川村渇真の「知性の泉」

一覧表から削除した事柄も消さずに利用する


欠点が見付かった事柄は一覧表から早目に削除する

 複数の工程で検討作業を進めるとき、各工程で該当する事柄を洗い出す。洗い出した事柄の中には、キチンと評価した結果、大きな欠点が見付かったり、解消できない副作用が残ったりする。
 こうした事柄は検討する価値が低いため、各工程で作成する内容把握一覧表からは、早目に削除したほうがよい。検討する価値のある事柄だけを入れることで、一覧表が見やすくなって、検討の効率が向上する。
 一覧表から削除する基準だが、明らかに価値が低いと判断した事柄だけに限定する。対処する方法が見付からないほど大きな欠点があるとか、どうしても解消できない副作用があるとか、救うことが無理な事柄だけを削除する。こうした基準に従うと、本当にダメな事柄だけしか削除しない。
 ただし、例外もある。一覧表に含まれる項目数が、相当に多い場合だ。数が多いと検討作業が大変になるので、最後まで残る可能性が明らかにない事柄は、早目に削除したほうが効率的になる。具体的な例としては、遙かに優秀な事柄が別に存在し、相当なひいき目で見ても劣っている事柄だ。そうではなく、少し劣っているぐらいなら、削除の対象とはしない。

削除した事柄も一覧表の形で残しておく

 内容把握一覧表から削除した事柄は、できるだけ保存しておいた方がよい。削除した事柄でも、欠点の解消方法が後で見付かり、復活する可能性もあるからだ。また、削除した事柄と同じ内容が提案されたとき、保存しておいた資料を参照することで、再び検討するような無駄を省ける。
 削除した事柄の保存では、後で復活する際の手間が最小限で済むように、元の一覧表と同じ形式を採用する。含まれる項目だけでなく、項目の並び順まで同じにしておく。削除する事柄が複数の場合も多いので、こちらも一覧表の形式になる。縦軸である事柄の並び順も、元の一覧表に合わせる。事柄の分類を項目に含めてあれば、それもそのまま残す。当然だが、元の一覧表を工程ごとに作るので、削除した事柄の一覧表も工程ごとに用意する。
 ただし、削除した事柄では、追加しなければならない項目がある。「事柄の評価結果」と「削除した理由」だ。削除するからには何らかの理由があり、それを記録として残すことで、どうして削除したのか後で説明できるようにしておく。

削除した事柄に含むべき項目
・[元の内容把握一覧表と同じ項目](項目の並び順も同じに)
・事柄の評価結果(評価記号に加え、短い説明も付ける)
・削除した理由(通常は簡単で構わない)

 「事柄の評価結果」には「評価記号」と「評価説明」を含め、「評価説明」には短い文を入れる。「削除した理由」は、通常なら簡単な文で説明するが、理由が複雑な場合は説明を長めにする。なぜ削除したのか、後で読んだとき納得できる説明に仕上げることが重要だ。当たり前だが、元の一覧表の項目に「評価記号」か「評価説明」が含まれている場合は、さらに追加する必要はない。

検討の報告書では補足資料として付ける

 検討結果を報告書の形で提出する場合、削除した事柄も含めるのが賢い方法となる。削除した事柄まで見せることで、工程ごとにどの範囲まで検討したのか、明確に伝わるためだ。
 重要でない事柄を削除した内容把握一覧表だけだと、それを読んだ人は、自分が思い付いた事柄が含まれてないとき、検討に抜けがあるのではないかと考える。思い付いた事柄に重大な欠点があっても、その人が欠点に気付かないとき、そう考えやすい。ところが、削除した事柄の一覧表が付いていて、その評価結果や削除理由まで説明してあると、検討の範囲に入っていたことが確認できるだけでなく、事柄の欠点にも気付く。
 こうした特徴は、第三者によるレビューで大きな効果を発揮する。レビューの際には、検討した範囲が適切か、検討に漏れないかを確認する。削除した事柄まで記述してあれば、検討範囲の適切さや漏れの有無を確かめられる。また、事柄の評価や削除理由まであるため、途中で削除した判断が適切だったのかまでレビューできる。レビューの質が向上するわけだ。
 反対に、削除した事柄に関して何も書いてないと、レビュー担当者が報告者に質問しなければならない。こんな行為は、レビュー担当者もちろん、報告者にも余分な手間をかけるため、両者にとって非効率的だ。作業効率の面から考えても、削除した事柄の記述には価値がある。
 削除した事柄を報告書に含める場合は、取り上げ方にも注意したい。報告書の本文に入れると、各工程での一覧表で事柄の数が増えるために、内容の理解しやすさが低下する。また、一覧表に載せた以上、本文で説明する必要があり、余計な説明が加わることになる。
 こうした欠点を生じさせないように、報告書の本体ではなく、補足資料として最後に付ける。削除した事柄の一覧表は工程ごとになるので、工程の並び順に合わせて並べる。また、一覧表を見づらくしないために、「事柄の評価結果」と「削除理由」の項目は簡単な言葉で表現し、詳しい説明は文章として別に付ける。その説明文は、一覧表と同じページに載せるとよい。
 とくに詳しく説明する必要があるのは、人によって意見が異なりそうな事柄だ。なぜ評価が低いのか、なぜ削除したのかを、論理的かつ丁寧に説明しておく。そうすれば、余計な質問などに回答しなくて済む。

一覧表の事柄以外にも同じ考え方を適用可能

 以上の話は、内容把握一覧表に入れる事柄の削除を対象としている。しかし、検討作業で取り扱う別な要素にも、同じ考え方を適用できる。
 たとえば、採用されなかった評価方法。対処方法に適用する評価方法の候補がいくつかある場合、それらを評価して最良のものを選択する。その過程も評価作業の一部ではあるが、評価作業全体から見て重要でない場合は、報告書の本文内で詳しく説明しない。しかし、正式なレビューを受ける報告書では、評価方法の選択過程も説明した方がよい。
 それを入れる場所だが、検討内容を邪魔したくない場合は、報告書の最後が適する。補足資料として入れ、評価方法ごとの特徴、評価項目ごとの評価結果などを一覧表の形でまとめる。選択した過程や理由などを説明文として加えれば、評価方法の選択過程が詳しく伝えられる。
 評価方法の他にも、検討課題の種類によって、いろいろ考えられる。何かを測定するのであれば、測定方法、測定装置、測定場所、測定時期、測定担当者など、それらを選択した過程や理由まで含めて、詳しく説明できる。検討を開始した時期に、どの要素へ適用できるのか、考えてみるとよいだろう。
 どんな要素が対象であっても、選択しなかった内容が、削除した事柄に相当する。選択しなかった内容まで取り上げることで、どの範囲まで検討したのか明確に伝わる。その結果、重要な比較対象を検討したか、それが検討から漏れているのかが判明する。また、どのように評価してどちらを選んだのかも伝わり、より適切にレビューできる形に報告書が仕上がる。
 つまり、選択しなかった内容まで含める書き方は「どの範囲まで検討したのか、どんな評価結果になったのか、どれを選んだのか」を伝える役目も持っている。それによって、検討した内容をより詳しく伝える効果が得られる。

レベルの低い反論を防止する目的にも使える

 削除したり採用しなかった要素まで書き残す方法は、もっと別な目的にも役立つ。その代表例は、レベルの低い反論の防止だ。
 世の中を見渡すと、適切に検討する方法を教えられてない状況のため、論理的な思考を苦手とする人が数多くいる。そんな人は、レベルの低い指摘で反論を展開しがちだ。こうした反論のうち、あらかじめ予想できる分に関しては、最初から対処しておくのが賢い方法である。
 指摘されそうな内容を各工程の事柄として取り上げ、適切に評価した上で、削除した一覧表に含める。加えて、評価結果と削除理由を、他の事柄よりも論理的かつ丁寧に説明しておく。こうして取り上げておくと、レベルの低い反論がかなり出しにくくなり、レベルの低い言い争い(論争と呼ぶレベルに達っしてないため、言い争いと表現)を効果的に防止できる。
 反論への対処が報告書の中に組み込まれている効果は、意外に大きい。もし報告書に含まれていないと、反論を聞いた人が、反論のレベルが低くても信じることもある。信じた人が、反論への反論を入手できないままだと、反論を信じた状態がずっと続く。たとえ関連する情報でも、分離された形で提供していると、すべて入手できるとは限らないからだ。ところが、報告書の中に組み込まれていれば、反論を聞いたとしても、それが正しくないと判断できやすい。関係する情報を一緒に配布できるため、レベルの低い反論への対処効果が大きくなる。
 どの部分にどんな反論が出そうかは、事前の調査によって、ある程度まで予想可能だ。検討の対象となった課題に関し、代表的な意見を調べてみる。現在はインターネットの検索サイトが使えるので、たいていの分野では、昔のように多くの労力が必要ない。より容易に調べられるので、あきらめなくて済む。
 得られた意見のうち、論理的に評価してレベルの低い意見を集めてみる。その中で、詳しくない人がだまされやすかったり、安易に賛成しやすい意見を選ぶ。これらへの論理的な反論を導き出し、検討工程の事柄の中から、もっとも該当する箇所を選ぶ。後は、該当する箇所に適した要素を洗い出すだけだ。
 自分の検討内容がマトモであれば(そうなるように、複数の工程に分けて検討しているのだから)、レベルの低い反論への対処は簡単なはず。論理的に思考するだけで、特別な苦労をしなくても、反論を防止する要素が組み込めるだろう。それが導き出せない場合は、検討内容の一部が間違っていたり、大事な要素が漏れている可能性もある。もし該当するなら、検討中の内容を見直した方がよい。

(2001年5月10日)


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