川村渇真の「知性の泉」

勤めた会社数が多いのはアピールすべきメリット


複数の企業を経験して良さや悪さが分かる

 務めた会社の数が多いと、面接試験のときに悪く言われることがある。「すでに3つの会社を辞めているんですね」などと。言い方や表情から察するに、悪いことを指摘するような口ぶりだ。しかし、それほど悪いことなのだろうか。
 5つの会社に勤めた自分の経験から考えるに、悪いなんてとんでもない。まったく逆で、積極的にアピールしたいほど重要なメリットだと思う。いろいろな会社を経験すると、それぞれの良い点や悪い点が見えてくる。とくに見えてくるのが良い点で、辞めてから気付くことが多い。気が付く大きな理由は、複数の会社を経験することで、比べる対象ができるからだ。また、務めた会社の数が増えるほど、平均のレベルが分かってきて、善し悪しを判断する基準ができる。それにより、極端に理想的な状態と比較して悪く言うようなことはしなくなる。
 どの会社にも善し悪しがあるのは、同じ仕事でも違ったやり方をしているからだ。やり方を複数知ると、それぞれの仕事ごとに、比較して一番良い方法を選べる。経験した会社数が多いほど、最良の方法を選べることになる。どんなに良い会社でも、全部の仕事で最高の方法を用いていることはない。だからこそ、経験した会社数が多いほど、より良い方法を知る可能性が高くなる。
 以上のことから分かるように、レベルの低い会社をいくつも経験したのでは、あまり価値がない。ある程度の魅力を持つ会社を複数経験すれば、良いやり方を多く知ることができる。その意味で、会社選びは重要だ。理想的には、先進的な日本の大企業、バリバリの実力主義の外資系企業、小さいけれど勢いのある小企業などを経験するとよい。また、最初のうちは実力がないので、自分の実力を付けることも重要だ。ある程度の力が付かなければ、仕事のやり方が良いか悪いかの判断ができない。最初の会社では、できるだけ急いで能力を磨くことが求められる。それが達成できれば、あとは良い会社を経験して、良い仕事とは何かを考えながら方法を評価すればよい。
 米国では、最初は小さい会社に入って、実力を付けながら段階的にレベルの高い会社へと移る。当然、務めた会社数は多くなりがちだ。務めた会社数の多いのが悪いとしたら、米国は最悪の状況といえる。ところが、世界的に競争力のある会社が多く、どう考えてもそうではない。ここは日本だからなどと言い訳する人もいるだろうが、もはや優秀な会社は世界的に活動するのが当たり前だ。国籍など関係ない時代に入っている。きちんと答えられないので、単なる口実として使っているのに過ぎない。
 実際には、日本国内で良い会社を見付けるのはかなり難しい。雑誌などを読みながら、新しい方法で仕事をしているとか、先進的な組織へ改革しているといった情報を得て、とりあえず入ってみるしかない。仕事のやり方が古い場合もあるので、上司や先輩に言われたことを鵜呑みにせず、自分で評価しながら仕事を進めるべきだ。

面接担当者のレベルを見極めて次の対処を決める

 以上の内容を理解している面接担当者は、残念ながら非常に少ないようだ。最大でも3つまでなどと、古い考え方が奥底に残っている。面接試験では、何か悪いことでも追求するような雰囲気で、会社を辞めた理由について質問する。
 そんなときは、メリットをきちんとアピールしたい。もし「すでに5つの会社を辞めているんですね」などと言われたら、たとえ痛いところを突こうとするような感情が込められていても、自信を持って「そうなんです。自分にとっての“大きなウリ”です」と最初に言う。そう答えると、古い考えを持った人ほど驚くはずだ。どのような反応をするのか、表情をきちんと見て、相手のレベルを判断したい。
 相手の反応に関わらず、「ウリ」だと言った理由を説明する。前記のような内容を含めて、仕事のやり方に関する考え方を表明する。どの会社ではどんな点が良かったのか、より具体的に説明すると説得力が高まる。相手がマトモな思考能力を持っているなら、きちんとした説明に納得するはずだ。
 このように説明してもイヤな顔をする面接担当者もいるだろう。そんなレベルの低すぎる人は、あまり相手にしないほうが得策である。本人の能力で評価せず、過去に務めてきた会社名とか資格で評価する可能性が高い。話していても時間の無駄なので、面接をさっさと切り上げて帰ったほうがよい。
 もし時間が余っていて、相手に嫌われてよいほど親切心が大きいなら、詳しく教えてあげる方法も選べる。生え抜き社員だけで今後の競争に勝ち抜けるのか、仕事の質を高め続けられるのか、丁寧に説明してもよい。ただし、マトモな話が通じない相手なので、カンカンに怒り出す前に切り上げたほうが無難だろう。
 もう1つ重要なのは、書類審査で落ちる可能性が高いことだ。それを防ぐには、会社経験数が多いメリットを、文章にまとめてアピールするしかない。できるだけ目立つように、「会社経験数が多いのは、大きなメリット」という説明を独立した書類で作成する。当然のことだが、レベルの低い会社が多いので、それが通じるとは限らない。

中途採用の人材を十分に活用できる仕組みが必要

 複数の会社を経験したことがメリットだとすれば、そんな人材が多いことは会社全体でも大きなメリットになるはずだ。ところが、多くの日本企業では、大量の新卒を4月に定期採用している。こんなことは止めればよいと思うのだが、そんな会社は非常に少ない。
 他の会社を知らず、同じ会社に何年も勤めると、のほほんと仕事する可能性が高い。ある程度以上の地位に中途採用で入ってこない部署なら、旧態依然とした仕事のやり方が続く。会社としては、とくに人事担当部署としては、きちんと役割を果たしていない状態である。
 中途採用で人材を得る大きな目的は、即戦力として役立つだけではない。各部署の仕事のやり方を改良することも含んでいる。会社経験数の多い人が何人も集まれば、いろいろな会社の良いやり方を集めたことに等しい。その知識を有効に生かして、会社の改善に使わないなんて大きな損失だ。この点を深く理解し、改善を提案しやすい制度やルールなど、知識を生かせるような仕組みを用意する必要がある。
 もっとも理想的なのは、4月の定期採用を全面的に中止し、必要なときに必要な人数だけ採用する方法だ。もちろん経験者を優遇し、未経験の人なら素質を見極めて採用する。同時に、優秀な人材が止めないような工夫も必要である。また、各人が自発的に努力するような社風を作るべく、人事担当部署は対策を打たなければならない。
 ここまでの話を個人の人生に当てはめると、きちんとアピールできる形で経験を積むことが重要となる。風土の異なる複数の良い会社を経験し、自分の実力を磨いたほうがよい。これからの時代は、1つの会社に固執せず、より自由な形で能力を向上すべきだ。
 その後、会社経験数が多いことを面接試験で尋ねられたら、自信を持ってメリットをアピールしよう。場合によっては、面接担当者の意識を変えることも、その会社のためには役立つ。考え方の古い人には、少しおおらかな気持ちで接してあげよう。もちろん、言うべき点はきちんと言いながら。

(1998年6月24日)


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