川村渇真の「知性の泉」

実用的な道具が質の高い思考に役立つ


既存学問を用いた間接的な学習も目立った効果なし

 物事を適切に検討して、質の高い結果を得るためには、思考の質を高めなければならない。では、そのために何が必要であろうか。この点こそ、思考能力を高める上で一番大切なことである。
 よく耳にする発言に、「数学を勉強すると、論理的な思考能力が高まる」がある。残念ながら、実際には目立った効果が得られない。数学で得られる論理的な思考は、数値を扱う部分に対しては有効であっても、それより多くを占める数値以外の部分に対しては、ほとんど有効でない。さらに、どんな問題でも、課題全体を扱う部分は数値以外の要素なのである。その部分に効果がなければ、有効な方法とはなり得ない。
 数学を利用して論理的な思考能力を高める方法は、論理的な思考方法を直接教えず、数学という別な学問を通して間接的に学ぶ方法である。このような間接的な学習は、習得の効果がかなり小さい特徴を持つ。実際、数学を10年以上学んだとしても、論理的な思考を手助けしてくれる道具は得られない。どうやったら論理的に考えられるか、具体的な方法が分からないままだからだ。当然、現実の世界でも、目立つような効果が得られていない。
 論理的な思考の習得を数学に求めるという発想は、他に選択枝が思い付かないからであろう。論理的な思考を直接的に教える手法が目の前にあれば、数学に頼った方法などを推奨するはずがない。間接的よりも直接的な学習の方が、期待した効果を得られる度合いが大きいことは、誰の目から見ても明らかだからだ。

道具なしで思考するのは難しい

 学校で教える学問がダメなら、論理的な思考を比較的できている人に尋ねる方法もある。確かに、論理的な思考をできている人は、各人が自分なりの方法を持っている。しかし、他人に教えられるとは限らない。そのため、尋ねて得られる助言は、抽象的な内容になりやすい。「もっと論理的に分解して考えなさい」や「もう少し科学的に評価しなさい」という具合だ。こうした助言内容では、具体的にどう改善すればよいかを含んでいないため、助言を受けた人ができることは何も変わらない。  該当する人は少ないが、もっとノウハウを持っている人なら、検討の手順を示すことができる。検討作業の全体像を数個の工程に分割し、各工程でどんな作業をするのか、どんな視点で考えるのかを示してくれる。これなら、助言によって少しは改善できるだろう。しかし、具体的な作業内容が分かるほど細かく助言してくれる人はほとんどいないので、目立った効果を得られるレベルには達しない。
 やはり、実際に使える具体的な道具が必要なのだ。道具の役割と使い方を説明し、多くの人が使えるようにする。こうした道具があれば、実際に何をすればよいのか明確になり、思考の作業が確実に前に進む。
 道具と一緒に提供する手法は、道具の利用を前提として体系化すればよい。手法に含まれる各工程の作業内容は、道具を用いた具体的な方法として説明できる。そうすると、何をすればよいのか明確になり、より多くの人が使える手法に仕上がる。

複数の道具を組み合わせて実現する

 思考というのは様々な目的で利用される。既存の問題を解決するのはもちろん、新しい商品を企画したり、運営ルールを決めたりといった、特徴の異なる行為を含んでいる。また、これらの行為を細かく見ると、種類の異なる複数の作業が含まれている。このような何種類もの作業があるので、汎用的な1つの道具として実現するのは難しい。
 もう1つ、思考作業のどの部分を道具で補うかも大切な点だ。新しく何かを発想する部分も少しなら支援できるが、それは難しい部類に入る。それよりも、調べたり思い付いた内容を整理して見せるとか、検討内容が論理的かを検査するとか、扱っている内容を整えて見せる部分を、まず先に支援すべきだ。そうすれば、検討内容の全体像を把握できるだけでなく、検討で漏れている点などを発見しやすい。
 以上のような点を考えていくと、複数の道具を用意し、それらを組み合わせる方法が良いと分かってくる。検討内容を整理するのが目的の道具は、頭の中を整理以外の目的では使えないものの、検討テーマに関係なく使える汎用性があり、幅広い利用が可能になる。
 新しい発想を支援する道具も、簡単なレベルであれば実現可能だ。こちらのほうは、発想のトリガーを与える方式になるため、万人に役立つ道具とは限らない。それでも、一部の人には大いに役立つだろうし、もう少し多くの人にとっては少しぐらい役立つであろう。
 こうした効果を狙った道具なので、道具の根本的な目的、道具を使った作り方、作ったものの利用方法まで説明する必要がある。これらの要素が一緒になって、思考の質を高めてくれる。

自分で使っている何種類かの道具を公開

 ここで紹介する道具は、自分が実際に使っているものばかりだ。当然ながら、現実の思考作業で役立っている。おそらくは、多くの人にとっても、かなり役立つだろう。
 この種の道具の場合、目的に合わせてアレンジするのが普通だ。また、実際に使いながら、常に改良し続けている。この辺までの内容を含めると大変なので、とりあえずは基本部分の紹介にとどめよう。基本部分というのは、ほとんど改良しなくてよいほど確定した道具で、汎用性の高いものを指す。
 基本的な部分といっても、たいていの課題を検討するのに役立つ。どんなテーマであっても、内容の全体像を整理したり、集中すべき箇所を決めたり、漏れている点を見付けたりすることは、より良い検討結果を得るために重要なことである。それが可能になれば、思考の質をかなり高められるはずだ。

(2000年12月11日)


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