川村渇真の「知性の泉」

結論の形式を検討作業の最初に規定する


結論の形式を決めれば、検討の目標として役立つ

 どんな課題の検討でも、目的に合った何らかの結論を導き出すと終わりになる。そして、最終的な結論の質が高くなければ、良い検討だったとはいえない。では、質の高い結論を導くために必要なことは何だろうか。その“基礎的な”条件の1つに、結論の形式を明確化することが挙げられる。
 ここで言う結論の形式とは、検討の結果として最終的に得たい成果物を指す。問題の解決が目的であれば、期待される成果物(=結論)は解決方法であり、結論の形式は解決方法の形式を意味する。解決方法をどんな形式で規定するのかが、結論の形式となる。また、新しい商品の検討が目的であれば、期待される成果物は新商品のアイデアや規格で、結論の形式は新商品のアイデアや規格を規定する形式となる。つまり、結論の形式とは、少し堅苦しく表現するなら、結論をどんな形でまとめるかという仕様である。
 結論の形式は、検討の目標を規定する役目も持つ。目標の形式が明確であれば、それを得るために何をすればよいのか、ない場合よりも具体的に考えられる。目標を定めることはゴールを示すことと等しく、あまり関係のない部分の検討などが減り、検討の効率や質が向上する。
 目標が定まってない例として、数多くの電子会議室での対話がある。たいていの電子会議では、何らかのテーマを持ち、それに関して何人もの人が発言する。しかし、いつまで発言し続けても、まとまった成果物を得られないことがほとんどだ。最終的な結論の形式を明らかにしていないため、出た意見がそのまま消えてしまい、明確な形として残らない。また、同じ話題が何度も登場したり、あまり重要でない話題に集中したりする。結果として、単なるお喋りの場所となってしまいやすい(参加者は議論だと表明しているものの、実は最初からお喋りが目的かも知れないが)。
 これと同じことは、課題の検討にも当てはまる。最終的な結論の形式が明らかでないと、最終目標を失っている状態になり、検討の方向が定まらない。とくに複数の人が参加している検討では、横道にそれやすいし、あまり重要でない事柄に集中したり、議論が堂々巡りしやすい。
 こうした事態を防ぐために、結論の形式を一番最初に明らかにすることが“必須”となる。これは、検討の質を高めるための“基礎的な”条件であり、他の工夫が上位に続く。

結論の形式は、型と項目で規定する

 これほど重要な結論の形式だが、どのような内容を含んだらよいのだろうか。まず、どんな結論がほしいかという「結論の型」を決める。課題によって何でも考えられ、問題の解決方法、新商品のアイデアや規格が該当する。他に、組織構成、法律、ルール、採用する技術の選択、必要なスキル、メンバーの人選、食事のメニューなどがあり得る。
 こういった結論の型は、検討の目的に合っていなければならない。そのため、目的から導き出すのが普通だ。難しい課題でない限り、自然に考えて求められるだろう(そうでない場合の対処は後述)。
 結論の型だけが目標だと、結論の中身が、期待したレベルで得られないこともある。たとえば、結論の型が問題の解決方法なら、ある程度まで内容を明確に示さないと、そのまま実施することができない。新商品のアイデアや規格も同様で、実現可能なレベルに落とし込んでいないと、実際に設計する段階で困る。
 こうした結論の不備を防ぐには、結論の中身として何が含まれるべきか、もう少し細かく規定する方法が有効だ。目標として細かく規定してあれば、それを満たすために検討を深めようとし、その分だけ検討の質が向上しやすいからだ。
 結論の中身は、結論に含まれる項目として規定する。項目名と項目説明の対として作成し、必要な数だけ加える。具体的な項目は、結論の型によって異なるが、結論の型が同じなら似てくるので再利用しやすい。
 含むべき項目は、「結論が実際に使えるレベルに達するために、何が必要か」と考えることで求められる。別な言い方をするなら「どんな点が明らかになれば、実際に作ったり利用したりできるのか」という視点で考えてみるわけだ。問題の解決方法であれば、次のような項目が挙げられる。

結論に含むべき項目の例(問題の解決方法の場合)
・人員構成:実施に関わる人員の構成と役割
・作業手順:解決方法の具体的な手順
  ・役割分担:役割ごとに担当作業を明記する
・日程と期間:実施に必要な日数と日程(準備も含む)
・必要スキル:特殊な役割の人材に求められる能力
・必要技術:実施に必要な技術
・必要機材:実施に必要な機材や道具
・必要コスト:実施にかかる全コスト
・期待効果:期待される効果(成功時の変化)
・成功条件:成功に必要な条件、成功率を高める条件
・成功判定基準:成功だと判断する基準(必要なら)
・成功率:期待される効果が得られる確率
・失敗時の対処:失敗したとき次にすべきこと

 以上のように、解決方法自体の中身だけでなく、それを実施した場合にどうなるか、どの程度の成功率か、失敗したときにどうすればよいかも含んでいる。こうして様々な重要項目を含めると、これらを明らかにするような検討が行われ、検討の質は確実に向上する。
 結論の項目は、基本的には、すべて埋まるように検討を進めるべきである。しかし、期待したレベルで明らかにできない項目も出るだろう。たとえば、成功率が予測できない場合も考えられる。そんなときでも、大まかな値を出すとか、範囲として示すとか、可能な限り明確にしようと努力しなければならない。最悪は言葉で説明することになるが、それでも何も書かないよりはマシだ。

結論の形式が決まらないなら、その決定を検討課題に

 課題によっては、結論の型が簡単に決まらない。まったく思い付かない場合、複数の中からどれが最適なのか選べない場合があり得る。どちらでも、結論の形式を求めようと検討してみるのが基本だ。
 まったく思い付かない場合というのは、実際にはあまりないように思う。とりあえず、結論の形式の作成を課題として検討してみる。本題の検討の前に、結論の型を検討するのである。それで求まればそのまま採用し、そうでなければ、結論の形式を規定せずに本題の検討を始めるしかない。検討を進めるうちに課題の理解が深まってきて、全体が見えてくることもある。そうなった時点では、結論の形式を決められることが多い。できるだけ早目に結論の形式を求め、それに合うように検討内容や進め方を修正する。
 複数の中からどれが最適なのか選べない場合は、時間や労力に余裕があるなら、候補となる結論の型を全部採用する。別々に検討してもよいし、一緒に検討しても構わない。検討の内容が似ているので、一緒に検討する方が効率的だ。
 どうしても1つに選ばなければならないなら、その選択を検討課題として採用する。これも、本題の検討の前に、結論の型の選択を検討するのである。それぞれの型を選んだとき、どんな結果になるのか予想し、良し悪しを比較してみる。本題の検討よりは短い時間で終わるだろう。簡単に結論が出ないなら、すべて採用して一緒に検討するしかない。
 複数を採用して検討を進めると、課題への理解が深まるに従って、どの結論の形式が最適なのか分かってくる。その時点で1つを選び、正式に採用すればよい。それに合わせて、検討内容や進め方を修正する。
 結論の形式が決められない原因として、検討の経験が不足していることも十分に考えられる。その可能性が高いときは、詳しい人に相談して決め手もらう方法が有効だ。それが無理なら、本題の検討を始めたほうがよい。実際の検討を進めることで、結論の形式が見えてくる可能性が高まるからだ。

分割した工程内でも結論の形式を定める

 検討作業を確実に進めるために、検討全体を複数の工程に分割する。こうして分割した各工程でも、結論の形式と同じ考え方が役立つ。各工程で何を作成すべきなのか、作業を開始する前に規定するのである。
 検討のどんな工程でも、検討した内容を何らかの形で残さなければならない。頭の中に入っているだけでは、本当に作業が終わったのか、誰も判断できないからだ。第三者が確認できる形で作成物を残さなければ、その工程の作業が終わったといえない。
 工程内の作成物の形式も、その工程の目的から導き出す。ただし、何もないところから作る必要はない。本コーナーの別ページで紹介しているように、内容把握一覧表と事柄説明資料を組み合わせて用いる。ただし、これらに含める具体的な項目については、各工程の最初で検討しなければならない。
 こうした項目の洗い出しでは、結論の項目を求めるときと同じように、「実際に使えるレベルの結論を求めるために、この工程の内容に関しては、何が必要か」を深く考える。「この工程内の検討対象に関して、どんな点が明らかになれば、結論が実際に作ったり利用したりできるのか」という視点で考えてもよい。これも、工程の目的から導き出す。
 作業工程の目的や種類によっては、内容把握一覧表と事柄説明資料が使えないこともある。その場合は、工程の目的から作成物の形式を導き出さなければならない。これも結論の形式と考え方は同じで、作成物の型と含まれる項目を明らかにする。複数の値を持つ項目がいくつかあるなら、一覧表などで整理して見せる。

 以上のように、検討全体でも一部の工程でも、その範囲内で得るべき作成物の形式を最初に明らかにすべきだ。そうすることによって、考えるべき点がより明確になり、検討の質を確実に向上させる。

(2001年1月4日)


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