混沌の廃墟にて -274-

読ませる文章 (1)

1999-05-31 (最終更新: 1999-06-22)

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FPROGORGの会議室で、FMHPのローカルルールの話題が出た。

なぜFPROGでFMHPのルールが? 私に聞かれても困るのだが。 他フォーラムのルールがどういう意味かという質問に、もちろん、答える義務はない。 しかし、実は個人的にFMHPに入会していることがバレている。 発言したこともあるから、周知の事実である。 そうなると、そこのローカルルールを知らないで発言したと邪推されるのも困る。他フォーラムの担当とはいえ、仮にもSYSOPですから。

つまり、状況としては、質問されたら答えないとヤバい、と考えていただければだいたい当たっている。 じゃあ答えればよい、という結論になりそうなものだが、実は、FMHPのローカルルールは、それほど真剣に読んでいなかった。 私のいう「真剣」がどういう程度なのかは、このドキュメントを最後まで読んでいただければ分かると思うが、今まで真剣に読んだ記憶にあるのはFSHISO位である。 もちろん「ざっと」というよりは真面目に読んでいるつもりだし、実際、多分、非常に多くのFMHP参加者よりは私の方が熟読している自信がある。 しかし、完全に頭に入った、という状況とは絶対に思えないというのも事実だ。なぜか。 超難解な文章だから? それもないとは言わない。 しかし、根本的な問題はそれではない。

分量が多すぎるのである。


FMHPの「お知らせ」には、1999年5月15日現在、次のような情報が掲載されていた。 ちなみに、なぜ5月15日かというと、この文章の草稿がとりあえずまとまったのがこの日だったのだ。 その後、推敲を重ねる予定なので、実際の発表までタイムラグがある。その点、ご了承いただきたい。 なお、行数はこちらで勝手に数えたものなので、多少は誤差があるかもしれない。

番号行数題名
1219FMHPローカルルール
259FMHPでご利用できるサービス
3220会議室のご利用について
4215ライブラリのご利用について
5144メンバーズホームページ開設の手順
6183MHPに関するFAQ(良くある質問と回答)
739目指せ!10万カウントについて
868FMHPリンクについて
9227FMHP会議室利用ガイドライン

このうち、会議室に発言するという前提で、絶対に読まないといけない筈のものは、1の「FMHPローカルルール」、3の「会議室のご利用について」、9の「FMHP会議室利用ガイドライン」か。 何か質問の発言をFMHPに書くのなら、その前に6の「MHPに関するFAQ(良くある質問と回答)」も読んでおくのがマナーだろう。

200行というのは、実際、かなりとんでもない行数と言っていいだろう。 経験的には、この長さだと「読めない」人が出てくるレベルの行数である。 どこかで指摘したような気がするが、「長い」という理由だけで拒絶反応を引き起こし、全く読めなくなってしまう、という場合が実際にあるのだ。 もっとも、そのような人がそもそもニフティサーブのフォーラムの電子会議の流れに追従できるのだろうか、という疑問がないわけでもないが。


ルール、規約、約款のような文章を作る目的は何だろうか。 次の3つがあると思う。

(1)利用者に読んでもらい、それに沿った行動を期待する場合。

(2)実際に読んだかどうかは分からないが、裁判等の争いになった場合に有利な立場に立つために定める場合。

(3)利用者が読むことは現実的に期待できないが、裁判等の争いになった場合に有利な立場に立つために定める場合。


FPROGのローカルルールの狙いは(1)だ。 本当に読んで理解することを期待しているのだ。そのための絶対条件とは何か。

そう、短いということである。

この条件がなければ「大部分の人に読んでもらう」という目的がいきなり挫折する。長いと読まない、という人がいるからだ。 具体的には、FPROGのルールは、100行以内というのを大前提として作成している。 これがぎりぎりの限界と考えたのだ。

理想的には30行以内という条件がよいと思う。 しかし、これでは短すぎてルールにならないのだ。何のことか分からないルールは意味がない。 「マナーを守ってください」というルールを決めるのは簡単だが、マナーとは何か分からないと意味がないのである。 「よろしく」という4文字のローカルルール、これは一度やってみたいものだが、実際に運用できるかどうかというのが自信が持てない。

ただ、ローカルルールを実際に見てもらえば分かると思うが、補足の文章を除けば、約20行になっている。それに補足して100行以内、これが工夫である。

量がなぜ重要なのか。 「行動を期待する」ためには、読んでもらうだけではいけないのだ。理解し、納得してもらえることが必要である。 それも、ルールを読んでいる時ではない。 フォーラムで行動しているときにルールに沿った行動をしてもらえないと意味がない。 そのためには、記憶できる分量というのが条件になる。それが30行の理由なのだ。

もちろん、どんなに短いルールでも、覚えてもらえないものはやはりダメなのである。それも重要なことである。


ところで、(3)って何でしょうか? 法令などが、そうだ。 素人が法律を読んでもよく分からないものだし、何となく分かるということはあっても、本当の意味が理解できているかどうか怪しい。法律は法律の専門的書き方があるからだ。 しかし、たとえ法令を知らなくても、日本においては日本の法令が適用されるし、各人には法令に従って行動することが強いられているのである。 争いになった場合は、法令を守っていた側が有利となる。これを社会の常識という。


さて、問題は(2)なのである。これは一体何だろうか。 つまるところ、ニフティサーブの会員規約とか、生命保険の約款とか、ソフトウェアの使用許諾条件とか、そのような文書がこれだと思う。

ニフティの定めた規約を読むことがどれほど難しいか紹介しよう(*1)。 メンバーズホームページ利用規約の第1条の2.。

ニフティがニフティサーブ上で提供するサービスのご案内コーナー等で規定するサービスの利用上の決まりも、名目の如何に拘わらず本利用規約の一部を構成するものとし、ユーザーはこれを承認します。

どこが難しいって? 「ご案内コーナー等」というのが具体的に何か分かるというあなたは偉い。それは今回は問わない。フェイントでした、失礼。 問題は「拘わらず」なのである。同じ規約の第8条の2.を見てください。

ニフティは、ユーザーのFTPアカウント等が他の会員又は第三者に使用されたことにより当該ユーザーが被った損害について、当該ユーザーの故意過失の有無にかかわらず一切責任を負わないものとします。

これも意味は明快だ。ftpアカウントはユーザーが責任を持てというのだ。 実はこれは猛烈に危ない問題を含んでいる。 私が最初にメンバーズホームページを設定しようとした時、既に何かデータが入っていたので驚いた、という事件があった。実は他の人に割り当てたページを重複して割り当てたらしいのだ。 ニフティはこういう場合にも一切責任を負わないという規約ということになる。 もちろん、いくら何でもそれは無茶苦茶なわけで、現在はそういうことはなかろうし、サービス開始時のシステムトラブルということで、公序良俗に従った常識的なサポートがあったのだから、別に今からメンバーズホームページを使うという皆さんが心配することはない。と思うが私は責任持てないから、その点はよろしく。

さてと。「拘わらず」の話である。これ、何と読むんですか? 常識的には「かかわらず」ではないかと思う。文脈から考えたら。 ところが、同じ規約の第8条の2.をもう一度見てくれ。「かかわらず」という表現が出てこないか?

そう、ニフティは「かかわらず」と読ませたい時には「かかわらず」と書くのである。だったら「拘わらず」は何と読むのだ? この漢字のもう一つの読み方は「こだわらず」である。 「かかわらず」と読まないとすれば、「こだわらず」しかない。 つまり、この規約においては「拘わらず」は「こだわらず」と読むのが正しいのだろう。こだわりませんが。(*2)

いやまーギャグだからそうエキサイトしないように。 多分担当者が変わったりして、表現が乱れたのだろう。 通常、こういう表現は全体で統一するのが常識なのだが、とりあえず、ニフティの考えていることはさっぱりわからん。 こだわりませんが。

しかし、規約というのは、およそあらゆる文章の中で、最も杓子定規に解釈しなければならない文章の一つである。 これを熟読しろというのなら、そのような所まで思慮の対象になるのが当然だろう。 だから「拘わらず」は「こだわらず」に決まっている、という判断もあながち外れてはいない。

会員規約を読むのに、そこまで考えなければならない、というのは一般に不可能に近いものがある。ということは? あくまで私見だが、この種の規約は、規定者が「これだけ書いておけば、何かあった時に十分だろう」ということを想定して書いているのだと思う。 何か、というのはズバり言ってしまえば、訴訟のような場合のことだ。

(つづく)


(注)

(*1) これは、後の回で紹介した「前ニ項」の方が圧倒的に面白かったかもしれない。

(*2) 「こだわりません」というセリフは、コミックアフタヌーンに連載中の「なげやり」に出てきたもの。


        COMPUTING AT CHAOS RUINS -274-
        1999-05-31 NIFTY SERVE FPROGORG mes(6)-268
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