川村渇真の「知性の泉」

現代社会に欠けている重大要素を提供する


 本サイトを最初に開いたときには、これほど多くのコーナーを用意するつもりはありませんでした。自分の研究テーマである、次世代システム(OS)や、システム開発のノウハウ、時代の変化を見据えた新しい価値観、少し変わったジョークなどを提供できればと考えていました。
 しかし、そうした内容を検討しているうちに、大事な点が見えてきて、もっと幅広い内容を書きたくなってきました。その大事な点とは、現代の社会で提供されている数多くのものの中に、重要な要素が欠けていることです。その辺の話を、簡単に述べたいと思います。

社会活動を上手に行うための能力が不足

 現在の社会では、様々な活動が行われています。その中には、仕事だけでなく、地域社会に関わる活動や、趣味の集まりでの活動なども含まれます。また、社会を運営するためには、行政活動も欠かせません。では現状で、こうした活動が、適切に行われているでしょうか。
 仕事に関する活動を見ると、上手に行えている人はほんの少しだけです。他の多くの人は、基本的な部分で上手にできていません。上手にできないと、活動結果は仕事の失敗として現れます。行政の場合なら、薬害の発生、狂牛病対策の失敗、金融政策の失敗などの形で、多くの国民が目にしています。仕事以外でも同様の傾向があり、似たような状況です(詳しくは省略)。
 では、なぜ上手にできないのでしょうか。その根本的な理由は、活動に必要となる汎用的な能力を身に付けてないからです。該当する能力は、いろいろあります。自分の伝えたいことを文章に書く能力、伝えたいことを発表する能力、上手に質問したり回答する能力、的確に報告する能力、作業を上手に依頼したり引き受ける能力、物事を検討する能力、対象を適切に評価する能力、的確に議論する能力、グループでの活動状況を管理する能力などです。こうした能力を、ここでは「汎用活動能力」と呼びましょう。
 その汎用活動能力ですが、どうすれば身に付けられるでしょうか。残念なことですが、現在の日本の学校では教えてくれません。汎用活動能力の中で、もっとも基礎的な部類に属する作文技術ですら、教えてないのが現状です。また、教える側の教師のほとんどが、作文技術を身に付けていないため、個人的に教えたくても教えられないでいます。結果として、たとえ大学院を優秀な成績で卒業したとしても、ほとんどの汎用活動能力が身に付いてない状態のままです。
 では、すでに身に付けた人は、どうやったのでしょうか。たいていの人は、実社会での様々な経験を通して、身に付けています。独学では難しいので、身に付けた先輩から教えてもらう形が多いようです。ただし、教えられる人が極めて少ないため、そうした人に巡り会えた人だけが、習得の機会を持てます。こうした現状なので、身に付けている人は非常に少ないのです。

教育できるレベルに仕上がってないから教えられない

 汎用活動能力を身に付けたといっても、人によって習得レベルが異なります。かなり高いレベルで身に付けている人から、基礎的なレベルしか身に付けてない人までいます。その中でも、基礎的なレベルにとどまっている人の方が、圧倒的に多いのです。
 こうした状況になる原因は、汎用活動能力の内容が、教育できるレベルに仕上がってないからです。実社会で身に付けた人は、先輩がやっている内容を見て、それを真似ながら習得しています。こうした方法のため、教育の効率が悪いだけでなく、身に付く度合いも低くなりがちです。当然、身に付けられる人は少なく、そのレベルも低い結果となります。
 もっと悪いことに、汎用活動能力の必要性を理解していない人が、意外に多いのです。そういう人は教育関係者に多く、現在の学校で教えている内容を習得すれば十分だと考えているようです。しかし実際には、大学を卒業しても、物事を検討するための基礎的な方法すら身に付きません。また、必要性を理解していない人は、議論に関しても誤った認識を持っています。お互いに意見を述べ合えば議論が成立するという、誤った認識です。これは大きな間違いで、すべての意見の中身で論理的かを確かめなければ、マトモな議論にはなりません。議論が成立するためには、議論する能力を参加者全員が身に付けている必要があります。
 大学以上の高等教育機関で教えるべき内容のうち、もっとも重要といえる考える能力も、教育できるレベルに仕上がってないものの1つです。教授たちが考えている様子を見せたり、質問や助言を通して、考える能力を身に付けさせようとしています。しかし、このような方法では、高いレベルで習得できる人がほとんどいません。教える側が、何となく教えた気になってるだけです。
 もっとハッキリ言ってしまうなら、大学教授の多くですら、考える能力を高いレベルでは身に付けていないのです。それどころか、物事を検討する基礎すら知らない人がほとんどです。そのため、高いレベルで教えることが、そもそも無理なのです。まず先に、教える側の教授や助教授が、考える能力を身に付けなければなりません。

汎用活動能力の教育内容を体系化し、道具付きで提供する

 では、高いレベルの考える能力とは、どのような内容でしょうか。この点こそ、極めて重要な部分です。考える行為には、目的が必ずあります。問題解決であれば、問題を確定したり、最良の解決方法を考えます。物事の評価なら、評価基準や評価の実施方法を考えます。報告であれば、どのような内容を報告すべきなのか考えます。このように、その目的を実現するために考えるわけです。
 こうした活動を上手に行うためには、汎用的な考える方法だけでは不十分です。それぞれの活動に適した形で、上手に行うための手順や作成内容を提供する必要があります。それらが、評価技術や報告技術という形になるわけです。他にも、議論手法、依頼引受技術、意見調整技術、管理技術などの形で用意します。このように、目的に特化した形で用意すれば、その活動を上手にできるようになります。
 もちろん、汎用的な思考方法も必要です。それも用意しますが、検討手法や分析手法といった形の内容も加えて、状況に適した思考方法ができるように配慮します。代表的な状況ごとに手法を用意することで、的確な思考の実現を手助けするわけです。当然、こうした思考方法は、評価技術や報告技術と組み合わせて使い、より質の高い思考を実現します。
 汎用活動能力に関する技術の内容では、具体的な道具を用意することが非常に重要です。この道具には、作業手順、各作業で作成物の形式、作成物の検査方法などが含まれます。こうした手順や作成物を明確に示せば、高いレベルでの習得が容易になるからです。道具を提供できたとき、教育できるレベルに達したと言えるでしょう。
 道具を用意するためには、汎用活動能力の内容を体系的に整理しなければなりません。身に付けた人が何となくやっている作業内容を、具体的な項目として洗い出し、それらを体系化した形で構成する必要があります。このような条件を満たす形で作れば(設計すれば)、多くの人が習得可能な形で、汎用活動能力の教育内容を提供できます。具体的な設計例は、「能力教科での教育内容の設計例」を見てください。これらの設計例を見ると、現状を「何となく教えた気になっている」と表現した意味が分かるでしょう。
 逆に、道具がなければ教えるのが大変です。いろいろな活動で、何をすればよいのか、何を作ればよいのか、分からなくて困る人が続出します。現状の教育は、まさにこの状態なのです。そのため、汎用活動能力に関する教育成果は、ほとんどありません。

社会を進歩させる基礎として極めて重要

 汎用活動能力の教育内容で道具を用意すると、別なメリットも生まれます。それは、第三者によるレビューが可能になることです。道具に含まれる「作成物の形式」は、適切に作業できたかどうかを自分で検査できる形に設計します。ということは、第三者にとっても、検査できる形式なのです。それを提出させるルールにするだけで、第三者によるレビューが可能となるわけです。活動の重要な箇所にレビューを組み込むことで、活動の質は高まります。
 世の中の重要な活動では、議論、評価、提案、調査、依頼、報告、管理といった作業が含まれます。これらを上手にこなせる能力が身に付けられれば、不適切な意思決定や、レベルの低い行為が格段に減ります。こうした能力が身に付いた人を増やすことは、社会を進歩させる基礎として、極めて有効に働くのです。
 それを実現するためには、汎用活動能力の教育を、学校教育の中に組み込む必要があります。また、社会人にも汎用活動能力の教育を提供しなければなりません。その後、社会活動の重要な箇所で、汎用活動能力を生かす形のルールに変更します。切り替え途中の道のりは大変ですが、社会の進歩には欠かせない政策です。
 汎用活動能力を教育していないことは、日本だけの問題ではありません。すべての先進国を含む、世界中の問題です。米国などは日本よりマシですが、体系化した道具付きで教えるレベルには、まだまだ達していません。そのため、不適切な意思決定や活動が、未だに発生しています。もちろん、マトモな話が通じにくい日本と比べれば、適切な意思決定の割合は多いですが、もっと大きく改善可能です。
 汎用活動能力の教育が世界中で実施されると、世界の問題の解決も、今よりは格段に良くなります。レベルの低い争いが減り、難しい課題の解決に集中できます。地球レベルで社会が進歩するためには、世界中での汎用活動能力の教育が必須です。

 以上のようなことを考えながら、本サイトのコーナーを増やしてきました。かなり広範囲のテーマを扱っているため、不思議に思っている人もいるでしょう。上記のように、重要な内容だから取り上げているわけです。
 汎用活動能力の教育内容は、自分が身に付けたシステム設計能力を使って、1つずつ設計しています。仕事の合間に設計しているので、時間がかかっていますが、仕方がないでしょう。
 それはともかく、本サイトに書いてある内容の価値を理解する人が、少しでも増えることを願いながら、地道な活動を続けていきたいと思います。


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