川村渇真の「知性の泉」

論理的思考の全体像


実用レベルに仕上げることが重要

 論理的思考方法を多くの人が身に付けるためには、その中身を規定する必要がある。ただし、規定すれば何でも良いというわけけではない。規定する内容には、いろいろな課題へ実際に使えて、良い思考結果が得られることが求められる。
 実際に使うと、論理的思考を邪魔する人も出てくる。そんな状況でも、良い思考結果が得られるように、最初から工夫することが大切だ。邪魔の影響を受けにくくしたり、邪魔がしにくくなるように、論理的思考方法を設計する。それにより、邪魔する人が参加した場合でも、良い思考結果が得られやすくなる。
 採用する方法の中身では、思考内容の全体像が的確に把握できる点を重視する。その上で、何が重要なのか理解しながら思考できる工夫も盛り込む。また、大事な事柄の漏れを発見しやすくするし、矛盾点も見付けやすくする。そのためには、思考内容を整理して書く作成内容で、数個に分解した分かりやすい構造を採用すればよい。分解した要素ごとに漏れを見付けたり、要素間の関係が矛盾してないかも検査できる。
 論理的思考方法を、多くの人が実際に使える点も重要だ。当然、思考の質を確保した上で。そのためには、思考を複数の工程に分け、工程ごとに独立した作業を割り振る。また、各工程で作成する内容の形式を決め、迷わずに作業できる条件を整える。さらには、様々な課題に利用できるように、工程の組み合わせの決め方まで用意する。
 作成物の形式を決める際は、第三者がレビュー可能な点も重視する。こうすると、作成者自身も自己レビューできるし、一緒に作業している仲間も内容が理解しやすくなる。結果として、作成物や思考の質が向上する。
 以上のような工夫を盛り込んで設計すると、論理的思考方法が実用レベルに達して、より多くの人が使えるようになる。何となく思考するのに比べたら、まるで別世界のように感じ、質の高い思考ができるだろう。

事前の検査と評価で、ダメ材料に改善を求める

 では、論理的思考方法の中身は、どのようになるのだろうか。かなり簡略化して描いたものだが、まず全体像を見てみよう。

論理的思考の概略図

 ここで一番重要なのは、どんなタイプの「入力材料(思考材料)」であっても、事前に「内容の検査や評価」を通す点だ。資料であれば、記述内容が間違っていないか検査する。たとえば「世界でもっとも使われている対策」と書いてるなら、それが本当かを確かめなければならない。調査や実験の結果なら、方法が適切なのか、得られた値が妥当なのかを評価する。仮定や推測であれば、その内容が正しいと判断した根拠が納得できるかを評価する。意見なら、矛盾点はないのか、大きな欠点はないのか、それを肯定したときにどんな意味が生じるのか、などを評価する。
 検査や評価で問題点を発見したら、思考の材料としては採用しない。修正して入力し直すのが基本だ。もし直せないなら、検討に値しないとして却下する。当然だが、不採用となった理由を明らかにして、何処を修正すればよいかを示す。思考中に生まれた改善案や新しい意見も、修正した意見と同様に、事前の検査と評価を通過しなければならない。
 こうして事前の検査と評価を通過した材料だけが、「主な思考作業」で取り扱われる。そこでは、思考した内容を整理しながら、「思考内容」を作り進む。どのような手順で思考作業を行い、どのような形式で思考内容を整理するのかも、論理的思考方法に含まれる。こうした手順や作成形式を整理したものが「思考の道具」で、どんな課題にでも汎用的に利用できる。
 思考が終わると、成果物として「思考結果」が得られる。思考結果には、思考の結論だけでなく、思考過程の重要部分も含める。これにより、結論の根拠が分かりやすく示せ、第三者による思考結果のレビューも可能となる。なお、思考結果を最後に作り直すのは無駄なので、思考作業中に整理しながら作る資料は、最後に提出する思考結果と同じ形式を採用する。つまり、思考作業中も終了後も使えるように、形式を設計するわけだ。
 事前の検査や評価だが、実際の作業では、簡単に終わらない場合にだけ、後回しにすることができる。しかし、思考の質を確保するためには、後からでも必ず実施しなければならない。

思考内容の全体が把握できる形で整理する

 主な思考作業と思考内容を、もう少し細かく見てみよう。分かりやすく図で描くのは難しいので、かなり簡略化してある(将来、もっと分かりやすい図を思い付いたら、入れ替えるつもり)。

主な思考作業の概略図

 「思考作業の準備」では、まず最初に思考目的を明確化してから、続けて思考結論の形式を決定する。次に、目的に適した思考工程を設定し、工程ごとの作成物の形式も決める。こうして定めた思考工程に従って、順番に実施すればよい。
 「思考工程の実施」の中では、自己レビューして必要なら修正したり、思考内容全体を把握して見直したりする。また必要に応じて、解決策などの評価基準、重要度の判定ルールなどを設定したり、関係する要素での整合性を検査するといった「他の実施内容」も並行して行う。
 このような作業を通じて、「主な思考内容」と「他の思考内容」を作り進む。準備段階で決めた思考内容の形式は、第三者がレビュー可能なものになるため、作業者自身でもレビューしやすく、思考内容の質を高めるのに役立つ。各工程の作成物だけだと思考内容全体が把握しにくいので、工程ごとの概略内容を集めた俯瞰表を一緒に作る。これをときどき見ながら、全体的に見て適切かどうかを調べる。
 以上が、論理的思考の概略だ。これといったガイドもなしに、何となく思考する方法ではない。最初に思考目的や結論形式を明確にしながら、最適な工程を用いて、各工程ごとに有益な作成物を作り、全体および各部を把握しながら進める。各工程の作成物は、すべてレビュー可能な形式なので、思考途中でも終了後でも、第三者による思考内容のレビューが容易になる。

習得しやすいように大きく4分割する

 論理的思考方法は、本格的に使いこなすレベルを目指すと、かなり多くの内容が含まれる。それを一気に学ぶのは無理なので、全体を数個に分割して、基本から順番に習得できるようにする。というわけで、次のように4つに分割してみた。1つずつ概略を説明しよう。

論理的思考の構成要素(大分類)
・基本要素:論理的に思考するための基本的な要素
・実用要素:邪魔などから思考の質を守るための要素
・強化要素:難しい課題で思考の質を高めるための要素
・各種支援技術:論理的思考に役立つ様々な技術

 「基本要素」は、論理的に思考するための基本的な要素。論理的思考を満たすために、どのような点に注意しながら思考すればよいのか、どのような手順で思考すればよいのか、などを含む。この基本を習得するだけでも、多くの課題を上手に思考できるようになる。
 「実用要素」は、実社会の環境下でも論理的思考が実現できるように手助けする要素だ。邪魔する人を上手に防いで、思考の質が低下しないようにと、様々な工夫を用意してある。悪い行為の指摘を繰り返しても、まったく改善しようとしない悪質な邪魔者への対処も含める。他に、レビューを有効に働かせる方法などもある。
 「強化要素」は、論理的思考の質を高めるための要素だ。とくに役立つのは、より難しい課題を扱うとき。思考が詰まって前に進まない場合、どのような方向で考えたらよいのか、根本的に考え直すにはどうすればよいのか、といった視点を与える方法で状況を打開する。
 「各種支援技術」は、論理的に思考する過程で必要となる、いろいろな技術の集まり。もっとも使われるのが評価技術で、物事を評価する際の手順や作成物を提供する。適切な手順や作成物を用いることで、何となく評価するよりも、格段に質の高い評価が可能となる。他にも、レビュー技術、意見調整技術、議論技術などがある。実は、これらの技術自体も、論理的思考を適用して設計したもので、作業工程や作成物形式まで規定した内容となる。
 4つを習得する順序だが、基本要素を最初に学ぶ点だけが絶対で、後は好きな順に選ぶ。残り3つに限っては、必要な一部だけをツマミ食い的に習得しても構わない。一般的には、個人で思考するなら、基本要素の次に強化要素を、複数人で思考するなら、基本要素の次に実用要素を学習する。各種支援技術だけは、必要な技術を個別に選んで習得すればよい。

 以上の4つの中身に関しては、これ以降のページで順番に解説する。それらを読めば、論理的思考の中身が、より深く理解できるはずだ。

(2002年7月4日)


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