川村渇真の「知性の泉」

論理的思考の主な要素の設計視点


 本コーナーで紹介している論理的思考方法は、私が何年もかけて設計した内容である。設計の際に用いた視点は、この思考方法の理解したり使用するときも、別な方法を設計するときも役に立つので、大事な視点に絞って紹介する。
 この内容は、論理的思考方法を知った後の方が、よく理解できる。そのため、本コーナー内のこの位置に入れてある。

まず最初に、自然言語の欠点を知る

 何かを説明したり考えたりするとき、自然言語(我々が普段使っている日本語や英語などの言語)の使用が欠かせない。当然、論理的思考でも使用する。
 この自然言語には面白い特徴がある。最大の長所は、世の中のほとんど内容を取り扱える点だ。もちろん表現の苦手な対象もあるが、何らかの形で表現できる。逆に最大の短所は、正確に表現するのが難しい点。同じ言葉の持つイメージは人によって異なるため、同じ文章を読んでも、多少は違う内容として理解される。他の大きな欠点は、間違った内容も表現できる点と、その間違いが簡単には判断できない点だ。
 自然言語には、見逃せない特徴がもう1つある。文章として表現したとき、その長さが長いほど、伝えたい内容の要旨を読み取ったり、間違っている箇所を見付けたりするのが難しくなる点だ。部分での要旨や間違いを見付けるのは簡単だが、長い文章全体での要旨や間違いを見付けるのは難しい。とくに、説明している内容の論理構造を読み取るのは非常に困難だ。
 こうした欠点があるので、いろいろな人が工夫して使っている。文章が極端に長くならないように、ある程度の長さで区切って作る。長い文章は段落として分け、意味の区切りを形式として伝えている。段落よりも少し大きな区切りごとに中見出しを付けることで、書いてある内容の要点を分かりやすくしている。
 しかし、こうした工夫にも限界がある。まず、工夫を使って上手に作るのが、かなり難しい点だ。その上、もし上手に作れたとしても、内容の構造を正しく読み取るのが大変で、十分な正確さを確保するのは非常に困難となる。
 以上の特徴は、自然言語の種類に関係なく、すべての自然言語が共通して持っている。日本語でも英語でもギリシャ語でも、矛盾する内容を表現できるし、長い文章の要旨を読み取るのは難しい。

自然言語の欠点の影響を可能な限り防ぐ

 論理的思考でも自然言語を使用する。しかし、そのまま使用すると、自然言語の欠点によって、論理的という最大の条件を確保できない。そうならないように、論理的思考方法を設計する必要がある。
 自然言語の欠点を防止する目的で、前述のような工夫よりも有効なのは、できる限り短く書くこと。要点を説明するとき、箇条書きを使うことが多い。この方法は、文章を短く区切ってしまい、並列に並べる工夫である。また、字下げという方法を用いると、事柄の階層構造も分かりやすく表現できる。同じ内容を一続きの文章で表現した場合と比べれば、分かりやすさに格段の差があることが理解できるだろう。
 さらに有効な方法として、表形式での整理がある。これだと、数値などのデータに加え、評価結果などを記号化して加えられる。含める情報量が増えるほど、同じ内容を文章で表現する場合に比べて、正しく読み取れるように表現できる。
 この考え方を、論理的思考方法にも適用する。全部に適用するのは無理なので、大事な点だけに絞る。思考目的の記述、思考結論の形式の記述、思考工程(思考の道筋)の記述、工程ごとの事柄の記述などだ。このうち、箇条書きで済むものは箇条書きにするが、項目数が2つ以上あるものは一覧表の形式を用いる。一覧表の形式では、評価結果や重要度などを記号や数字で表したり、他の工程の事柄との関連を示す。
 それ以外の要素でも、文章が長くならないように工夫する。事柄の細かな内容を説明する記述では、全体を文章で説明するのではなく、複数の項目に分けて、個々に内容を記述する。これも、自然言語の記述内容を短くする工夫である。
 以上のように配慮すると、自然言語の欠点をかなり防止できる。他の工夫(以下に紹介する工夫)と一緒に用いることで、防止効果が非常に大きくなる。

思考内容を上手に分解して、思考やレビューがしやすく

 自然言語による記述内容を短くするなら、どんな形でも良いわけではない。思考内容を上手に分解して、思考や検査をやりやすくする必要がある。考え方としては、思考結果に悪影響を及ぼさないように配慮しながら、一時点の思考で扱う内容の範囲を極力減らように分割する。
 大事な要素として、次のようなものを取り出す。思考目的、思考結論の形式、思考の道筋である作業工程、各工程の作成物の中心となる事柄一覧の4つだ。これらは、思考内容の中でも非常に大事な要素なので、それだけを集中して考えられるように、決まった形式で作成する。
 この4つは、思考内容の論理構造の中心部分を構成する。適切な目的で思考しているか、目的に合った結論形式を目指しているか、結論形式を求めるのに適した道筋で思考しているのか、思考の各工程で作成する内容に矛盾や漏れがないか、といった疑問に答える内容を含んでいる。これらの要素を見れば、思考内容の大事な部分を理解でき、思考の論理構造が見えてくる。これが大事な点だ。結果として、質の高い思考を確保しやすいし、第三者が思考内容をレビューするのも容易になる。
 人間というのは、どんなに頭の良い人でも、複雑な内容をそのままでは正しく理解できない。対象となる内容を体系的または階層的に分解し、分解した各要素を個別に理解するとともに、要素間の関係も理解することで、全体を理解できるようになる。こうした考え方を、論理的思考方法の設計に利用するわけだ。

話題を本題へ集中させる

 世の中には、良い結論を出されては困る人がいる。そんな人は、話題を本題から離れさせたり、目的をぼかしたりする方法で、思考や議論の質を低下させようとする。それが成功すると、本題から離れた話題ばかり取り上げて、有効な結論を導き出せない。世の中の議論(正確には単なる言い合い)のほとんどが、該当するだろう。
 こうした行為がやりにくくなるように、論理的思考方法には、本題へ集中させる工夫が欠かせない。前述の思考目的、思考結論の形式、作業工程、各工程の事柄一覧の4つが、そのための道具となる。これらは、思考内容の大事な部分であるからだ。これらの作成に集中させることで、話題が本題へと自然に向かう。
 作業工程の形で規定することにも、大きな意味がある。決まった工程があると、そのとおりに作業を進めるからだ。もちろん、どんな工程でも構わないわけではない。思考が順調に進むようにと、各工程を、本題に大きく関係する思考内容を作る形に設計する。
 目的の明確化にも意味がある。思考のどの工程でも、目的に照らし合わせることで、思考の質が低下するのを防げる。思考の目的は、本題のもっとも中心的な部分だからだ。何か新しい意見が出たら、目的と照らし合わせながら判断すればよい。
 以上のように、思考内容の上記のような分割は、思考やレビューをしやすくするためだけでなく、本題へ集中させる効果も狙った結果である。

設計時の視点を強く意識して使用する

 本コーナーで紹介している論理的思考方法は、このような視点で設計した結果だ。人間の思考特性と自然言語の特性を理解し、それらの欠点の影響ができるだけ小さくなるように設計してある。
 だからこそ、どの自然言語を使っても、思考の質をある程度まで確保できる。また、良い思考を邪魔する行為にも、かなり有効に対処できる。さらに、思考過程まで含めた思考結果を、第三者がレビューするのも容易になる。
 こうした特徴を生かすためには、設計時の視点を理解し、論理的思考方法を使う際に、常に意識することが有効だ。たとえば、本題から外れた話題を長く取り上げているときは、それが本題へどの程度影響するのか早目に判断し、話題を本題に戻す。また、何かを資料でまとめるときは、自然言語の欠点が小さくなるように形式を決める。このような行為は、設計時の視点を理解することで実現できる。
 以上のような意識を持って論理的思考方法を使用すれば、思考の質も向上しやすい。結果として、実質的な思考能力が向上し、より良い思考結果が得られるはずだ。

(2003年3月8日)


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