川村渇真の「知性の泉」

一覧表の個々の事柄を説明する資料


一覧表の事柄ごとに説明資料を作成する

 検討内容の全体像は、内容把握一覧表を用いて整理できる。しかし、見やすく整えるのが目的の一覧表なので、細かな内容は記述できない。そうした細かな内容は、後で確認する意味でも、どこかに整理して記述する必要がある。
 それは、事柄を説明した資料として作る。一覧表との関係が明確になるように、一覧表での1つの事柄に対して、1つの資料を作成する。各資料のページ数を揃える必要はないが、形式だけは統一する。形式がまちまちだと、分かりやすさが低下するし、書きづらくて記述漏れが生じやすいからだ。
 1つの課題を検討するのに複数の工程があり、それに合わせて一覧表も複数作成する。各一覧表では、異なる事柄を扱っているので、説明資料の形式は、一覧表ごとに決めなければならない。一番最初に作るのは大変だが、2回目以降は前の形式がほとんどそのまま使えるので、それほど面倒ではないだろう。
 一覧表に含まれる事柄の数が多いと、説明資料との関係が分かりづらくなる。そんなときは、一覧表の各事柄にIDを付けて、そのIDを資料にも明記する。IDをどのような形式で付けるのかは、意外に重要だ。複数の一覧表があるので、説明資料が混ざっても大丈夫なように、重複しないIDを付けなければならない。すると「一覧表ID」+「事柄ID」という形式になる。
 IDの具体的な値は、よく考えて決めなければならない。たとえば、「一覧表ID」を連番にしたとき、検討の工程に間違いを見付け、新しい工程を途中に挿入しなければならないとする。当然、挿入箇所より後ろの一覧表では、連番を1つずつ増やす必要が生じ、数多くの説明資料を変更する羽目になる。こうした変更は無駄なので、変更の影響を受けない値を使ったほうがよい。一覧表IDでも事柄IDでも、内容を表した短い言葉が一番適する。一覧表IDなら、「現象」、「原因」、「対処単体」、「対処組合」などと、最大で4文字程度に決める。事柄IDの方は少し長くして、漢字を中心に8文字以内といったルールにする。このほうが、意味のない記号と違って分かりやすい。一覧表の事柄数はそんなに多くないので、IDに英数字を用いる必要性はあまりない。
 もし事柄数が多くなったときは、事柄IDの前に「分類ID」を追加する。この値は、一覧表で用いた事柄の分類値と同じにすればよい。一覧表の分類値なので、短い言葉で表現されているからだ。

説明資料の形式は、大まかな構成のみ共通

 説明資料の中身は、事柄の内容によって異なるものの、全体の構成はほぼ決まっている。特別な理由がない限り、以下のような構成にする。

事柄説明資料の基本構成
・資料の基本情報:調査日や進捗状況などの情報
・資料の本体:内容に応じて構成された中身
・資料の補足情報:不明点といった中身以外の情報

 中央の「資料の本体」が、事柄の内容によって大きく変わる部分だ。それ以外の2つの要素に含まれる項目は、内容に関係なく共通になる。
 一番最初に入れる「資料の基本情報」には、説明資料の基本的な情報が含まれる。実際の項目は以下のとおりで、同じ資料の新旧を区別するために、最終更新日なども入れる。

資料の基本情報に含まれる項目
・調査日:調査や測定を行った日付または期間
  ・名称は資料の種類で異なり、「検討日」なども使われる
・担当者:調査や検討を実施した人(複数のときは責任者を明記)
・最終更新日:この資料を最後に更新した日付
・バージョン:必要なら、バージョンを番号などで明示する
・進捗状況:作成の進み具合で、「作成中」や「完了」など表現する

 一番最後に入れる「資料の補足情報」には、「資料の本体」に該当しないすべての情報を入れる。代表的な項目は、以下のとおり。

資料の補足情報に含まれる項目
・不明点:まだ分かっていなかったり、調べていない点
・要確認点:内容が正しいのか確認が必要な点
  ・確認方法、確認相手などが分かっていれば明記する
・残り作業:完成に必要な作業の一覧
  ・ただし、上記の項目と重複する内容は不要
(上記項目はどれも、該当する場合のみ記述する)

 補足情報は、作成途中で必要な項目が多い。しかし、どうしても調べきれない箇所が残ったり、調べても意味がないと判断することもあるので、中途半端な状態で完成時に残す場合もある。なお、「資料の本体」の該当個所では、何らかの印を付けておき、補足情報の存在を知らせるようにする。

事柄が「現象」の場合の本体項目

 説明資料の中心部となる「資料の本体」の構成は、事柄の種類によって大きく異なる。代表的な事柄を例にして、少し紹介しよう。
 まずは、事柄の種類が、トラブルなどの「現象」の場合だ。この種の情報では、以下のように項目を3つに分けて整理する。

資料の本体に含まれる項目(事柄が「現象」の場合)
・調査方法:事実を得るために用いた方法
  ・方式:調査方法の大分類
    ・自主調査:自分たちで調査や測定を実施
    ・資料の参照:既存の資料を参照して済ます
    ・専門家へ質問:その分野の専門家に尋ねる
  ・調査方法:調査や測定で用いた手法
  ・調査対象:調査や測定の対象物
  ・調査相手:聞き取りした相手や専門家の情報
  ・調査道具:調査に用いた道具
  ・調査資料:調査に用いた資料の詳しい情報
・調査結果:調査や測定で判明した情報の中身
  ・発生日または期間:現象が発生した日付または期間
  ・発生場所:発生した場所と範囲
  ・発生した内容:(事柄の種類に応じた項目を入れる)
    ・例:経過、現在の状態、影響の大きさなど
・推定内容:調査結果から推定できる内容
  ・影響:現象から予想される影響の内容と範囲
  ・被害額:影響の大きさがら推定される被害の金額
  ・今後の変化:影響の変化の方向や大きさの予測
(上記の項目のうち、内容ごとに記述可能なものを入れる)

 このように、調査に用いた方法、調査で得られた結果、調査結果から推定されるを、明確に分けて記述する。調査で得られた内容は事実に相当し、推定した内容とは区別することが非常に大切だからだ。
 最後の推定内容に関しては、あまり深入りしない。次の検討工程である原因などには踏み込まないのが基本で、現象という範囲内での推定にとどめる。通常の調査で簡単に調べられない現象を推定するような場合が該当する。
 既存の資料を参照する場合でも、その資料に明記してある調査方法を明記する。また、複数の資料を比較して、資料の内容が正しいかを見極めなければならない。1つの資料だけ選び、そのまま鵜呑みにするのは禁物だ。そうならないためにも、複数の資料を用い、その全部の資料情報を記述する。もし探しても1つしか見付からなかった場合は、そのことを記述しておく。資料を1つしか記述していないと、レビュー担当者に指摘されることになる。

事柄が「原因」の場合の本体項目

 一覧表の事柄が、トラブルなどの「原因」の例も紹介しよう。原因のような一覧表を作る場合は、作業の流れが現象の場合とはかなり異なる。現象なら、調べてきた現象を次々に加えていく。説明資料を先に作り、一覧表に事柄を加える流れになる。しかし、原因の場合は逆で、まず考えられる原因をすべて洗い出し、一覧表に追加する。その後で、事柄ごとの説明資料を作りながら、その原因が当たっているか判断していく。
 このような作業の流れになるため、説明資料は単なる内容の説明ではなく、本当の原因か調べるための進捗管理表の役目も担う。すると、次のような項目の構成になる。

資料の本体に含まれる項目(事柄が「原因」の場合)
・検討過程:原因を求めるまでに検討した過程
  ・対象現象:原因の対象となった現象(複数も可)
  ・導出論理:その原因にたどり着くまでの論理的な説明
・原因の内容:原因の詳しい説明
  ・原因の箇所:原因が含まれる箇所
  ・動作説明:原因から現象までの動きの説明
  ・発生理由:原因が発生した理由
・原因間の関係:他の原因との関係
  ・関係する原因:関係が考えられる他の原因
  ・関係の内容:他の原因との関係の中身
・原因の影響:原因が及ぼす影響の内容
  ・影響範囲:原因が及ぼす範囲
  ・影響現象:原因から生じると予想される現象
  ・影響規模:影響の大きさ(金額への換算も可)
・原因の確認方法:原因が確かか調べる方法
  ・確認方法:確認するための具体的な方法
  ・判定基準:原因が確かか判定する基準
・原因の確認結果:確認方法で調べた結果
  ・実施日:確認作業の実施日
  ・担当者:確認作業を行った人(複数のときは責任者を明記)
  ・確認結果:確認方法で得られた結果
  ・判定結果:確認結果から求められた判定結果
(上記の項目のうち、内容ごとに記述可能なものを入れる)

 この中で注目すべきなのは、原因の確認だ。原因の中身や影響範囲を考えながら、本当の原因かを調べる方法も一緒に求める。それが得られたら、実際に確認してみる。原因でないと判明すれば、それ原因については以降の作業を中止する。ただし、確認方法が間違っていることもあり得るので、確認結果などは資料に既述しておかなければならない。
 原因の種類によっては、確実に確認できないものもある。その場合でも、原因だと確定することはできないが、明らかに原因でないと状況によって判定できる方法が見付かったなら、それを試した方がよい。調べられることは、難しくない限り何でも調べるのが基本だ。

項目分類を先に決めて、必要な項目を洗い出す

 原因の場合も、現象の場合と同様に、すべての項目を分類してある。原因の内容、他との関係、影響、確認方法など、事柄の中身と他の情報を分けた。項目を上手に分類することで、より適切に記述できるし、内容を読み取りやすくもなるからだ。
 他の一覧表でも、まず最初に必要な分類を考える。それが確定したら、それぞれの分類の中に含まれる項目を導き出す。こうした流れで思考すれば、説明資料に必要な項目を得られやすい。項目分類を求める際に考慮するのは以下の点である。

説明資料の項目分類を求めるときの考慮点
・事実と推定を分ける
・事柄の中身と付随情報を分ける
  ・付随情報:検討過程、情報源、信頼度など
・事柄を導き出した過程もできるだけ示す
・事柄の正しさを可能なら確かめる
  ・ここでも確認方法と結果を分ける
・他の事柄との関連も分けて含める

 以上の点を考慮しながら、事柄の内容にあった項目分類を求める。分類の考慮点は、分割するための簡単な基準なので、使うのは難しくない。最初に求めた個々の項目分類に対し、すべての考慮点を順番に当てはめるだけなので、迷わずに適用できるだろう。
 最初のうちは、次のような手順で項目を導き出すとよい。まず、説明資料に含めた方がよい項目を、片っ端から洗い出す。ここで紹介した例が参考になるはずだ。かなりの数の項目を洗い出したら、上記の考慮点を参照しながら、項目の分類を考えてみる。複数の項目をグループ分けしていくと、必要な分類が見えてくる。こうした作業を何回か繰り返すと、最初から項目分類が作れるようになる。項目分類さえ作れれば、後は必要な項目を洗い出すだけなので、迷う部分はあまりない。

情報の確度をできるだけ明示する

 調査や検討を進めていくと、いろいろな情報が得られる。その中には、非常に疑わしい情報から、確実に信頼できる情報まであり、情報の確度は様々だ。当然ながら、適切に検討するためには、確度の違いを意識しなければならない。
 というわけで、事柄の説明資料には、可能な限り確度を明示するように努める。記述を容易にするために、確度の表記を記号にして、基準を決めてしまう。具体的には、以下のようにする。

確度の記号表記と意味
・☆:絶対的と言えるほど正しい(証明済みの内容)
・◎:特別な理由でも出てこない限り正しい
・○:正しい可能性が非常に高い(少し不安)
・△:正しいか間違いか判断が難しい
・×:間違いの可能性が非常に高い(明らかな間違いも含む)

 このうち「×」印は不要と思われるかも知れないが、実際にはかなり役立つ。たとえば、最初は「○」や「△」だと思えた内容が、後になって「×」だと判明した場合だ。その内容を削除せずに「×」を付けて残すと、間違いという情報まで保存できることになる。消してしまうと、同じ内容が後から出てきたとき、再び同じように調べたり検討しなければならない。検討期間が長かったり、担当者の人数が多いときには、こういった負の情報も役に立つことが多い。なお、正しい情報を邪魔しないように、記述する位置は項目内の最後へ移動しておく。
 こうした確度の表記は、項目分類または項目ごとに付ける。記号だけだと意味が通じないので、「確度:○」や「確度:△」といった形式にする(「:」記号の有無は自由)。記述する位置は、すべて統一すればどこでも構わない。一般的には、項目名となる中見出しの後ろがよいだろう。項目分類内の全項目で確度が同じなら、項目分類の箇所に付け、そうでないなら、分類内の全項目に付ける。
 調査や検討が進むと、各項目の確度が途中で変わる。そうなったら、説明資料の確度の表記も変更し、いつも最新状態に保たなければならない。

どの程度まで詳しく調べるかの判断が一番重要

 事柄の説明資料は、以上のような形で作成する。後から作ると大変だが、調べながらや考えながら作ると、余計な手間はほとんど発生しない。他の作業でも同様だが、考えながら書く癖を付けることは、誰にとっても非常に重要だ。
 こういった資料の作成では、その役割を明確に理解する必要がある。使われる状況としては、一覧表で全体を検討しながら、個々の事柄の詳しい情報を知りたいときに見る。当然ながら、作った人とは別な人が見るし、書いてある内容が正しいかどうか考えながら読む。事実と推定を分けるのは、こうした第三者のレビューも考慮してのことだ。もちろん、分けて書いた方がミスが生じにくいという面も見逃せない。
 文章の書き方としては、専門用語などを普通に使って構わない。第三者が見るといっても、第三者の立場にある専門家が見ることを前提とする。あえて専門用語の使用を避けると、不正確な表現になりやすいからだ。正確性を重視するので、普通に使われている専門用語は積極的に使用する。ただし、最終的な結論や判定だけは、専門家以外の人が読んでも分かるように、少し配慮した表現を心掛けたい。
 記述内容に関しては、どこまで詳しく書くかが悩む部分だ。書くのに慣れている人であれば、どこまで書くかの悩みはあまりない。分かっている内容を、短時間ですべて書けるからだ。それよりも、どこまで詳しく調べるかや検討するかが悩みの中心になる。緊急に対応しなければならない課題だと、一覧表で重要度を判断し、重要な事柄だけ選んで詳しく調べ、他の事柄は簡単に調べることになる。その辺のバランスは、一般論では語れないので、状況に応じて判断するしかない。
 重要な事柄だけ詳しく調べる方法でも、残りを後で詳しく調べることが可能だ。仮の結論だけ急いで出しておき、それを確認するために残りを詳しく調べる。こうした方法なら、緊急事態に対応できるし、もし仮の結論が間違っていた場合でも、あまり遅れずに発見できる。
 自分一人で解決する場合は、どう適用すればよいのだろうか。誰かに報告する必要があるなら、すべての事柄で説明資料を作った方がよい。どの程度まで詳しく調べるべきかは、課題の内容から判断する。ここまで詳しく報告しなくてもよいなら、一覧表だけで済ますことも可能である。ただし、課題が少しでも難しい場合は、こうした資料を作った方が、検討の質が向上し、いろいろなミスを防げる。事柄の説明資料も、論理的な思考を助ける道具だからだ。

(2001年1月2日)


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