川村渇真の「知性の泉」

論理的思考に役立つ各種支援技術


論理的思考に役立つ技術を幅広く用意する

 論理的思考の細部では、物事を適切に評価したり、思考内容を細かく検査するといった、様々な作業が必要となる。これらが上手に行えるように、個々を独立した技術として用意したものが、各種支援技術である。
 すべての内容をあえて「技術」と呼んでいるのには理由がある。この種の内容だと、感覚的な注意点の羅列として提供することが多く、それでは実際に使えるレベルで習得できない。そんな形ではなく、一般的な技術と似た特徴を持つように仕上げるためだ。具体的には、複数の作業工程に分け、個々の工程で作るべき内容の形式も規定する。こうすれば、より多くの人が習得可能になる。全部の内容で達成するのは難しいが、できるだけ多く満たすように設計する。
 各種支援技術には、30以上の技術が含まれる。思考の対象は何でもあり得るので、技術も幅広い視点から選んだためだ。これによって、より多くの課題に役立つ。それ以上に、こうした技術は思考以外の普段の作業で多く使われるでの、それらの作業の質も格段に向上する。習得した際の利点としては、こちらの方が大きいだろう。
 30以上もの数になると、無理矢理にでも分類した方が扱いやすいので、以下の6つに分けた。強引な分類なので、この分類結果には深い意味はない。

論理的思考に役立つ各種支援技術の分類
・思考方法に関する技術
・規格や仕組み作りに関する技術
・情報の取り扱いに関する技術
・対話に関する技術
・管理に関する技術
・教育に関する技術

 これらの分類の中にどんな技術が含まれるのか、分類ごとに紹介しよう。技術の数が多いので、個々の技術の説明は、非常に簡単にした。ここでは、概略だけ理解できればよいだろう。

思考方法に関する技術

 まずは、思考方法に大きく関係する技術。思考方法の一部という捉え方もできるが、独立させた方が汎用的に使えるので、このような形に分離した。主なものは、以下の4つだ

思考方法に関する技術
・分析技術:物事の分析を手助けする技術
・評価技術:物事を適切に評価する技術
・検査技術:検査内容を設計して実施する技術
・比較技術:複数の対象の違いを明らかにする技術

 「分析技術」は、何かを分析するための視点や方法を提供する技術。分析という作業は、いろいろな内容を含むため、1つの方法が汎用的には使えない。そのため、何種類かの方法を用意して、代表的な分析作業が上手に行えるようにする。また、視点も重要なので、有効な視点を見付けるための方法も用意する。この2つを組み合わせることで、より良い分析が行えるように支援するのが、基本的な考え方だ。論理的思考と重なる部分もあるので、重ならない部分が内容の中心となる。
 「評価技術」は、物事を適切に評価する技術。いい加減な評価ではなく、質の高い評価を実現するための方法を提供する。評価目的、評価基準、評価方法と3段階に分けて設計することで、第三者がレビューできる評価方法を得られる。評価結果も含めた場合は、評価方法を用いた評価結果が最後に加わり、全体として4段階になる。基本的に難しい評価という作業を、多くの人ができるようにする技術である。
 「検査技術」は、対象となる内容の検査を正しく行う技術。検査というのは、まず検査基準があって、それに適合しているかを調べる作業だ。そのため、検査基準の設計から検査の実施までが中心となる。また、検査結果の記録や評価、結果が悪かったときの対処方法なども含む。
 「比較技術」は、複数の対象について、同じ部分と異なる部分を明らかにする技術。比較する目的に照らし合わせながら、比較すべき項目を洗い出して、項目ごとの比較方法を設計する。比較した結果を評価したり、整理してまとめる作業も含む。比較で重要なのは、異なる箇所だけ指摘するのではなく、同じ箇所まで取り扱う点。これらを総合的に評価して、最終的な違いの大きさを明らかにする。

 これらの技術は、論理的思考で頻繁に利用される。そのため、それぞれの基本部分だけは習得しておかなければならない。中でも一番重要なのは、評価技術だ。これだけは可能な限り深く習得した方が、より良い思考結果を得やすくなる。どんな課題でも、いろいろな箇所で評価する作業が生じ、その評価結果が思考結果に多く影響するからだ。

規格や仕組み作りに関する技術

 規格や仕組み作りに関する技術は、いろいろな技術を寄せ集めた感じになってしまった。技術的な内容から組織のルールまで、さらにレビューする技術という具合に何でも入れてあり、次の6つが含まれる。

規格や仕組み作りに関する技術
・体系化技術:物事の内容を体系的に整理する技術
・規格化技術:規格として通用するレベルで仕様化する技術
・作業設計技術:人間が行う作業を設計する技術
・レビュー技術:目的に合わせて適切にレビューする技術
・ルール設計技術:集団でのルールを設計する技術
・集団意思決定技術:集団での良い意思決定を支援する技術

 「体系化技術」は、対象となる内容を体系的に整理してまとめる技術。細かな内容を作ったり理解するのは簡単だが、それらを体系的に整理するのは難しい。しかし、体系的にまとめることで、矛盾点や不備な点が明らかになるし、全体を正しく理解するのが容易になる。こうしたことが実現できるように、対象内容の上手な整理方法を提供する。整理によって、適切な分類や不備な点が見付かり、体系化を実現できる。単に整理するだけでは体系化できないので、どのような視点で整理するかという、良い視点を求める方法も含む。
 「規格化技術」は、対象となる内容を、規格として通用するレベルに仕上げる技術。規格というの“明確に定められた仕様”であり、それに従うことで互換性を保証したり、一定の質を確保するのに使う。しかし、現実に作られている規格は、規格の作り方をよく理解していないで作られているので、規格としてのレベルに達してない部分が含まれている。その結果、細かな部分で互換性が保てなかったり、品質を確保できなかったりしている。仕方がないので規格の更新によって修正しているが、最初から良い内容で作れば、余計な手間や損害が防げる。それが達成できるように、規格として通用するレベルとは何なのか、どのような点を注意して作るのかを提供する。また、作成途中に一般公開してレビューを受けるような、現実的な作成方法も含む。
 「作業設計技術」は、人間が行う作業について、実際に行える形に設計する技術。作業目的から期待成果までを明らかにしてから、それを達成するのに必要な作業を整理する。通常は、数段階または数十段階に分解し、個々の作業が容易になる形で仕上げる。また、作業が成功したか確認する方法や、作業が失敗したときの対処も盛り込む。設計する際には、作業内容を中心に置くよりも、作成物を中心に置いた方がよい場合があるので、そういった内容まで含める。このような形で設計することで、難しい作業がある程度まで容易にできるように変わる。
 「レビュー技術」は、レビューを適切に行うための技術。何も考えないでレビューすると、重箱の隅をつつくような指摘になりやすく、レビューの目的とは反対の悪影響を持ってしまう。そうならないように、どんな点を見るべきか、どのような形で進めるべきか、どんな風に報告すべきかなどを提供する。レビューが普及してない現状を考慮すれば、レビューの役割や期待される効果などを、正しく理解させる点も重要だ。
 「ルール設計技術」は、社会または集団での活動がより良く行われるようなルールを、適切に作るための技術。深く考えずに出されたルールを単純に多数決で決めるのではなく、より多くの人が満足するようなルールを求める方法を提供する。現代社会では少数意見を尊重することも重要なので、時代に合ったレベルで、そうした意見を取り入れる方法も組み込む。
 「集団意思決定技術」は、集団による意思決定において、より良い内容を選択するための技術。意思決定の目的を明らかにし、それに照らし合わせながら候補を評価し、良い意思決定を導き出す。また、良い候補を見付ける方法も含む。候補の評価では、狭い視点での評価ではなく、少数意見を考慮したり、社会的な視点も考慮した評価を用いる。このようにして、集団の外へ公表しても恥ずかしくない意思決定を実現する。

 これらの中で論理的思考に一番関係が深いのは、レビュー技術だ。他人の思考結果をレビューするだけでなく、自分の思考内容をもレビューの視点で見れれば、思考結果の質を高められる。また、自分がレビューを受ける立場になることも多くなり、レビューの価値や方法を理解する必要がある。論理的思考には必須の技術といえるだろう。

情報の取り扱いに関する技術

 情報を取り扱う際に役立つ技術は、情報の整理や保存だけでなく、調査によって情報を得たり、作成した情報を公開することまで含む。それらは、次の4つの技術で構成される。

情報の取り扱いに関する技術
・情報整理記録技術:情報を整理して記録する技術
・調査技術:正しい内容が得られるように調査する技術
・公表技術:外部への公開情報を適切に作って公表する技術
・訂正技術:公開した情報を適切に訂正する技術

 「情報整理記録技術」は、情報を整理した形で記録するための技術。整理の面では、情報の特徴を見極めた上で、適した整理方法を最初に決め、それに従って情報を整理する。また、個々の情報が分類しやすい項目コードや、データベース化しやすい項目コードを設計する方法も提供する。さらに、情報の質や価値を判断して、その値を情報として加えたりもする。保存の面では、取り出しやすさや再利用しやすさに加え、勝手な書き換えを防ぐ方法や、無断で読めないようにする方法なども含む。全体としては、情報の整理や記録に関する幅広い内容を扱う。
 「調査技術」は、正しい内容を調査で得るための技術。インターネットの普及により、情報を手軽に入手できるようになったが、間違っていたり不正確な情報も多く氾濫している。そんな中から、情報の良し悪しを判断して、正しい内容を得る方法を提供する。正しいか確信が持てない場合にも対応し、不確実な程度を明らかにする。
 「公表技術」は、外部に公開する情報を適切に作り、上手に公表する技術。中心となるのは、公開する内容を作る部分で、適切に作るための方法を提供する。大事な項目が漏れてないとか、本当の姿が明らかになりやすいとか、できるだけ分かりやすい点を重視する。このような考え方に基づくので、自分たちに都合の良い形に仕上げる方法ではない。公表方法に関しては、できるだけ正しく伝わる点を重視する。大事な点を強調したり、原本へ容易にアクセスできるようにするなど、実際に役立つ方法を用意する。
 「訂正技術」は、既にある内容を的確に訂正するための技術。公表技術の付加的な技術という面もある。中心となるのは訂正内容の作り方で、どの部分をどのように訂正するのかだけでなく、訂正する理由や訂正後の影響なども含める。訂正内容の最適な公開方法は、対象となる内容や訂正理由によって異なるので、複数の方法を用意して、最適なものを選ばせる。

 これらの中で論理的思考に一番役立つのは調査技術で、使用する機会はかなり多い。挙げられた情報が正しくなければ思考結果を間違うので、影響が大きい情報ほど丁寧に調べなければならないからだ。複数の人が別々に調べて、後で付き合わせる方法により、調査の失敗や意図的な邪魔を防げる。

対話に関する技術

 複数の人の対話に関わる技術は、どんな活動をする場合にも役立つ技術の集まりとなる。もっとも基礎的なのは、伝えたい内容を文章で上手に表現する作文技術だ。その上位として、説明や発表といった個人の能力に関する技術、意見調整や議論などの集団作業に関する技術がある。この分類には、次の8つの技術が含まれる。

対話に関する技術
・作文技術:伝えたい内容を文章で表現する技術
・説明技術:伝えたい内容を上手に説明する技術
・提案技術:提案内容を的確に表現して伝える技術
・発表技術:様々な内容を上手に発表して伝える技術
・質問回答技術:質問や回答の内容を適切に作って使う技術
・説得技術:良い内容を相手に理解してもらう技術
・意見調整技術:全体として最良の意見に調整する技術
・議論技術:質の高い検討結果を得るために議論する技術

 「作文技術」は、自分が伝えたい内容を分かりやすい文章の形で作成する技術。芸術的な文章は対象とせず、正確で分かりやすい文章の作成を手助けする。多くの人が習得できるように、句の作り方から始めて、複数の文や段落へと進む。作文自体を科学的に分析して設計した結果であり、文章に関する単行本に多い、感覚的な注意点の羅列ではない。
 「説明技術」は、物事を分かりやすく説明するための技術。作文技術の上位に位置づけられ、文章による説明だけでなく、表、図、写真、動画などを使った説明も対象とする。どのような形式の材料を使うかに関係なく大事なのは、説明内容を的確に整理するとともに、それを理解しやすく見せることなので、その実現方法を提供する。良い内容は良く伝わり、悪い内容は悪く伝わる技術なので、悪い内容を良く見せるのを防止する。これも大事な点だ。
 「提案技術」は、提案したい内容を整理しながら作成し、希望する相手に伝える技術。中心となるのは、提案内容の質を高める部分で、提案目的から期待成果までを論理的に作れるように手助けする。伝える部分に関しては、書類として渡す方法を基本とし、渡す相手の選び方も含まれる。
 「発表技術」は、訴えたい内容を上手に伝えるための技術。資料を見せながら、口頭で説明する作業が対象となる。発表に適した形で内容を作る方法や、発表後の対話や対処なども含む。発表内容は、実際よりも良く見えるのではなく、実際と同じに見える形で作る。口頭での説明も同様で、だまして信じさせるのではなく、内容を正確に説明し、内容の良さを理解してもらう形となる。
 「質問回答技術」は、質問と回答を上手に行うための技術。中心となるのは、質問や回答の内容を適切に作る方法だ。質問では、知りたい内容が得られるような内容を作るし、回答では、相手がほしい形で内容を作る。こうした作り方を習得することで、質問と回答の質は格段に向上し、無駄なやり取りが大幅に減る。対話の中では質問と回答が多いので、対話の効率や質を向上できる。
 「説得技術」は、自分が訴えたい内容を相手に理解してもらうための技術。ただし、相手をだましての説得は対象としない。それを実現するために、良い内容は良く見え、悪い内容は悪く見える仕組みを盛り込む。このような方法なので、無理矢理に説得するのではなく、論理的な内容を理解してもらう形となる。当然、後からだまされたと思う可能性は低く、まっとうな説得方法といえる。
 「意見調整技術」も同様で、片方だけに都合の良い結果に調整するのではなく、関係者全体で最良の調整結果を得るための技術。それを達成するために、適切な作業手順や価値の評価方法を提供する。調整の過程や結果が記録に残せ、第三者がレビューすることも可能だ。関係者の目的が同じ場合でも異なる場合でも、問題なく利用できる。
 「議論技術」は、単なる意見の言い合いではない、議論と呼ぶに相応しい対話を実現する技術。論理的思考の道具を積極的に用い、思考内容を論理的に整理しながら議論を進める。また、議論を邪魔する行為を防いで、議論の質が低下しないように対処する。このような考え方で設計してあるため、論理的思考の内容をもとに、議論方法を構築した結果ともいえる。

 これらの技術は、すべて論理的思考が基礎となっている。相手をだますのではなく、内容を正確に伝える点を大前提としていて、それが実現できるような形で技術を設計している。そのため各技術での作成内容は、論理的に構成された形式となる。
 また、これらの技術は、論理的思考においても他の活動においても、すべて重要なものだ。そのため、全部の技術の基礎だけでも習得するのが望ましい。ただし、習得には適した順序があるので、最初は作文技術から始めなければならない。

管理に関する技術

 管理に関わる技術では、複数人グループや組織での活動に役立つ、主に管理者向けの内容を扱う。作業内容の計画や実施、組織や部下の管理などだ。誰かと一緒に作業する以上、こうした技術は欠かせない。含まれる技術は、以下のとおり。

管理に関する技術
・計画技術:活動などを的確に計画する技術
・実施技術:計画した活動を臨機応変に実施する技術
・管理技術:組織や部下を上手に管理する技術
・改善技術:様々な事柄を良い方向に改善する技術
・報告技術:目的に適した形で適切に報告する技術
・依頼引受技術:仕事などを依頼したり引き受ける技術

 「計画技術」は、対象となる活動の成功確率が少しでも高まるように、活動内容や達成目標などの計画を作る技術。活動目的や期待成果を明らかにし、失敗要因を取り除きながら、成功が望める計画を作成する。実際に使える計画内容に仕上げるために、参加者の必要スキル、担当、作業内容なども明確にする。作成する計画の細かさも変えられ、粗い計画でも細かい計画でも作れる。
 「実施技術」は、計画技術で作成した活動計画内容を用いて、上手に実施する技術。実施段階では、予定外のことがいろいろと発生するため、適切な対処が求められる。それを考慮し、計画を修正しながら当初の目的を達成するための方法を提供する。他に、実施内容を記録する方法や形式、実施後の評価方法なども含む。
 「管理技術」は、組織の責任者として組織活動を管理したり、上司として部下を管理するための技術。実際の現場で有効に使える内容に仕上げるため、感覚的な注意点を数多く並べる方式ではなく、科学的なアプローチによって設計された方式を採用している。幅広い活動に適用できるように、細かな作業項目の設計方法も含んでいる。
 「改善技術」は、様々な事柄をより良く改善するための技術。対象内容の本来の目的の明確化から始まり、問題点の洗い出して、対象内容を分解しながら、改善点を求めていく。何種類かのアプローチを提供することで、商品でも活動でも、あらゆるものを改善の対象とする。
 「報告技術」は、適切な時期や内容で報告するための技術。どんな報告でも、報告の相手や目的があり、それを考慮して報告の時期や内容を決めなければならない。場合によっては、報告する側とされる側が事前に打ち合わせて、報告の形式を決める必要もある。また、必要な情報が得られない状態や、予想外のトラブルが発生したときなど、順調に運んでないときの報告方法も対象とする。
 「依頼引受技術」は、仕事などを適切に依頼したり引き受けるための技術。依頼や引き受けの方法が悪いために、依頼した作業が失敗することが意外に多い。そうならないように、依頼する側と引き受ける側の双方で、それぞれ何を用意し、どんな点を明らかにしなければならないのかを示す。依頼の準備段階から、依頼時点、作業途中の報告、結果の納入と検査までを対象とし、依頼した作業が成功する確率を上げる。

 これらの技術は、論理的思考に直接関わるというより、思考結果を作る際に役立つ。問題の解決方法を設計したり、解決方法の実施計画を立てたり、実際に実施する方法を提供する。その意味で、論理的思考に間接的に役立つ技術といえる。

教育に関する技術

 教育に関する技術では、質の高い教育を実現するために必要な内容の集りとなる。単に知識を教えるだけでなく、実用レベルの能力を習得できることまでを対象としている。また、教育結果に相当する習得度が向上することも大切だ。該当する技術には、次の4つが含まれる。

教育に関する技術
・教材作成技術:細かな教育内容と教材を作る技術
・課題作成技術:教育目的や期待成果に合った課題を作る技術
・試験問題作成技術:試験目的に合った問題を作る技術
・教育技術:習得度が少しでも高まるように教える技術

 「教材作成技術」は、教育内容の細かな部分と、それに適した教材を作るための技術。基本方針は、読むだけで理解できる生徒が少しでも増えるように作ること。また、生徒によって理解しやすい説明パターンが異なるので、複数の説明パターンを用意する形が基本となる。これら実現するための様々な工夫を用意して、理解しやすい教材の作成を支援する。
 「課題作成技術」は、主に実習形式での課題を作るための技術。個々の実習に求められる習得内容を考慮し、それに適した課題が作れるようにする。さらに、各生徒の教育を長い期間で捉え、与える課題が幅広い分野に及ぶような管理方法も含む。多くの課題をこなす過程で、知識も幅広く吸収できるように配慮すべきだからだ。
 「試験問題作成技術」は、試験の目的に合った形で、試験問題を作成する技術。現在の試験問題の多くは、よく考えて作られていないため、覚えているか調べるだけの内容がほとんどだ。どんな試験問題でも、良い回答を得るために、どんな知識、経験、能力が必要なのか分析できる。また、知識を覚えていれば回答できるのか、理解していなければ回答できないのかも区別できる。こうした特徴を理解し、試験目的の作り方や、試験目的に適した試験問題の作り方を提供する。
 「教育技術」は、上記の良い教材、良い課題、良い試験問題を適切に利用しながら、習得度が少しでも高まるように教える技術。習得度を少しでも高められるように、生徒の習得度を強く意識した教え方を用いる。また、知識や能力といった教育内容のタイプによって教える容易さが大きく異なるので、タイプごとに適した教え方も用意する。

 これらの技術だが、課題が教育問題の場合を除いては、論理的思考には直接関係ない。それ以外の課題では、解決方法の一部に教育が含まれるなら直接役に立つ。もちろん、論理的思考を教える際にも利用でき、習得した人を増やす効果が得られる。しかし、論理的思考以外では、人に何かを教える機会は意外に多いので、いろいろな場面で役立つだろう。
 教育に関するこうした技術は、本来であれば確立し終わっているべきものだが、現実を見るとそうではないようだ。たとえば、試験問題の作り方を知らない人がほとんどで、深く考えずに作るため、対象となる知識を理解しているかではなく、覚えているか調べる問題ばかりを作り出している。教科書を中心とした教材に関しても、不十分な文字数や図の数で説明しようとしているし、1つの説明方法だけで済ませているため、習得できる生徒の数が増えにくい。こうした現状を大幅に改善するのにも、これらの技術が大きく役立つ。

どの技術でも作業工程と作成物の形式を用意

 論理的思考を支援するための技術は、以上のようにかなりの数になる。これらの技術内容には“重要な共通点”があり、一部の技術の説明で少し触れているだけなので、ここで簡単に補足しておこう。

 どの技術でも、実際に使えるレベルで習得できることが大切だ。それを実現するために、必要な作業を複数の工程に分割し、個々の工程で作るべき作成物の形式も規定する。工程の分割は、作業を分割するというより、途中で作った方がよい作成物を中心に置いて設計している。これらの作業工程や作成物は、各技術で扱う実際の内容に影響されない、技術ごとで普遍的なものとなる。そうした内容を見付けて、作業工程や作成物を設計するわけだ。
 作成物で重要なのは、第三者によるレビューである。それが可能となるように、できるだけ考慮して作成物の形式を設計する。そうすれば、作成者自身による作成中のレビューも容易になって、作成物の質が向上する。とくにチームで作業する場合は、誰かが作った作成物を、別な人が見ながら作業するため、レビュー可能な特徴が大きく効いてくる。当然のことだが、レビュー用として別な作成物を作るのは無駄なので、通常の作成物をレビューに用いる。

良し悪しが明確に現れる技術内容に

 論理的思考が求めていることの1つに、正しいことと間違ったことの区別がある。もちろん、思考結果によって明確に区別できるものもあれば、グレーゾーンにいるものもある。また、グレーゾーンにいても、正誤のどちらにどの程度近いのか、明らかにできることもある。
 こうした視点は、各種技術の内容を設計する際にも考慮する。各種技術を用いた作成物が、できるだけ正しい内容になるような工夫を盛り込む形で。論理的思考の場合と同じく、作成する内容を何個かに分解し、それらの間の整合性を確認できるようにすれば、正しい内容か判断しやすくなる。
 このように考慮した結果が、作業工程の分割と工程別の作成物規定である。たとえば評価技術なら、作成物を評価目的、評価基準、評価方法、評価結果の4つに分割して、それに応じた作業工程と作成物を規定する。また、前後に並んだ作成物の間で整合性が確保されているか、検査方法を用意する。レビュー可能な形式で規定することも、同様の効果が期待できる。作成物以外に関する点も同様で、少しでも良い内容で作れるように考慮するのは当然だ。
 他の技術でも同様の考え方を取り入れているので、作成物に含まれる内容の良し悪しが明確に見えるようになる。良い内容なら良く見えるし、悪い内容なら悪く見えてしまう。この点は非常に重要で、良い内容を作る圧力として働く。
 社会が進歩するほど、良い行動が求められるため、こうした要素がますます重要になってくる。それを理解しているので、未来を見据えた形で、各種支援技術を設計してある。

行う本人と相手の両方に利点を与える

 紹介した多くの技術では、それを利用して作る側とともに、作ったものを受け取る相手が存在する。個々の技術は、作る側にとって役立つのは当然だが、実は受け取る側にも大いに役立つ。技術を習得すると良い形式を知ってしまい、悪い形式の作成物を見分けられるからだ。
 例として、公表技術を取り上げてみよう。受け取る側が、公表された内容を見るとき、良い形式で作るとどのようになるか考え、それと比べるようになる。すると、公表された内容の形式が悪い場合、良い形式に作り替えることができる。その結果、矛盾する点、不明確な点、漏れている点が明らかになる。そんな点が多いほど、内容の質が低いと判断するだろう。
 さらに、受け取る側では、明らかになった不明点などを、作成した側に質問できる。納得できる回答が得られなければ、内容の質が低いと判断するしかない。こうした質問行為が強い圧力となり、良い形式での公表を促進する力として働く。社会的に有益な利用方法だ。
 もちろん、良い形式に従い、内容にウソを書くこともできる。その場合は、不明点などを指摘できない。しかし、これは個々の技術の範囲外のことなので、ウソへの罰則を含んだ法律を用意したり、ウソがバレやすい仕組みやルールを作るなど、別な方法で対処するしかない。
 以上のような効果が得られるのは、作成物を分割したり、レビュー可能な形式で設計しているためである。実際には逆で、こうした効果を期待して、作成物の分割やレビュー可能な形式を採用しているのだが。

個別の技術を用意する意義

 上記のような各種技術を、独立した形で提供する意義は何だろうか。この点も少しだけ取り上げてみよう。
 これらの技術は、論理的思考を用いて設計した結果でもある。だとしたら、各人が論理的思考を身に付け、それをもとに作ればよいという考えもできる。しかし、これでは非常に困った状況を生み出す。できない状態の人が、社会のほとんどを占めてしまうから。
 各種技術の内容を作り出すのには、かなりの時間がかかる。論理的思考を習得した上で、対象技術の実際の作業を経験し、どのような点を考慮したら良い結果が得られるのか、調べなければならない。また、数多くの失敗を知るために、他の人の作成結果も分析しなければならない。さらに、上手に作業するためには、いろいろなアイデアを盛り込む必要もある。1つの技術をそこそこのレベルに仕上げるだけでも、かなり大変だと分かる。
 もう1つ大きな問題がある。各種技術を自分で作っている間は、本来の課題に集中できず、その面でも良い結果を生まない。そんな状態が長く続けば、本人の能力がなかなか高まらず、たいていは疲れてしまうだろう。
 そうならないためにも、各種技術は最初から提供された方がよい。技術の内容は、それを作るのが得意な人に任せて、質の高いものを最初から用意する。多くの人は、それを学ぶ形で習得し、できるだけ短時間で多くの技術を身に付けるわけだ。それにより、本来の課題に労力を集中できる。また、各種技術を早い時期に習得可能なので、若い時期から質の高い成果を生みやすくもなる。
 以上のように、多くの人の思考能力は、各種技術を生むためではなく、そのときどきの課題に対して使えばよい。その方が、社会全体で考えても得になる。こうした状態を実現するために、各種支援技術を用意するわけだ。

世の中の様々な活動の質を大きく向上させる

 以上の各種技術の内容を見て、それが世の中に与える効果の大きさにも、大事なことなので触れておこう。賢い人なら気付いただろうが、世の中の様々な活動に大きな影響を与える。ほとんどの活動の質が、確実に向上するからだ。
 世の中のほとんどの人は、適切に質問や回答したり、文章や口頭で分かりやすく説明したり、上手に議論したりできない。また、評価の基礎すら知らないで、何でも評価している。その結果、レベルの低い失敗によって、余計な手間や時間を作り出してしまう。また、他人との争いごとを起こす原因や、間違った内容を主張し続ける原因にもなっている。
 少しでも多くの人が各種技術を習得すれば、このようなレベルの低い原因による失敗や争いが大幅に減らせるはずだ。もう1つ、見逃せない効果も期待できる。各種技術の内容は、悪い作成物や行為を見分けやすく設計してある。こうした技術が普及すると、いろいろな説明や契約の内容も良くなって、悪い行為や内容が発見しやすくなる。当然、だまされる人が減り、幸福の面でも役立つ。

 世の中の多くの人が評価や議論を上手にできない理由は非常に簡単で、良い方法を知らないことに尽きる。論理的思考と同様に、大学ですら教えていないためだ。こんな状況では、できない人ばかりいて当然といえる。今後の学校教育では、こうした各種技術の基礎ぐらいは、教育内容に加える必要がある。それも、できるだけ早目に。

(2002年8月26日)


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