川村渇真の「知性の泉」

創造的な人材がほしくても、それを生かせない組織が多い


創造的な人材をほしいと言うけれど..

 世間では、終身雇用や年功序列が終わりつつあると言われている。実力重視へと方針を転換する企業が増えているのは、「欧米に追いつけ追い越せ」を合い言葉に進んできた社会から、自ら新しいモノを創造する社会への転換が背景にある。その変化に合わせて、人材に求められる能力も変わってきた。求人広告でも「創造的」とか「チャレンジ精神」という言葉を見かけるようになった。新しいことに挑戦して創造的な成果を出せるような人材を、採用したいのだろう。

人事担当者がよく理解しているとは思えない

 ところが人事担当者の多くは、「創造的な人材」の特徴をよく理解してはいない。創造的かどうかよりも、まず常識的な態度を重視する。その証拠に、風貌や行動が変わっていれば、面接などで落ちてしまうことが多い。明確には言わないものの、求めている人材の姿は「協調性があって組織のルールをよく守り、創造的な能力が高い人材」なのだ。ところが、これは根本的に間違っていて、相反する特性を求めているのに等しい。
 創造的な度合いの大きな人物は、一般の組織にはなじみにくい。よく理解していない上司から文句を言われるのを極度に嫌う。みんなと一緒に仕事をする場合でも、役割分担を明確に決めてもらい、その範囲内で自由に動けることを望む。成果をきちんと評価することは求めるが、作業過程を細かく指摘されるのは好まない。
 このため、今までと同じような常識的な選考基準には適合しない。創造的な能力の評価に力点を置き、その他の項目にはかなり目をつぶる必要がある。また、より自由に発言できる状況を作り、できるだけ自分を出してもらう工夫も大切だ。たとえば、「スーツでなく普段着で来てもらって結構です」と明示するとかだ。普段着で面接するだけでも、「好きなことが言える」という印象を与えられるため、本音で話せる可能性を高くできる。いうまでもないことだが、求人側の面接担当者も普段着で出席する。これとは別な方法も含め、試験方法と選考基準の両面で、大きな改良が求められる。

創造的な人材を生かせる組織に変わるのは難しい

 創造的な人材が採用できる試験を実現できたとしよう。しかし、その次にはもっと大きな問題が待っている。実際の組織の状態である。創造的な能力の高い人材が入ったとして、それを十分に生かすような組織になっているかどうかだ。多くの組織では、これまで終身雇用や年功序列で運営してきた。その評価基準に適合した人が出世して、ある程度の地位に付いている。終身雇用や年功序列は、創造的な人材を生かすこととは逆の評価基準である。その基準で選ばれた人が重要な地位にいる組織なので、創造的な能力をつぶす可能性が高い。管理職としての古い経験は、生かせないどころか邪魔する要因となる。
 組織が変わるのは、そう簡単ではない。とくに組織が大きいほど難しい。トップマネジメントが入れ替わり、新しい方針を強力に押し進めたとしても、何年もかかる。同時に、かなりの痛みも伴う。そのため、変革がほとんど進んでいない企業のほうが圧倒的に多い。やりたいと思っても、できないでいるのが現状だ。

創造的な人材を生かす組織になっているか質問してみたら

 以上のことから、人材募集の広告を簡単には信じるべきでないと分かるだろう。もちろん、創造的な人材を生かせる組織も、少しはある。それを見極めることが求職側の重要なポイントだ。しかし本当のところは、実際に職場に入って仕事をしないと判明しない。しかたがないので、率直に質問するしかないだろう。たとえば「創造的な能力を重視しているとのことですが、そんな人材を活用するのは、非常に難しいと思います。具体的には、どのような工夫を実施しているのでしょうか」などとだ。この質問では、“難しいことだが”と“どんな工夫で”を必ず含める。そうでなければ、マトモな回答を得られる可能性が低くなるからだ。
 こんな質問を受けた採用担当者の多くは、まず驚くだろう。「創造的な人材を採用したい」と真剣に考えていても、「十分に生かせる環境を提供する」ことが難しいことは十分に知っているからだ。そう簡単には答えられないので、かなり悩むにちがいない。だからこそ質問する価値があり、人事方針を見極めるのに役立つ。
 この種の話は、面接のときにもっとすべきである。どんな人材がほしいのかをより具体的に述べてもらったり、それを生かす組織とはどんなものかを語ったり、面接の話題としては非常に適している。企業側も求職者も、お互いの考え方が伝わる話題だからだ。お互いが求めることのギャップが明確になれば、「適材適所の就職」を実現するためにも役立つ。

(1996年7月28日)


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