川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−2001年04月


●2001年04月27日

メールや発言内容から論理的な思考能力が推測できる

 今までに、いろいろな人のメールや発言内容を見たり聞いたりしてきた。どんな人がどのような発言をするのか、大まかな傾向がつかめている。とくに最近では、電子会議室が普及しているため、傾向を分析する材料には事欠かない。おかげで、少し長めの発言を何個か読むと、発言者の論理的思考能力をほぼ推測できるようになった。どんな点から判断できるのか、簡単に紹介してみよう。
 先に、論理的な思考能力が高い人の発言から。最大の特徴は、発言全体を眺めたとき、話の流れが整理されていて理解しやすい点だ。また、物事を総合的に考え、対象全体を見て評価する傾向が強い。結果として、話題の要点を的確に捉えられ、説得力のある発言内容に仕上がる。
 逆に、論理的な思考能力が高くない人の発言には、いろいろなパターンがある。最悪なのは、意味のある説明になっていないパターン。たとえば、自分と対立する意見に対して、「〜の呪縛を受けている」とか、「〜が潜在意識に埋め込まれている」といった内容で反対する。素人目には反論のように見えるが、意味のない内容なので、そもそも反論になっていない。こうした無効な意見に対しては、キチンと反論することは不可能だ。できるのは、意味のない意見だと指摘することぐらい。
 次にダメなのは、発言内容全体で論理性が低いパターン。発言に含まれる複数の段落で、前後のつながりが論理的でない場合だ。こうした発言は、論理的な思考が苦手な人に多い。このパターンに陥らないためには、発言内容の流れを複数に分け、それぞれのつながりが論理的かどうか自分で検査する方法が有効だ。自分で検査して発見できるようなら、何度か練習することで直せる。
 他にありがちなのは、何を言いたいのか明確でない意見。いろいろな話題を取り上げるものの、結論らしき内容が見あたらない。考えている内容を上手に整理できない人にありがちなパターンだ。これを防ぐには、結論が何なのかを常に意識する癖を付けるのが一番。自分自身に「で、結論は何なの?」とか「要点は何なの?」と問いかければ、だんだんと結論を含められるようになる。
 意外に多く陥りがちが、物事の一面だけしか見ないパターンだ。その場その場で取り上げられた部分だけ見て、何事も判断してしまう。そうなると、大事な点を見逃しやすく、適切な内容からどんどん離れていく。発言内容だけ見ると論理的なのに、実は間違っているという結果になってしまう。このパターンに陥らないためには、物事を全体として捉えたり、総合的に検討する癖を付けるしかない。
 以上のうち、物事を総合的に検討することが、おそらく一番難しい。これが苦手だと、システム設計能力が低くなってしまう。かといって、細かな技術が苦手とは限らない。たまに見かけるのだが、プログラミングやソフトの設定などが非常に得意なのに、物事を全体的に捉えるのが不得意な人がいる。幅広い技術を知っていて、いろいろな人に教えてあげているので、一見するとシステム設計も得意そうに見える。しかし、ある種の話題に関して発言したとき、物事の総合的なとらえ方が不得意という一面が出てしまう。もちろん、こんな一面を発見できるのは、物事を総合的に捉えられる人だけだが。
 電子会議室での発言内容は、考えたまま書き込むことがほとんどなので、普段の思考手順や方法がそのまま出やすい。日頃から論理的に考えられる人は、特別に意識しなくても、発言が論理的な内容になる。逆に、論理的な思考が苦手な人は、そんな内容で書いてしまう。しかし、論理的な思考能力というのは、繰り返して訓練すれば高められる。ここで説明した点を自分の発言に当てはめ、該当した箇所を修正し続けると、論理的な思考能力が少しずつ高まるだろう。

●2001年04月28日

論理的な思考能力を推測する理由

 上記のように、限られた情報から論理的な思考能力を推測するようになったのは、それなりの理由がある。自分が関わる仕事の成功率を、少しでも高めたいと考えたからだ。
 たいていの仕事では、何人かが関わって、目標となる成果を目指す。参加するメンバーは、それぞれ得意な技術が異なるし、新人が含まれる場合もある。メンバーの技術力の構成を考慮しながら、各人が担当する仕事を決めなければならない。しかし、適切に配分されるとは限らない。部門の役割によって決まってしまう場合もあるし、決定権を持つ人の能力が不足する場合もある。
 それでも仕事を何とか成功させなければならない。自分の部下だけでなく、一緒に仕事をする他部門や外部の取引先などとも、適切に進める必要がある。部下ならば自分が管理できるが、他部門や外部の取引先なら、そう簡単ではない。安心して任せられるのか、逆に不安な要素が多いのか、責任者の能力を見極めて、それに応じた対処を選ぶ。
 他部門であれ外部であれ、責任者が優秀なら、予想外の問題が発生しにくいし、発生しても上手に対処してくれる。こちらとしては、関係する重要箇所だけ把握できていれば、細部をさほど気にする必要はない。
 逆に優秀でないと、予想外の問題が発生しやすく、その被害がこちらにも及ぶ。関係している箇所の仕様を変更するしかない状況に陥り、こちらの仕事も修正を求められる。後のほうの段階で発生すると、非常に大変だ。そんなトラブルを減らすために、仕様の確認などを細かく行い、場合によっては仕様の整理方法を教える。具体的な例を示して、そのとおりに書いてもらうのが一番だ。また、トラブルが予想される部分を予測し、それを考慮しているか詳しく確認する。こうした努力によって、予想外の問題の発生を減らすしかない。
 責任者の場合、仕事の進め方の良し悪しは、マネジメント能力に大きく関係する。しかし、マネジメント技術を習得していない人が多いので、その面で失敗することがよくある。相手が優秀なら、科学的なマネジメント技術を教えることで、失敗の可能性を減らせる。論理的な話が通じるので、教えた内容を理解できるし、詳しく説明しなくても使い始められる。
 逆に優秀でない場合は、対応が非常に難しい。管理ツールとなる書類を具体的に設計してあげて、使い方を説明するのが一番だ。しかし、それを使うとは限らないので、相手の行動を見ながら臨機応変に対処するしかない。
 こうした異なる対応を成功させるためには、相手である責任者の能力を見極めるのが重要。通常は、本人の実績に加えて、論理的な思考能力が高いかどうかで判断する。こちらの問いかけに対して、理路整然と説明でき、要点が把握できていれば、非常に優秀だ。こうした相手だと、安心して仕事ができる。
 相手が部下の場合も、論理的な思考能力を判断して対応する。思考能力が高ければ、できるだけ論理的に、かつ全体を把握できる形で説明して、仕事を任せる。最初だけ細かく管理するが、途中から重要箇所しか確認しない。逆に思考能力が低ければ、とりあえずは具体的な作業方法を説明して、仕事を任せる。作業が終了するまで、細かな部分まで管理しなければならない。ただし、こうした状態が続くのは良くないので、論理的に考える方法を何度も教える。仕事上の具体的な例を題材にし、思考の道具を使いながらだ。このような訓練を続けると、論理的な思考能力を伸ばせる。
 部下と同じように、他部門の責任者にも教えることは可能だが、こちらが上司でないため簡単ではない。ただ、相手が真剣に興味を持った場合は例外で、仕事を題材にしながらマネジメント技術を教えるようにしている。
 以上のように、他部門でも部下でも、論理的な思考能力を把握しながら仕事を進めると、失敗する確率が大きく減らせる。それを可能とする目的で、メールや発言内容から論理的な思考能力を推測する技術を磨いたわけだ。


下の飾り