川村渇真の「知性の泉」

適切な自己プレゼンの時代


日本でもプレゼンが必要な時代に

 最近では、プレゼンテーションという言葉を多くの人が知っている。言葉自体は一般化したものの、実際にプレゼンテーションを行う人はまだ少ない。日本には、自分を強く主張しないことを由とする文化があったからだ。しかし、だんだんとだが、状況は変わりつつある。先進的な組織を中心に、プレゼンテーションが当たり前になってきたからだ。この傾向はますます進み、現在は古い体質の組織でさえも、いずれはプレゼンテーションが当たり前になるだろう。
 プレゼンテーションというと、大がかりな機器とパソコンのソフトを使用して、派手にアピールする方法を思い浮かべる人が多い。しかし実際には、ノートパソコンを用いた一人対一人のケースや、数ページの印刷書類だけで行うケースも、プレゼンテーションに含まれる。大切なのは、要点を的確に伝えることであって、方法ではない。

自己実現のためには「適切」が重要

 多くの人にとっては、個々の仕事のプレゼンテーションよりも、より良い人生のためのプレゼンテーションのほうが大切だ。そんな機会は少ないと思うかも知れないが、今後は、その機会が多くなる。というより、機会を自分で作るような世の中に変わるだろう。自分が思いついたアイデアを実現するためとか、やりたい仕事に変わるためといった目的で、プレゼンテーションを行うようになる。
 組織の中で働いていて、別な部署の仕事がしたい場合を考えてみよう。今までなら、配置転換の希望を出すぐらいの行動しか起こさない。ところが、これからの時代は、もっと積極的に行動するように変わる。配置転換の希望を明確に伝えるために、上司と人事担当者を集め、きちんとしたプレゼンテーションを実施する。これによって、ただ希望を出すよりは、はるかに大きな効果がある。そこまでしても希望を受け入れてもらえないなら、他の組織へ移る決心も付くだろう。その場合でも、作成したプレゼンテーションの資料は役立つ。転職先の組織相手にも、同じ資料を用いてプレゼンテーションをするからだ。
 就職する場合でも、相手の会社に良く思われようと行動するだけではダメだ。自分が本当にやりたいことや、相手がやってほしいことを、明確に伝え合うことが重要だ。お互いの意志疎通がある程度できれば、入社してから後悔する可能性を最小限に抑えられるし、自分が希望する職種にも就きやすい。そのためには、プレゼンテーションが必須である。頼まれなくても自分がプレゼンテーションするだけでなく、相手にもプレゼンテーションを求めるぐらいの行動がほしい。「貴社は、どんな能力を持った人材を求めているのですか。どんな方向に進む予定でいますか」といった内容でプレゼンテーションをしてもらえるように、相手の会社へ要望書を渡すような人が現れてもおかしくない。
 このように、プレゼンテーションは、自己実現のための強力なツールとなる。良く思われるとか無理やり説得する目的ではなく、自分を「適切に」伝えるために用いる。この点こそ、長い目で見れば最も重要なことだ。

自己実現に向けた道具を作成

 「適切」を実現するためには、それなりの道具が必要だ。自分の考えていることややりたいことが、できるだけ正確に伝わるような資料を、いろいろな形で用意する。どのようなものを作成するかと同時に、どのような点に注意して作るかも重要だ。そのポイントこそ、ここでの中心的なテーマである。
 このコーナーでは、普段使っている道具を用いながら、プレゼンテーションに役立つ材料の作り方について解説する。名刺のような原始的なものから、パソコンやネットワークを用いた本格的なものまで、幅広く取り上げる予定だ。ここで公開している内容全体も、プレゼンテーションの一例といえるだろう。これから紹介するアイデアを参考に、自分のプレゼンテーションを作ってみたらいかがだろうか。

(1995年6月29日)


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