川村渇真の「知性の泉」

ユーザーの自由度が高いマルチメディア機能を標準装備


今回は、マルチメディア機能に焦点を当ててみた。巷ではマルチメディアの話題で花盛りだが、そのレベルはというと、かなり低いと評価せざるをえない。情報中心システムは、その基本構造の良さから、高度なマルチメディア機能も標準で内蔵している。たんなるブラウザだけでなく、加工や整理機能までも含んだものだ。そこまでの機能を実現しなければ、マルチメディアの本当のメリットは生まれない。


マルチメディアは機能中心で整理すべき

 コンピュータの世界に限らず、世の中の至るところでマルチメディアの話題が登場する。しかし、現実に登場しているものは、CD-ROMタイトルやビデオ・オン・デマンドなど、少数の形態でしかない。これらを見て、読者のみなさんはどのように感じているだろうか。筆者は、正直な感想として、「マルチメディアと呼ぶには非常に低レベルで、本当のメリットはほとんど実現していない」と思っている。はっきりいうなら、現状はマルチメディアとして超低レベルである。
 これだけ数多く使われているマルチメディアという言葉だが、その明確な定義は存在しない。漠然としたイメージで捉えられているのが現状だ。基本的な要素としては、テキストや音や映像を扱えて、対話型のソフトとして仕上げることが含まれる。
 このような漠然とした内容では、具体的な実現状況が見えてこない。そこで、マルチメディアが備えるべき機能を整理してみた。扱えるデータの種類よりも、どんな機能を実現するかのほうが重要だ。それも、好きなときにビデオが見られるといった受動的なものではない。ユーザー自身がいろいろな情報を活用するという視点で捉えた機能が中心で、これこそマルチメディアの本当のメリットに直結する。
 最初に挙げるべきなのは、ユーザー側で自由な見方ができる機能である。あるデータを一覧表形式で見るとか、好みの形式のグラフで見るとかいったものだ。
 2つ目は、マルチメディア形式で提供されるデータが、ユーザーの作成したデータと一緒に整理できる点だ。マルチメディアとして独立するのではなく、ユーザーが通常作成しているデータと同じレベルで扱えなければ、データの有効活用はできない。
 3つ目は、マルチメディア形式で提供されたデータも、ユーザー側のデータと同じように加工できる点だ。これも、ユーザーのデータと同じレベルで扱えるための基本的な機能である。  ところが、既存のマルチメディアソフトは、これらの条件を1つも満たしてはいない。しかし、情報中心システムになると、これらすべてを実現する(表1)。その内容を順番に解説しよう。

表1、マルチメディアを実現するための仕組みを、コンピュータの進歩順に比較したもの。コンピュータ中心システムではマルチメディア専用のツールを用いるが、情報中心システムではOSに内蔵する

               OSの進歩 =================>

表1

「はっきりいうなら、              
  現状はマルチメディアとして超低レベルである」

根本的な欠点は、ブラウザとデータの混合

 DirectorやHyperCardで作成したファイルは、たしかに対話型のマルチメディア作品をつくれる。しかし、その構造は根本的な欠点を持っている。作成したファイルの中で、ユーザーインタフェース部分とデータ構造とが明確に区別されずに混在している点だ(図1)。

図1、既存のマルチメディアツールでは、データと対話動作を一緒に作成する。また、データの構造を定義するのではなく、ボタンによる行き来や、画面上の項目の並びなどを用いて、ユーザーにデータ構造を伝える

図1

 Directorでムービーをつくるとき、移動ボタンやデータの並びを一緒につくる。できあがったムービーは、作成者が用意した見方しかできない。1つの画面に表示するデータは決められているし、画面間の移動方法も限られている。検索機能を持つものや、データをコピーできるムービーは、ほとんどない。また、データの全体的な構造が見えてこないものまである。  このような理由のために、多くのマルチメディア作品が「動く紙芝居」のようにしか見えない。ユーザー側のデータとは、明らかに独立した存在であり、一緒に組み合わせて利用することなど考慮されていない。
 もちろん、作品をデータベース的につくれないこともないが、それには多くの労力を要する。当然、そのような形態で登場したものはほとんどない。より重要な点は、たとえデータベース的につくったとしても、前述の3つのマルチメディア機能を満たせない点だ。
 その大きな理由は、ファイルとアプリケーションという仕組みに関係する。マルチメディア用という形で独立したアプリケーションでは、データを幅広く活用できない。より根本的に仕組みを変えないと、マルチメディアの本当のメリットは得られない。
 ScriptXなどの新しいツールも、基本的には同じ延長線上にある。これらは、オブジェクト指向の開発ツールを備えた点が特徴で、複雑な内容のものを効率よくつくれる。しかし、できあがった作品は、現在のものとそれほど変わらないし、前述のマルチメディアの3機能を満たせない。

関連項目を自動的に表示する

 しかし、情報中心システムでは、基本構造のよさから、マルチメディアの3機能を簡単に実現できる。ファイルよりも小さな単位でデータを保存するためだ。そして個々のデータは、人物などの意味を持った構造体を形成している。そのうえで、構造体データどうしで意味的なリンクを持つ。たとえば、企業の組織構成データに含まれる各役職からは、それぞれに該当する人物データへリンクする。このように、システム内の全データはリンクで接続している。もちろん、扱えるデータには、テキストや数値や日付だけでなく音や映像も含まれる。
 このデータ構造に適合したブラウズ機能を組み込むことで、マルチメディアの3機能を実現できる。表示内容を生成するAuto Expression機能があるので、ブラウズ機能としては、リンクしているデータへ移動する機能だけを用意すればよい。たとえば、企業の組織図を表示しているなら、組織図上のどれかの役職を選ぶと、その役職データへリンクしている別のデータを一覧表示する(図2)。役職に該当する人物データ、役職の権限を定義したデータ、役職の報酬データなどだ。その中から選んだものが、次の表示内容となる。最初の組織図の場合と同様に、次に選んで呼び出されたデータの表示内容も、Auto Expression機能が自動生成する。そして、新しく呼び出されたデータに関連するデータが、また新たに一覧表に並び、次の選択を待つ。このように繰り返しながら、いろいろなデータを次々と表示していく。画面を分割して、前のデータと一緒に表示することもできる。

図2、ブラウズ機能を実現するLink Navigatorは、選択中の項目にリンクするデータを検索し、一覧形式で表示する。その中からユーザーが選択すると、それを新たな表示データとして呼び出す

図2

 このブラウズ機能を利用することで、関連を持ったデータなら、関連をたどりながら呼び出すことが可能となる。別の表現を用いるなら、多くのリンクが張られたデータの海で、リンクをたどりながら航海するようなものだ。その意味から、ブラウズ機能をLink Navigatorと命名した。
 Object First機能が、得たいものを直接指定する方式なので、違う呼び出し方を手に入れたことにもつながる。2種類の呼び出し方式を状況に応じて使い分ければ、効率よく目的のデータを表示できる。

ユーザー側で見方を自由に変更できる

 呼び出されたデータは、Auto Expression機能がデフォルトで選んだ表示形式で画面上に現れる。もし別の形式で見たければ、表示形式を切り替えればよい。あくまで、ユーザーが気に入った表示形式で見られることが重要だ。
 データの表示形式が自由に変えられるだけでは、十分とはいえない。既存のマルチメディアツールのように、各画面での表示内容が固定されていては、ユーザーの自由な見方を制限することになる。扱う元データの中から、ユーザーが好きに選んだものを一緒に表示できることも、ユーザーの自由な見方の一種であり、実現すべき機能の1つだ。
 情報中心システムでは、Object First機能とAuto Expression機能を組み合わせることで、ユーザーが指定した条件を満たすデータだけを抽出し、それをもとに一覧表や構成図を表示できる。条件をいろいろと変えることで、より自由な形式での見方が可能となる。
 ただし、元データの作成者(=マルチメディアデータの提供者)としては、決まった見方で見せたいこともあるだろう。情報中心システムでは、それもサポートしている。シナリオ用の構造体データを用意して、元データとなる構造体データにリンクする方法で実現する(図3)。この方法なら、元データの構造を壊さないので、ユーザーの自由な見方も一緒に使える。

図3、作成者の見方は、シナリオ用データとして加える。元データの構造はそのままなので、ユーザーの自由な見方も一緒に実現する。シナリオ用データも含めて、情報中心システムの一般的な構造体データとして作成する

図3

 シナリオ用データは、映画のように決まった順序でしか見れないものや、階層的に行き来できるものなど、いろいろな形でつくれる。また、1つの元データに対して、複数のシナリオ用データを加えることも可能だ。つくる人によって違うシナリオになるので、それを見比べるのもおもしろいだろう。
 ユーザーは、Link Navigatorを通したシナリオ用データによって、作成者の見方を何度でも表示できる。

ほかのデータとの連動や加工も実現

 情報中心システムでは、マルチメディア用データも、ユーザーが作成したデータも、リンクつきの構造体データになる。つまり、マルチメディア用に特別なデータ構造を用意せず、ほかのデータと同じように扱う。
 このような仕組みのため、既存OSでならマルチメディアとして扱われるデータも、ユーザーが普通に作成したデータも、保存形式に違いはない。両データとも、Object First機能とAuto Expression機能を利用して、整理したり加工したりできる。
 既存のマルチメディア用ツールでは、データの連動や加工は、データをコピーすることが中心となる。OpenDocの登場によって、一緒に表示する点だけは少しは改善されるだろう。しかし、OpenDocは張り付けが中心なので、データを一緒に加工するのは無理だ。また、一緒に表示するといっても、一覧表の中に両データが混在するようなことは不可能となる。
 ところが情報中心システムでは、もっと小さな単位でデータを扱い、リンクを利用した構造体を形成する。そのため、ほんの一部の数値データだけでも、ほかのデータと一緒に整理して表示したり、加工したりできる。また、加工方法も、知識ベースとObject First機能の利用で、ほとんどを自動化してある。これらの違いは、システムの基本構造の違いからくるものだ。

重要なのは統合されたマルチメディア機能

 情報中心システムのLink Navigatorは、データ選択と加工を担当するObject First機能と、表示内容を自動生成するAuto Expression機能とを、統合する役目もある。ユーザーは、Object First機能とAuto Expression機能を意識することなく、必要に応じて各機能を使うことになる。その結果、マルチメディア機能も、特に意識しなくても自然に利用してしまう。
 ここまで説明したように、マルチメディアの機能だけが独立していたのでは、マルチメディア本来のメリットが生まれない。OSの基本機能として組み込むとともに、基本となる3機能を実現しなければ、ほとんど意味がない。たんなる動く紙芝居で終わってしまう。
 ユーザー本位で自由度の高いマルチメディア機能が実現してこそ、マルチメディア本来のメリットを享受できる。そのための条件が、前述の基本3機能なのだ。しかし、ファイルとアプリケーションという仕組みを持つ既存OSでは、実現するのが非常に難しい。ファイルという区切りが邪魔して、ほかのアプリケーションでつくったデータと高度な連動ができないからだ。
 ファイルがダメということは、オブジェクト指向OSにエージェント指向技術を加えても、実現できないことを意味する。コンピュータの機能が、情報中心システムのレベルまで達しないと、ユーザーにとってメリットの大きい真のマルチメディア機能は実現しない。マルチメディアと騒いではいるが、現在の延長上のパソコンを利用するかぎり、メリットの少ない低レベルなマルチメディアしか使えない。マルチメディアの大きな進歩には、OS自体の根本的な大改革が必要なのだ。

「ファイルとアプリケーションという       
       仕組みを持つ既存OSでは、     
           実現するのが非常に難しい」


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