川村渇真の「知性の泉」

多くの人が損している現状が背景に


上手な方法を知らないから失敗しやすい

 自分が社会に出てから、いろいろな人と出会いました。一緒に仕事をしたり、趣味や生き甲斐について語り合ったりしました。意見が対立して、言い合いになったこともあります。
 それらの経験から、ある大切なことが見えてきました。仕事でも趣味でも役立つ、良い考え方ややり方が存在することです。そして、多くの人はそれを知らないため、上手にできなかったり失敗していると分かりました。
 どんな点を知らないのか、具体的に挙げてみましょう。マトモな議論方法、適切な評価方法、他人が内容をレビューできる提案方法、受け手を考慮した報告方法、自分の意見を他人へ上手に伝える方法、部下の能力を伸ばしたり仕事を成功させる管理方法、問題点の把握方法などです。
 これらの行為は、うまく行うための方法が存在します。どんな道具を用い、どのような手順で進め、どの時点で何を検討し、途中の段階で何を作り、どんな点に注意すればよいのか、といった内容の集まりです。それを知っていると、知らない状態よりは失敗しにくくなります。逆に知らないと、かなりの確率で失敗してしまいます。知らないからできない、非常に当たり前の結果になるわけです。
 上手にできてない代表例と言えるのは、議論方法です。きちんとした方法を知らないために、国会でもテレビ討論でも、議論と呼べない言い合いばかりが目に付きます。でも本人たちは、議論していると信じているでしょう。ただ、話がかみ合わないことが多く、不思議に感じているかもしれません。原因は単純で、言い合っている行為が、マトモな議論の条件を満たしていないためです。議論方法を知らないから上手にできないし、改善もできません。ここにも非常に当たり前の状況があり、今も続いています。

身に付けさせてくれる仕組みが求められる

 では、どうすれば状況を改善できるでしょうか。基本的には単純です。上手なやり方を習得するだけです。ところが、これが実際は難しいのです。教えてくれる場所や人が、ほとんどないのからです。本来なら学校が担当し、教育内容として提供すべきです。しかし、狭い意味の知識しか教えてくれず、そんな役目を放棄しています。
 企業は少しましですが、多くの場合は、上司の能力や性格に依存します。能力を身に付けていて親切な上司に当たれば、教えてもらえる可能性はあります。しかし、該当する人の数は極端に少ないので、ほとんどの人は知らないままです。また、該当する上司に当たったとしても、その人はごく一部の内容しか身に付けていないので、全部を教えてもらうことはできません。
 学校でも企業でも教えられない大きな原因としては、教えるべき内容をきちんと把握できてない点が挙げられます。教えるレベルにまで内容が体系化および整理されてない限り、教えることがなかなかできません。まず最初は、教えるべき内容を整備する必要があります。
 整備するというのは、前述のように、どんな道具を用い、どのような手順で進め、どの時点で何を検討し、途中の段階で何を作り、どんな点に注意すればよいのか、といった内容の集まりに仕上げることです。まず、作業を複数の工程に分け、各工程の作業内容を細かく規定します。また、作成すべき内容の形式も決め、作成での検討方法や注意点も洗い出します。さらには、作成物のテンプレートや、途中で用いる道具も用意します。このような形にすると、誰もが学習可能になります。
 より多くの人が身に付けられるようにするには、さらなる整備が必要です。途中段階も含めた作成物のサンプルを数多く用意して、作る際の参考にしてもらいます。また、習得した人に手助けしてもらいながら、何度も実際に試すことで、本当に使える状態まで達っしやすくなります。繰り返しの練習が重要なわけです。試す回数を増やすほど、習得する人が増えるでしょう。
 現状では、このような整備を最初にすべきです。それが出来上がったら、学校の教育に組み込みます。これで、習得の機会を誰もが得られます。教えてもらう機会が、社会から提供されるわけです。加えて、学校へ通う期間が長いので、じっくりと習得できるはずです。もちろん、既存の教育内容のうち重要でない部分を削って、より大切な内容に絞るのが大前提です。
 このような改良が成功して、マトモな議論や評価のできる人が増えると、社会は確実に進歩します。政策の質も向上し、適切な対処が素早く行われるはずです。今のように、薬害で被害者が多く出たり、無駄な施設を作ったりしなくなります。そんな社会の基礎を作るために必要な改革なのです。

現状を変えるには根本的な改善も必要

 以上のような改良を進めようとしても、なかなか前に進みません。根本的な原因は、決定権を持った人の能力が低いからです。学校の教育内容に関して言えば、決定権を持つ文部省がネックになっています。そんな場合にはジャーナリズムが圧力をかけるのですが、日本ではマスメディアの質も低く、そうはなりません。
 官僚を中心とした行政、政治家や政党、マスメディアを中心としたジャーナリズム、どれを取ってもレベルが低い状況です。まさに八方ふさがりで、良い変化を邪魔しています。解決すべき問題は多いのに、どうにもならない状態が続いています。
 このような現状を考慮し、本サイトでは、社会の進歩も取り上げることにしました。ジャーナリズムにも期待できないので、仕方がなくジャーナリズムも取り上げています。日本の状況を考えると、必要なコーナーがどんどんと増えていきました。根本的な原因を取り除かないと、良い方向に進まないと思ったからです。
 もちろん、習得すべき上手なやり方に関するコーナーも、同時に用意しています。議論方法、評価方法、設計方法、管理職向けのマネジメント方法など、並行して書き進めています。本来なら、こちらに集中したいところですが、現状を考えるとどちらも大切であり、片方だけに注力することはできません。
 状況が大幅に改善して、本当に役立つ教育が国民に与えられる日は来るのでしょうか。正直に言うなら、今のところほとんど期待できないと思っています。それまでの間は、大切なことを教えてもらえず、多くの人が損する状況が続きます。それが長く続きそうなんて、あまりにも悲しすぎると思いませんか。そうならないように、本サイトは意見を述べ続けます。重要なことに気付く人が、1人でも増えるようにと願って。


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