川村渇真の「知性の泉」

管理することが悪いのでなく、管理対象が重要


どんな組織でも何かを管理している

 いろいろな新聞や雑誌を読んで感じるのだが、管理という言葉には、悪いイメージがあるようだ。たとえば「管理野球」は、いろいろな面で自由度の少ないチームを思い起こさせる。「管理」と聞いただけで、細かな点まで注意されて自由度が少なく、創造性を阻害する状況が思い浮かぶ。
 では、「管理○○」と呼ばれない組織では、まったく管理していないのであろうか。そんなことはない。組織である以上、予算なり日程なり、必ずどこかを管理している。それも、少しの箇所だけ管理しているのではなく、かなり多くの部分を管理するのが一般的だ。そうしなければ、組織を維持しづらいためである。
 どんな組織でも何かを管理しているなら、「管理○○」という表現は、すべての組織に当てはまる。厳密に検討すれば、そう言えるだろう。言葉による表現はある種いい加減なので、厳密な検討は当てはまらない。実際、「管理○○」という表現は、管理が厳しい組織を指している。

どの部分を管理するかが重要

 どんな組織でも何かを管理しているとしたら、組織ごとの違いは何だろうか。それは、管理している部分にある。どの部分を管理し、どの部分を自由にさせるかで、組織による違いが出る。つまり、重要なのは、どの部分を管理するかなのだ。
 一般的に、創造性を要求される仕事では、能力が高い人ほど管理されるのを嫌う。自由が阻害されるほど、本来の仕事に集中できないからだ。また、ユニークな能力を持った人ほど、自分独自の方法を用いるため、一般的な価値判断から外れる可能性が高く、いろいろと文句を言われやすい特徴がある。そのため、同じように管理されても、本人にとって邪魔されていると感じやすい。
 ただし、何でも自由にさせたとしたら、いつまで経っても終わらない可能性が高い。優秀な技術者であれば、非常に高い完成度を求めがちなので、時間の許す限り技術の向上を続ける。誰も納期を指定しなければ、いつまでも開発し続けて完成しない。これではまずいので、達成すべき技術レベルと一緒に期限を指定する。また、期限までに完成しそうかどうか、ときどき質問してプレッシャーを与える。逆に、どんな開発方法を採用するかや、服装などは自由にさせる。本当に必要な部分だけ管理するのが、上手な方法だからだ。
 どの部分を管理するかどうかは、仕事の種類に大きく関係する。服装を例に考えてみよう。顧客と直接相手をする仕事なら、悪い印象を与えないように注意しなければならない。また、工場で何かを製造する場合も、ケガをしないとか作業しやすい服装を求められる。このような仕事では、服装も管理すべき対象となる。そんな理由もなしに、特定の服装を指定するとすれば、それは適切な管理とは言えない。
 以上のことから分かるように、どの部分を管理するにしても、きちんとした理由が存在する。もし理由を説明できないなら、それは管理の対象として適切ではない。管理しないように変えたほうがよい。

どのように管理するかが一番難しい

 何を管理するかに加え、管理ルールもよく考えなければならない。管理ルールには、大きく2つに分けられる(実際には中間も存在するが)。管理する対象の中身を直接指定する方法と、満たすべき条件だけを設定する方法だ。
 中身を直接指定するのは、どんな風にすべきなのか具体的に指定する方法である。服装であれば、指定された制服を着るとか、スーツとネクタイは必須などが考えられる。中身を具体的に指定されるだけに、管理される人の自由度は少ない。管理者のほうは管理がしやすく、余分に頭を使う必要もない。ある意味で、管理者がラクできる方法といえる。
 満たすべき条件を設定するのは、本来の目的に近い形で条件を設定する方法である。服装なら、「お客様に不快感を与えない」という具合に、かなり抽象的な条件となる。管理される人にとってはかなりの自由度があるものの、管理する側は評価や判断を要求されて大変だ。抽象的な表現の解釈は、人によって認識の違いが生じるので、問題を引き起こしやすい。
 以上の2つの方法のうち、どちらが良いだろうか。組織に属する人の能力に大きく関係するだけに、単純には決められない。組織が能力開発(知識の習得でなく本当の能力の向上)に力を入れていて、組織全体での能力が高ければ、満たすべき条件だけを指定する管理ルールが適する。そうすれば、仕事の成果は高まり、一番良い結果が得られる。
 そうでない場合は、中身を直接指定する方法のほうがよいだろう。とくに、旧態依然とした日本企業では、管理職の管理能力がかなり低いので、満たすべき条件を設定する方法を使いこなせない。仕方がない選択なのだ。また、決まり切った作業を繰り返す仕事では、中身を直接指定する方法が適している。ベストな条件を具体的に指定でき、作業効率を高められるからだ。
 もっと厳密に検討するなら、管理する個々の項目ごとに、どちらの方法がよいか判断しなければならない。実際には、どちらかの方法を選ぶのではなく、その中間がベストなこともある。

管理対象を細かく調べれば、組織の特徴が分かる

 もう1つ重要なことも述べておくべきだろう。優秀な人材ほど、本来の仕事と関係のない部分で管理されるのを嫌う。また、管理ルールも、満たすべき条件を設定する方法を好む。このような管理方法を採用していない組織にいると、辞めて出ていく可能性が高い。
 「管理」という言葉は、自由度が少ない悪いイメージを持ってしまった。そのための弊害も出ていて、「管理」と聞いただけで毛嫌いする人もいる。イメージがいったん定着すると、変えるのはなかなか難しい。これからは「管理」という言葉に惑わされず、どの部分をどのように管理しているのか、きちんと見極めるようにしたい。
 自分が管理される側であれば、組織が何を管理しているのか調べてみよう。提出する書類や指摘される注意事項などから判断する。その組織や上司が本当は何を考えているのか、少しは見えてくるはずだ。もしかしたら、掲げているスローガンとは大きく異なるかも知れない。「独創的なアイデアをどんどん出そう」と言いながら、本来の仕事とは関係のない部分まで細かく管理している組織もある。また、組織と上司の考えが異なっている場合もあるだろう。
 これから入る組織を評価するためにも、管理対象を調べる方法は役立つ。もちろん、最終的には入って見てみないと分からない。それでも、面接での質問で調べるぐらいは可能だ。上手に質問して、何を管理しているのか、どのような管理ルールがあるのか聞き出してみよう。回答を細かく評価すれば、自分が思っていたのとは異なる組織像が発見できるかも知れない。
 自分が管理する側でも、管理する対象を調べるのは意味がある。仕事の種類と比べて、管理対象やルールが適切でなければ、修正することで現状を改善できる。最悪のケースである退職しても心配ない人は、所属する組織に改善を提案することも可能だ。
 以上のように、世の中の「管理」に関する記事や発言に惑わされず、上手な管理術を身に付けよう。組織に属する限り、どんな形でも管理が必要なのだから。

(1999年4月17日)


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