川村渇真の「知性の泉」

履歴書は手書きでなければという時代遅れ感覚


履歴書を手書きすれば真剣だという錯覚

 就職試験で提出する履歴書は、手書きすることが当たり前だと一般的には考えられている。古い価値観を持った人は、履歴書を手書きしないなんて、真剣さが足りないとか誠意がないと判断するようだ。しかし、これだけワープロが発達した世の中で、手書きしなければならない理由はあるのだろうか。
 ハッキリと言ってしまえば、履歴書を手書きするなんて、完璧な時代遅れだ。どの企業が本当に良いか判断しづらい現状では、多くの企業に履歴書と自分の意見を送り、自分に合った相手を探す必要がある。財務や営業のように、ほとんどの企業に関係する職種なら、極端な話、100社以上に応募することを考えてもよい。そんな状況に変わりつつあるのだから、手書きする余裕はない。
 手書きを気にするような企業は、応募者本人の能力をきちんと判断しているかどうかも疑問である。表面的な服装とか学歴ばかり気にして、応募者の可能性を見極めようとしていない可能性が高い。そんな企業への入社は本当に価値があるのだろうか、という疑問まで出てくる。

独自形式の履歴書を作ろう

 手書きを勧められないもう1つの理由は、市販の履歴書の書式にある。どこの学校を卒業したとか、どの会社に何年勤めたとか、さほど重要でない欄しかないからだ。市販履歴書の書式こそ、過去の価値観が反映された代表的なものである。そんなものは使わないほうがよい。その代わりに、自分独自の履歴書を作るべきだ。
 もちろん、採用試験に応募する際の提出書類は、履歴書だけでない場合が多い。職務経歴書や技術経歴書など、履歴書で不足する情報を加えるのが一般的だ。だが、この分け方も絶対的なものではない。もっと良い書き方があれば、それを採用して構わない。
 ここで考えてほしいのは、何のために履歴書などを作るかだ。自分の能力や考え方に加え、将来やりたいことを明確に伝えるためだろう。それが正確に伝わらなければ、もし入社したとしても、良い方向へ向かわない可能性が高くなる。目的を良く認識して、もっとも適した“履歴書+経歴書+α”を作ることが、今後は重要となる。

経験の中身や今後の希望を記入

 では、どのような“履歴書+経歴書+α”が良いのだろうか。これには2つの視点がある。1つは、採用担当者が何を知りたいかで、もう1つは、応募者本人が伝えたい内容だ。この両方には少し違いがあるものの、両者が正直に対話するという前提なら、かなり近いといえるだろう。一応、違うという前提で話を進める。
 採用側がマトモだったら、どんな仕事を何年経験したかではなく、具体的に何をやってきたのか知りたいはずだ。どんな考え方でどんな風に仕事を進めたのか。また、失敗することもあるだろうから、どんな反省をして次回の対策を考えたのかも興味があるだろう。簡単にで良いから、失敗まで含めて率直に書くことがベストだ。どんな人でも挫折や失敗があるので、あまりにも完璧な内容だと、ウソだと思われやすいし、実際はウソの場合が多い。
 応募する側の視点で考えると、これからしたいことを明確に伝えることが大切だ。あとから「こんなはずではなかった」と後悔しないためにも、やりたいことをハッキリと伝えるべきである。このハッキリという部分が非常に大切で、本当に強調しておかないと、強い希望だと相手が解釈しないこともありうる。強調するためには、小論文などで別に書くことをお勧めする。ただし、相手が悪い場合も想定しておきたい。自分のアイデアを全部説明すると、アイデアだけを盗んで不採用にするかもしれない。そんな最悪の事態も考慮しながら、自分の考えを表明すべきだ。
 人間の良さというものは、いろいろな面から判断することができる。だから、仕事に関する記述だけでなく、趣味なども詳しく説明したい。どんな趣味を持っているかだけでなく、その趣味がなぜ好きなのかを紹介してみたらどうだろうか。仕事の経歴だけでは判断できない良い面が、伝わるかもしれない。
 このように、自分を伝える方法はいろいろとある。より多くの違った面を見せることで、その人の本当の考え方が伝わるはずだ。あまり狭く考えずに、より自由に履歴書を作ってみたら良いだろう。

古い体質の企業を見分けるフィルターとして利用

 ワープロで印刷した履歴書を送ると、手書きが大切だと思っている採用担当者は、書類審査で落とす。つまり、印刷した履歴書の送付は、手書き重視の企業を見分ける効果もある。古い体質の企業には入りたくないと思ったら、印刷した履歴書を積極的に用いたい。手書き重視が時代遅れの考え方だと知られるまでは、重要なフィルターとして役立つに違いない。
 会社の体質自体は良いのに、採用担当者がたまたま悪いだけのケースもありうると心配する人は、イヤだと思いつつも手書きの履歴書を送るだろう。万が一のことを考えると、冒険は差し控えたいからだ。その場合には、次のような方法がある。プリンタで印刷した履歴書と一緒に、市販の履歴書を送るのだ。ただし、市販の履歴書には通常の記入をせずに、赤鉛筆で履歴書の書式を添削して、履歴書の書式が悪いから独自のものを印刷して作ったとアピールする。当然のことだが、市販履歴書の赤入れが、自作履歴書の書式と一致していなければならない。これなら、印刷したものでも不自然に感じず、履歴書の欠点を指摘することで、自分の考え方を明示することにもなる。この方法も万全ではなく、レベルが極度に低い採用担当者なら、これが原因で不採用を決定することもありうる。もしこのような親切までして落とされるのなら、応募した企業のレベルが低いと判断したほうが賢明だ。もっと直接的に伝える方法としては、「履歴書は手書きでなければなんて思っていませんか」といったタイトルの小論文を一緒に提出する手もある。この場合も同様で、相手のレベルが低いと落とされる可能性がある。

履歴書は最初のプレゼン

 就職試験の中での履歴書は、学歴や職歴を伝えるための記入用紙ではない。相手に対する最初のプレゼンテーションだと考えるべきだ。それが理解できたら、作成する側の気持ちも大きく変わるだろう。自分の主張ややりたいことを明確に決めてから、より正しく伝えるための方法を考えるはずだ。
 プレゼンだと認識する必要性は、採用側でも同じである。求人広告の応募方法に「履歴書や職務経歴書などを提出」と記述しているようではダメだ。もっと積極的に「あなた自身をプレゼンテーションしてください。これまでの何を考えて仕事していたのかや、これから何をしたいのか、積極的にアピールしてください。形式は自由です」ぐらい書いたほうがよい。採用側も、もっと差別化するべきだ。
 採用側と応募側の意識改革が出来れば、社会全体として、より適材適所への人材配置が可能となる。募集方法や応募書類の作成方法の改善は、その第一歩となるはずだ。

(1995年8月19日)


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