「な…何を言ってるのかわからねーと思うが…」「頭がどうにかなりそうだった… 」 と即、愚痴りだしたい
ところではあるが、ホラそこはやっぱりお客さん。どんな無理難題にも対応してやるが自分の責務であろうと
殊勝にも考え、とりあえず責任者にその旨を確認しに向かって案の定怒鳴られる羽目となった。
当たり前だ、このクソ忙しい時にすっとぼけた豚ツラさげて「あの、ここって畳あります?」とかいけしゃあ
しゃあとぬかされた日には家電屋店員なら誰だってキレる。
しかし、あえてその虎の尾を踏むことこそが爺いの納得に繋がる唯一の道と信じて疑わなかった自分を
待ちうけていたのは「不条理」という名の亜空間が惑わせる、これまで以上のポルナレフ・ゾーンだった。

 「お客さま、確認してまいりましたが、やっぱり畳は置いていないようでして…」
 「…ちゃんと調べたの?」
 「はい、調べました」
 「どうやって調べたの?」
 「フロア責任者に聞いてまいりました」
 「自分で調べろよ!」

というか爺いマジでヤバい。まるで聞く耳もってない。
流石は戦争経験者、伊達に殺す訓練うけてない。
正直、自律的射精以外の明示的行動においてここまでの仙人タイムを経験したのは初めてのことである。
そしてこういうときの対処法は神父が素数なら、自分のような俗民は宇宙と相場が決まっている。
だから、なあ、と。そう問いかける。
なあ知っているか、この前75億光年の彼方で爆発した星の残光が肉眼で観測されたそうだぜ?
それはまだ地球も存在していなかった75億年前の出来事がはるばる時間と空間を超えて、今ようやくこの
地球に辿り着いたってことを示しているんだぜ? なあ、それって…それこそが「ロマン」そのものだとは
思わないか?

剥離もしくは離脱にてもたらされた高次元のオプティミズムにより別次元の自分がその全身でもって宇宙の
神秘をあますことなく感受していたその頃、そのツケを一身に負わされた現実面の自分はとりあえず爺いを
意味なく建物の4Fに誘導した後、そのまま速やかに姿をくらますという荒技を駆使し、なおも表通りを全力で
疾走かつ失踪中の身であったということだけ、その結末を示す一つの解として付け加えておこうと思う。


…ほうほうの呈で帰ってきたのち、どっかりとソファーに倒れこみ、そこで大きく息を吐く。
そして今一度、あえて繰り返す。 つまり「今年、は」ではなく、やはり「今年、も」であり。
とりあえず祝ってくれたのはミクシのプロフィール画面とマックの起動画面のそれだけであった。


 


そこで、なあ、と。 そう再び問いかける。

なあ、一体いつになったら宇宙は爆発してくれるんだ?


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