川村渇真の「知性の泉」

論理的思考の実用要素


邪魔を防いで良い思考結果を得るための要素

 論理的思考の実用要素は、いろいろな人が参加して論理的思考を行うとき、思考の質を確保するために役立つ要素を含む。セコイ行為で思考を邪魔する参加者が少しぐらい含まれていても、質の高い思考結果を得るために必要な要素だ。
 残念なことだが、参加者の中には、論理的思考を邪魔する人がいる場合もある。その影響を最小限に抑えて、思考の質が低下しないように防ぐ工夫も含まれる。邪魔する力の影響が大きいこともあるので、こうした工夫は必須となる。
 もう1つ重要なのは、表向きのスローガンやアピールに惑わされない点。意見の本当姿を導き出し、正しく理解したうえで判断できるように、思考方法を設計しなければならない。現実の思考では非常に大切な部分だ。
 以上を含めて、論理的思考の実用的な条件をまとめると、次のようになる。なお、基本要素と重なる事柄は省略した。

論理的思考が満たすべき実用的条件
・複数の参加者でも適切に検討できる
・意見や価値観の本当の姿を明らかにできる
・論理的思考の邪魔行為を可能な限り取り除く
・思考内容を第三者がレビューできる
・仮定などの不確定要素を上手に扱う

 こうした条件を満たすには、いろいろな工夫が欠かせない。基本要素や強化要素も含めて、次のような工夫を盛り込む。

論理的思考の実用要素に含まれる主な工夫
・基本要素のうちで、とくに重要なもの
  ・思考の道具を用いる(作業工程と作成物形式)
  ・目的と結論形式を最初に設定
  ・目的と結論形式に適した思考工程の採用
  ・各工程での思考内容を作成物として残す
  ・思考内容の全体像を俯瞰表で把握する
  ・事柄の重要度を意識して検討する
  ・適切に評価して最良解を求める(含:各種支援技術)
・仮定などの不確定要素の適切な扱い方を規定(強化要素)
・意見や価値観の本当の姿を明らかにする
・入力材料(思考材料)を事前に検査&評価する
・グループでの思考作業の進め方を規定
・意見が一致しない場合の対処方法を規定
・邪魔する行為の内容と悪い理由を整理
・邪魔する参加者への上手な対応方法を用意
  (悪質な邪魔者の対処も含む)
・思考結果の良い公開方法を規定

 以上のように、いくつもの工夫を含んでいる。論理的思考の質が低下する状況はいろいろであり、その多くを救うために、これだけの工夫を用意した。どれも、欠かせないものといえる。
 この中には、基本要素として取り上げた工夫も含まれる。これも、邪魔する行為を防ぐのにも大きな効果があるからだ。それも含め、それぞれがどのような内容の工夫なのか、なんのために含めたのか、どんな効果が期待できるのかを、1つずつ順番に取り上げて解説しよう。

基本要素の多くが、邪魔する行為の防止にも役立つ

 基本要素に含まれる工夫の多くは、思考内容を上手に整理するために設計されている。思考内容を複数の要素に分割して思考しやすくするとともに、要素間の整合性も検査する。また、内容全体を俯瞰できる形で整理し、総合的に考えられる状況を作る。他にも、大事な事柄の漏れを見付けるなど、思考の質を高める工夫が多い。
 こうした形で思考作業を進めると、論理的思考が達成しやすく、その分だけ邪魔する行為がやりにくい。邪魔する行為というのは、論理的思考では採用されない内容を、何とか採用させようという行為だからだ。つまり、論理的思考をさせないようにする行為と等しく、論理的思考の達成度が高いほど、行為の効果が得られない。
 こんな特徴があるため、基本要素を正しく用いるだけでも、邪魔する行為をかなり防止できる。それで防げない行為は、これ以降で紹介する実用要素を用いて対処する。両方とも必要であり、相乗効果によってさらに効果が高まるので、基本要素をしっかりと実行することが大切だ。

仮定などの不確定要素の適切な扱い方を規定

 論理的思考の対象となる思考材料の中には、仮定や推測のように不確定な内容もある。それらは、事実とは明確に分けて扱わなければならない。また、材料ごとに不確実な度合いも異なるので、それを加味した思考も求められる。
 現実の世界の思考対象だと、不確定要素が含まれている場合が多い。その意味で、適切な扱い方は基本要素に入れるべきかも知れない。しかし、不確定要素が多いほど、思考内容が複雑になり、思考の難しさも増す。基本要素は少しでも簡単にしたいので、あえて強化要素に入れた。
 実用要素の視点で考えると、変な不確定要素を持ち出して、邪魔する行為が考えられる。自分たちに都合の良い仮定とか、相手に都合の悪い推測とか、良い思考の妨げになる事柄を挙げる行為だ。
 こうした仮定や推測が不適切なものなら、上手にあしらって作業を進めなければならない。そんな目的で、不確定要素の適切な扱い方が役立つ。適切に扱って思考するほど、邪魔するのが難しくなる。結果として、良い思考結果が得られやすい。

意見や価値観の本当の姿を明らかにする

 自分の考えが相手に認められそうもない場合、本当の姿を隠して訴える方法がよく用いられる。たとえば、相手にとって悪い点に触れず、良い点だけを強調する出し方だ。また、スローガンだけを強く訴えて権限を得、その後は効果の低い方法しかやらず、実質的にはスローガンどおりにしない方法もある。
 もっと巧妙になると、別な目的の意見や方法の中に、自分が達成させたい内容を含ませる方法も用いる。報道被害者を救う目的の法律の中に、報道機関を抑圧するための仕組みを組み込むといった形で。
 他にも、最良の解決方法が気に入らないとき、それを意識的に抜かしたり、欠点だけを強調して悪く評価したりする。そして、自分達に都合の良い内容を、最良でないにもかかわらずに採用させようとする。
 以上のようなセコイ行為を行おうとするとき、それを発見できなければ、相手の思うツボにハマってしまう。そうならないためには、出された意見や方法が持つ本当の姿を明らかにして、参加者全員が理解しなければならない。その方法には、次のような内容が含まれる。

本当の姿を明らかにするための主な方法
・意見や方法が持つ意味をより幅広く理解する
  ・一緒に肯定される内容を洗い出す
  ・一緒に否定される内容を洗い出す
・より具体的で詳しい内容を明らかにする
  ・スローガンだけなら、具体策を提示させる
  ・表面的な内容なら、より詳しい内容を出させる
  ・検討過程を含めた詳しい資料を出させる
・意見や方法の効果や副作用を的確に推測する
  ・以下の3つの視点で大きさや範囲を推測
    ・最終的な効果
    ・途中および最終的な副作用
    ・上記2つ以外の影響
  ・副作用を減らす改善案を考える
    ・副作用の原因を調べて改善案を求める
    ・改善案を含めた形で前と同様に分析
・対象内容が最良かどうか調べる
  ・大事な事柄が漏れてないか調査
  ・良し悪しの評価方法が適切か調査
  ・可能なら、その分野の専門家の意見を聞く
・本当の姿を明らかにする道具(作業方法と作成物)
  ・同時肯否定分析法:同時に肯否定される内容を分析
  ・詳細内容解明法:詳細内容を求めていく
  ・効果分析法:最終的な効果を分析(基本要素)
  ・副作用分析法:いろいろな副作用を分析(基本要素)
  ・影響全般分析法:考え得る影響を幅広く分析

 表面的に良さそうでも裏がありそうな意見なら、「同時肯否定分析法」によって、同時に肯定および否定される内容を洗い出してみる。その際、細かな部分で意見が一致しないこともあるだろう。たとえそうなったとしても、対象内容の本当の姿をより深く理解できるので、行う価値は十分にある。表面的な内容しかなくて中身が不明なら、「詳細内容解明法」を使って質問し、具体的な内容を出させる。もし出さないなら、他の人が論理的思考で導き出す。
 対象となる意見や方法が効果や副作用に関係する場合は、「効果分析法」や「副作用分析法」や「影響全般分析法」を用いて、それぞれの大きさや範囲を推測する。また、対象内容が最良かどうかも、疑問があれば調べる。これには、基本要素に含まれる思考工程を簡略化して用いる。
 対象となる内容によっては、大がかりな作業となることもある。その際には、複数の工程に分割し、それぞれで作成物を残す。こうすると、作業内容が適切だったか、後から簡単に調べられる。また、対象となった内容が、中心となる思考作業に採用された場合、こうした分析結果はそのまま活かせる。
 以上のような方法のうち、対象に対して適用できる何個かを選んで利用し、本当の姿を明らかにする。もし1つの方法でダメな点が見えたら、その段階で作業を中止して構わない。もちろん、参加者の誰かから異論が出れば、さらに続けたり、別な方法を適用する。

入力材料(思考材料)を事前に検査&評価する

 思考課題が複雑になるほど、中心部分の思考を混乱させない工夫が必要となる。そのための有効な手段として、思考材料を取り込む前に、その内容が妥当かどうか検査および評価する方法がある。そして、検査や評価で良いと判断された材料だけを、中心部分の思考工程へ取り入れる。
 このような方法を採用すると、中心部分の思考はそれに集中できるとともに、入力材料の検査の側も集中して行える。それ以上に意味があるのは、邪魔する目的で入力された材料を検査時点で却下でき、中心部分の思考に入れないことだ。これによって、邪魔する行為が難しくなり、思考の質が確保しやすい。
 どのような検査や評価を行うかは、材料の種類によって異なる。情報や実験結果なら正しさを検査し、意見ならば効果や副作用の大きさを評価する。材料の種類で行うことを分けず、全項目をひととおり調べてみる方法の方がよい。関係のない項目は無視すればよいからだ。そうした考えで役立つ内容を洗い出した結果は、次のようになる。

事前に検査&評価する主な方法
・検査&評価の作業手順
  ・材料の不明点や理解不能点を洗い出す
  ・材料の本当の姿を明らかにする
  ・材料の内容を分解して整理(再構成)
  ・事実と意見を切り分ける
  ・整理された材料の特徴を見て評価
  ・判断基準に照らし合わせて採否の判定
・材料を検査する視点
  ・表記が適切かどうか検査
  ・記載内容が正しいかどうか調べる
  ・どこかに矛盾点がないか検査
  ・大事な点が漏れてないか検査
・材料を評価する視点
  ・長所と短所の種類と大きさを明らかに
  ・重大な欠陥がないか調べる
  ・コストや難易度を明らかに
  ・期待される効果や副作用を求める
  ・副作用の改善方法と改善後の効果を求める
・材料が複雑な場合
  ・小さな思考工程を用意して検査&評価
  ・思考工程では、思考の道具を利用
  ・工程ごとに作成物を残す
・却下した材料の扱い方
  ・材料内容と却下理由を記録して残す
   (似たような材料を何度も出させないように)
  ・改善案を思い付いたら、取り出して再検討する
・事前の検査&評価に用いる道具(作業方法と作成物)
  ・不明点抽出法:材料の不明点を抜き出して整理
  ・構造構成整理法:材料の構造や構成を整理
  ・事実意見分離法:事実と意見を分離する方法
  ・材料採否判定法:材料の採用不採用を判定

 この作業は、決められた手順で行う。まず最初は、材料内容に含まれる不明点や理解できない点を洗い出し、それを解消する。通常は、材料を出した人が責任を持って行わなければならない。すべて解消したら、材料の本当の姿を明らかにする。その結果を使い、材料の内容を再構成して、材料の中身が理解しやすいように表現し直す。続けて、必要なら事実と意見を切り分ける。
 ここまでの段階で、材料の中身を適切に理解できるようになっているはずだ。後は、材料の効果や副作用、長所と短所などを調べて、全体の良し悪しを評価する。最後に、材料を採用するか却下するかを判定して終わりだ。採用したら、中心となる思考作業に取り込み、却下したら、材料の内容と却下理由を記録する。
 対象となる材料が複雑な場合は、それを検査および評価するだけでかなりの作業となる。その場合は、作業を複数の工程に分割し、工程ごとに作成物を作る形で進める。検査と評価だけで独立した思考工程という感じになるものの、検査と評価の質を確保しやすい。また、材料に複数の要素が含まれているときは、要素を分割して、それぞれに対して検査と評価を行う。
 当たり前のことだが、すべての材料に対して、上記の検査や評価を行うわけではない。見てすぐに分かるような材料なら、そのまま採否を決めて構わない。採否が難しい材料に対して、細かく検査したり評価するわけだ。
 こうした事前処理は、意見の対立しているとか、扱う範囲が広くて難しい場合に、思考内容を複雑化させない役目がある。それを理解し、適した状況で使うことが大切だ。

グループでの思考作業の進め方を規定

 何人かで一緒に思考する場合も、論理的思考の基本要素はそのまま利用できる。最初に思考目的や結論形式を明らかにし、最適な工程を選んでから、工程ごとに作成物を作り進む方法だ。そのため、思考工程の分割方法も、各工程の作成物の形式も変わらない。
 グループによる思考では、効率的に作業するために、いくつかの役割が必要となる。主な役割は、全体を仕切る1人の議長、作成物に内容を書き込む数人の記録係だ。これらの役割で担当者を決め、思考作業を開始する。通常は、思考作業の責任者が議長を担当する。
 参加人数が多い場合は、全員が集まって作業するのは非効率となる。議論の基本てきな特性として、人数が多くても少なくても、一度に発言するのは1人だけだからだ。そのため、参加者を複数のグループに分け、それぞれが別な作業を担当する。当たり前だが、グループごとにグループ議長とグループ記録係を決める。
 思考の質を保つために、どのグループの作成物でも、別なグループがレビューする。重要度の高い作成内容だけは、全グループが作成またはレビューに参加する。作業内容として、整合性や漏れの検査などがあるため、並行して行うことが可能だ。このように、グループに分けて別々な作業を進め、思考内容をどんどんと作りあげる。
 事柄を洗い出すような作業では、参加する人数が多いほど、大事な事柄が漏れにくい。そうした作成物に関しては、全グループが個別に作業し、特定のグループが各グループの結果を集めて整理する。その後で、複数のグループがレビューすればよい。
 こうした全体の流れは、全体での議長が管理する。以上の内容をまとめると、次のようになる。

グループでの思考作業の概要
・グループによる思考作業で付加する要素
  ・議長や記録係などの役割を誰かが担当
  ・一時点では1つの作業に集中
  ・基本的に、意見が一致するまで検討
  ・意見が一致しない場合に採決
  ・否決された反対意見なども作成物に記録
・人数が多い場合に付加する要素
  ・複数のグループに分けて別な作業を割り当てる
  ・各グループの作成物を別なグループが検査
  ・洗い出し作業などは、全グループの結果を合体
  ・重要内容は全グループが作成かレビューに参加
・グループによる思考作業で役立つ道具
  ・複数グループでの作業分担の設計方法
  ・分担した作業の進捗管理方法
・グループによる思考作業で加味する作成物
  ・グループ作業管理表:複数グループでの作業進捗を記録

 複数グループで作業する際には、「複数グループでの作業分担の設計方法」で作業内容を割り当て、「分担した作業の進捗管理方法」で作業の進み具合を管理する。そのとき「グループ作業管理表」を利用する。これは議長役の仕事だ。

意見が一致しない場合の対処方法を規定

 論理的思考方法を採用すると、思考内容を上手に整理しながら作業するため、通常は良い内容が問題なく選ばれる。そうでない方法に比べて、意見の不一致が起こりにくい。そうであっても、一部の内容に関しては、意見が一致しないこともある。その多くは、簡単には判断できない内容だ。
 簡単には判断できない理由として、基本要素だけでは、思考内容が上手に整理されてない状況が考えられる。そのため、思考内容を整理する道具を追加する。また、判定方法や評価方法も利用する。
 適切な思考結果を得るとき邪魔になるのが、「価値観の違い」との判定。実際には悪い価値観もあるので、主張する価値観の本当の姿を明らかにしてみる。こうすれば、悪い価値観の側は主張しづらくなって取り下げる。
 このように工夫して、できるだけ最良解を選べるようにする。それでもダメな場合にだけ、採決で選択する。このように、安易な採決で決めるのを可能な限り避けている。
 以上のような点を考慮すると、意見が一致しない場合の対処には、次のような内容が含まれる。

意見が一致しない場合の対処
・意見を一致させるための手順
  ・意見や価値観の本当の姿を明らかに
  ・意見の一致を目指して検討(通常の検討作業)
  ・思考内容が適切に理解できるように整理
  ・整理した後で、さらに深く検討
  ・可能なら、適切な評価方法を用いる
  ・(場合により)第三者に評価してもらう
  ・(場合により)関係者に公開して意見を調査
  ・対立内容の優劣判定方法を用いる
  ・判定結果を知ったうえで採決
  ・採決でも不一致なら、対立結果を記録
・意見の一致を手助けする道具(作業方法と作成物)
  ・対立内容の優劣判定方法
  ・物事の適切な評価技術(各種支援技術)
・意見の不一致を解消するための作成物
  ・論理整理図:思考内容の論理を整理(基本要素)
  ・対立内容整理表:対立する状態を見やすく整理
  ・対立結果記録表:意見が一致しなかった結果を記録

 対立内容を整理する際には、2つの道具を用いる。基本要素の「論理整理図」は、思考内容自体の論理構造を分かりやすく表現する。「対立内容整理表」の方は、対立している部分を整理する。この2方向から見ることで、内容の良し悪しが見えてくる。
 このようにしても対立が消えないなら、最終手段として「対立内容の優劣判定方法」を用いる。この結果を知ったうえで、どちらを選ぶか採決する。採決で全員が一致しない場合は、その結果を「対立結果記録表」として残す。この中には、誰がどの内容を支持したのかまで含めてある。
 重要な対立点の場合は、その対立結果記録表を思考結果に含める。こうすると、全体の思考結果を第三者がレビューしたとき、誰の意見が正しいかったか判断する材料として役立つ。

邪魔する行為の内容と悪い理由を整理

 思考の道具を利用し、グループでの思考作業方法を用意することで、邪魔する行為はかなりやりづらくなる。しかし、それでも行う人が出るだろう。
 それを少しでも防ぐためには、邪魔する行為の具体的な内容を知ってもらう方法が非常に有効だ。どんな行為が悪いのか知れば、それをやりづらくなる。邪魔する行為の代表例を数多く挙げ、思考作業を始める前に見せるとよい。
 内容が明確に伝わるように、悪い行為を整理した資料を提供する。その資料では、行為の種類で分類し、悪い理由も示す。さらに、行為や発言の具体的な例を挙げて、より確実に理解できる形に仕上げる。
 どのような行為が該当するのか、代表的なものを挙げてみた。簡単に分類すると、次のようになる。

邪魔する行為の代表例
・思考作業自体を混乱させる
  ・良い思考結果を認めず、次の作業へ進ませない
  ・論理的思考の方法自体を悪く言う
  ・いろいろな方法で、思考作業をさせない
・自分に都合の良い結論へ導こうとする
  ・ウソや間違った情報を持ち出す
  ・良い事柄を意識的に外して述べる
  ・良い事柄のウソの欠点を指摘する
・適切な思考内容を認めず、進行を邪魔する
  ・反対意見の欠点ばかり繰り返し指摘する
  ・自分の意見の欠点を認めようとしない
  ・説得力のない理由を押し通そうとする
  ・重要でない事柄を重要だと訴え続ける
  ・他の子供じみた行為で邪魔する
・大事な点を説明せずに、はぐらかし続ける
  ・具体的な内容や詳しい話をしない
  ・意見や判断の根拠を示さない
  ・定義が違うなどと文句を言い、回答から逃げる
・思考対象と直接関係ない話題へ誘導する
  ・対立意見の相手の印象を悪くする
   (人格攻撃、決め付け、皮肉、言い方への悪口など)
  ・感情的な争いに持ち込む
  ・意味のない抽象的な話に持っていく
   (芸術とは何か、文化とは何かなど)
・その他もろもろ
  ・権力などを利用して参加者に圧力をかける
  ・良い意見を出した参加者を途中で排除する

 邪魔する行為の一覧を実際に作る際には、もっと数多くの行為を集め、もう少し体系的に分類する。数が多いと分かりにくくなるので、2段階ぐらいに分けた資料を作る。第1段階では、悪質で影響の大きい行為を集め、残りを第2段階の資料に入れる。まず最初は、第1段階の行為を読んでもらい、それが理解できたら第2段階に移る。
 慣れてない最初のうちは、とくに意識せずに該当行為をやる人もいるだろう。その場で指摘され、それを何回か経験するうちに、意識しなくてもやらない体になる。このように、実際の体験で理解させる方法が、多くの人にとって有効だ。

邪魔する参加者への上手な対応方法を用意

 論理的思考に含まれる様々な工夫により、適切な思考を邪魔するのが難しくなる。しかし、それでも自分たちの望む思考結論に決めさせようと、いろいろな形で邪魔する人が現れるだろう。そんな行為への適切な対処も、実用要素には含めなければならない。
 こうした対処で重要なのは、毅然とした態度である。あまりにもひどい相手なら、参加者として失格なので、参加権を取り上げて退場させなければならない。ただし、そうした対処もあり得ることを、思考作業の開始前に伝え、やらないようにプレッシャーを与えることが大切だ。
 以上のような考え方で検討すると、参加者の邪魔する行為への上手な対処は、次のような内容になる。

邪魔する参加者への上手な対処方法
・対処に関する基本的な考え方
  ・悪い行為を理解させる
  ・行ったときに、その場で警告
  ・繰り返し行った参加者は退場させる
  ・行う前にプレッシャーを与える
・思考作業を開始する前の準備
  ・何が悪い行為か参加者に知らせる
  ・判定と対処のルールを作業開始前に公表
  ・ひどい場合には、思考結果に含める点も強調
・退場の判定ルール
  ・悪い行為を、悪い度合いに応じて分類
  ・分類した悪い行為に点数を付ける
  ・悪い行為を警告したら、点数を加算
  ・累計点数が事前設定点数を超えたら退場
・邪魔する行為を記録する
  ・全部の悪い行為を、行った順に記録
  ・記録内容1:行為者、行為種類、行為名、点数
  ・記録内容2:時期、作業内容、相手など
・邪魔する行為への対処に必要な作成物
  ・邪魔行為記録:各人の悪い行為の記録

 対処方法の主な目的は、邪魔する行為をやらせないことにある。そのために、悪い行為を理解させたり、行ったら警告して記録したり、最悪の場合には記録を思考結果に含めると、事前に説明する。こうしたプレッシャーによって、邪魔する行為をやりにくくする。それが思考の質を高めるのに役立つからだ。退場させるのは、それで悪い行為を繰り返す相当にひどい参加者の場合だけである。
 このように、いくつかの工夫を標準で用意しておくと、邪魔する行為への対処がやりやすくなる。それでも開始前の説明時に文句を言う人が出る可能性があるので、このように決めた理由の説明も用意する。様々な反論を予想し、それらを論破する内容も含める。どれも詳しすぎるぐらいの説明が望ましい。それがあれば、邪魔しようとする人の開始前の反対攻撃にも、上手に対処できるはずだ。

思考結果の良い公開方法を規定

 論理的思考方法がいくら有効であっても、参加者の過半数が邪魔する行為をしだすと、有効には働かない。細かな部分の決定で、多数決により適切な内容が選ばれないからだ。
 この欠点を少しでも改善するのに、思考結果の公開が役立つ。とくに、思考の参加者とは別の人達が思考結果の公開基準を決定できると、それに参加者は従わなければならない。思考結果が細かく公開されて、第三者からレビューされると知れば、好き勝手な邪魔行為がやりにくくなる。
 こうした状況を考慮し、実用要素の中で、思考結果の公開方法を規定する。その中には、公開内容の設計方法、公開内容形式の例、適切な運営方法なども含まれる。主な要素は、次のどおりだ。

公開方法に含まれる主な要素
・第三者がレビュー可能な公開レベルの確保
  ・必要な詳しさの設計方法を提供
  ・設計結果は書式として作成
  ・設計内容の評価基準&方法も提供
  ・代表的な思考目的での公開内容の設計例を用意
・意見が対立した箇所の公開方法
  ・お互いが納得しない重大点は、公開内容に含める
  ・公開対象は、両意見、論点、各賛成者名、決定内容など
  ・激しい対立なら、参加者各人の個人結論を入れる
・公開が適切に行われる運営方法の提示
  ・公開の方法と内容は参加者以外が設計する
  ・公開が有効に働くように公開対象者を選ぶ
  ・公開の方法と内容を思考作業の開始前に通達
  ・第三者によるレビュー実施も開始前に通達
  ・思考作業が長いなら、途中状態も公開させる
・公開方法と公開内容形式の参考例を提供
  ・設計方法を適用して作業する過程解説
  ・公開方法の例(思考開始前からレビュー終了まで)
  ・公開内容形式の例
・必要なら、邪魔する行為の記録も公開
  ・思考開始前に、邪魔行為の公開の可能性を通達
  ・邪魔行為がひどい参加者なら、躊躇せず公開する
  ・公開内容は、邪魔行為の種類と回数の一覧
・公開内容への異議申し立てと反映方法
  ・異議申し立ての方法と意義内容形式
  ・意義内容の検査基準と検査方法
  ・意義内容の集計と反映方法

 思考結果を公開する目的は、思考の質を保つためである。そうなるように、公開方法、公開内容、公開対象を決定する。一番重要なのが公開内容で、論理的思考の作成物に等しい。その細かさだが、第三者によるレビューが可能なレベルを満たす必要がある。そうしないと、思考結論が適切なのか判断できないからだ。
 行政に適用する場合は、事業などの金額に応じて、公開する細かさを設定すればよい。金額が多いほど細かく公開して、第三者がレビューしやすい状況を作る。当然ながら、事業が完了した時点だけでなく、計画段階で内容をレビューするとか、実施段階でも毎年公開するとか、問題が生じている場合に発見できる状況を作らなければならない。このような方式を採用すると、無駄な公共事業が格段に減って、税金が有効に使われる。
 公開された思考結果を見た人の中から、異議を申し立てる人が現れる。ただし、その異議内容が適切だとは限らない。これも論理的思考を適用した検査方法によって、良し悪しを判定する。良いと判断された異議内容を集めて、思考結果に反映させる。反映作業は基本的に最初の参加者が行うが、思考結果がひどい場合は、参加者を入れ替えた方がよい。

もちろん限界はあるが、通常は大きな効果が得られる

 以上のように、現実の思考作業で効果のある工夫は何個もある。これらを積極的に用いると、通常は良い思考結果が得られやすい。
 もちろん限界もある。参加者の過半数以上が邪魔する行為を行う人なら、多数決による採決で、本来なら選ばれない内容に決まってしまう。その意味で、絶対に効果のある方法ではない。ただし、悪い結果ができるだけ通らないように、レビュー可能な形式での作成物や、第三者によるレビューなど、複数の工夫を盛り込んでいる。参加者が悪くても、そう簡単には終わらないというわけだ。
 グループによる思考作業の場合、思考結果の質を左右する大きな要因は、実行の責任者にある。通常は、この責任者が議長を担当し、邪魔する行為を指摘したり排除するからだ。その意味で、実行責任者に優秀な人物を選ぶことが、成功の鍵となる。
 逆に、実行責任者がひどい人物だと、思考結果の質は期待できない。邪魔する行為を許すだけでなく、自分から恣意的な行為を行って、思考作業が根本的にダメになる。そうなると、マトモな思考結果など得られない。たとえ思考終了後のレビューで思考結果が悪いと判定されたとしても、思考作業を最初からやり直す事態になるため、最初から優秀な人物を選んだ方がよい。
 実は、レビューに関しても同じことがいえる。グループによるレビューの場合、その責任者に優秀な人物を選ばなければならない。

(2002年8月9日)


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