川村渇真の「知性の泉」

必須の注意事項を守り、要所要所で検査する


3つの注意事項を守って、検討の質を確保する

 工程分割や各工程での作成物を規定できたら、工程の流れに沿って検討作業を進める。このとき、課題のことだけ深く考えていればよい、というものではない。検討の質を高めるためには、工程分割や内容把握一覧表を用いた理由を深く理解し、それを最大限に活用するように作業する必要がある。
 そうしたことは、検討の質を高めるための注意事項として整理することができる。その全部を一気に使いこなすのは無理なので、最初のうちは、もっとも重要な注意事項を守ることに専念した方がよい。それは以下の3項目で、どんな検討でも必須の注意事項として位置づけられ、どれも工程分割や内容把握一覧表を利用する。

検討の質を高めるための3つの注意事項(どんな検討でも必須)
・重要な事柄の漏れを限界まで減らす
・重要な事柄に重点を置いて検討する
・主要な部分で論理性や整合性を確保する

 以上の3項目は、検討や思考の質を確保するための基本的な要素でもある。一般に「論理的な思考」と表現するが、実際には「論理的」だけでは不十分である。まず、もっとも重要な事柄が抜けていたら、述べている内容が論理的に完璧であっても、質の高い検討とは評価されない。重要な事柄が漏れていないように、検討の要所要所で確認する必要がある。また、影響度の大きな事柄を見極めることも大切だ。重要でない小さな事柄に惑わされないように、影響度が大きい事柄に重点を置いて検討する。さらに、検討全体での論理性を確保しなければならない。細かな部分が論理的であることも大事だが、検討全体の論理性を重視しないと、検討の適切さは確保しにくい。現実に行われている多くの検討を分析すると、全体での論理性は見落としがちだからだ。
 以上のように、「質の高い検討」(=質の高い論理的な思考)とは、「とくに全体での論理性を確保し、いろいろな検討要素に漏れがなく、重要度を適切に判断して検討すること」といえる。こうした条件が満たされるように、工程分割や内容把握一覧表を利用して、上記の3つの注意項目を守らなければならない。というわけで、3つの注意事項を順番に解説しよう。

注意事項1:重要な事柄の漏れを限界まで減らす

 3つの注意事項の中で、もっとも守るのが難しいのが、各部での重要な事柄の漏れである。課題の種類が問題解決なら、重大な問題点を見落とした、有効な対処方法が漏れていた、対処方法のベストな組み合わせを見付けられなかった、最良の評価方法を選べなかったなど、いろいろな箇所での漏れが考えられる。
 漏れの防止が難しいのは、組み合わせのような一部の例外を除き、“論理的な検査では発見できない”からだ。たとえば、地球環境保護の視点がまったくない公共事業の企画書で、企画書の全内容が論理的に完璧であったとする。地球環境保護の視点に気付かないと、企画書の悪い点を指摘できない。地球環境保護のような大切な視点に気付くかどうかが、漏れ発見の分かれ目となる。
 漏れに気付くためには、“課題の内容に関して、幅広い視野を持ちながら詳しくなる”しかない。もし検討者だけの努力では難しいなら、外部の詳しい専門家に助けを求める。重要な注意点をまとめて教えてもらったり、検討内容を評価してもらおう。現実には、専門家の話を理解する意味でも、ある程度までは検討者が勉強しなければならない。
 自分で勉強するにしても、外部の専門家に助言を受けるにしても、検討の全内容を対象として細かく調べるのは非常に辛い。本当に重大な箇所に絞って、漏れがないか調べるのが現実的な対応となる。該当するのは、各工程での作成物だ。これで重大な漏れがないよう、重点的に調べる。とくに前側の工程の方が、後から見付かった場合の影響度が大きいので、集中して調べた方がよい。
 漏れの発見には、内容把握一覧表が役立つ。洗い出した全部の事柄を含むので、足りない事柄があれば気付く。自分で気付くためには、複数の分類を活用し、様々な視点で発見できるようにする。また、専門家に助言を求める場合でも、内容把握一覧表を見せることで、漏れている事柄を素早く見付けられる。
 非常に重要な事柄が漏れていると、検討自体の質を極端に低下させる。だからこそ、漏れの発見にはかなり力を入れるべきだ。
 ごく一部にだが、漏れを発見する工夫が可能な状況もある。たとえば、同じ分野の商品を何度も開発するなら、見逃しそうな考慮事項をチェックリストの形で用意する。その中に「一般消費者向け商品なら、乳幼児による誤った飲み込み防止すること」と入れておけば、商品開発で考慮し忘れることが防げるし、開発した製品の検査でも対応し忘れを発見できる。このようなチェックリストを必要に応じて更新し続ければ、重要な考慮点の漏れは起こりにくい。

注意事項2:重要な事柄に重点を置いて検討する

 レベルの低い検討に起こりがちなのは、「〜の可能性もある」という意見に引っ張られて、あまり重要でない事柄を重視し、検討結果に強く反映させてしまう失敗。可能性の有無だけで判断するのではなく、起こる確率や影響の大きさなどを総合的に判断して、より影響度の大きな事柄を重視して判断しなければならない。
 重要度というのは、基本的に相対的な値なので、1つの事柄だけで検討しても意味がない。複数の事柄で比べ、どちらが重要か判定する形で用いる。そのためにも、洗い出した全部の事柄に対して、重要度を明らかにする必要がある。
 一般的に重要度は、起こる確率が高いほど、影響する範囲が広いほど、影響の度合いが大きいほど、影響する期間が長いほど、高いと判断する。世間などの評判が重要な課題であれば、世間へのインパクトの大きさなども考慮する。これらを総合的に評価し、全事柄での最終的な重要度を求める。
 重要度の値は、数値化して比較するのが望ましい。それが難しいなら、「☆◎○△×」や「+−」といった記号の組み合わせで表す。「☆◎○△×」は基本となる段階分けで、「+−」を加えて細かな差を意味する。「◎」や「○」に加え、「◎−」や「○+」も用いるわけだ。記号を用いる場合は、各記号の位置付けを明確にしなければならない。各記号に割り当てた段階の内容を、客観的に区分けできるような表現の文章で説明し、誤った記号付けを少しでも防ぐ。
 数値化でも記号化でも、いろいろな要素を考慮する必要があるので、重要度の求め方は難しい。判定ミスを少しでも減らすためには、総合的な重要度を決める前に、考慮すべき項目の値を参考値として明らかにする。こうした参考値を全体的に比べられるように、一覧表に集めて整理すべきだ。それを見ながら総合的な重要度を判定すれば、より適切な判断が可能になる。
 数値化は、最終的な重要度以外にも用いる。参考値の1つとして、数値化した項目を用意し、重要度の判定材料に利用する。たとえば、「Σ((影響の程度)×(該当人数、または該当地区の広さ)×(影響期間))」の式で、総合的な影響の大きさを計算すると、かなり客観的な形で影響の大きさを求められる。この値を重視するとともに、他の要素の参考値も加味して、総合的な重要度を決定すればよい。
 各工程での重要度は、後ろの工程に反映させる。重要度の低い問題点なら、それに関する対処方法を解決案の組み合わせに含めない、といった具合にだ。たいていの課題では、資金や期間といった資源に限界があるため、すべての対処方法を実施できるわけではない。重要なものを優先して組み合わせ、最適な結論を選ばなければならない。その選択に、各工程での重要度を利用する。
 重要度の値は非常に重要なので、その決め方は、可能な限り客観的でなければならない。検討者の個人的な好みで判断できるようでは、あまりにも不適切過ぎる。検討内容に詳しい人なら、誰が判断しても似たような結果となるように、決め方を規定する必要がある。その意味でも、数値を利用した方法が望ましい。また、後から第三者がレビューできるように、決め方の内容も記録に残す。
 重要度の比較には、内容把握一覧表を用いる。横軸の項目に重要度を入れ、全部の事柄で比較できるようにする。総合的な重要度だけでなく、参考値も含める。こうした一覧表を利用することで、強制的に全事柄で比較する状況を作っている。

注意事項3:主要な部分で論理性や整合性を確保する

 適切な検討には、論理的な思考や判断が欠かせない。さらに、検討者本人が「論理的に検討した」と主張するだけでは不十分で、第三者が論理性や整合性を確認できる必要もある。
 検討した内容が論理的かどうか、全部の箇所を調べるのが理想だ。しかし検討者自身が検査する際の手間を考えると、間違った場合に影響が大きい箇所に、重点を置くのが現実的となる。該当するのは、工程間の作成物の整合性と、作成物に含まれる重要な事柄内の論理性だ。
 工程間の整合性は、作成物間の関係と重要度の反映という2つの視点から検査する。作成物間の関係なら、たとえば、問題点と対処方法の関係では、対処方法が該当する問題点の解消に効果があるのか、一覧表の事柄を1つずつ調べる。同時に、効果の大きさも正しいのか確認する。また、N対Nの関係があるので、関係する別な事柄が適切かも確かめる。
 重要度の反映の検査では、重要度が高い事柄を、後工程で見逃していないか調べる。逆に、重要度が低く設定されているのに、高い項目と同じように後工程で扱ったりしていないも見る。工程間の整合性なので、重要度の高い事柄が、後工程で高く取り上げられているのを確認するのが主な検査内容となる。
 重要な事柄内の論理性は、各工程の作成物で取り上げた事柄に関し、その内容が論理的に正しいのか検査する。事柄の数が多い場合、時間を節約するために、重要度の高い事柄だけを調べるわけだ(余裕があれば全部を検査しても構わない)。こうするのは、重要でない項目は検討の結論に対する影響力が低いので、少しぐらい間違っていても大きな問題に発展しないという考え方から来ている。しかし、重要度の判断も同時に間違うと大変なので、第三者がレビューする場合は、全事柄の説明資料を検査しなければならない。
 事柄の詳しい説明は、それぞれの説明資料に書かれている。それを読んで内容が正しいか検査するのだが、内容が少しでも複雑になると、理解するのが難しくなる。そのため、文章による説明だけでなく、論理の構造を図で表現した方がよい。それがあれば、論理性を効率的に検査できる。また、論理的におかしい内容を含めるのが難しくなる。
 このように重点を絞って検査すれば、重要な部分の論理性や整合性を確保でき、検討の質を低下させにくい。

注意事項の検査は各工程の終わりに実施

 以上のような3つの注意事項は、検討者が検討内容を途中で見直すために有効である。ただし、注意事項を常に意識していたのでは、課題の検討に集中しづらい。そこで、検査すべき時期を事前に決め、普段は課題の内容に集中する形にする。
 漏れを検査するタイミングは、各工程で内容把握一覧表と事柄説明資料を作り終わった時点だ。その工程の作成物だけでなく、1つ前の工程の作成物も一緒に調べる。作り終わった時点を選ぶのは、作成した内容に関して一番詳しい時期だからだ。
 重要度を検査する時期も、各工程で内容把握一覧表と事柄説明資料を作り終わった時点となる。ここでも、1つ前の工程の作成物を一緒に調べる。この検査時期を選ぶ理由も、漏れの検査と同じである。
 論理性と整合性の検査の時期も、同じにしてしまう。そうすれば、3つの検査をまとめて行えるので、検討を中断する回数が減らせる。ただし、3つの検査は視点が別なので、1つずつ順番に実施しなければならない。
 検査で間違いを発見したら、早急に反映させることが大切だ。とくに前工程で重大な漏れを見付けたら、該当する一覧表を修正して、後の工程の全内容を見直す。こうした検査以外でも、重要な漏れや間違いに気付くことがある。その場合も同様で、その時点の作業をいったん中断して、該当する工程の作成物を修正しなければならない。ほとんど工程は、前にある工程の影響を受けるので、前の方を優先して直すのが当然だからだ。
 最終工程が終わった時点でも検査は必要である。3つの注意事項に関し、もう一度だけ全体を見直す。最終確認の意味が強く、そこで間違いを見付ける可能性は非常に少ない。しかし、3つの注意事項の検査内容は、もっとも重要な検査と等しいため、念のために検査する価値は高い。
 途中で間違いに気付くと、該当する個所から作業をやり直すことになるので、用意した工程が一気に終わることは少ない。しかし、このような途中での検査によって、検討内容の間違いを修正できる。その分だけ検討の質を上げられるので、検討者自身にとって検査は必須だ。

 以上は、検討の質を確保するための、極めて基本的な注意事項と検査方法である。これ以外にも、検討の質を高めるための注意事項がいくつもある。それに関しては、別な機会に紹介するとしよう。

(2001年1月7日)


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