思考方法:論理的な思考に役立つ道具たち |
複数の工程に分けて検討を進める方法では、工程間の整合性を確保することが重要となる。そのためは、整合性が検査できるような情報を明らかにし、各工程の作成物として残さなければならない。こうしておくと、整合性が保てているかどうか、検討者自身もレビュー担当者も検査しやすい。
検討の工程が複雑でない場合は、別工程との関連情報を内容把握一覧表に入れる。ただし、関係している両方ともに情報を記述すると、変更が発生したときに2つを直さなければならない。これは余計な手間なので、関係の記述は1つだけに限る。検討作業は工程の流れに従って進めるので、後側の工程を実施するときに関係を考えるはずだ。そのため、後側の工程の内容把握一覧表に、関連を示す項目を入れた方がよい。この方式なら、前側の工程で作成した内容把握一覧表を修正する必要もない。
関連を示す具体的な項目としては、まず前工程の関連する事柄が挙げられる。どの事柄と関係しているのか明らかにするために、前工程の事柄IDや略称で記述する。関係が1対1とは限らないので、複数の事柄IDや略称を書く場合もある。
離れた工程との関係も示す必要があるなら、それも別な項目として内容把握一覧表に追加する。前工程の関連事柄と混同しないように、該当する工程の名前を明示した見出しを付ける。この項目でも、事柄IDや略称を用いて記述する。
どのような関連があるのかまで残しておきたいときは、関連する事柄の次に、関連種類といった項目を追加すればよい。内容が伝わる範囲内の短い言葉で、関連の種類を明記する。
前工程の関連事柄に重要度が付いていれば、それを考慮しながら現工程の重要度を決める。たとえば、前工程が問題点の洗い出しで、現工程が原因の究明だとする。原因の重要度は、関連する問題点の重要度を考慮して決定するはずだ。その際、重要度の計算が複雑だったり、事柄数が多い場合は、参照する回数が増えて大変になる。面倒なので、前工程の重要度の項目を現工程に付けてしまう手もある。情報を二重に記述するのはイヤだが、参照でミスするよりはよい。
他にも、関連を示すのに必要だと思う項目があれば、自由に追加して構わない。
課題がかなり難しい場合は、途中の工程も多くなるし、作成する内容把握一覧表の数が増える。それらをまとめてみるのは大変で、検討内容の全体像が把握しにくくなる。
こうした欠点を解消するには、検討内容の全体像を1枚の資料で俯瞰できる表「全体俯瞰表」を別に作るのが一番だ。各工程での内容把握一覧表を要約し、1つに集めた表として作成する。目的は、あくまで全体像を俯瞰すること。細かな検討が必要なときは、個々の内容把握一覧表を用いる。
全体俯瞰表は、まったく新しく作るわけではない。既に作成した内容把握一覧表の要点だけを集めて、1つにまとめたものとする。全体を俯瞰するのが目的なので、全工程の表は含めない。要所となる工程を選び、その一覧表だけから全体俯瞰表を作成する。
どの工程でも、内容把握一覧表は情報量が多い。主要な工程だけ選んだとしても量が多すぎるので、本当に重要な情報だけに絞る(必要なら内容把握一覧表を見ればよいので)。横軸の項目は、事柄略称、重要度、前工程との関連ぐらいに限定する。縦軸の事柄も、重要度の値が大きいものだけ選ぶ。このような考え方で作ると、全体俯瞰表は次のような形になる(これは問題解決での例)。
工程:問題点 工程:原因 工程:対処方法 工程:対処組合せ 事柄 重要度 事柄 重要度 関連 事柄 重要度 関連 事柄 効果 関連 問題点1 値11 原因1 値21 問題点2 対処1 値31 原因1 組合せ1 値41 対処1,3,7 問題点2 値12 原因2 値22 問題点4,5 対処2 値32 原因1 組合せ2 値42 対処1,3,6,9 問題点3 値13 原因3 値23 問題点6,8 対処3 値33 原因2,3 組合せ3 値43 対処2,3,7,8 問題点4 値14 原因4 値24 問題点1,3 対処4 値34 原因3 組合せ4 値44 対処2,4,5,7,8 問題点5 値15 原因5 値25 問題点7 対処5 値35 原因1,4 組合せ5 値45 対処1,3,6,7.9 問題点6 値16 原因6 値26 問題点3 対処6 値36 原因4 問題点7 値17 対処7 値37 原因5 問題点8 値18 対処8 値38 原因6 対処9 値39 原因6
見て分かるように、内容把握一覧表の主要項目版を横に連結しただけである。この中で、関連の項目値だけは、そのままコピーできないこともある。途中の工程を飛ばして全体俯瞰表を作るためだ。その際には、各工程の一覧表を見ながら、適切な値を記入する。ただし、主な事柄しか含んでないため、関連が付けられない事柄も出てくる。その場合は、表内では該当なしを意味する記号など(意味が通じれば何でも構わない)を入れておく。
この例では、本当に最小限の項目しか含んでいない。実際には、事柄の内容や特徴が少しは分かるように、もう少しだけ項目を追加した方がよい。加える項目は、各工程の内容把握一覧表の横軸から選ぶ。
こうした全体俯瞰表だが、作成時期が必ず検討の最後というわけではない。検討内容が適切かどうかを確かめるのが目的なので、不安があるなら少しでも早目に作って確認した方がよい。一番最初から用意する必要はないが、検討が大変な場合は、検討の中頃から作り始めて、どんどんと更新していく。検討の間違いを早く見付けるほど、やり直しの手間が減らせるからだ。
全体俯瞰表は、検討の流れの中で重要な事柄を、全体として把握するのに役立つ。しかし、検討の流れと一緒なので、別な視点での検査にはならない。追加という形で、別な形式の表も作ると、内容の検査がより確実になる。どんな表を作成するかは、検査の考え方しだいで異なる。
比較的広く使えるのは、「工程逆順整理表」だ。これは、最終工程の作成物を出発点にして、前側の工程へと逆順に追っていく。出発点となるのは、評価するだけの工程などを除いた最終工程の作成物で、それから1つずつ関連する事柄を追っていく。すべての工程を含める必要はないので、全体俯瞰表に入れた工程と事柄だけに限定する。
工程間の関連は1対1ではないので、関連する事柄はだんだんと増える。最初は数個の事柄だったとしても、4工程ぐらい進むだけで数十個の事柄にふくらむ。同じ列の中には、重複する事柄も出てくるが、省略せずに記述する。そうすると、工程逆順整理表は次のような形になる(これも問題解決での例)。
工程:対処組合せ 工程:対処方法 工程:原因 工程:問題点 検査用 事柄 効果 関連組合せ 重要度 関連原因 重要度 関連問題点 重要度 問題点抜け 総評価 組合せ1 値41 対処1 値31 原因1 値21 問題点2 値12 問題点1,3 値91 対処3 値33 原因2 値22 問題点4,5 値14,値15 原因3 値23 問題点6,8 値16,値18 対処7 値37 原因5 値25 問題点7 値17 組合せ2 値42 対処1 値31 原因1 値21 問題点2 値12 問題点7 値92 対処3 値33 原因2 値22 問題点4,5 値14,値15 原因3 値23 問題点6,8 値16,値18 対処6 値36 原因4 値24 問題点1,3 値11,値13 対処9 値39 原因6 値26 問題点3 値13 (以下は省略)
このような形で整理すると、最終工程の主要な事柄の中には、最初の工程で洗い出した事柄が含んでないものも発見できる。全部の事柄に対処できることの方が少ないので、含んでない事柄があること自体は問題ではない。重要な事柄が漏れている場合が問題なので、そうなってないかを中心に検査する。発見を手助けするために、漏れている事柄を表の右端に明記しておく。このような目的で付けるのが、表の終わりである右端の検査用項目だ。
この表を見ながら、事柄ごとの効果を計算し直しても構わない。その結果も表の右端に追加する。ここで新しく追加した項目は、各工程の内容把握一覧表には含まれていないので、そちらに追加しても構わない。もちろん、該当するのは最終工程の一覧表である。
工程逆順整理表は、検討が適切なのかを別な視点で整理して見せてくれるものの、すべての要素を別な角度から見るのではなく、工程間の関連を別な角度から見るのが主な目的だ。検討の質を向上させるために、関連は重要な要素なので、こうした整理表はかなり役に立つ。もっと異なる視点で整理したいなら、違う形式の表を作らなければならない。
検討内容を俯瞰するための道具として、2つの表を紹介した。どちらも、課題が複雑な場合ほど、有効な道具として役立ってくれるはずだ。
ここでは、道具の基本的な役割を説明するのが目的なので、内容をかなり単純化してある。実際の検討では、必要に応じて項目を追加しなければならない。たとえば、対処方法の一部に副作用があるなら、それも加えるべき項目になる。大切なのは検討の質を上げることなので、それに役立つ項目なら、ほどほどの個数という範囲内で追加すべきだ。他の項目の追加でも、項目の並び順でも、より適切に検討できると思ったら、どんどんと改良して構わない。
項目を追加して表が見づらくなるときは、真ん中あたりで2つに分断してから、縦に並べて作るとよい。分断する箇所を工程の区切りにすれば、見やすさはあまり低下しない。
紹介した2つ表は、検討する内容に関係なく、検討内容の把握や検査で広く使えるものを選んだ。特定の検討課題に最適な表なら、これら以外にもいろいろと考えられる。検討課題に適した表が作れないか自分なりに考えてみる行為は、検討内容の理解につながるので、暇なときにでも試してみるとよいだろう。
(2001年1月22日)
検討内容の全体像を見渡せる俯瞰表 |