川村渇真の「知性の泉」

試験内容の評価結果を企業に送る


お互いが評価して対等といえる

 求人側と求職者は、本来、対等な立場であり、両方が了解したときだけ入社が成立する。ところが実際には、対等と考えていない人がかなりいる。
 まずは求人側の採用担当者だが、企業の規模が大きいほど、自分たちが採用してやるという意識が根強い。評価するのはあくまで自分たちだけで、相手は評価される側でしかないと思いがちだ。強く意識して高飛車に出るほどではないが、言い回しや態度の端々にそんな面が現れる。たとえば、面接会場の作り方では、応募者が資料を広げられるような机を用意しない企業もある。
 もう片方の求職者側でも、何となくだが、弱い立場にいるような感覚を持っている。応募した企業の本当の姿を見極めようとせず、とにかく入社することばかり考える。試験の後では、採用の通知が届くのをただ待っているなど、受け身の姿勢が多く見られる。
 以上のような状況だと、対等な関係とは言えない。求人側が応募者を評価するのと同じように、求職者の側でも相手を評価すべきである。お互いが相手を評価してこそ、対等な立場になれる。

試験内容や企業を評価してみる

 中に入って仕事してはいないので、企業の実態を評価するのは難しい。評価できる対象としては、まず試験内容が挙げられる。もう1つは、面接試験などを通じて得られた企業の様子である。この2つが評価の対象となりうるが、企業の様子のほうは情報不足で満足できる評価ができないことも多い。
 というわけで、確実に評価できるのは試験内容しかないが、企業のいろいろな面が見えてきて面白い。入社するかや合格不合格に関係なく、やってみるとよいだろう。すべての面を評価すると大変なので、重点を絞って評価する。試験内容の評価では、筆記試験の内容、面接試験での質問や回答内容、面接会場の作り方の3点を見る。
 まずは、筆記試験の内容だ。能力を調べるような問題を集めてあるのか、1つ1つの問題を評価する。学校の試験に多い暗記中心型の問題が含まれていれば、価値の低い問題なので悪い評価を与える。評価のポイントだが、出された問題ごとに、これを出すことで何を調べられるのか考えてみるとよい。
 面接試験での質問や回答内容では、お互いに考えていることを理解し合うのに役立つかどうかを評価する。相手の質問は、何かを知りたくて出される。その聞きたい内容が、どれほど重要かで評価する。回りくどい言い方だったり、あまり意味のない質問ばかり尋ねるようだと、評価は低い。たとえば、転職回数が多いことを悪く捉えるような発言や質問は、体質が古い証拠なので低い評価となる。逆に、本当の能力を調べるために鋭い質問をするようだと、自分が“答えに困ったとしても”評価は高い。
 自分が出した質問への回答も、評価の対象となる。質問の内容を理解し、的確な回答を素早く出せれば高い評価を与える。逆に、あやふやな回答しかできないと評価は低い。また、こちらの質問がトリガーとなり、別な良い質問を出すようだとポイントが加算される。
 面接会場の作り方からは、人材に対する意識の本音が読みとれる。自分たちと対等な立場として捉えているかどうか、面接官と応募者での周囲の様子を比較する。机、イス、照明、電源など、両者に差がないほど評価が高い。応募者がノート型パソコンでプレゼンテーションをできるといった、情報機器を十分に活用できる環境を整えているなら、さらに高いポイントを与える。逆に、机を用意しないとか応募者側が劣っているほど評価は低い。
 以上が、試験内容を評価するときの基本的な考え方だ。一般的に、良い企業ほど試験内容もレベルが高いはずなので、試験内容を評価してみる価値はある。絶対ではないが、ある程度の目安にはなるだろう。

適切な評価基準を作成することが重要

 物事を評価する場合、評価作業の基礎を理解している必要がある。自分がそれを満たしていなければ、マトモな評価が行えず、評価する資格はない。
 評価というのは、評価基準によって結果が決まる。評価基準が違えば、同じものを評価したにもかかわらず、180度異なる評価結果にさえなりうる。どのような評価基準を採用するかが、評価でもっとも重要な点だ。良い評価基準を作ることが大切で、それも“評価対象を調べる前に”決めなければならない。試験の評価で調べるに相当するのは、試験を受けることなので、試験を受ける前に評価基準を規定する必要がある。
 評価基準は、前述の3点の評価対象に沿って作成する。それぞれの評価対象ごとに、どんな点を評価すべきなのか、いくつでも洗い出す。その中から、評価対象ごとに、重要と思う何点かを選ぶ。たとえば、筆記試験の評価なら「現実の専門能力を見極めるための問題かどうか」といった項目を採用する。続けて、評価基準を調べるための方法を規定する。どのような点を見て、どうであれば良いのか悪いのか、ある程度の目安を定める。前記の筆記試験の評価基準なら「問題ごとに、専門能力が見極められるかのレベルを調べ、全問題での平均点を求める。レベルは5段階で、『5:現実の専門性に大きく関係』〜(中略)〜『1:ほとんど関係ない』から選ぶ」などとする。選んだ全項目で規定すれば、基準と方法は決まりだ。
 評価する際には、評価基準に従って評価結果を求める。評価基準と方法を先に決めてあるので、後から手心を加える余地は少ない。できるだけ機械的に評価を下すことが大切で、悪い評価はもちろん、良い評価も出てくる。
 これらの作業では、適切な評価基準を作ることが一番難しい。きちんとした評価方法を使ったことがない人にとっては、良い訓練となるだろう。

評価結果を企業に送ってもよい

 いろいろな企業の試験を受けると、まさにピンからキリまであることが分かる。レベルの低い試験内容から、まあまあの試験内容まで経験できる。ただし、感心するような高いレベルの試験内容に出会うことはない。その原因は、求職者を対等に見ていないためだと思われる。
 お互いが対等なので、企業から試験結果を待つ以外に、応募者側から結果を知らせても構わない。企業が合格か不合格かを知らせるのと同じように、応募者側でも合格または不合格通知を出せる。場合によっては、評価は良いものの、自分には合わないケースもある。そんなときは、「不合格」ではなく「不一致」という表現が適する。また、合格の場合でも、「入らせていただきます」ではなく、「こちら側の条件を貴社が満たしたので、入社する意志はあります」といった表現がよい。もっとも、実際には、より軟らかい表現を用いるのが普通だ。
 企業への通知には、きちんとした評価結果を付けたほうがよい。企業からの通知のほとんどは、合格か不合格かしか知らせないため、不合格の本当の理由は不明なままだ。それは今後のために良くないので、自分で知らせるときは、よりレベルの高い方法で行う。合格や不合格とともに、評価結果も一緒に付けるのだ。当然、評価基準も一緒に含める。
 企業の採用担当者は、自分たちが直接評価されることに慣れていない。評価結果を含んだ通知を受け取ったら、最初は驚くだろう。加えて、評価基準まできちんと規定してあれば、自分たちとは違う次元の相手かもしれないと感じ、相当に驚くに違いない(あまりにもレベルが低いと怒るだけだが)。しかし、このように通知する人が増えることで、採用担当者の意識が変わり、対等な関係へと近づく。その意味から、体質の古い企業へは率先して評価結果を送りたい。
 応募者側と企業側の両方で合格通知を出したときが、入社の最低条件となる。実際に入社した場合には、自分の出した試験の評価報告書が人事部に残ることになる。それだけに、質の高い評価報告書を作るように心掛けたい。質が高ければ、人事部から一目置かれる存在になり、配属などの希望がかなう可能性を高められるかも知れない。
 以上のような行動は、正直なところ、自分にある程度の実力がないとやりづらい。まずは実力を付け、それを背景にしながら採用意識の改善を試みよう。

おまけ:自分の会社の試験内容を評価してみたら

 ここまでの内容を読んで、会社内である程度以上の地位にいる人は、自分の会社の試験内容はどうだろうかと気になるだろう。もし心配なら、人事部へは内緒で調べてみるとよい。外部の人に頼み、一般の人と一緒に入社試験を受けてもらう。そうすれば、試験内容のレベルが判明するはずだ。
 ただし、重要なのは調べる人の能力だ。残念ながら、ある程度の分析能力が必要とされ、誰でも良いというわけではない。そんな人材を見付けられたら、ぜひ調べてみよう。内緒で調べるだけに、客観的な評価を得られる可能性が高く、試験内容の改善に役立てられる。優秀な人材から無視されないように、試験内容の質を高く保ちたいものだ。もちろん、試験内容だけ良くてもダメなことは言うまでもない。

(1998年2月28日)


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