川村渇真の「知性の泉」

目的から結論までの作業を複数工程に分割する


作業を複数工程に分割して、検討の道筋を決める

 目的が決まって、結論の形式を規定し終わったら、検討の最初と最後を求めたことになる。通常、目的から結論まで一気に求めることは大変だ。そこで、検討過程を数個の工程に分割し、順番に作業する方式を採用する。
 分割するメリットは、いくつかある。まず、各工程の作業内容が絞り込まれることで、個々の検討作業が容易になる。その分だけ検討の質が向上しやすいし、間違いも犯しにくい。
 さらに重要なメリットは、検討した結果をレビューしやすいことだ。工程ごとに検討の記録を残すと、検討作業における途中の状態も分かる。それを調べることで、検討のどの部分がどのように悪いのか、逆に全部が適切だったのか、より評価しやすくなる。もちろん、検討者自身も自分で評価しやすくなるので、検討の質を向上させやすい。
 こういった狙いがあるので、分割した各工程では、単に何かを検討するだけではなく、検討した結果を具体的な形で残さなければならない。1つの工程では、最低でも1つの作成物を仕上げ、検討した内容が目に見える形で残るようにする。これが工程分割の大原則だ。
 分割した工程の流れは、検討の流れでもある。それを早目に決めるので、検討の道筋を最初に決定することになり、誤った道へ進むのを防げる。しかし、分割の仕方が悪いと、検討の質が確保できない。慣れないうちは、検討の流れを詳しい人にレビューしてもらった方がよい。このように、検討の流れを工程という形で決めることで、検討の流れ自体もレビュー可能になるわけだ。
 実際には、検討の流れは一般的な思考の流れと同じなので、突飛な流れになることはまずない。また、検討の流れは、あくまで検討の大まかな手順でしかないので、検討の中身の細かな部分にまで制約を与える力はない。もし検討の流れが適切でないと気付いたら、途中でも工程を再設計すればよいだけだ。
 複数の工程に分割する一番の狙いは、検討の途中状態を記録することにある。そのおかげで、検討の担当者は、後からの確認や検討し直しが容易になるし、第三者による後からのレビューも可能になる。また、流れを先に決めてしまうことで、課題に集中させる効果もある。

途中で必要な作成物に合わせて複数工程に分ける

 検討作業を複数に分割する際、どのような基準で工程を求めたらよいのであろうか。注目すべきなのは、作業する内容ではなく、途中の作成物である。「どのような作成物を途中で作ったら、より間違えずに検討できるのか」を中心に考える。その結果で得られた作成物の数だけ、工程が追加されることになる。途中の作成物が5つ必要であれば、最後の結論を加えた6つが作成物の数なので、検討の工程も6つに分割する。
 途中の作成物がいくつ必要かは、レビューのしやすさを考慮して決める。隣り合った工程では、作成物間の整合性を検査する必要がある。ある工程の作成物が、前の工程の作成物から見て適切であるか検査できないときは、間に何かが不足しているので、それを埋めるための作成物を途中に挿入する。このように全体の流れを見直し、隣り合った作成物間の全部で整合性が検査できる状態になったら(一部に例外はあるが、ここでは省略)、検討の流れが求まったといえる。
 途中の作成物がいくつ必要かは、検討者の慣れにも関係する。たとえば、問題点を洗い出す工程では、作成物は問題点の一覧表になる。これを一気に作れるなら、1つの工程で十分だ。しかし、検討に慣れていない人なら、調べるべき箇所の一覧を作ったり、一覧の各事ごとに調べ方をまとめたりと、作業をより細かく分割したほうがよい。こうした途中の細かな作成物もキチンと作るために、それ用の工程を間に追加する。
 また、検討に慣れている人でも、課題となる分野に詳しくない場合は、失敗を少しでも防ぐために、細かな作成物を途中に加えて構わない。大切なのは、検討の質が少しでも良くなるように配慮することだ。

検討の流れが常に一直線とは限らない

 検討の流れでは、一番最後が必ず結論で終わり、結論の形式で定めたものを作る。しかし、全体の流れが常に一直線になるとは限らない。たとえば、課題の種類が現状改善で、既存の問題点を解決するとともに、理想の状態へ1歩でも近づくようにしたいときだ。
 この場合、「問題点」と「理想状態の条件」の2つが出発点になり、それぞれ別々の工程で作成物を作る。「問題点」工程の次には「対処方法」工程が続き、「理想状態の条件」工程の次には「理想と現実の差」工程が、さらに「差の改善方法」工程が続く。その後の「修正案」工程で一緒になり、そこでは「対処方法」と「差の改善方法」を組み合わせた数種類の改善案を、最終的な修正方法の候補として作る。このように途中で一緒になって、最後は1つのまとまる。後は「修正案の評価」、「最終的な修正方法(=検討の結論)」と続き、検討の終わりに達する。
 この例を、一直線の流れに変更することも可能だ。「問題点」は「理想と現実の差」の一種と捉えることもできるので、そこに混ぜて取り扱うと、全体の流れは一直線になる。分けるか一緒にするかは、検討のしやすさを重視して判断する。分けて別々に考えた方が適切に検討できると思えば分けるし、一緒の方が良いと判断すれば一緒にする。重要なのは「より適切に検討できるのはどちらか」という点だけである。
 以上のようにして、途中で残すべき作成物を重視しながら、検討の流れとなる工程を求める。続けて、各工程の作成物の形式を定め、できるだけ良い形の作成物が作れるようにする。たいていは、作成物として内容把握一覧と事柄説明資料を採用し、具体的な項目を工程ごとに決めればよい。

必要に応じて付加的な工程を加える

 ここまでは、中心となる検討の流れに関わる工程を説明してきた。それ以外の工程が必要な場合もあり、中心となる流れを作り終わってから追加する。その代表的な例を紹介しよう。
 解決方法などの候補は、複数を用意した中から最適なものを選ぶ。そのためには、何らかの基準を用意して、すべての候補を評価しなければならない。その評価方法が事前に定まっていないなら、検討作業の中で決める必要があり、独立した工程として追加する。当然ながら、作成物は評価方法となる。評価方法の作成が難しいのなら、工程を複数に分割し、評価目的、評価基準、評価方法の順に作る。適切な評価方法を得るためには、評価対象を(作り終わる前ではなく)作り始める前に評価方法を決めた方がよいので、評価方法の工程はかなり前に持ってくる。
 別な例は、難しい技術を評価する場合だ。対処方法で採用する技術の評価が大変なときは、それを独立した工程に分け、評価結果も独立した作成物として作る。検討の流れから見た位置付けとしては、「対処方法」工程に含まれる子供の工程となる。
 検討の一部を外部に依頼する場合も、独立した工程に分けた方がよい。ただし、単に1つの工程を追加するのは好ましくない。外部から受け取った結果を、内部で評価する必要があるので、その工程も後ろに追加する。すると、外部に依頼する工程の作成物は、受け取った資料になり、その評価結果が次の工程の作成物となる。外部に依頼する作成物も、最初の段階で形式を規定し、それに従って作ってもらった方がよい。さらに、途中段階の作成物も提出してもらい、必要ならそれも事前に規定する。規定した形式が良いほど、キチンとした資料を受け取れるからだ。
 これら以外でも、追加した方がよい作業が見付かったら、独立した工程として加える。何度も繰り返すが、工程での作成物を明確にし、その形式まで規定しなければならない。

 ここまで終わると、検討の大枠が定まったことになる。あとは、工程に従って検討を進め、決められた作成物を作っていくだけだ。検討の流れと作成物の形式が決まっているので、余計なことを考えなくて済む。良い検討結果が得られるように、課題に集中すればよい。

(2001年1月5日)


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