川村渇真の「知性の泉」

悪い検討結果の発見にも利用できる


評価対象の検討結果を最初に整理する

 課題の検討を数工程に分ける方法は、他の人が検討した結果を評価するのにも使える。とくに、質の低い検討結果を発見するのに、大きな効果を発揮する。
 まず最初に、自分以外が作成した検討結果の評価方法を解説しよう。たいていの検討結果は、キチンとした手法を用いていないため、検討過程が整理された状態になっていない。検討の結論だけ、簡単に説明してあることが多い。もっと悪いと、検討の結論すら分かりにくい状態になっている。このように検討結果が良く整理されていない場合、そのままでは適切に評価するのが非常に難しい。
 仕方がないので、他人の検討結果を整理することが、評価の最初の作業となる。もっとも重要なのは、検討の結論である。どんな結論を導き出しているのか、提供された資料から読み取る。問題解決であれば、結論は選択した解決方法となる。
 整理するのが目的なので、結論に必要な項目を先に洗い出し、それらの項目の値を埋める手順となる。結論の種類が解決方法なら、以下のような項目が考えられる。

結論に含むべき項目の例(課題が問題解決の場合)
・人員構成:実施に関わる人員の構成と役割
・作業手順:解決方法の具体的な手順
  ・役割分担:役割ごとに担当作業を明記する
・日程と期間:実施に必要な日数と日程(準備も含む)
・必要スキル:特殊な役割の人材に求められる能力
・必要技術:実施に必要な技術
・必要機材:実施に必要な機材や道具
・必要コスト:実施にかかる全コスト
・期待効果:期待される効果(成功時の変化)
・成功条件:成功に必要な条件、成功率を高める条件
・成功判定基準:成功だと判断する基準(必要なら)
・成功率:期待される効果が得られる確率
・失敗時の対処:失敗したとき次にすべきこと

 以上の項目の中から、実際の課題に適してない項目を削除し、不足している項目を追加する。その後で、検討結果の資料を見ながら、各項目の値を埋めてみる。
 実際に試してみると、埋まらない項目が残るだろう。また、値を明確に記述できない項目も出てくる。こうした状況になるのは、検討の質が悪いためだ。そして、こうして整理した結果も、検討結果の評価として使える。埋まらない項目が多いほど、重要な項目が漏れているほど、内容があいまいなほど、対象となる検討結果の評価は悪いと判定する。通常、不明な点は質問することになるが、こうした質問が必要になること自体、検討結果のまとめ方が悪い証拠である。
 結論を整理したら、その内容を簡単に評価してみる。すべての項目を1つずつ評価し、明らかに悪い点だけを発見する。感覚的に記述していて中身がないとか、資金がかかりすぎて実行に移せないとか、難しすぎて実現が不可能といった、論外の内容をここではじく。こういった基本事項を満たしたものだけ、続く評価作業に移れる。
 結論の整理の次は、結論を導き出した過程の整理だ。しかし、たいていは工程を分けて検討していないので、そう簡単には整理できない。過程の整理はあきらめて、評価の準備に移った方が賢明だ。工程を分けて検討しているなら、その工程に合わせて、各工程ごとの検討内容を一覧表形式で整理する。

最初は簡易的な方法で評価する

 他人の検討結果を適切に評価するためには、良い検討と比べて、どこが違っているのか明らかにするのが一番だ。しかし、自分で検討をやり直したのでは、かなり大変な作業となる。そこで、大まかな検討の枠組みだけ用意し、それと比較して評価する方法を用いる。
 検討の枠組みの作成は、検討の工程分けから始める。自分が検討するとしたら、どのような工程に分けるのか考え、検討の工程を決める。工程分けでは、各工程の作成物も一緒に定めるので、工程と一緒に作成物も決まる。各工程の作成物の一覧表に関して、重要な項目だけ洗い出してみる。
 用意した工程の中から、課題の中身が明らかになるものを選ぶ。課題が問題解決であれば、問題点を洗い出す工程が該当する。課題が新商品の開発であれば、顧客の要望や不満を洗い出す工程だ。こうした工程に関して、自分で一覧表の中身を作ってみる。詳しく調べる必要はなく、主な事柄だけを集める程度で構わない。続けて、どれが重要かを明らかにするために、すべての事柄に重要度を設定する。簡易的な評価なので大まかな値で構わず、「☆◎○△×」といった記号で表現すればよい。これだけでも、課題の全体像が明らかになる。
 こうして得られた一覧表は、評価対象の検討の結論を評価するのに利用する。一覧表に含まれる事柄ごとに、検討の結論が有効かどうかを考える。かなり有効な事柄もあれば、ほとんど効果のない事柄もあるだろう。その判定結果を「完全、強、並、弱、無効」(それぞれ意味は、完全な効果がある、強い効果がある、まあまあの効果がある、効果は弱い、効果がない)のようなレベルに分け、一覧表に書き加える。
 事柄によっては、簡単に判断できないものも出てくる。そんなときは、その事柄に関してだけ、次の工程まで検討作業を進めてみる。課題の種類が問題解決なら、次の工程は原因なので、該当する問題点の原因を探る。原因が明らかになると、検討結論の効果の大きさを推測しやすいように、次の工程の事柄が分かると、結論の効果を適切に判定しやすい。
 すべての事柄での効果が明らかになったら、評価対象の検討結論の良し悪しが見えてくる。重要な項目で効果がなかったり、効果のある項目が少ないときは、良くない結論の可能性が高い。ただし、効果が大きいから必ず良いとは限らない。物事の検討では、最良の結論を導くことが大切なので、他の結論候補と比較して良し悪しを判断しなければならない。これが評価を難しくしている点である。実際、難しい課題の場合は、多くの事柄に効果のある結論を導き出せないこともある。
 そこで評価方法は、次の2段階で行う。第1段階では、検討結論の1項目である「期待される効果」の内容と、自分が導いた効果が一致しているか比べる。かなり違っているとすれば、検討が良くなかった可能性が高い。これが通ったら、第2段階に移る。課題の中身を示した問題点などの一覧表の中で、重要度の高い事柄を選び出す。その個々の事柄に対して、強い影響のある結論を導き出せるかを考える。その結果と検討結論を比べてみて、検討結論の方が明らかに劣っているなら、やはり検討が良くなかった可能性が高い。これらのように、良くなかった可能性が高い結果となったときは、評価者から検討者へ検討の見直しを求めた方がよい。もちろん、評価者が評価で作成した資料とともに。
 以上の方法は、かなり簡易的な評価方法だが、質の低い検討結果を発見するのにかなりの効果を発揮する。簡易的な方法だけに評価の作業量が少なく、質が低いと判明したときは、無駄な労力を使わなくて済むというメリットが生まれる。
 なお、当然のことだが、まったく知らない分野の課題に関して、他人が作成した検討結果を評価することなどできない。内容をかなり知っていることが、評価する前提条件となる。

より厳密な評価には、検討者による良い検討方法の採用が必須

 簡易的な評価方法にパスしたら、今度は本格的な評価方法に移る。検討結果が本当に適切なのか、詳しく調べる作業である。
 本格的な評価では、簡易的な方法と違って、検討の各工程でキチンとした一覧表を作らなければならない。そうしないと、重要な事柄を見逃したり、最適な結論を選んだのか確認できないからだ。
 ここで1つ、問題が生じる。検討者が工程を分けて検討せず、評価者だけが工程を分けて評価(実際には検討)した場合、どんな状態だといえるのだろうか。これは、検討者が適切に検討しなかったために、評価者が検討をやり直している状態である。極端に表現するなら、検討者のマトモな検討をしなかったので、評価者が代わりに検討したため、評価者の検討結果を評価する人がいない状態といえる。
 この点を理解するには、評価の意味を知らなければならない。適切な評価とは、検討者が検討を正しく行い、評価者がその結果を検査することで実現する。別の人間が同じ課題を考えることによって、検討内容の間違いを発見し、検討の質を確保しようという仕組みである。それなのに、検討者の代わりに評価者が検討したのでは、評価部分がスッポリ抜けたのに等しい。
 こういった点まで理解できると、検討者による検討内容がどのような条件を満たさなければならないが見えてくる。検討結果の中には、単なる結論だけでなく、検討の過程まで含める必要がある。それも、どうして結論にたどり着いたのか、論理的に説明できるレベルでだ。それがあって初めて、検討者の作業が適切だったか、評価者が検査できるようになる。
 検討の過程まで明らかにするには、途中の状態を作成物として残す必要がある。そのためには、検討作業を複数の工程に分ける方法が有効だ。工程分け以外の方法を用いるにしても、同じレベルの中間作成物を残せなければならない。
 現実的な対応として、無駄な検討や評価を減らすためには、簡易的な評価で悪いと判断された場合、複数の工程に分けた検討方法を強制した方がよい。難しい課題において、こうした方法を用いないで検討した結果は、検討の質がどうしても低下してしまう。おそらく、検討の天才でもない限り、こうした方法を用いないで検討の質を確保するのは、まず無理だろう。実際、世の中にある難しい課題の検討結果は、質の低いものがほとんどだ(現実社会の多くの課題では、検討した内容を実施してみて、結果が悪いと再び検討して改良する。こうした繰り返しによって、遠回りしながら良い方向を目指している。つまり、検討の質の悪さを、試行錯誤でカバーしているわけだ。当然ながら、この方法だと、いつまでも改善されずに悪化し続ける課題もあるし、試行錯誤の過程で余計な損害を受ける人もいる)。
 工程分けのような形で検討結果が得られると、評価者が新たに検討内容を作る必要はない。検討者から得た検討内容が適切かどうか、細部まで検査するだけだ。大切な事柄の漏れ、重要度の判定の適切さ、工程間の作成物の整合性などを、1つずつ確認すればよい。おかげで、検討結果の評価が適切かつ効率的に行える。

良い検討方法を採用することが先

 検討結果の評価は、どんな課題でも実施するわけではない。難しくて重要な課題が対象だ。また、絶対に失敗できない課題も、深く評価することで、失敗の原因を事前に発見できる。それ以外の課題に関しては、簡単でない課題に対してだけ、簡易的な評価を行えばよいだろう。
 以上は、検討が適切に実施される前提での話だ。現状のように、良い検討方法など採用せずに検討し続けている状況では、適切な検討結果が得られているのか非常に怪しい。このレベルだと簡易的な評価方法でも、悪い検討結果を容易に数多く発見できる。
 しかし、簡易的な評価方法を実施する前に、やるべきことがある。良い検討方法の採用だ。検討の質が格段に向上するだけでなく、検討結果を評価できる人材も増やせる。最初のある程度の期間は、強制してでも良い検討方法を使わせた方がよい。
 良い検討方法に慣れると、検討という作業に対する意識が大きく変わる。何となく考えたり決めるのではなく、細部まで論理的に考察して、最良の結論を導き出そうとする。この点は、課題が何であれ、非常に大切なことだ。
 良い検討方法を習得できたら、世の中に出回っている様々な検討結果を評価してみるとよい。本人たちは深く検討しているつもりかも知れないが、感覚だけで決めている内容が多いことに気付くだろう。とくに課題が難しい場合は、適切に検討された結果と、そうでない結果の差は非常に大きい。このように、良い検討方法を評価に利用すれば、他人の検討結果の悪い部分が見えるようになる。難しくない課題でも、検討方法が悪いために、良くない検討結果を出している例が、意外に多いことにも気付くだろう。
 世の中にとって一番重大なのは、検討の質の低さに気付いてない点である。質の低い検討結果をそのまま実施すれば、期待される効果が小さくて当たり前だ。今後は、良い検討方法を身に付けた人に、検討結果の評価を依頼してみて、質の低さを認識すべきだ。それが理解できたら、良い検討方法を習得しようと思うだろう。

(2001年2月3日)


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