川村渇真の「知性の泉」

人材コンサルタントのダメ助言に要注意


人材コンサルタントの助言内容に疑問を感じた

 一般に中途採用と呼ばれる形で就職先を探す場合、企業への斡旋業者を利用することが多い。そこには、人材(または人事)コンサルタントがいて、就職先を求める人に助言する。その助言内容だが、本当に信じて良いのだろうか?
 助言内容への疑問は何となく以前から持っていたが、大きな問題だと確信したのは、とあるメール・マガジンを読んでからだ。そのマガジンは、求人企業に人材を紹介する企業が発行していて、ベテランの人材コンサルタントが転職者に助言するという連載コラムが含まれる。いろいろなテーマを取り上げて語っていて、うなづける内容のこともある。しかし、中には「おいおい」と突っ込みたくなる内容が登場する。そう感じる中身とは、一言で表すなら「企業側を重視していて、価値観が古いんじゃないの?」だ。これだけだと抽象的すぎるので、もう少し具体的に説明しよう。

ダメ事例1:ひどい仕打ちの企業を容認する助言

 紹介された事例は、応募者の就職可能な時期が半年後と遅いので、企業側が怒ってひどい仕打ちをしたケースだ。面接試験は雨の日で、その人にだけタクシーを出さず、歩いて返らせたという内容だった。試験を受けた人が怒って人材コンサルタントの文句を言ったら、コンサルタントの助言が凄く、半年後というのは非常識であり、そんな仕打ちを受けても仕方がないという感じだった。
 この企業の行動を第三者的に見れば、気に入らない人に対しては、ひどい仕打ちでも平気で行うという特徴を見いだせる。つまり、入社当時は良いかも知れないが、もし途中で気に入れない存在になったら、何をされるか分からない。つまり、求職者から見て、就職先として危ない企業なのだ。
 このように評価できるので、もし自分がタクシーを出された側の立場だったとしても、タクシーを出されない人を見たなら、絶対に就職しない。それより最悪なのは、そんな仕打ちを知らずに就職する人で、もし途中で気に入らなくなった場合が恐ろしい。
 もう1つ、半年後にしか就職できないことが、それほど悪いことだろうか。求職者が優秀で責任感があるなら、現在の仕事を途中では投げ出せない。また、世の中にはレベルの低い企業が多いので、かなり早い段階から就職先を探さなければならず、たまたま早目に見付かったら半年後ということもあり得る。ひどい仕打ちをするほどの理由だとは思えない。
 それはともかく、この事例で一番悪いのは、企業の態度である。相手が多少悪くても、良識ある態度で対応し、ひどい仕打ちなどしないのが良い企業だ。失礼のない態度で「お帰りください」と帰ってもらえばよいだけである。それすらできないとはレベルが低すぎるし、就職先として選びたくはない。このような対応を知ったとき、人材コンサルタントは、企業の人事担当者のほうにこそ、きちんと行動するように助言すべきだ。「そんなことばかりしてたら、マトモな人材から無視されますよ」と。

ダメ事例2:雇った側の失敗は無視する評価

 次の事例は、超大手企業の元経理部長が小さな企業に就職して、最終的には退職する結果になったケースだ。元経理部長の態度が大きすぎたため、他の社員から反発されて、辞めなければならない状況になったと説明していた。
 これを読んで疑問に思ったのは、雇った側の社長の責任である。元経理部長の性格を見抜けなかったのか、態度が大きいなら途中で助言できなかったのか、他の社員と仲良くするような対策は打たなかったのか、といった疑問が生じる。少なくとも半分の責任は社長側にもある。しかし、人材コンサルタントはその点を指摘していない。
 さらに大切なのは、入社する前の人材コンサルタントの助言であろう。新しい仕事のやり方を進めるときは、どんな場所でも反発が生まれる。その反発に対して、どのように対処するのか、事前に計画しておく必要がある。この例では、元経理部長と社長が戦略を練って、新方式をどのように導入するのか決めるべきだ。長期プランと短期プラン、元経理部長と社長との役割分担、社員への提示方法、協力してくれそうな社員を早目に見付けて仲間に入れることなど、いろいろな点を検討しなくてはならない。
 このように、人材コンサルタントとしては、入社してからスムーズに仕事が運ぶための助言もすべきではないだろうか。人材コンサルタントと名乗る以上は、その程度の能力を持ってほしい。単に態度が悪いからダメと結論付けるのでは、コンサルタントのほうがあまりにも低レベルすぎる。

ダメ事例3:個人の可能性を否定するような助言

 今度の事例は、パソコンのオペレーションか何かをしている女性が、将来のことを考えて、プログラミングの仕事をしてみたいという相談だ。人材コンサルタントは、現在の仕事でも極めれば良い結果になるので、このまま続けるように助言した。
 この助言はかなりひどいと言わざるを得ない。本人がやりたいというのに、あきらめさせる助言しかしてないからだ。ちなにみ、プログラミングの仕事は、本人の適正が一番重要である。しかも、独学で勉強することが可能である。既にパソコンを持っているので、安価な開発ツールと解説書を購入し、まず個人的に勉強してみることを勧めるのがベストな方法だろう。その結果、プログラミングをマスターできたとか、非常に面白いと感じたなら、かなり適正のある可能性が高い。独学でも、早ければ2ヶ月ほどで、遅くとも半年ほどで、だいたいの適性度が知れる。
 このようなケースでは、個人の可能性を最初から否定せず、容易に試せるなら試すように勧めるのが良い助言だ。人材コンサルタントなら、プログラミングを仕事とする知り合いも多いだろう。その人たちに尋ねて、教材として適した開発ツールや解説書を教えてもらい、やりたい本人に助言できる。実際に試してみた結果、本当にやりたいとかやれると思ったら、そのときに就職先を見付けてあげればよい。助言の中には、仕事以外の時間を使って試させることも含めるべきだ。
 このダメ事例のように、就職先という狭い視野でしか考えていないなら、人材コンサルタントとして失格である。コンサルタント自身が早目に転職して、別な職業に変わることこそが、助言される人への迷惑を最小限にする、最良の選択だろう。

企業側の要望を重視した助言が中心になりがち

 以上の3つが代表的な例だが、納得できない助言内容は他にもあった。全体に共通するのは、求職者よりも企業側の考え方を重視している点だ。求職者には厳しく助言するものの、企業側の欠点を指摘することはほとんどない。求職者だけに変化を求め、しかも求人企業が好む人材へと向かわせている。
 このような状態になるのには、ある程度の理由がある。斡旋業者が収入を得るのは、企業側からだけだからだ。お金を出すほうの要望に強く応じるのは、ビジネスでは良くあること。しかし、このような考え方ばかり重視していたら、斡旋業者も求人企業も、優秀な人材からそっぽを向かれるだろう。
 これらを全体としてみるなら、企業がピンからキリまであるように、人材コンサルタントもピンからキリまでいるということでしかない。加えて、企業側の要望を尊重する傾向が強いだけに、人材コンサルタントの助言だからといって、無条件に信用しないほうがよい。
 ここで紹介したダメ助言は、メール・マガジンとして多くの人に読まれている。読者が多いだけに、悪い助言を信じる人が増えることこそ、大きな問題である。メール・マガジンの編集部には、ここで紹介した指摘をメールで送っておいた。改善されることの望むが、どうなるかは不明だ。
 人材コンサルタントがピンからキリまでいる以上、メール・マガジンで広く助言するからには、人材コンサルタントの名前を出して助言すべきだ。そうすれば、もっと責任を持って書くようになるだろうし、ダメだと指摘されたときに改善する力も働く。この点は、一般のマスメディアと同様だ。読む側としては、著者の名前がない助言は疑ってかかろう。

レベルの低い人材コンサルタントには求職者が助言を

 ここまでの話から、人材コンサルタントと言っても優秀とは限らない点が理解できたと思う。求職者は、自分の能力を磨き、その価値観を基盤として助言内容を評価したほうがよい。その上で納得できる助言だけ、自分に役立てよう。
 助言内容のレベルが低すぎる人材コンサルタントには、求職者のほうから助言してもよい。求人企業と求職者が対等なように、企業紹介者である人材コンサルタントと求職者も対等な立場であるべきだ。改善したほうがよい点を、できるだけ論理的に話す。ただし、レベルが低いだけに、怒りだして意地悪される可能性もあり得る。マトモな話が通じるかどうか相手を見て判断し、通じそうなときだけ助言したほうがよい。
 優秀なコンサルタントなら、きちんとした指摘をすることで、仲良くなれるかも知れない。相当に意気投合すれば、企業の紹介という仕事とは関係なく、個人的な付き合いへと発展するだろう。そんな出会いのトリガーとして、人材コンサルタントへの助言は役立つ。
 これからの時代の人材コンサルタントは、求人企業と求職者を対等だと考え、求職者だけでなく企業へも適切な助言ができる必要がある。求職者を一人の人間として扱い、プロとして通じる能力や考え方を求めるような企業になってもらうために。そんな高い志を持ちながら、人材コンサルタントの仕事をしてもらいたい。それを実現するのに一番効果的なのは、優秀な求職者による助言かも知れない。

(1999年6月18日)


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