川村渇真の「知性の泉」

連載記事の掲載にあたって


雑誌に連載した内容を掲載

 既存のコンピュータよりも格段に使いやすい仕組みを思い付いたのは、かなり前だったと記憶する。世の中は、オブジェクト指向が普及し始める頃だ。ごく一部では、エージェント指向が注目され、オブジェクト指向の次に来る救世主と見られていた。しかし、自分としては、オブジェクト指向もエージェント指向も、本当の救世主になり得ないことは分かっていた。コンピュータを使いやすくするには、もっと違う発想が必要だと。そして思い付いたのが、情報中心システムである。
 その内容を紹介する目的で、月刊誌の「MacUser日本版」で連載を始めた。タイトルは、本コーナーと同じ「思考支援コンピュータを創る」だ。途中で終了したものの、1994年の8月から1997年6月号までの合計35回と、約3年も続いた。連載の期間としては、長いほうに属する。
 連載している間も、前々回までの内容を本コーナーで掲載していた。この種の連載の場合、前号までの文を全部読んでいるという前提で書く。世界初のまったく新しい概念であり、多くの新機能を含んでいるだけに、同じ内容を何度も繰り返すことは、スペースの無駄だからだ。もちろん、各回だけを読んで分かるようにとの努力はしてたが、より多くの考え方や機能を盛り込むためには、読んでいるという前提で書くしかなかった。
 こうして35回も書くと、全体としてはかなりの量になる。それでも、説明していない機能がいくつも残っている。新しい概念なので仕方がないだろう。今後は、本コーナーの中で書き加えていきたい。

世界に向けて情報発信

 ウェブページに載せる最大の理由は、この新しい概念を世界に広めるためだ。とりあえずは日本語だけなので日本語が通じる人だけにか限られるが、いずれは英語のページを作りたいと思っている。ただし、メドは立っていないが...。
 コンピュータの使いやすさを劇的に向上するような概念の場合、実現に向けて少しでも前進するためには、まず世界的に認知されることが第一歩だ。世界中の最先端コンピュータ技術者の多くは、情報中心システムという概念を知らない。それより前に位置づけられる古い概念で、コンピュータを捉えている。こんな状況を少しでも改善することが、コンピュータの進歩につながるからだ。時間はかかるだろうが、じっくりと情報発信していく予定でいる。

雑誌の連載は、一般ユーザー向けの内容

 連載の内容に関しては、述べておきたいことが少しある。MacUserという雑誌の性格上、パソコンの一般ユーザーが中心だ。そのため、原理となる内部構造を詳しく説明するよりも、実現する機能やメリットを述べている。だからといって、夢物語を書いているわけではない。本当に実現可能なことだけしか説明していない。
 一般ユーザーが読む雑誌に書いているのは、それなりの理由がある。これまでのコンピュータであるコンピュータ中心システムは、技術的な面が中心だった。ところが情報中心システムの世代では、情報を扱うための機能が中心となる。現在のようなコンピュータの変革初期には、次の世代に重要となる機能を理解できないコンピュータ技術者が多く存在する。それを考慮すると、コンピュータ技術者にアピールするよりも、使いにくさを毎日実感している一般ユーザーにアピールするほうが効果的だと考えたからだ。ただし、内容がある程度難しいので、実質的な対象者は限られるだろう。
 最近の傾向として、学会に所属しなくても、個人で研究するような人が出始めている。このような人にも、新しい考え方を知らせる必要がある。もちろん今後は、いろいろな学会に向けても、考え方をアピールしていく予定だ。インターネット上に公開したことで、手間をかけずにアピールすることが可能になる。
 もう1つ重要なことがある。情報中心システム以降では、実現する機能自体が一番重要であって、実現する技術は2番目に位置するのだ。その意味から、まず機能をアピールし、実現方法を次にアピールするのが、理にかなった手順である。

雑誌と同じ内容を掲載

 この種の新しい概念を紹介する内容の場合、連載の期間が長くなると、初期の頃と最近では言葉の使い方が変化してくる。理想的には、そんな部分を修正して載せればよいのだが、そのための作業も馬鹿にならない。どうせ直すのなら、構成まで含めて全面的に書き替えたい気持ちもある。それらを合わせて考えた結果、雑誌と同じ内容のまま掲載することにした。内容が大きく変わっているわけではないので、少し言葉が違っても読めば分かるだろう。ただし、図版だけは少しだけ手直しした。インターネットの回線が混雑しているという現状を考慮して、できるだけファイルサイズが小さくなるようにするためだ。図の大きさを小さくするとともに、単純なデザインで描き、色数は4色以内を目標とした。これでも意味は十分に伝わる。
 連載の最初のうちは、最初の段階で実現する代表的な機能やメリットを、1年ぐらいで説明しようとした。ところが、既存システムと比べ出すと、メリットは数多くあるし、紹介したい機能も多い。実際に書いてみたら、最初の段階の説明だけで、3年ぐらいかかりそうなペースになってしまった。そのうち連載が終了し、最初の段階すら全部を説明できなかった。それ以降に実現すべき機能については、概要だけをウェブページ上で紹介しているので、そちらを参照してほしい(研究中の機能と進捗状況)。

(1996年2月20日)


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