川村渇真の「知性の泉」

応募者の考え方を引き出す面接試験を


試験会場を見て判断できる採用側の考え方

 面接試験の会場ほど、人材に対する採用側の考え方が現れる場所はない。どのような形式で面接試験会場を作っているかで、ある程度の本音を知ることが出来る。
 もっとも悪い会場の作り方は、受験者側には椅子だけが置いてあるケースだ。逆に採用側にはきちんと机があり、書類を置いて見れる。このような会場を作るのは、採用側が受験者を見下している発想が基礎にある。採用側が評価をメモするのと同じように、受験者側でも企業側の評価や約束をメモするとは考えない。あくまで評価するのは自分たちであり、受験者は評価される側でしかない。
 そんなに深くは考えておらず、受験者に椅子だけを用意した場合もあるだろう。しかし、それもかなり悪い。仕事として面接試験を行うのだから、その目的を最大限に達成できるようにと、試験方法を考えるのが当たり前だ。何も考えていないとすれば、仕事に対する取り組み方が悪いと評価されても仕方がない。
 このような視点が広まると、椅子だけを用意する面接方法の企業は、優秀な人材に相手にされなくなる。面接会場に入った時点で、そのまま帰る人が現れてもおかしくない。「貴社では、人材を有効活用しようとは考えていませんね」などと言われて。これを読んだ人は、自分の会社の面接方法を調べてみるとよいだろう。
 この視点は、中途採用に限ったことではなく、新卒の面接試験でも同じだ。

応募者の考え方を引き出す工夫が大切

 面接試験は、採用担当者と受験者が直接話が出来る数少ない機会でもある。直接話すことにより、いろいろな質問をしながら、お互いの考え方を知ることができる。だからこそ、より深く考え方を知り合えるように、面接会場や方法を工夫すべきである。
 基本的に考えなければならないのは、お互いに対等だという点だ。採用側と同様に、応募側も評価結果をメモするのが当たり前である。さらには、用意した資料を見ながら回答することもあるので、当然のごとく机が必要となる。応募者側にも机を用意することは、最低限の守るべきことといえるだろう。
 最近では、高性能のノート型パソコンを活用する人も増えている。各種資料や質問項目をパソコン内に入力して、面接会場でそれを見ながら回答するように変わる。パソコンを用いたプレゼンテーションも可能であり、求められればいつでもプレゼンテーションを見せられる人も、少しずつだが現れ始めている。現在のノート型パソコンの欠点は、バッテリーの持続時間が短いことだ。だから、じっくりとプレゼンテーションするためには、ACコンセントが必要となる。面接会場には、コンセントを用意するぐらいの気配りをしてほしい。さらには、面接時期を知らせるときに、プレゼンテーションがあるなら持ってきてほしいと伝えることぐらいも、これからはやるべきだ。当然、プレゼンテーション時間は、あらかじめ規定したほうがよい。
 このような考えを持たないのは、採用担当者自身がプレゼンテーションに慣れていないことも一因だ。しかし、それ以上に問題なのは、自分たちよりも優秀な人間が来た場合の対処について、きちんと考えていないことである。相手の能力を最大限まで引き出して見極めようとすれば、より積極的で価値のある面接試験を実現できるだろう。何事においても「この方法で、本当に成果が得られるだろうか」と常に疑問を持つことが重要なのだ。

採用担当者にとって視野を広げられる機会に

 このような意識で面接試験を実施すると、採用担当者の質問にも変化が現れる。在り来たりの質問ではなく、より意味のある質問へと変わる。応募者の仕事への取り組み方やモノの見方など、その人の考え方に関した質問が増えてくる。また、応募者が見せたプレゼンテーションがネタになり、お互いがいろいろな質問をするだろう。応募者の側でも、会社の考え方に対する質問が出てくる。
 実は、このような面接試験を繰り返すと、採用担当者側のほうが大きな勉強になる。いろいろな価値観を持った人と出会えるのに加え、その人達が自分で工夫した様々なプレゼンテーションを見れるからだ。それに、変わった質問をされることもあるだろう。このような経験は、採用担当者の視点を広げることに大きく貢献する。たとえ、お互いの条件が合わなくて入社しないとしても、意気投合すれば友人として付き合うことも可能だ。もっと広い視野に立てば、新しい可能性が待っている。面接試験の会場作りや方法が悪いと、そんな貴重な機会を失いかねない。何事にも、固定した観念を持つことは禁物だ。

(1995年8月22日)


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