川村渇真の「知性の泉」

いつも話し中の電話や徹夜で並ばれるのは情けない企業の証


時間の浪費を強いられる応募者

 大学生の就職活動のテレビ放送で、悲惨な状況を紹介した番組があった。その中で、採用側の電話がいつも話し中で、つながるまで何度も電話する応募者が何人も登場した。応募者自身は就職活動で忙しいため、母親が手伝って電話をしている例もあった。
 似たような感じを受けるものに、前の晩から徹夜で並ぶ風景がある。受け付け開始時刻の何時間も前から、場所を確保して並ぶ。野宿で徹夜し、受け付け開始をただ待っているだけの行為だ。
 これらを見て感じるのは、マトモからはほど遠く、相当おかしな状況に陥っていることだ。話し中のために何度も電話したり、何時間もただ並んで待つ行為は、ハッキリ言って無駄な時間である。この時間を、もっと意味のあることに割り当てたほうが、より自分をみがける。採用する側にとっても、そのほうが良いはずだ。ただ電話するためだけに時間を浪費するなんて、悪夢以外の何者でもない。こんな状況が発生するのは、いったいなぜなのだろう。

長く改善しない企業は人権軽視の傾向が強い

 ここで注目すべきなのは、何度も電話させたり長時間並ばせている原因だ。とくに電話は、受け付け方法を改善することで、簡単に回避できる。インターネットによる受け付けを中心にするとか、ファックスや郵便による受け付けも可能だろう。また、電話の回線数や受け付け担当の人数を増やす方法もある。細かな質問が多いなら、共通した質問への回答をインターネットなどで公開することも効果的だ。やろうと思えば、延々と続く話し中などすぐに改善できる。
 中でもインターネットの利用は、もっとも有効だ。無駄な来社や質問を減らせるばかりでなく、応募者の意見も吸い上げられる。採用側のアイデア次第で、かなり役立つ仕組みを作れる。単純な利用だけでなく、いろいろな方向で考えてみるとよいだろう。
 話し中で電話がつながらない企業は、何を考えているのだろうか。残念ながら、ほとんど改善されない場合は、深く考えていないと判断して構わない。もし応募者のことを考えているなら、状況を改善する方向に進むはずだ。ほとんど考えない背景には、応募者各人を対等な人間として扱わない気持ちがある。明確に意識しているわけではないが、心の底で見下していて、自分たちが選んでやるのだと思っている。
 マトモな企業あれば、応募者の人権も尊重する。その意味から、応募者が無駄な時間を消費するようなことは、可能な限り避けるようにと工夫する。話し中が多い状況は、電話がほとんどふさがっていることで判断できる。それすら気が付かないなら、よほど能力のない担当者ばかり揃っているのであり、そんな企業はレベルが低すぎる。

長い話し中や徹夜で並ばれるのは恥ずかしいこと

 話し中が多くて電話できなかったり、前の晩から徹夜で並ばれることは、これからの時代、情けないことなのだ。そんな無駄な行為をしなければ、その企業に入れないなんて、マトモな状況ではない。誰もが容易に応募できて、本人の実力で選ばれる状況こそ、立派な企業の条件といえる。いつも話し中だったり、徹夜で並ばれることは、企業として非常に恥ずかしいことなのだ。
 そんなことが起こらないように、日頃からきちんと対応すべきである。前の晩から並ぶ行為は、「一番先に並ぶと確実に合格する」といった一種の神話が原因となる。マトモな企業としては、これを打破するような行動が求められる。たとえば、「受け付け開始時刻の10分以上前に並んだ人は、採用の対象外とする」と公表するとか、インターネットでの受け付けを中心とするなどが効果的だ。
 このような改善は、経営者自ら指導すべき点でもある。相手の人権を尊重するように、日頃から訴えなければならない。採用担当者へも「自分たちの行動が、どんなことを引き起こすのかも十分に考慮しなさい。相手を尊重し、無意味なことをさせないように」などと。トップがきちんと指導すれば、状況は確実に改善される。

ダメ企業でも好きなら気付かせる

 インターネットの普及により、話し中などの問題は解決する方向へと自然に進むだろう。しかし、人権に対して深く考えてない企業であれば、改善されずに続くこともありうる。応募者側としては、ダメ企業のレッテルを貼って、無視するのが一番だ。
 しかし、その企業が相当に好きで改善してほしいのなら、応募者が教えてやるしかない。きちんと分析した内容を含め、レポートを相手の担当者に送る。郵便だと応答が遅いので、電子メールかファックスがよいだろう。ただし、完全に無視されて、採用すら失う可能性も高い。なにしろ、自分で改善できないダメ企業なのだから、的確な分析が通じないことのほうが多い。
 最終的には、気持ちの問題といえる。好きな企業なので、たとえ採用されなくても、改善するための助言をしたと思えば、そんなに腹も立たないだろう。なにしろダメ企業なのだから、広い心で見守ってあげなくては。

(1996年11月12日)


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