ジャナ革:既存ジャーナリズムの問題点 |
エイズが簡単に感染する病気でないことは、ある程度の情報を得た人なら知っているだろう。しかし、この種の情報を知らない人は、エイズが恐い病気と思っている。よく知らないからこそ、恐いと感じるのだ。これを改善するためには、正しい情報の伝達が重要である。
かなり前だが、あるテレビ番組のキャスターが次のような主旨の発言をした。「エイズは簡単に感染する病気ではない。エイズの番組は何度も何度も放映したのに、その内容を理解していない人が多い」という主旨だった。この発言は、番組を作っている側の印象を反映したものだろう。制作者側からすれば、多くの番組で取りあげていて、耳にタコができるほど放映したと思っているに違いない。たしかに、エイズ関連の放送時間を累計したら、1つの放送局だけでも、かなりの時間にのぼる。
ここで考えなければならないのは、制作者側の印象ではなく、視聴者側の印象だ。何度も何度も放映したと言うが、放映の累計時間が重要なのだろうか。いや、そうではない。視聴者側が納得したかどうかが最大のポイントなのだ。ただ「簡単には感染しませんよ」と言われても、「そうですか。分かりました」と納得する人はほとんどいない。感染しない理由をきちんと説明することが必要だ。エイズのように、特定の行為で感染するようなテーマでは、どのような行為だと感染し、逆にどのような行為だと感染しないのかを明確に伝えなければならない。
視聴者は、多くの疑問を持っている。蚊に刺されたらうつるのか、歯ブラシを共有したらうつるのか、床屋のカミソリでうつるのか、手を握ったらうつるのか、同じ食器で食べたらうつるのか、などなど数多くのケースでの真実を知りたい。自分が疑問に思う状況でどうなるのかを知らないと不安に感じる。できるだけ多くのケースを見せてはじめて、視聴者は納得する。また、視聴者と一言で表現しているが、いろいろなタイプの人がいる。できるだけ多くの人を納得させるには、数多くの事例を整理してみせる必要があるのだ。
では、このような作業はテレビで可能だろうか。実は、かなり苦手な分野といえる。ニュース番組では、たとえ特集であっても、割り当てられる時間が限られている。その範囲内で多くの事例を示すことは、非常に難しい。
また、番組作成に共通する問題がある。どんな人が見ているか分からないので、常に初心者を意識して作る点だ。エイズの知識をある程度持っている人ではなく、ほとんど知らない人が見ても分かるように制作する。このため、初心者向けの知識を何度も何度も繰り返す。エイズの番組を何十回見ても、似たような内容ばかりなはこのためだ。このような特徴は、1つのテレビ局を朝から晩まで映しっぱなしで見るとよく分かる。朝昼晩の各ニュース番組で、同じ内容が何度も繰り返される。新しい情報が入ったとき以外は、伝えている内容が変わらない。このような制作方法の結果として、放映時間の累積はかなり増えても、情報は一向に深くならない。前述の制作者側の視聴者側のギャップは、このことにも原因がある。
テレビのチャンネル数が増えて、ニュース専門局が登場すれば、少しは改善されるだろう。しかし、それでも十分ではない。理由は、テレビが持つ垂れ流しの特性である。視聴者の好きな時刻に見るのではなく、放映する側が決めた時刻に見なければならない。また、もしビデオに録画したとしても、見たい部分を簡単には見付けられない。検索が非常に面倒だからだ。ラベルを上手に付ければ少しは改善できるが、そこまでやる人は非常にまれだ。事前に録画しておかなければ調べられないのも、大きな問題である。知りたいときにすぐ調べられなければ、本当の役には立たない。
エイズのような一般知識は、新聞や雑誌でも同じである。一度に入れられる情報量が限れているので、適したメディアとはなり得ない。今のところ最適なのは、インターネットのウェブページだ。情報発信のコストもかなり下がり、制作も簡単になったので、実用度はかなり高い。文字データが中心なら、いくらでも情報量を増やせる点も大きなメリットだ。
ウェブページ上では、文字中心の情報発信でも十分である。文字で説明するのなら、情報量を増やすのも比較的簡単だろう。大切なのは、見たい情報にたどり着く方法を提供すること。多くの情報を入れたときは、上手な整理方法や検索方法が重要となる。この部分は、情報を扱う専門家に助けを求めたほうがよい。デザインばかり重視してデザイナーに任せ、使いにくいウェブページにすることだけは絶対に避けたい。見栄えが悪くても、使いやすい情報提供が重要なのだ。見栄えにも凝りたいなら、使いやすさを低下させない範囲でのデザイン変更にとどめる。
上手に整理されたウェブページなら、自分の興味や知識レベルに合わせて、必要な情報だけを調べることが可能だ。好きなときに何度でもアクセスできるので、そのとき知りたい内容だけを調べればよい。関連する知識がまとまっていると、調べる手間も最小限で済む。
インターネットの特徴は、好きなように読めるだけではない。アクセスした人との双方向性にもある。どのような点をもっと知りたいのか、意見を受け付けることで、ウェブページの内容を充実されられる。エイズがテーマなら、提示した状況以外で、うつるかうつらないかを知りたいケースを募集してもよい。いろいろな疑問や意見を集めることで、制作者側が気付いていない部分を知ることができる。視聴者の納得度合いを高めるには、双方向性の上手な利用が不可欠である。
現状でのインターネットの欠点は、見れる人が少ないことだ。しかし、ある程度までは工夫で改善できる。役所や図書館に、ウェブページを見れる端末を設置すればよい。何でも見れると困るので、あらかじめ選択したウェブページだけしか見れないソフトを組み込む。URLをキーボードから入力する必要もなくなり、使い勝手も向上する。エイズ以外にも利用できるので、コストの割にメリットは大きい。
テレビ局の多くは、インターネットのウェブページを持っている。しかし、テレビを含めた各メディアの特性を十分に理解しているとは言いがたい。テレビの欠点を十分に理解しつつ、ウェブページで補う使い方が、今後は求められる。同じことは、雑誌の出版社にも言える。各メディアの特性を理解しないと、より良いジャーナリズムへは変身できない。
(1996年11月29日)
テレビというメディアの特性を理解していない人々 |