川村渇真の「知性の泉」

論理的思考の基本要素


基本要素は最低限必要な要素の集まり

 論理的思考の基本要素は、論理的な思考を達成するための基本部分の要素を含む。思考結果の質を確保するために最低限必要な要素だ。そのため、一般的な課題に関しては、絶対ではないものの、良い思考結果が得られる可能性が高い。もちろん、課題が難しければ、基本要素に加えて、実用要素や強化要素が必要になる。
 基本要素に含まれる内容は、1人で思考する場合にも、グループで思考する場合にも使える。1人でもグループでも、思考作業の基本的な部分は変わらないからだ。グループで変わるのは、意見の対立が生じることで、その解決が求められる。その点に関しては、基本要素でなく実用要素で扱う。
 基本要素の内容は、論理的思考が満たすべき基本条件から求めてある。その条件とは、次のようなものだ。

論理的思考が満たすべき基本条件
・いろいろな面で論理的に正しく
・適切な目的と結論形式
・全体を総合的に検討する
・重要な事柄ほど重視して扱う
・重要な事柄の漏れをなくす
・可能な全選択誌の中から最良を選ぶ
・解決方法などは、良い設計方法を用いて作る
・解決方法などの効果を適切に予測する
・良い評価方法を採用する(支援技術)

 以上のような点を満たすためには、何らかの工夫が必要となる。実際の思考作業で役立つレベルの工夫が。そう考えて求めたのが、以下のような「論理的思考の基本要素に含まれる主な工夫」である。

論理的思考の基本要素に含まれる主な工夫
・思考の道具を用いる(作業工程と作成物形式)
・目的と結論形式を最初に設定
・目的と結論形式に適した思考工程の採用
・各工程での思考内容を作成物として残す
・思考内容の全体像を俯瞰表で把握する
・要所要所で漏れがないか検査する
・事柄の重要度を意識して検討する
・蓄積された良い設計方法の活用
・効果と副作用の大きさを事前に予測する
・部分または全体で論理性を検査する
・適切に評価して最良解を求める

 これらの工夫で重要なのは、中身の深さだ。できるだけ多くの人が確実に実行できるレベルが求められる。作業手順や作成物形式といった道具を用意し、それを用いて行えるようにしなければならない。こうした点まで十分に考えて提供することで、実際にできる人が確実に増える。
 基本要素の内容は、これらの工夫を集めたものになる。それがどのようなものなのか、工夫ごとに順番に解説しよう。

思考の道具を用いる

 論理的思考の基礎を固めるのが、思考の道具だ。道具がない状態で思考すると、課題が複雑で難しいほど、思考内容を上手に整理できない。こんな状態に陥らないために、道具を用意して、思考の質を確保する。
 思考の道具には、作業の内容や注意点を集めた作業方法と、作成物の形式が含まれる。作成物の形式を規定し、書き方を説明することで、思考内容を上手に記録することが可能となる。作業方法は、思考の良い流れを支援し、途中での質の高め方も提供する。この2つを用意することで、思考作業が確実に行える環境を整えている。
 作業方法と作成物形式の2つ以外にも、各種支援技術に含まれる道具と、それに含まれない技術の道具を利用する。こちらも考え方は同じで、作業方法と作成物形式を用意する。これらを整理すると、思考の道具に含まれる主な要素は、次のとおりだ。

思考の道具の主な構成要素
・主な作業方法(作業の内容や注意点を規定)
  ・基本作業:基本となる作業で、必ず実行する
    ・思考目的の明確化
    ・思考結論形式の設定
    ・思考工程選択:最適な思考工程を選択する
    (以下は、思考目的が問題解決の場合)
    ・現状把握:判明している事実を集める
    ・問題点調査:問題点とその影響を調べる
    ・原因究明:問題点の原因を明らかにする
    ・対処候補:解決に役立つ対処の候補を挙げる
    ・対処評価:対処ごとの効果と副作用を評価する
    ・対処組合せ候補:対処の有効な組合せを挙げる
    ・対処組合せ評価:組合せの効果と副作用を評価する
    ・対処組合せ選択:最良の組合せを選ぶ
    (これ以外にも、別な目的で使う工程を用意する)
  ・随時作業:付加的な作業で、必要なとき実行する
    ・記述検査:記述の仕方が適切かを検査
    ・事柄検査:事柄の内容が本当かを検査
    ・漏れ検査:工程ごとの事柄の漏れを検査
    ・論理性検査:部分または全体での論理性を検査
    ・整合性検査:工程間での事柄の整合性を検査
    (他の随時作業は省略)
・主な作成物(記述形式と書き方を規定)
  ・思考の目的と結論形式
  ・思考内容の全体俯瞰表(正順と逆順)
  ・各工程の工程事柄一覧(却下事柄一覧も)
  ・事柄内容を記述する事柄説明書
  ・論理の構造を図で表す論理整理図
  ・重要度の組合せを総合的に評価する重要度分析表
  (条件網羅確認表といった他の作成物は省略)
・思考重要技術(作業方法と作成物を規定)
  (一部の基本作業で使われる重要な技術)
  ・重要度判定法:事柄ごとの重要度の判定方法
  ・副作用分析法:副作用の種類と大きさの分析方法
  ・解決方法設計術:良い解決方法の設計術
  ・効果分析法:効果の大きさの分析方法
  (他の重要技術は省略)
・その他(各種技術の形で、作業方法と作成物を規定)
  ・評価技術:適切に評価する技術
  ・レビュー技術:適切にレビューする技術
  ・議論技術:論理的思考を基盤とした議論の技術
  ・(上記以外は省略)

 主な「作業方法」には、作業の中心的な流れに入っている「基本作業」と、必要なときに行う「随時作業」がある。決められた工程順の基本作業を進めながら、適切な時期に随時作業を入れることになる。上記では、思考目的が問題解決の例を示したが、他の目的に必要な作業も用意する。
 主な「作成物」には、各作業での作成物の形式と書き方が含まれる。「工程事柄一覧」と「事柄説明書」は、ほとんどの工程で使える形式を採用し、中に含む項目を変えて用いる。「思考目的」と「思考結論形式」と「全体俯瞰表」の3つは、思考課題ごとに1つずつ作る。
 残りの2つは必要なときだけ作り、課題が難しくない限り不要だ。「論理整理図」は、課題要素の論理関係が難しいときだけ作り、論理の正しさを確保する。「重要度分析表」は、各工程ごとに重要度がいろいろあり、重要度の組合せが複雑なとき、総合的に見た重要度を適切に理解するために作る。
 「思考重要技術」では、各種支援技術に含まれない、論理的思考にとって重要な技術を加える。各種支援技術と同様に、作業方法と作成物形式を規定し、一部の基本作業を行うときに利用する。こうして独立させた方が分かりやすく作れるので、あえて分離している。場合によっては、各種技術の方へ移しても構わない。
 「その他」に含まれる評価技術などは、基本要素ではなく各種支援技術に含まれる。それぞれ独立した技術として用意し、作成方法と作成物の形式が含まれ、複数の作業工程に分かれている。それに従って作業すれば、必要な作成物が残る。

目的と結論形式を最初に設定

 論理的思考ができてない多くの例では、間違った方向に進んだり、途中で迷走ばかりしていて、有効な思考結果を得られないでいる。このような状態になりやすいのは、何のために思考しているのか分からなくなったり、どんな形式の結論を目指しているのか見えなくなるためだ。
 そうした状態に陥らないように、思考目的と思考結論の形式を最初に明らかにする。まず最初は、思考目的だ。問題解決であれば、どんな問題が生じていて、それを解決することが目的となる。通常は、短い文で表現する。当たり前の文になるため、この段階で迷うことは少ない。
 課題が非常に大きい場合は、全体を一度に検討するのは難しい。そこで、複数の課題に分割し、課題ごとに目的を設定する。もし分割が非常に難しいときは、分割自体を課題に設定して、適切な分割が目的になる。
 思考目的が明確になったら、それを達成するための思考結論について考える。目的が問題解決であれば、具体的な解決方法が思考結論になる。これだけだと、実際に役立つ思考結論が得られるとは限らない。もしそうなったら、良い思考とは言えない。思考結論の質を確保することも、良い思考の重要な条件である。
 思考結論を良くするためには、その内容がどのような形式で作られるのかを明らかにする。どんな項目が含まれ、どのようなレベルまで記述するのか、この段階で明確に設定しておく。続く作業では、この結論形式の形で思考結論が得られるように作業を進める。
 結論形式で重要なのは、思考目的との整合性だ。結論形式が明らかになったとき、思考目的が達成されるかを検査しなければならない。こうした整合性の検査が、論理的思考では非常に大切だ。

目的と結論形式に適した思考工程の採用

 思考目的と結論形式が明確になったら、それ以降の思考工程の選択に移る。何でも自由な工程を採用するわけではなく、目的や結論形式の種類に適した工程がほぼ決まっているので、それを採用する。ただし、課題によっては、工程を多少修正しても構わない。もちろん、納得できるだけの修正理由が必要となる。
 工程の分割は、作業内容から見た分割ではなく、作成物から見た分割である。思考作業の途中で作るべき重要内容を洗い出し、それを作る順に並べた結果が工程だ。そのため、すべての工程で何らかの作成物を作らなければならない。また、すべての作成物の形式も規定して、作成物の質を確保する。
 工程となっているものの、ただ順番に作業するだけではない。前の工程で間違いや漏れが見付かったら、それを反映して修正する。その結果、後ろ側の工程の作成物も影響を受け、それぞれの工程の内容を見直すことになる。このように、ときどき戻るのが当たり前の工程だ。
 複数の工程に分ける最大の理由は、思考途中の内容を細かく記録することにある。その結果、参加者自身が思考内容を的確に理解でき、思考の質が向上するのを狙っている。また、思考途中まで記録することで、第三者によるレビューも容易にできる。どちらの面でも、思考の質の向上に貢献する。
 分割の意味を、もう少し詳しく解説しよう。思考内容と等しい作成物を分割しているので、思考内容の途中状態を記録していることになる。その思考内容とは、一番最初が思考目的で、最後が思考結論だ。つまり、思考目的から思考結論までの間を数段階に分割し、間の状態まで記録していることに等しい。間の数が多いほど、整合性を検査したり、漏れを見付けるのが容易になる。また、思考内容全体を一気に考えるのではなく、分割された部分部分で考えればよいため、思考の難しさが軽減され、良い思考結果が得られやすい。
 以上のように、複数の工程に分割すると、様々な効果が期待できるし、思考の質の向上に大きく貢献する。

各工程での思考内容を作成物として残す

 各工程での作成物は、思考内容の単なる記録ではない。適切に思考するための道具でもある。その時点までの思考内容を作成物として作っておけば、それは思考内容を整理した資料にもなるので、それを見ながら行うと適切に思考できる。また、思考内容が整理されることで、何も書かないで思考するよりも短時間で思考が終わる。質の面でも効率の面でも改善できるわけだ。
 こうした思考方法を可能にするために、加えるべき事柄が現れたときは、すぐに「工程事柄一覧」へ追加して、その詳しい内容を「事柄説明書」に書く。このようにして、各工程の作成物を最新の状態に保つ。当然、重要度や副作用などの情報も、検討しながら書き加えていく。
 事柄の中には、検討に値しないものもあるだろう。そんな事柄は、適切な理由を示して却下し、「却下事柄一覧」に移して却下理由まで記録する。こうしておけば、却下された事柄が何度も挙がってくることはないし、却下の理由も明確に示せる。また、工程事柄一覧のゴミが減って、思考内容が見やすくなる。もちろん、却下の判断が間違っていたと判明したら、再び戻せばよい。
 一部を却下しても事柄数が多いときは、何かの基準で事柄を分類する。その分類によって事柄を並び替えると、工程事柄一覧が見やすくなる。こうした工夫は、思考内容を正しく理解するのに必要なことだ。上手な分類方法も、作り方に含まれる。
 これら以外の作成物も、必要に応じて作成する。その場合も、作りながら思考するという基本原則は変わらない。それが可能になるように、作成物の形式を設計する。
 以上のような形で利用した作成物は、思考が終わっても残しておく。それを見れば、第三者によるレビューが容易になるからだ。作成物の形式は、レビューを考慮してあるため、レビュー用に別な作成物を作る必要はない。そもそも、レビューしやすい形式というのは、作成者自身でも内容を理解しやすいので、分けること自体が良くない。

思考内容の全体像を俯瞰表で把握する

 思考内容を総合的に検討せず、一面だけから見て判断すると、思考の質が低下しやすい。こうした失敗は、扱う課題が複雑なほど起きやすくなる。課題が複雑だと、思考内容の全体像が見えにくいためだ。
 そうならないように、思考内容の全体像が整理できる道具「全体俯瞰表」を利用する。正順タイプでは、思考の工程順に事柄を並べ、事柄間の関係や重要度も入れる。必要なら逆順タイプも作る。こちらは、思考結論の候補から逆にたどり、関係する事柄が全体的に見れる。
 全体俯瞰表には、目的の明確化、思考結論の形式の設定、それ以降の工程の選択という、最初の3つの工程は含まれない。また、最後の選択工程も不要だ。これらを除く全部の工程が対象となる。通常は、4つ目の工程から作り始めて、工程が進むごとに、1工程分ずつ追加していく。
 工程数が多いときは、候補と評価の工程を合体して作る。また、事柄の数が多いときは、重要度の低い事柄を省略する。このようにすれば、全体俯瞰表の見やすさが向上し、思考内容の全体像が把握しやすくなる。
 全体俯瞰表を作るのは、思考内容を総合的に見て、思考内容が適切かどうかを判断するためである。だからこそ、工程ごとの作成物と一緒に作り進む。通常は、各工程の最後当たりで見直し、その工程の思考内容が適切かを判断する。
 ただし、課題が簡単な場合は、工程数も少ないので、全体俯瞰表をわざわざ作らなくても構わない。工程ごとに作る「工程事柄一覧」を並べて見れば、思考内容の全体像を把握できるからだ。

要所要所で漏れがないか検査する

 思考内容の質を低下させる原因の1つは、重要な事柄の漏れ。非常に重要な事柄が1つでも漏れていると、思考結果が悪くなって当然である。世の中の多くの思考では、漏れを防ぐどころか、思考内容を総合的に把握してもいないので、良い思考結果が得られていない。そうならないように、良い思考方法には、漏れを防ぐ仕組みが必須となる。
 何が漏れているか調べるためには、思考内容の現状を的確に把握できなければならない。その目的に「工程事柄一覧」と「却下事柄一覧」と「全体俯瞰表」が役立つ。どちらも、工程内容全体または思考内容全体を一覧形式でまとめたものだからだ。漏れを見付ける際には、これらの作成物を利用する。一覧の事柄をただ並べるよりも、上手に分類して並べる方が、漏れを発見しやすい。
 もう1つ重要なのは、漏れの見付け方だ。通常は、課題に関係する要素を1つずつ洗い出し、だんだんと細分化していく。また、細分化した後で、さらに関係する要素を洗い出してみる。関係の種類もいろいろあり、間接的に影響を受けるとか、特性が似ているとか、漏れを発見できる関係を何十種類も用意して、順番に当てはめながら考えてもらう。この方法なら、何も使わないよりも漏れを発見しやすい。
 意外に役立つのが、却下事柄一覧である。取るに足りない事柄でも記録として残してあるので、これを見ながら関連しそうな内容を幅広く考えてみる。取るに足りない事柄でも挙げ続けると、考える範囲が広がり、漏れていた重要な事柄が見付かることがある。思考の合間に却下事柄一覧を見て、漏れている事柄を考えてみるとよいだろう。
 漏れている事柄は、普通に検討している中で見付かることもある。どんな場合でも、見付かった事柄をすぐに一覧へ加える。詳しい内容は、その後で検討すればよい。忘れる前に記録するのが基本だ。
 見付かった後で大切なのは、思考内容全体の見直し。一般的には、事柄を追加した工程の後ろの全行程が影響を受ける。まず、追加した工程で重要度を見直す。次に、後ろ側の全行程で、追加すべき事柄が生じないか検討し、見付かったら追加する。さらに、それらの工程で重要度を見直すとともに、効果や副作用なども考え直す。見付かった事柄が重大なほど、見直しで修正する箇所が多い。
 漏れの発見は随時行うものの、どんな作業をしているときでも常に意識していることが、意外に重要だ。こうした癖が付けば、重要な事柄が漏れる確率を下げられる。

事柄の重要度を意識して検討する

 思考に含まれる材料の重要度を無視すると、悪い思考になりやすい。さほど重要でないことを大きく取り上げ、その影響を強く受けて良くない思考結論を選ぶ例が、意外に多くある。現実の思考結果を観察する限り、思考の質が低下する大きな原因となっている。
 こうした失敗を防ぐために、重要度の考慮方法を用意する。まず「工程事柄一覧」と「全体俯瞰表」で、特別な理由がない限り、重要度の記述を求める。これらの作成物は、個別の事柄ではなく、思考内容全体や工程内容全体を考える際に使うものなので、重要度を強く意識させる効果がある。
 さらに、重要度の判定を適切に行うための「重要度判定法」を用意する。重要度というのは、同列の事柄を比べた結果の相対的な値である。対象となる事柄ごとに影響度や割合などを調べ、どの事柄が重要なのかを判定する。いろいろな事柄の種類で使えるように、いくつかの判定方法を用意して、使い分け方も解説する。
 事柄の重要度は、各工程で設定する。複数工程で影響を考えなければならないので、工程をまたがった重要度の扱い方も含める。できるだけ数値を使い、定性的な判断も補助的に加味する形になる。
 こうした道具を利用することで、重要な点を重視した思考が可能になり、より良い思考結果が得られやすい。

蓄積された良い設計方法の活用

 思考結果を少しでも良くするためには、解決方法などの良い設計が欠かせない。問題点や原因をいくら的確に調べても、解決方法の設計が悪いと、思考結果の質が低下してしまう。
 そうならないように、解決方法などの良い設計術を体系的に整理した「解決方法設計術」を用意し、該当する工程で利用する。良い設計のアイデアや実例は、過去の問題解決などを注意深く調べると、いくつも見付かる。それを再利用可能な設計方法の形で整理し、提供するだけでよい。もちろん、新しいアイデアが思い付いたら、どんどんと追加する。
 代表的な設計方法を挙げてみよう。法律やルールを作る際には、対象や罰則などで適用する条件を設定する。たいていの条件はグレーゾーンが生じ、本来ならば対象になるべきでない人が対象になったり、対象になるべきなのに対象にならなかったりする。条件を広くすると、対象外の人も対象となりやすく、逆に狭くすると、対象の人が対象外となりやすい。こうした条件設定では、対象と対象外を見分ける特徴を見付け、その特徴で複数の層に分類する。層ごとに別々の内容を設定することで、グレーゾーンを実質的に小さくできる。
 設計方法をもう1つ挙げよう。環境保護などの目的で何かを規制するとき、業者を優先してゆるくするか、住民を優先してきつくするか、規制の程度でもめやすい。もっとも良いのは、最終的にはきつくするものの、時間的な猶予を持たせる方法だ。また、最終期限まで何もしないのはダメなので、規制の程度を数段階に分け、段階的にきつくする方法がある。
 以上のような設計方法を数多く集めて蓄積するとともに、利用しやすく分類しながら整理する。どんな対象に適用でき、どのような利点があるのかだけでなく、設計の際の注意点なども加えて、正しく使える条件を整えなければならない。先人のアイデアを利用できることで、最良の解決方法が得られやすくなる。結果として、思考結果の質が高まる。

効果と副作用の大きさを事前に予測する

 悪い思考にありがちな欠点の1つは、選択した解決方法の効果を検討しないこと。もっとも該当するのが教育分野で、あまり効果の期待できない対策を実施し、効果がなかったとして別な対策を新たに考える。効果を確認するまで数年かかり、事態はどんどんと悪くなってしまう。こんな悪循環により、重要な問題をいつまでも解決できないでいる。こんな悪い状態に陥らないように、効果が予測できる部分は事前に予測して、少しでも良い解決方法を選ぶのが、良い思考では必須だ。
 効果の大きさは、ある程度までなら事前に予測できる場合が多い。少しでも正確に予測できるように「効果計算法」を用意する。その中身だが、大まかには次のようになる。それぞれの対処方法で、問題点ごとの改善効果の大きさを求める。次に、対処方法を複数組み合わせた各解決方法で、相互作用まで加味して、問題点ごとの改善効果の大きさを修正する。全問題点の効果を合わせたものが、組合せごとの効果の予測値となる。
 もっと複雑な課題の場合には、より多い段階数で効果の大きさを予測する。どのような段階になるかは、課題の内容によって決まる。効果計算法には、このような段階の設計も含まれる。
 効果とともに、副作用の大きさも事前に予測しなければならない。これには「副作用調査法」を用い、対処ごとに副作用を求め、種類ごとに大きさを求める。それを合計した値が、副作用の予測値となる。
 副作用の大きさを求める前に、副作用を小さくするための改良を考える。改良した場合には、効果の大きさが変わるかも知れない。そのため、改良方法ごとに、副作用の大きさだけでなく、対処の効果がどのように変化するのかを求める。こうした関係があるので、副作用と効果は一緒に取り扱う。
 以上のように、副作用への改良も含めて、効果と副作用の大きさを総合的に予測して、もっとも良い解決方法を選ばなければならない。

部分または全体で論理性を検査する

 論理的思考を求める限り、論理的な正しさは必須の条件となる。思考内容の全体も一部も対象となり、例外は認められない。
 複数工程の思考方法では、思考内容を複数に分割して、分かりやすくしたことに等しい。この方法だと、課題が難しくない限り、全体の論理性が間違う可能性は低い。その意味で、全体の論理性を確認する必要性が少ない方法といえる。
 しかし、細かな部分に関しては、論理性を検査しなければならない場合がある。論理性の正しさは、図で表現すると分かりやすいので、専用の「論理整理図」を用いる。これは、論理の構造や関係を図で表現し、正しいかどうか確認するための図だ。これ以外の論理性の確認には、すべての条件でどうなるのか調べる「条件網羅確認表」など、検査対象に適した道具を用いる。
 課題が複雑な場合には、思考内容全体として論理整理図を作る。それで間違いが見付かったら、正しい図になるまで修正を繰り返す。出来上がった論理整理図を参考にしながら、思考に適した工程を求める。このように、思考内容全体に論理整理図を用いるときは、思考工程選択の段階が適している。もちろん、後になって気付くこともあるので、その場合は思考工程を作り直せばよい。
 このように、論理性の検査は、必要に応じて実行する。その必要性は、検査の対象ごとに判断する。なお、論理性を検査するとき、不確定要素の扱いは難しい。これに関しては、基本要素ではなく強化要素で取り上げる。

適切に評価して最良解を求める

 論理的思考の過程では、様々な事柄を適切に評価する必要が生じる。評価対象によっては、この「適切に」が非常に難しくなる。適切が確保できないと、質の高い思考は望めない。
 多くの人は理解していないようだが、評価は難しい作業である。評価に関してある程度の技術がなければ、適切な評価をほとんどできない。仕方がないので、独立した「評価技術」を用意し、習得してから利用してもらう。
 評価技術では、評価目的を明らかにしてから、評価項目を挙げ、評価方法を設計する。このような作業まで含まれているので、単に評価するだけでなく、評価方法まで作れる。
 こうした一連の作業も、評価作業を複数の工程に分け、各工程で決められた形式の作成物を作る。工程間の作成物の整合性を検査することで、評価の質を確保するのも同じだ。このような形で作業するため、第三者によるレビューが可能なレベルでの評価が可能になる。
 評価技術は、基本要素ではなく、各種支援技術に含まれる。論理的思考以外にも広く活用できるからだ。

実際の思考活動はやりやすい形に修正

 以上のような基本要素に含まれる内容は、ある程度の大きさの課題でも使えるように設計してある。そのため、小さな課題で利用するには、作成物が多くて大変になる。そんなときは、使いやすいように省略すればよい。ただし、大事な点だけは確保しないと思考の質が低下するので、「工程事柄一覧」だけは必ず作る。もちろん、手間を最小限に減らした箇条書きでも構わない。
 思考の作業では、工程事柄一覧を書きながら進めると、思考内容が上手に整理できる。この整理が非常に重要で、思考の質を大きく作用する。また、整理しながら思考すると、無駄な作業が減って、思考の効率も高まる。結果として、より短い時間で、より質の高い思考ができるわけだ。
 複数が参加して一緒に思考する場合も、課題が簡単なら一部を省略すればよい。どの程度まで省略するか判断できないなら、思い切って省略した形で始める。すると、意見の対立が生じて思考内容を確認したり、各部の検査で思考内容を調べるときに、不足する部分が見えてくる。それを追加する形で改良すると、適度な省略レベルが見えてくる。最終的に、良い思考結果が得られる限り、こういった形での思考作業でも構わない。

論理的思考は難しいので、簡単には習得できない

 ここまで紹介した内容は、全部合わせるとかなり多い。基本要素にしては多すぎるのでは、と思う人もいるだろう。しかし、論理的思考である程度の質を確保するためには、これぐらいの要素が必要であり、だからこそ含めてある。もし要素の数を半分に減らすと、思考の質が確実に低下して、論理的思考とは呼べなくなる。
 当然ながら、短期間の勉強で身に付く内容ではない。大変だからこそ、世の中のほとんどの人ができないでいるわけだ。実際、論理的思考というのは、簡単なことではなく、もともと難しいことである。物事を評価する能力とか、思考内容を上手に整理するとか、整合性を検査するとか、重要度を設定するとか、いろいろな能力が求められる。その意味で“知の総合力”が必要な行為といえる。それを習得しようとするのだから、簡単な内容になるはずがない。
 ただし、良い道具さえ用意すれば、習得できる人はかなり増える。もともと難しい内容なので、習得に時間がかかるだろう。だとしても、習得できる人が増える意味は非常に大きい。
 もう1つ面白い点に気付いた人もいるだろう。基本要素として挙げていることは、それほど斬新なことではない。言われてみれば当然のことである。それならば、世の中のほとんどの人ができないという現実は、何を意味するのだろうか。また、なぜできないのだろうか。
 その回答は、基本要素に含まれている。良い道具がなかったのが一番の原因だ。論理的思考では、様々な点を考慮して思考結果を出さなければならない。そのためには、思考内容を上手に整理したり、思考作業も上手に分割して、個々の作業の結果を出す必要がある。こうした点を実現するのに、良い道具なしでは不可能に近い。
 では、良い道具が生まれなかった理由は何だろうか。これは本題と関係ないので、興味のある人への課題としておこう。ちなみにヒントだが、1つは「既存の学問の限界に関係あり」で、もう1つは「何があれば、実用レベルに達するか」だ。

(2002年7月31日)


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