川村渇真の「知性の泉」

ダメ意見を信用すると思考能力が低下する


適切な検討を邪魔するのがダメ意見

 いろいろな課題を適切に検討したいなら、論理的で科学的な思考方法が有効だ。関係する要素を幅広く集め、各要素の重要度を考慮しながら、課題全体の総合的な検討を支援してくれる。これにより、最良に近い検討結果が得られる。
 検討の過程で資料を探すと、様々な意見が集まる。課題に関係していたり興味のある人が、自分の考えを率直に述べるためだ。こうした中には、論理的で科学的な思考とは相容れない意見も含まれている。良い意見は積極的に取り入れるとともに、悪い意見を無視しなければ、質の高い検討結果が得られない。つまり、それぞれの意見の質を評価して、採否を判断するわけだ。
 無視しなければならない意見の中でも最悪なのが、論理的で科学的な思考を邪魔するタイプ。それを信じることによって、適切な検討から外れてしまうような意見だ。外れる度合いが大きいほど、意見がダメな度合いも大きい。こうした意見には正式な名前が付いてないので、ここでは単純に「ダメ意見」と呼ぼう。影響度の大きなダメ意見の代表例には、次のようなものがある。

ダメ意見の代表的な例
・論理的な検討を邪魔するタイプ
  ・論理的が必ず良いとは限らない
  ・やってみなければ分からない
・良し悪しを無効化するタイプ
  ・完璧なXXXなんて不可能だから
  ・根拠のない意見も大事

 「論理的な検討を邪魔するタイプ」は、論理的な検討自体を邪魔する形で、論理的に劣る意見を採用させやすくし向ける。「良し悪しを無効化するタイプ」は、物事の良し悪しの差を無効にする形で、適切な検討をやりにくくする。どちらのタイプも、適切な検討から遠ざける効果を持つ。

代表的なダメ意見を知れば、適切に対処できる

 検討の質を向上させたいなら、以上のようなダメ意見の影響を受けないようにしなければならない。ダメ意見を信じると、適切な検討からどんどんと遠ざかってしまい、検討結果の質が低下するからだ。また、意見の対立する議論の場で、ダメ意見が出やすい。相手から出されたダメ意見を上手に退けて、議論の質の低下を防ぐ必要がある。世の中を見渡すと、ダメ意見が出される機会が意外に多いので、ダメ意見への適切な対処が必須といえる。
 適切に対処するためには、どんなダメ意見があり、なぜダメなのかを知るのが一番。ただし、全部のダメ意見を知るのは大変なので、代表的なダメ意見だけに絞るしかない。その中でも、一見もっともらしいように思えて、実はとんでもない意見を知ることが重要だ。前述の代表例には、この条件に当てはまるものを選んである。
 代表的なダメ意見を理解できると、それを自分では使わなくなる。検討を邪魔するダメ意見が含まれないことで、検討結果が悪くなる状況を減らせる。それ自体では検討の質を向上させないものの、低下する要素を少なくする効果が得られる。
 誰かと一緒に検討したり議論する場面でも、代表的なダメ意見を知っていると役立つ。相手からダメ意見が出されたとき、適切に反論できて、議論の質を低下させずに済む。その意見がなぜダメで、どんな影響があるか説明すれば、その意見を強く主張することが難しくなるはずだ。
 ダメ意見が出される背景も知っておこう。意見が対立する状況では、適切に検討して分の悪い側が、ダメ意見を出したがる。必死に考えても(当然ながら、マトモな方法で検討を重ねてもという意味で)有効な反論を出せないため、ダメ意見を救世主のように感じやすいからだ。もちろん、ダメ意見だとは知らないので、「これは良い反論を見付けた」と思って出してしまう。
 そんなダメ意見が通ってしまうと、その議論の質が大きく低下し、より良い結論を出せないで終わる。ダメ意見を出す側から見れば成功だが、第三者から見れば検討の失敗でしかない。だからこそ、ダメ意見への対処方法を多くの人が身に付ける必要がある。
 以上のことが理解できると、ダメ意見を出した方の状態を推測可能になる。ダメ意見を出すというのは、有効な反論を導き出せなかったためであり、適切な検討の上では、劣勢に陥っている側の可能性が高いと。

ダメ意見を使いたがる人の特徴も知っておく

 ダメ意見を使いたがる人の特徴も、できるだけ理解しておきたい。それが分かると、そうした人が出す他の意見を適切に評価できるからだ。
 ダメ意見を使いたがる人に共通するのは、論理的な思考能力が低いこと。論理的な思考では、課題の一面だけ見るのではなく、各要素の重要度を考慮しながら全体を総合的に検討する。しかし、この能力が低いと、自分が支持する意見にとって都合の良い材料だけを集め、意見として述べたがる。都合の悪い材料は、極力無視する傾向が強い。これでは、適切な検討などできるはずがない。
 都合の良い意見ばかり並べても、相手から反論の形で悪い材料を出される。このときの対応にも特徴がある。相手の意見を真正面から検討し、論理的な反論をしない。おそらく、適切に検討すれば反論できないことに、何となく気付いているからであろう。
 反論する代わり、別な反応を示す。相手に対し、自分が支持する内容を「よく分かってない」とか「正しく理解していない」などと言う方法だ。どの部分がどのように分かっていないかを説明せず、ただ「分かってない」と言うだけ。こうした発言になるのは、自分が支持する意見の根拠を、論理的に説明できないことが原因だ。論理的な思考が苦手なので仕方ないわけだが、ただ「分かってない」と繰り返すだけでは、説得力が高まらないため、信じるのは思考能力が低い人に限られる。
 根拠を示す場合でも、根拠にならない内容を持ち出すことが多い。たとえば、ある有名人の発言を引用して、その人が言っているだけで正しいと判断してしまう。対象となる有名人の意見には、根拠が含まれていないにも関わらずだ。この種の内容を根拠として持ち出す行為自体も、論理的な思考ができないことを表している。
 こうした相手を説得するのは難しいが、ダメ意見の悪い点を明確に指摘するしかない。何度も指摘し続ければ、レベルが相当に低い相手でない限り、通じる可能性が高い。また、ダメ意見の影響を最小限に押さえる効果も高い。

(2001年11月4日)


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