川村渇真の「知性の泉」

課題が簡単な場合の手抜き方法


テキストエディタでも使える簡易版の検討方法

 検討する課題の中には、比較的簡単な題材もある。そんなレベルの課題まで大がかりな内容把握一覧表を作ったのでは、作業量が増えて大変。かといって、頭の中でだけ検討すると漏れや間違いが生じやすく、検討の質がどうしても低下してしまう。何かに書いたり入力しながら作業することは、検討内容を整理する効果があるので絶対に欠かせない。もっと簡単に済ませられる方法が必要だ。
 余計な手間をかけずに検討する方法の1つに、箇条書きの利用がある。本格的な表を作る代わりに、テキストのみの箇条書きで済ませようというわけだ。テキストしか用いないので、テキストエディタだけで実現できるメリットも生まれる。つまり、ほとんどの情報機器で可能な方法といえる。
 テキストだけしか用いないといっても、検討の手順を省略するわけではない。大まかな手順は通常の検討と同じに保ったまま、検討の深さを浅くすることで、全体の作業量を減らす。そのため、検討の質の低下が最小限で済む。具体的には、以下のような流れになる。

箇条書きを用いた検討の流れ(基本的に通常の検討と同じ)
・最終的に得たい結論の形式を規定する
・検討の流れとなる作業工程を選ぶ(工程数は最小限に)
・上記の全工程を見出しにした、テキスト書類を用意する
・最初の工程から順番に、内容把握一覧表を箇条書きで作る
  ・1つの事柄は、箇条書きの1行にする
  ・工程間の関連も、箇条書きの中に含める
  ・重要な情報は、メモとして少し後ろに記述する
・必要に応じ、一覧表の中身や工程間の関係を見直す

 見て分かるように、作業工程を最小限しか選ばない点と、内容把握一覧表を箇条書きで作る点を除けば、通常の検討とほとんど同じだ。まさに、簡易版の検討方法となっている。

検討工程を決めて、テキスト書類に入力する

 簡易版の検討でも、結論の形式を最初に決める。次に、それを得るために必要な工程を求める。最小限の工程で十分なので、通常は3〜6個ぐらいの工程数になる。少し深くやりたい場合は、途中の工程を増やせばよいし、後から途中に追加しても構わない。
 選び出した工程は、課題の種類が問題解決なら、通常は「問題点の洗い出し、原因の究明、対処方法の候補の考案、対処方法の組み合わせの選び出し、最良の組み合わせの決定」となる。これをそのままテキスト書類として作成し、検討内容を入れる書類として用いる。
 少しでも作業しやすくなるように、工程の区切りを目立たせる。テキストしか使えないので、工程名の前に目立つ記号文字(「●」など)を入れる。また、工程であることを示す意味で、「工程:」という文字も加える。こうして作ると、課題が問題解決の場合は、次のような形式になる。

箇条書きを用いた検討で、最初に用意するテキスト書類の中身
■○○○の検討

●工程:問題点の洗い出し

●工程:原因の究明

●工程:対処方法の候補

●工程:対処方法の組み合わせ

●工程:最終評価

●検討の結論
・人員構成:(実施に関わる人員の構成と役割)
・作業手順:(解決方法の具体的な手順)
 −−−【中略】−−−
・失敗時の対処:(失敗したとき次にすべきこと)

 必要な工程を決めてからテキスト書類を作り始めるのではなく、テキスト書類を用意してから、書類上で入力を繰り返しながら試行錯誤し、必要な工程を求めても構わない。実際、工程がすぐに決まらない場合は、テキスト書類上で試行錯誤する方法のほうが適している。
 いろいろな検討を繰り返すなら、工程名が入力していない(つまり「●工程:」だけ付けてある)テキスト書類を事前に用意し、それをコピーして検討作業を開始するとよい。少しだけだが、作成の手間は省ける。

用意した工程順に、箇条書きで内容把握一覧表を作る

 工程名を入れたテキスト書類が準備できたら、工程の並び順に従って、検討の中身である内容把握一覧表を作る作業に移る。この一覧表は、事柄を箇条書きの形でまとめ、1つの事柄を1行で入力する。
 工程名の次には、一覧表の見出し行を1行だけ入れる。箇条書きの各行に、どのような項目を入れるのか明らかにするためだ。一般的には、事柄IDまたは事柄略称、事柄名または事柄要約、特徴、重要度、その判断材料となる数個の項目、前工程との関係などを入れる。このうち必須項目は、事柄IDまたは事柄略称、事柄名または事柄要約、重要度、前工程との関係の4つだ。残りの項目は、課題の難しさと検討の深さに応じて加える。どの項目を追加するかは、工程ごとに違って構わない。
 各項目の間には「:」記号を入れ、項目の区切りを明確に示している。また、サンプルでは、項目の区切りがハッキリするように「・」記号を先頭に入れてあるが、不要だと思えば省いて構わない。
 テキストだけの表現なので、重要度が途中にあると目立ちにくい。そこで、重要度の項目だけは行の先頭に持ってきて、素早く見れるようにする。もともと簡易的な検討なので、重要度は「☆◎○△×」といった1文字の記号で表現して構わないだろう。
 一覧表の見出しが用意できたら、実際の事柄を、見出し行の次から入力する。見出し行にある項目の並び順に合わせて、値を入れるだけだ。このとき注意したいのは、一覧表が少しでも見やすいように、項目の位置を縦に揃えること。そうなるように、左側の項目の値は、文字数を統一した方がよい。重要度は、記号なら1文字、数字なら前ゼロを付けて文字数を同じにする。事柄IDまたは事柄略称も、3文字程度の決まった文字数の英数字か漢字で表現する。事柄名または事柄要約も、短い文字列のときは後ろに全角スペースを入れて、できるだけ文字数を一致させる。また、テキストが長くならないように短い言葉で表現する。当然だが、テキスト書類の表示には等幅フォントを用いる。
 前工程との関連の項目だけは、事柄の内容ではないので、括弧で囲んで一番後ろに付ける。この辺は好きずきなので、自分の好みで変えて構わない。以上のように考慮して作ると、テキスト書類は次のようになる(課題が問題解決の場合)。

一覧表を入力した状態のテキスト書類(先頭部分)
■検討:店頭での接客態度の大幅改善

●工程:問題点の洗い出し
・重要度:事柄ID:事柄要約:該当者割合
・○:A01:言葉使いが丁寧でない  :ごく一部
・◎:A02:購入商品の取り扱いが雑 :約20%
 −−−【中略】−−−
・☆:A23:商品説明が十分にできない:約50%

●工程:原因の究明
・重要度:事柄ID:事柄要約:特徴(関連)
・○:D01:丁寧な言葉遣いを知らない  :能力不足(A01)
・◎:D02:顧客に対する気遣いの少なさ :意識低さ(A02)
 −−−【中略】−−−
・☆:D17:商品知識等を深める努力が不足:意識低さ(A23)
  【以下は省略】

 事柄が多い検討では、整理するために事柄の分類が必要となる場合もある。そんなときは、重要度の次に「分類」項目を挿入すればよい。ここでも、項目が縦に揃うように、分類の値の文字数を全事柄で統一する。
 事柄の並び順を変えたいときは、行単位のカット&ペースト操作で行う。行単位の選択操作は簡単なので、さほど面倒ではないはずだ。操作ミスで大切なデータを失わないように、多重取り消しの機能を持ったエディタを使った方がよいだろう。
 サンプルのように、工程名の行の前に空白行を1行入れると、工程の区切りが明確になって見やすく整えられる。少しでも見やすくなるように、こういった工夫は積極的に採用したい。

重要な情報は、各一覧表の後ろにメモとして加える

 通常の検討作業では、内容把握一覧表に入れた事柄ごとに、中身の説明資料を作成する。しかし、簡易版の検討なので、そこまでする必要はない。それでも重要な情報だけは、メモ程度で構わないから記録しておきたいだろう。
 そこで、箇条書きの一覧表の後ろに、メモとして情報を残す。各工程の一覧表の後ろに入れるので、間に1行の空白行を挿入する。後は、1つのメモを1行で書き、箇条書きの形式で必要な行数だけ続ければよい。
 個々のメモがどの事柄に関係しているのかを示すために、メモ行の先頭には事柄IDまたは事柄略称を入れる。その後に区切り記号「:」を続け、メモの内容を記述する。特定の事柄に関係しないメモであれば、メモ行の先頭の事柄IDまたは事柄略称を付けない。
 以上のような形でメモを加えると、検討用のテキスト書類は次のような形になる(課題が問題解決の場合)。

重要な情報をメモとして加えた状態のテキスト書類(先頭部分)
■検討:店頭での接客態度の大幅改善

●工程:問題点の洗い出し
・重要度:事柄ID:事柄要約:該当者割合
・○:A01:言葉使いが丁寧でない  :ごく一部
・◎:A02:購入商品の取り扱いが雑 :約20%
 −−−【中略】−−−
・☆:A23:商品説明が十分にできない:約50%

・A02:購入を決めた時点で顧客の所有物という意識が大切
 −−−【中略】−−−
・A21:店員に話しかけてほしい顧客なのか判断するのは非常に難しい

●工程:原因の究明
・重要度:事柄ID:事柄要約:特徴(関連)
  【以下は省略】

 この方法の欠点は、各工程の一覧表の後ろに入れるので、前工程の一覧表と現工程の一覧表を比べながら見るとき、間にメモが入って邪魔な点。そのため、あまり多くの情報を入れるのには適さない。
 もし多くの情報を残しておきたいなら、別なテキスト書類を用意して、そちらに入力した方がよい。一緒に開いて並べながら作業すれば、それほど使いにくくはない。メモのテキスト書類も、工程名を目立つ記号とともに付け、工程の区切りを明確にして作成する。次のような形式で(課題が問題解決の場合)。

重要な情報を分けたテキスト書類(最初の工程だけ入力した状態)
■検討:店頭での接客態度の大幅改善(重要な情報のメモ)

●工程:問題点の洗い出し
・A02:購入を決めた時点で顧客の所有物という意識が大切
 −−−【中略】−−−
・A21:店員に話しかけてほしいか判断するのは非常に難しい

●工程:原因の究明

●工程:対処方法の候補

●工程:対処方法の組み合わせ

●工程:最終評価
 

 一番最初に用意した、検討用のテキスト書類と同じ形式なので、それをコピーして用いればよい。なお、必要に応じて合体した状態に戻せるように、メモ専用のテキスト書類に分けた場合も、同じ形式でメモ行を作成する。

難しい課題が対象でも、概略の検討方法として使える

 以上のような簡易版の検討方法は、難しい課題の検討でも使える。大変な課題であっても、最初に大まかな検討をすることは多いので、その段階にだけ箇条書きの一覧表を用いるのだ。こうすると、最小限の手間で大まかな検討ができる。
 実際、課題が難しいかどうかは、検討を始めてから判明することもある。最初に簡易検討方法で始め、難しい課題だと分かったら、その時点で正式な方法に移ればよい。この始め方だと、課題の難しさに関係なく、同じ方法で開始できる。
 本格的な検討に移行すべきだと判断したら、できるだけ素早く切り替えた方がよい。それまで作った箇条書きの内容を、正式な書類の形に直す必要があるので、作成量が増えてない状態の方が、移行の手間は少なくて済むからだ。
 本格的な検討に移行する際には、せっかく作った箇条書きの一覧表を有効に生かしたい。テキスト書類なので、データをコピーするのは簡単である。もし正式な一覧表を表計算ソフトで作るなら、後の手間を大きく減らせる工夫が可能だ。箇条書きの項目の区切り文字「:」をタブ文字に一括変換してから、表計算ソフトに読み込ませると、各項目の値が別々のセルに入ってくれる。後は、セル単位でデータを移動し、見やすい形に整えればよい。区切り文字として「(」も使っているので、これもタブ文字に一括変換する。また、行の終端の「)」文字だけは、一括変換の機能で削除しよう。
 本格的な検討に移行したら、まず検討の工程を見直す。より細かい検討が必要なので、いくつかの工程を途中に挿入すべきかもしれない。工程をどれだけ細かく用意するかは、検討者の検討作業の慣れに関係するため、慣れてない検討者ほど追加する工程が増える。工程が確定したら、通常どおり作業を進めればよい。
 上記のような方法に慣れてしまうと、課題の難しさを最初に判断する必要がなくなる。とりあえず最初は簡易版の検討方法で始め、検討が難しいと分かった時点で本格版に移行するだけだ。テキスト書類に入力したデータが簡単に移行できる体制さえ整えば、すべての検討を簡易版で始めるのがベストとなる。

(2001年1月25日)


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