川村渇真の「知性の泉」

社会の進歩とは何か?


ほとんど進歩していない部分もある

 電子技術を中心としたテクノロジーの進歩により、我々の生活は以前と比べて格段に便利になった。この部分だけを見れば、人類は相当に進歩したと言えるだろう。しかし、社会の仕組みや行政などに目を向けると、進歩したとは到底思えない部分が目に付く。それらを挙げてみよう。
 ダイオキシン問題などに対し、被害が大きくならないと対策を打たない行政。阪神大震災のような被害にあっても、救済されない人々。あまり価値のない内容を延々と教え続ける教育制度。松本サリン事件のように、間違った捜査で被害を受けた人に、謝ろうともしない警察。ただ儲けたい一心で、ひどい人権侵害を繰り返し、読者はもちろん被害者にも謝らないマスコミ。政策失敗や不祥事でも責任を取らず、誰の目にも明らかなほど白々しい内容で言い訳する官僚。南京大虐殺などなかったと言い、最後には訂正しながら謝罪するバカ丸出しの国会議員。多額の税金を使い、赤字を増やしながら、無駄なものを数多く作り続ける公共事業。ヤバイ部分を黒く塗りつぶして証拠を隠すとか、証拠となる資料を捨ててしまうなど、セコイ方法で情報公開制度を骨抜きにしようとする役人。カルト教団や悪徳商法にだまされる人が何人も出たのに、根本的な解決が進まないなど、本当にあきれるほど項目が洗い出される。
 これらのほとんどは、人に知られていない事柄ではない。メディアなどで報道されているし、その欠点を指摘する人が何人も出ている。それにも関わらず改善されないという、最悪の状態である。もう1つ重要なのは、難しいことを試みて失敗しているのではなく、セコイとか情けないに属する低レベルな内容が多い点だ。それも含めて全体的に見たら、社会が本当に進歩しているのか疑って当然である。テクノロジーの進歩に比べると、ほとんど進歩してないように見える。
 どの問題も、国民が追求および解決してほしい思っている。ところが、まったく対応できていない。この原因は、いったい何だろうか。世の中全体として、何か根本的な部分を見逃しているのではないだろうか。

世の中の仕組みやルールは深く研究されていない

 テクノロジーの進歩によって、我々は世界中から情報を集められるようになった。また、科学的に解析された領域が、どの分野でも増えている。それら全体のおかげで、科学的に分析したり判断する方法が、だんだんと増えつつある。環境保護が代表的な例で、科学的な調査が基礎となっている。
 科学以外の分野では、我々は過去の歴史から学べる。戦争の悲惨さ、差別される人の気持ちなどを知ることで、生き方や他人との接し方などを考えさせる。それによって、人種や男女の平等、人権尊重といった考え方が出てきた。徐々にだが、人々の意識は進歩している。もう後戻りはできず、この傾向は今後も続く。
 これらに比べると、前述の進歩していない部分は、昔とあまり変わっていないように見える。内容自体がセコイとか情けないことであり、それが直らない点こそ最大の特徴だ。そのほとんどは、組織の仕組みや運営ルールに関する問題である。たとえば、ダイオキシン問題を解決するには、個々の事件を解決するだけでは済まない。問題が小さな段階で発見し、できるだけ早い時期に有効な対策を打つ必要がある。そのためには、厚生省を含めた行政の仕組みを変えるしかない。枝葉の部分をいじっても大きくは改善されず、根本的な解決には大元の改善が求められる。
 行政を含めた世の中の仕組みやルールは、テクノロジーほど深く研究されていない。もっと現代に適合させるために、必要な条件を明らかにする必要がある。それをもとに、行政などの組織の運営方法やルールを決めなければならない。

社会の進歩に役立つ仕組みやルールを求めるべき

 具体的には、どんな内容が必要だろうか。思いつくまま挙げてみよう。

・人々の意見を上手に集める方法
・集めた意見を的確に反映させる方法
・社会の中で、物事を決める際の良い方法
・きちんと議論するためのルールや道具
・物事を評価するための良い方法
・実施した内容を検査する適切な方法
・新しい問題を素早く発見する方法
・以上のことを実現する仕組みや運営ルール(最終目的)

細かく挙げるなら、まだまだ数多くあるだろうが、主な項目は見えてきた。どんなテーマであっても、きちんとした意思決定や行動ができるような仕組みや運営ルールである。そのためには、意見収集や議論方法だけでなく、情報公開や結果評価などが必須である。
 以上のような分野は、深くは研究されていない。ここで研究するというのは、今までよりも論理的で科学的に掘り下げることを意味する。そうでなければ、説得力のある内容にはならないし、適切な評価や意思決定もできない。
 研究でもう1つ考慮すべきなのは、机上の空論にならないようにする点だ。実際に運営できる仕組みやルールを導き出さなければ、現実の組織には適用できない。ただし、現在の価値観を持った人が運営できないからダメという話ではなく、価値観を未来型に変えれば運営できる内容なら構わない。おそらく、価値観の変革は必須であろう。
 求めた仕組みやルールを実社会に適用できれば、現在のようにイライラすることは格段に減る。真っ先に適応すべき対象は、行政組織である。残念ながら、ゆっくりと考えている時間はない。ダイオキシンや環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)など、環境破壊は急速に進んでいる。個々の表面的な問題へ対処していては、大きな破壊をくい止めることは難しい。
 本コーナーで取り上げる問題は、社会の中で一番進歩していない部分である。進歩しないのは、それほど注目されていないためだ。ところが現代社会においては、非常に重要な部分である。このまま放っておくと、大事な部分が取り残されたまま、他の部分だけが進歩する。それでは、社会が進歩したことにはならない。今からでもいいから、一人でも多くの人が注目し、どんどんと研究を進めるべきだ。
 我々は、もっと論理的で科学的に、すなわち知的に物事を捉える必要がある。

(1998年6月17日)


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