[MySelf]


11月9日

<トイレ・1>

トイレのことについて書こうと思う。

何故なら僕はトイレが好きだからだ。
といっても小用そのものが好きなわけじゃない。正確にはトイレの個室がラブなのだ。

だってトイレって凄いよ。
よくよく考えたら、無料で利用できるプライベート空間としては、自宅を除けば、ほぼ
唯一と言ってもいいくらい貴重なスポットだよ、たぶん。
加えて、街中・駅・道端など至るところにあるという、その利便性の良さも高ポイント。

トイレこそ、行き場のない抑圧感やどうしようもない閉塞感で汚れきったこのコンクリート
ジャングルの中において、心からの安息と充足を得られる唯一の場所と言っても過言では
ないと、そう、僕は強く思う。
この人ごみだらけの都会の中で、静かに自分を見詰め直したくなったら、まずはトイレに
こもってみるといい。僕の言っていることが本当だと分かるはずだ。

だから僕はよくトイレに入る。その中で思う存分憩う。
よっぽど時間がない時を除けば、小用の方ですら個室に入る。
そして1回トイレにこもったら、最低10分は出て来ない。
もちろん、その中でジョイフルに過ごす為の準備も怠りない。
自宅のトイレ内には、フルヘッヘンドで、漫画や雑誌類が完全完備。
社内でトイレに赴く時は必ず携帯持参で、優雅なモバイルライフを満喫さ。

NO LIFE NO TOILET

本当は「TOILET」じゃなくて、「REST・ROOM」。
さあ、RESTの意味を考えてごらんよ。

続きはまた明日。


11月10日

<トイレ・2>

トイレのことを書く。

「REST」の意味を辞書でひいてみた。
答えは、休息、安心、睡眠、永眠 などなど。

つまりトイレで休み、憩い、眠り、死ぬのは、至極当然の行為なのだ。
だがトイレで休むのはともかく、睡眠をとるには、ある程度の技術を要する。

まず一つ目のポイントは「設備」である。
当然のことながら、寝返りをうった途端、生まれてきたことを後悔する可能性が出てくる
和式は避けるべきであり、おのずと洋式が前提となる。
次に床は綺麗であればあるほど良い。駅や道ばたなどに設置されている公衆便所は避け、
ホテルやオフィスビルなど掃除が行き届いた場所を選ぶのが基本である。
最後にウォシュレットは出来ればないところを選んだ方がいい。何かの拍子にふと手をついた
途端、菊門めがけてピンポイントで飛んでくる水流にお尻をなすがままにされ、ズボンの臀部
辺りにくっきりとした円マークを強制的につけられてしまうのは誰だってごめんな筈だからである。

さて、二番目のポイントは「位置」である。
基本前提として、個室が一つ、もしくは二つしかないような施設で睡眠をとるのは極力
避けるべきである。緊急に排便を要す人の迷惑にならないようにという理由ももちろん
あるが、一番の理由はトイレ式圧迫術の使い手の標的になるのを避けるためである。
これに関しては後日、機会があれば説明することになるだろう。
では、4つ以上個室がある場合、どの場所を選ぶべきか。
ゴルゴ13は、ホテルの部屋を選ぶ際、必ず最上階の非常階段に最も近い部屋を取るという。
この選択における最重要項目はもちろん「逃走経路」であるが、これを「安眠」に置き換える
ならば、いかに他者にその存在を気づかれず、また邪魔されずに長時間睡眠を取るか、という
ことが命題となるこの場合、正解はおのずと、出口からもっとも遠い一番端っこの個室となる。
逆に言うなればその場所が空いていないなら寝てはいけないのだ。
トイレ安眠学における最も基本的なお約束、覚えておいて損はない。

最後に3つ目のポイント。「体勢」である。
この場合の体勢とは、もちろん、どのような姿勢で睡眠をとるか、ということを指す。
そしてトイレ安眠学におけるトラディッショナル・スタイルは以下の3つの体系に分類する
ことができる。

<リクライニング>
 名前が示す通り、便座にこしかけたまま体を後ろにゆっくりと倒し、背部にある構造物
 を背もたれに利用して寝るという、古き昔から現在に至る今まで、プール授業から逃げ
 出した小学生、勉強に飽いた中学生、授業バックれ高校生、仕事疲れのサラリーマン、
 ありとあらゆる層に愛されてきた、トイレ安眠学の中においてもっともオーソドックスな
 体位の一つである。

<スクールボーイ>
 ダイレクトに床の上に座り込み、便器の蓋か便座の縁部分を机代わりに、そこに突っ伏して
 寝るという、相当な居直りが必要とされる体位。学校での授業中における、教師からの叱責
 をも完全覚悟しての本気寝モードに似ていることから、そう名づけられている。
 が、この体位は床が綺麗でないと無理な上に、蓋が存在しない場合、相当なテクニックを必要
 とする為、素人にはあまりオススメできない。但し、アルコール等の大量摂取により、睡眠中
 に嘔吐をもよおす危険性がある場合、この体位は絶大なる効果をもたらす。が、えてして重度
 の嘔吐は同時に極度の排便をも誘発させるものであり、そちら側への注意を怠ると、目覚めたら
 口元はすっきりなのに何故かお尻の辺りがこんもり、ということにもなりかねない。その辺り
 十分な注意が必要である。

<フリーダム>
 個室の中の最重要アイテムである便器の存在にとらわれず、床の上にそのまま寝転んで、
 晴耕雨読の精神に従い、自由きまま、自らの心のおもむくままに、睡眠を楽しむという、
 ある意味、仙人かホームレス級の悟りを開いていない限り実行不可能と思われる大胆極まり
 ない体位である。かくいう僕も1回しかやったことがない。しかもそれは酔いつぶれた挙句の
 昏倒による本人の意思がまるで存在しない状況下で行われたものであった。加えてトイレ方式
 が「和」であった故、目覚めた後、生まれてきたことを真剣に後悔する羽目に陥った。
 この体位ばっかしは、素人どころか玄人にもオススメできない。


上記にあげたスクールボーイとフリーダムはその体位も用途もかなり特殊であるゆえ、
ここではもっともノーマルな体位であると思われるリクライニングを対象に更なる詳細説明
を加えていきたいと思う。

まず、この体位を使用する際、最も重要となるのは、便器と背後の壁との距離である。
便器と背後との壁は近ければ近いほどよい、が、距離がありすぎるようならこの体位の使用は
避けるべきである。また背後が壁およびタンク以外のもの、例えばパイプがはりめぐらされて
いたり、何か突起物のようなものが突き出ていたりした場合、やはりこの体位の使用は避けた方
がよいかと思われる。まずは快適な睡眠環境を確保すること、そのことを第一に心掛けてほしい。

さて、次に重要なのは「座り方」である。もし蓋があるならばそれを閉じて座ればよいだけ
だが、公共の場所にあるトイレは、便器から蓋をとっ払ってあるものがほとんどの筈である。
この場合は排便の時と同様、便座の上に直接腰を下ろすしかないわけだが、中心に大きな穴が
空いている為、時間の経過とともに臀部は徐々にその穴に食い込むことになり、その力場の
方向は重力に従う故、それにつられて自然と股の向きも内へ内へと閉じはじめる筈である。
が、この際、絶対に内股になってはならない。臀部の位置が重力のなすがままにならないよう、
常にガニ股を保つべきである。そうしないと起床時、感覚がなくなるくらい足とお尻が痺れて
大変なことになる。実際、僕自身、この状態になっている事に気づかずに慌ててトイレから
出ようとしたら足がいうことを聞かずにドアを開け放ちざま外にもんどりうって小ベンキの縁に
頭頂部をしこたま打ちつけ5針縫ったことがある。トイレ寝りを断じて甘くみてはならない。

最後にこれだけはやってはいけない、という注意点をあげておく。そう、「いびき」である。
隠密行動を旨とするトイレ寝において、その存在を知られるどころか、中で何が行われているかまで
ほぼ筒抜けとなってしまう「いびき」は、バレたが最期、それはトイレ愛好家としての死を意味する。
恥ずかしながらこの僕も、以前、前の会社でトイレ寝り実行中につい油断していびきを立ててしまい、
それをたまたま偉い人に聞かれてドアの前で15分程はり込まれたことがある。
どんだけ暇なんだって話しだ、あのヒゲ野郎。もう誰もいないだろうとそっとドアを開けてシレっと
したツラでトイレを出ようとした途端、背後からいきなり声をかけられる以上の恐怖を僕はまだ体験
したことがない。それが原因ではないと思いたいが、その4ヶ月後、とりあえず僕はその会社を去る
羽目となった。せいせいしたけどな、せ・い・せ・い。

いろいろと細かいことを書いたかも知れないが、上記にあげたような幾つかの注意点にさえ
気を付けていれば、トイレ睡眠は概ね安全なものである。そして何よりもトイレ寝りは失った
活力を取り戻し、明日への鋭気を養ってくれるものでもあるのだ。


何ゆえ、トイレは「RESTROOM」なのか。
トイレで休み、憩い、眠り、死ぬのが、至極当然の行為であるからだ。
故に僕は欲す。トイレで「休み」「憩い」「眠り」「死ぬ」ことを欲している。
だが生粋のトイレ愛好家たるこの僕も、流石に最後の一つだけは、まだやったことない。

トイレに死す。

うむ、響きは悪くない。レクイエムはマーラーでひとつよろしく。


11月14日

<トイレ・3>

トイレのことについて書くんだにょ。
今回は、トイレで腹が立つランキング、について。

第3位:昼休みにトイレで歯を一斉に磨きはじめる奴等。

昼食後、どれどれ本日のご蠕動の調子はいかがかなと大腸様のご機嫌を伺うため、
おなじみのトイレへと赴いたら、そこにお前どんだけ必死なんだってぐらいの勢いで、
一心不乱に歯を磨いている小市民どもを見たことはないだろうか。そりゃもうガシガシと。

しかも2人や3人じゃないの、酷い時になると5人くらいいるの。ウヨウヨだよ。
しかもコイツら動く。口腔内を髭のついた棒でかき回してんだから手持ち無沙汰って
ことはないだろうにトイレ内を縦横無尽に歩き回りやがる。ウロウロだ。

あの狭い空間内にて、ガシガシ、ウヨウヨ、ウロウロ。
正直、異様な光景だと思う。なのに誰も突っ込まない。そこがヘンだよ日本人。
しかもその横の個室じゃ、本来のトイレの用途を正しく使おうとしている方々が、
昼食後の排便を速やかに行うべく必死にきばりながら、ブリっ、メリメリ…バフッ、
ビチビチビチ…などという破滅音を次から次へと生み出しているというのに、それに
対してもまったく動じない様子でなおガシガシ、ウヨウヨ、ウロウロと。

昼休みに歯を磨かないと死ぬとかいう念の刃を心臓に刺されでもしてんの、お前等?
とか本気で疑うレベル。むしろ動じてるの中の人。こんだけ外でガシガシ、ウヨウヨ、
ウロウロされちゃ、排便を優雅に楽しむどころの話しじゃない。食事、睡眠に続く人生
最良のひと時を、礼儀知らずの粗忽者により理不尽に妨害されるというこの不愉快さ。
正直、たまらんぜ。

それどころか極力外に音が漏れないよう、お尻の括約筋に全神経を集中させながら、
そっとそぉっと抜き尻差し尻ひねりだしているにもかかわらず、バフンって破裂音を
飛び出させちゃったときの、あの肩身の狭さ、この敗北感たるや。
違う、今のは違うんだ、空気が入っただけなんだ、できることならやり直したい、でも
この屈辱感も悪くない、その甘美なる矛盾、簡単に答えは出てこない、しかしそれに
埋もれていたいと思う自分がいるのもまた事実!ウヒョー、ファーンタスティーック!

そんなクウガな領域まで既に御身が達しているならば何の問題もなかろうが、現実的
には皆が皆、屈辱と愉悦の境界線で生まれるカオスという名の矛盾に身を任せつつその
めくるめく快楽の炎の中に恍惚と身を投じれるわけではない。ほとんどの人がとんでもなく
バツの悪い思いしながら「早く去れー」「頼むから速やかに出て行ってくれー」と必死に祈願
しつつ、その暗くて狭い個室の中にじっと息をひそめて歯ァくいしばって、奴ら歯磨き族が
トイレから去ってくれるまでの時間を懸命に耐えているというのが実状なのだ。

で、ガシガシの音が聞こえなくなったんでそろそろ行ったかなと思って意を決して個室出て
みたら、鏡の前で呑気に髪型とか直してやがったりしてな。マジ気絶もん。

別パターンとして手洗い場全てを歯磨き族が占拠ってのもある。ブリブリウンコマンである
ことがバレてしまったこちらとしては1秒でも速く手を洗って、その場から速やかに立ち去り
たいというのに、それを知ってか知らずかどいつもこいつも、まあ優雅にうがい協奏曲に興じて
らっしゃるときたもんだ。まったくガラガラガラーとかのんびりやってる場合じゃねっつの、
阿呆ども。その後に続くペっ!はなくていいからいっそ飲め。よっぽど鼻つまんで耳もとで
大声だしてやろうかぐらい思った。くそ、歯磨き野郎どもめら。使ってる歯磨き粉もセッチマ
とかだろどうせ。くそうセッチマめ。セッチマー!

ところでセッチマとセッチンは似てるけど、間違えると大変なことになるので気を付けよう。
トイレ的には後者の方が正解な筈だけどねヤプー

じゃ、次回は2位について。


11月18日

<トイレ・4>

トイレについてカクリコン。

一週間くらい前、だっけな。
とあるセミナーに出席するため、新宿のとあるホテルへ、えーと、なんか外見からして
格調高いですよーって感じの、普段なら絶対足を踏み入れないような場所へ行ったんだ。

で、ボーゼンとスライド眺めてたらいつの間にか昼になってたんで、そこで出された格調
高そうな弁当もふもふ食って一息ついた後、さていっちょやったるかと普段のそれよりは
どちらかって言うと造りといい匂いといい格調高そうなトイレへ赴いたわけ。

したら満員なの、個室全てが。
トイレ内で発生しうる全ての事象において、いや、その範囲を「この世の全て」に拡大
させたとしても、ベスト10には確実に入るであろうと思われる程ショッキングな出来事が、
この格調高いホテルの中で軽々と起こっちゃってるわけですよ。

こんなに腹たつことそうそうないと思う。だって格調高いくせにウンコもろくにさせて
くれないんだよ?それともアレか、格調高くない人間はウンコしちゃいけないのか!
憤慨しまくりながらもう一度室内をよくよく見渡してみたら、一番端っこの方に一つだけ
空いてる、やたら格調高そうな個室を発見。
しまった格調高すぎて見逃していた。で、よくよく見たら、まあ、そこは普段なら入るのを
ちょっと遠慮しちゃうような身障者専用の個室だったわけだけど、でもこの緊急事態にそんな
悠長なこと言ってらんないしなーと、横に並んでる本来のそれよりもやたら格調高そうな作り
の個室の中に、すかさず飛び込んだわけですよ。

したらまだ用を足し終わってもいないのに、いや、それ以前にまだ便座に腰掛けてすらいない
というのに、既に水を流したときのジャーって音が、壁に取り付けられた装置… えと、音姫
とかいう奴だっけ?そう、そこから盛大に鳴り響いちゃってんの。

格調高いくせにあわてすぎだろとか思いながらも、でも男子便所に音姫ついてる辺り、やっぱ
格調高いよなあとほのかに感心しつつ、その格調高そうな便座によいしょっと腰をおろした途端、
いきなりその音、ピタっと止まりやがった。あれ?

え?どーいうこと?今ここで鳴らずしてどーすんの? それとも格調高くない人間のウンコの
音は消せませんってか? 若干キレ気味になりながら、便座の後ろに取り付けられてる、
その格調高そうなスイッチ類をピコピコいじってみるもまるで応答なし。なんだ?格調高くない
人間が押しても働く気にならねーってか!

トイレの便器にすら存在を否定されるという人としてあるまじき陵辱にこの身を振るわせつつ、
かといって大腸からの過酷なる重圧を受けて菊門をわななかせている我が身の限界にいつまでも
耐えられるわけもなく、結局のところ、僕は括約筋の全てを開放せざるをえなかった。
それにしたって、バフバフバフ…ボゥン!ってなマジ何事?
ここで停まったら死んじゃうかなー的スメルたちこめる紛争地帯のド真ん中でガス欠おこして
失速していくハマーの最後の断末魔みたいな音させやがって。つっかえねーな、括約筋。
かつやくって名前負けしまくりじゃねーか。そりゃー、ウンコの音も、消・え・な・い・わー!

とうわけでアレですよ、身障者用のトイレに入って用足してる時点で、ただでさえ相当肩身の狭い
思いしてるっていうのに、その上、これ以上ないって言うくらい派手にバフバフやらかしちゃった
もんだから、どのツラ下げてここから出ていきゃいいんだって話になっちゃったわけですよ。

とにかく今は一秒でも速くこの場から離脱しなきゃと、こんもりひねり出したそのブツをすかさず
流そうとしたら、今度はそのやり方がわからないときたもんだ。
だってね!だってね!あのレバーが見つからないんだ!引いただけでジャーってなる、あのおなじみ
のレバーがどうしても見つからないんだ!ウォシュレット制御の為の各種スイッチとか、身障者用の
様々なギミックとか、格調高そうな装備がやたらめったら付いてるわりには、一番肝心かなめな筈の、
あのレバーがどこにもないんだー!(半泣き)

僕の眼前にて圧倒的存在感のこもったオーラを放ち続けているSHITという名の我が分身、
刻々と近づいてくる午後の授業の開始時間、それに伴いますます増えていく外の人の気配、
ああ、なんてことだ、このままじゃ破滅だ!全ては僕の格調高さが及ばなかったばかりに…! 
と、そのとき…

「ジャー」

おお、この格調高き水の音は! 僕の必死の思いが遂にこの格調高き便器様に届いたのか!
ああ、ありがたやありがたや… って、あれ? 

確かに音はなっている。 でもモノは流れてませんから。

ふと壁の装置を見る。一番肝心なときに鳴ってくれなかったくせに。今頃になって「ジャー」。


くそう「格調」め。 次はアナルでのぞむ。「拡張」してのぞむ。エネマー!


11月24日

<トイレ・5>

トイレの話をカプリコーン。

たぶん誰にでも経験のある話しだと思う。

 ギリギリ我慢するよりも
 ブリブリしたっていいじゃないかよ
 もう、出すしかないんだって
 大丈夫 後で洗えば

我慢しすぎてギリギリヒップと化しちゃった肛門が高らかに歌い上げる空気漏れと
いう名の妥協なきアンセム、そしてそれとセットになって絶え間なく襲いくる便意
という名の土石流を、耐えつなだめつ騙しすかしつしながら、やっとの思いでその
場所に辿り着き、取る物も取り敢えず括約筋の全てを開放させた時のその爽快感。

そして、ほっと一息ついたその直後に突如延髄を直撃する、あまりにも過酷なる
その現実、それが我が身に与えるこの容赦なき絶望感。


人は、それを「紙がない」と呼ぶ。


が、冷静に考えれば、この場合の選択肢は大きく大別して「拭くか」「拭かないか」の
二つしかない。そして後者の選択肢を迷うことなく選べるほどの大陸的発想を持っている
人間が同じ血を持つ我らがジャポネーゼの中に存在するとは極めて考えにくいので、結局
のところ、この選択は「何で拭くか」という点に収束していく筈なのである。

この場合、まず頭に浮かぶ素材は、身近にあるパルプ加工品、つまりは「紙」であろう。
たまたま持っていた新聞、たまたま携えていた小説、たまたまそこらに転がっていた雑誌、
ま、主要なケースとしてはこんなところであろうか。
ちょっとひねってたまたま手に持っていたCDのブックレットという手もないではないが、
相当の覚悟と代償を要する上に、それが借り物だったりした場合、よりその重みも増すこと
になる故、素人にはオススメできない。そう、2年前にツタヤ西五反田店の洋楽コーナーに
置いてあったオアシス/モーニンググローリーのブックレットをなくしてしまったのは何を
隠そうこの僕なんだ。店員の皆さん、ごめんなさい。でも、これだけは言っておく、それは
とても有意義な使い方であったと。だからドント・ルック・バック・イン・アンガー、怒りを
持ったまま振り返っちゃいけないよ…

さて、これらのアイテムを使用する場合において最大の障壁となるのが、その質感が肌に
与えるゴワゴワ感とトイペとは比べ物にならない程の硬質感である。が、便のキレさえ良好
ならばこれらはさほど障害にならない筈である。コツは拭く前にその新聞紙をクシャクシャに
しておくこと。後は躊躇せず一気にゴシゴシとやってしまえば案外と奇麗に拭けるものである。
だから不安に思うことなかれ、要は度胸と思いきりである。
では、若干ビチり気味だった場合はどうか。なるほど、確かにその場合、クシャクシャにした
程度の対策では肛門に付着したそれを全て奇麗に拭き取ることは、正直難しいかもしれない。
が、憂慮することなかれ、そういう時はまず流し、その注ぎ口から迸る水にその紙片を当てる
などして、より一層の柔軟性を得れば良い。それでまず1回拭き、次に先程のクシャ紙でもう
1回拭く、これでノープロブレム、十分すぎる程奇麗になる筈である。
いついかなる窮地においても必ずどこかに状況打開の為のヒントが隠されていることを忘れな
いでほしい。

さて、これまでの話しは、全てその素となる「紙」があることを前提に進めてきたものである。
では、それすら入手できなかった場合、どうするか。

あなたが憲法第25条1項の生存権を遵守し、最低限、文化的な生活を営んでいるならば、
答は実に簡単、しかもチャンスは2回与えられる。そう、速やかに履いている靴下を脱いで
それを使用すればよい。正直、新聞紙や雑誌などの切れ端よりははるかに拭き心地もいいし、
肛門へのフィット感も断然上な筈である。そして失ったものは後でコンビニなどで取り返せる。
そこには何の問題もない。が、それでも我々がそこになかなか辿り着けない理由は何故か?
「物の価値」? 誰か僕に教えてくれ、ケツにウンコをつけたまま街中を闊歩しなければなら
ない程の犠牲と引き換えに出来うるだけの「価値」とは一体いかなるものか!?
馬鹿馬鹿しい、たかだか千円程度の損失を惜しんでアナルをぬめらせたままにしておくという
のは実に愚かな行為だと言わざるをえない。

では靴下すら履いていなかった場合は?
幸運なことに、我々は身に付けていなくとも、外見からはそうと分からない衣類を、常に一つ、
いやさ女性の場合は二つ、身に付けている筈である。
さあ、服飾文化の進化に感謝しつつ、最後に残されたその隠し玉を思う存分、使うとよい。


もし、あなたが。
ふと入った公衆トイレの個室に、それがポツンと一つ、残されているのを見たことがあるならば。

つまり、それは、そういうことなのである。


11月30日

<トイレ・6>

トイレのことを if!

この前、ちょっとした用事ついでに、山口と福岡のちょうど中間辺りへ行ってきたのね。
そう下関。
で、その近辺にある「海響館」って水族館を巡った後、じゃそろそろ戻るかと下りのバスの
時間見てみたら何と次の便が2時間後。

冗談じゃないと思ったね。だって「死」という絶対摂理を抜きにして、僕がこの世の中で
何か一番嫌いかって、そりゃ「待つ」ことだもの。正直、どんなに頑張っても3分までだね。
それ以上待つくらいなら帰る、たとえ相手がバスであろうと。人相手なら速やかに投げるね、
パイとか。もしくは弾くね、輪ゴム。首にパチンってはめて1分1回計算でピチって弾く。

で、3分待ってもバスはやっぱり来なかったんで帰ろうと思って、そこではたと困った。
バスが来ないから帰れないんじゃないのか。でも3分待ったからどんなことをしてでも帰る
しかないのだ。しかし歩くにしてはちと遠すぎる。うーむ、困った。で、ふと辺りを見渡して
みたら、すぐ近くにタクシーが停車していた。

や、正直に言おう。実はバスの時刻表見る前からその存在は既に認知済みだった。
でも非常に残念ながら、車のボンネット上にて黙々とハマグリの選別作業してるような
運転手さんに安穏と声をかけられる程の能天気さを、僕は生憎と持ち合わせていなかった。
まあ、百歩譲ってこれがミカンとか柿とかだったらね、まだ声をかけられてたかもしんない。
でもハマグリだよ、完璧に軟体生物、しかも軽々と2枚貝、更には水管から水をピュピュって
弱弱しく吹き出してる辺りから察するに、どーも中途半端に生きてるっぽい。

ね?これで声をかけようもんなら完全に敵の思うツボじゃん。
食わされちゃうわけじゃん、その手は桑名の焼きハマグリを。それだけは無理でしょ。
でも待つのも無理なんだ、うーん、どうしよう、究極の選択だよね。
その手は桑名の焼きハマグリ、食うべきか、食わざるべきか。

で、結局のところ、食べてみた。
ハマグリがドンって置かれて。タクシーはブォーって走り出した。
助手席が空いてるにもかかわらず、何故かそのハマグリは僕の隣にしっかり置かれた。
まずは1ハマグリ。

「なあ、兄ちゃん、どこから来たの?」
「あ、東京です」
「へー、東京ー」
「ええ、東京ー」
「……」
「……」
「ハマグリさあー」

ハマグリのことなんて一言も聞いてない。この時点で2ハマ。
加えて言うなら、そこに触れるにしたって挨拶がまだそこそこすぎだろ。有効打で3ハマ。
この連打と強打っぷりから察するに、たぶん10ハマ食らったら死ぬね、間違いない。

「そのハマグリさあ、病院の看護婦さんにお礼にあげようかと思って」
「……」

ハマグリをお礼に貰ってはたして相手は嬉しいだろうか。少なくとも僕は嬉しくない。
が、その疑問は当然、口にしない。誘い水に安々とひっかかるわけにはいかない。
もちろん、誰かお知り合いがご病気なんですか、とも断じて聞かない。
自らの死期を早めるような真似は決してしない。ついでに返事も絶対してやらない。
今はただただシカトによるダッキングで、相手のラッシュを凌ぐのみ。

…お、どうやらパンチの雨あられはやんだっぽい。よし、今後もこの調子で…

「あー、母ちゃん死んだら、俺も1人かー」

ドーン! +100ハマ。 
いきなり爆発したよ。ギャラクティカマグナム級のすごいやつ。
そして僕、死亡。完璧に完敗した。
素直に負けを認めて、とりあえず相槌くらいは返すことにする。

「ご病気なんですか?」
「うーん、もう年だからねー、看護婦さんに世話かけっぱなしだよ」

なんだ、ますます重い話になってきた。このままだと僕は2度死ぬ。
話題切り替えによるスウェーを試みて、何とかこの流れを変えないと。

「あの、ハマグリとか、お好きなんですか?」
「いや、別に」

そのハゲ上がった頭頂部に思いきり叩きつけてやろうかと思った、お前の大好きなハマグリを。
あ、でも、好きでもないのか。じゃあするなって話だ、選別とか。
それとも何か?下関じゃハマグリ贈るのが文化とか?あまりにデカルチャーすぎる。

その後も話す、話す。
母ちゃんの病気のこと、入院のこと、今後の生活のこと、看護婦のこと、もう、次から
次へと出てくる。 つらいのは分かった、1人でさびしいのも。そして僕にそれを話す
のも正しい、おそらく似たような境遇になる、そんな未来の僕はたぶんつらい、でも現在
の僕も実は相当つらいんだ、何故ならおなかが切実に痛くなってきたから。

「運転手さん、ごめんなさい。ちょっとオナカ痛いんで… 急いでくれると、嬉しいです」
「お? おー、もうすぐだー」

よし、駅の近くまで来た。あ、公衆便所発見!

「運転手さん、ここでいいです!」
「お? おー」

ケンシロウに「動いたら… ボン!だ」と宣告されかねない程のレベルでワーニングな
その熱き迸りを断固阻止すべく、肛門の根元をキュキュっとすぼめたままの不安定な姿勢で
どうにかお金払って、さあ、いざ便所に突撃! と駆け出そうとしたその刹那、運転手さんに
いきなり呼び止められた。

「おい、兄ちゃん」

え、なに!? 僕、ハマグリだけはいらないよ!

「紙、もってくか?」

ティッシュを10個もらった。1、2ィ、と数えながら、何故か一つ一つ手渡された。
この時点で僕、もう顔面蒼白。
でも「いや、そんなにはいらないです」とはどーしても言い出せなかった。

で、本当にギリっギリのところで便所に到着。
ズボン脱ぐのももどかしく、すかさず便器の上に腰を落とす。その瞬間「ボン!」だった。
ふー、本気で危なかった。さて拭くかと右に手をやり、 …あ、紙、ない、や…

しかも、その日、携えていたものは、財布、携帯にデジカメのみ。
いつもだったら即座に覚悟決めて、確実に靴下を脱いでいたところだ。

が、今日はその手は桑名の焼きハマグリ! だって紙あるもんねー、ありすぎるくらいあるもんねー
あの運転手さんに心の底から感謝した瞬間。
うん、お礼にハマグリも悪くないんじゃないの?って素直に思えてきたよ。

今日の標語、「目上の人を大切にしよう!」

ついでに、もう一つ、標語発表しまーす。

「和でいたすとき、後ろポケにモノを入れておくのはやめよう!」

まさか、こんな見当違いの角度から食らうとはね、その手は桑名の焼きハマグリー!


そんなわけで僕の携帯、
真ん中部分に、画面スクロールさせるためのクルクル・バーが付いてる奴なんだけど、
それ以降、下ッ方向側だけが、もう、全ッ然、利かない、のね。

だから常に上回転、でもってアドレス帳とか目的地を1回通り過ぎたらもう一周。
でも、登録件数35件しかないので、そんなには困らないのであったー、けどif!


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