川村渇真の「知性の泉」

大学改革に関する考察(Ver. 1.0b1)の目次


教育改革の中でも大学改革は大切な要素

 我が国では、いろいろな部分で改革が話題になっている。教育改革もその1つで、本コーナーでも相当に突っ込んで検討している。教育改革に関する他の検討の多くは、本質的な部分に触れてすらいないため、有効な検討成果をほとんど出せずにいる。もっと悪いことに、この点に気付いている人は極めて少ない。教育改革に目立った前進が見られないのは、これが大きな原因だ。
 教育改革の中には、大学改革も含まれている。以前から何度も言われていることだが、日本の大学は、欧米の大学に比べて様々な面で劣っている。一度教授になってしまえば、成果が出せなくても安住できる、自分の大学の卒業生を教授に採用したがる、学生にひどい仕打ちをしたとき、発見しやすい仕組みがない、適切な評価で研究費が配分されないなど、挙げていけばキリがないほど出てくる。
 より大きな問題は、社会に対する貢献の少なさである。日本の行政では、いろいろな政策を決める際に、論理的で科学的な思考が基礎に使われていない。そのためか、無能な人が決めたのではないかと思われるような政策が、次々に実施され続けているし、失敗も多い。こうした現状を打開し、大学が持つ知識や技術を有効に生かし、今よりも適切な政策決定に役立てなければならない。政策決定の他にも、環境保護、人権尊重など、未来に向けた様々な面で貢献も期待される。
 こうした期待に応えるためには、大学自体が大きく変わらなければならない。現在抱えている多くの問題点を解消し、社会に役立つだけでなく、一般市民から真に尊敬される組織に生まれ変わる必要がある。残念ながら、今のままでは期待に応えられない。組織の運営ルールはもちろん、もっと優秀な人材の登用、幅広く貢献できるための基盤作りなど、相当に多くの面を改革しなければならない。
 大学改革のような大きな改革の検討では、細かな機能を決める前に、社会を含めた大まかな構造を設計するのが当たり前だ。こうした検討を試みる人が少ないのに加え、検討結果の質が高いものはまれだ。しかし、探してみると良い検討結果が1つだけ見付かった。理論物理学者である井口和基博士の著書「三セクター分立の概念:日本社会の構造的問題とその解決の方向」(近代文芸社、1995年2月)こそ、まさにそれだ。
 こういった内容が日本国内で発表されたにもかかわらず、ずっと埋もれてしまっているとは、日本の関係者はいったい何をしているのだろうか。あまりにも情けなすぎる。

以前に公開した考察の内容をそのまま掲載

 上記の本を読んで大きな刺激を受け、私も大学改革の全体像を検討してみた。その概要を「高等教育フォーラム」で発言した。2000年7月7日のことである。この場所を選んだのは、井口さんも参加していたからだ。ただし、私の考察を高く評価したのは、井口さんだけだった。この結果は、主要な発言者の過去の発言内容から見て、十分に予想できた。
 残念なことに、このフォーラムの主要な発言者は、物事を検討する手法の基礎を知らないだけでなく、マトモな話のなかなか通じない人が多い。大学の教授、大学院生、研究所の研究員らしき人などが参加しているにもかかわらずだ。おそらく、日本の組織の教授や研究員は、思考能力の高い人がかなり少ないのだろう。
 主要な発言者は、もう1つの特徴も持っていた。面白い意見が出されると、良い点を無視するだけでなく、その意見のアラばかり探して指摘する傾向が強い。そのため、意見を出した人の主要部分が、話題にのぼらないのだ。これでは、大事な問題の検討などできるはずがない。しかも、重要な内容を指摘したり提案する意見に対して、この傾向が強い。結果として、本格的な提案内容を作れないまま、教育をネタにした世間話が続いている(つまり、検討ではないということ)。
 さらに、悪い意味で驚くべき人もいた。私の考察を見て、「我々の議論内容を整理してくれて、ご苦労さん」といった内容の感想を言うのだ。それまで話題に上ってない内容がいくつも含まれているというのに、どこをどう読んでいるのだろうか。まったく理解不能な意見だった。おそらく、自分たちの過去の発言内容が、比べると低レベルに見えたためだろう。
 あまりにも反応がなかったので、この考察はそのままにしてある。しかし、ごくたまにだが、この内容に関する問い合わせが来たりする。本サイトに興味を持っている人なら、面白いと感じるかも知れないと思ったので、公開することにした。
 その発表した内容だが、「大学改革に関する考察(Ver. 1.0b1)の目次」というタイトルで、目次しか作成しなかった。何しろ、全部を書くと、最低でも単行本で3冊程度にはなるからだ。今の段階では、とりあえずそのままで掲載する。

大学改革に関する考察(Ver. 1.0b1)の目次
                  作成&公開日:2000年7月7日
0. はじめに
1. 世の中の流れを考慮した、大まかな方向性
  1-1. アカデミズムの論理的で科学的な思考能力を社会の発展に生かす
  1-2. 世間に信用されるためにアカデミズム全体で取り組む
  1-3. 倫理ではなく仕組みで、不正や不適な活動を防ぐ
  1-4. レビュー可能な形式で各種情報を公開し、不適切な意思決定を防止する
  1-5. 学生などへの不適切な行為は、まず防止する仕組みを用意する
  1-6. 市民へのアカウンタビリティは、アカデミズムが率先して実行する
  1-7. 公開対象は、研究費の配分、研究者の選択、研究結果の評価など幅広く
  1-8. 各役割ごとの職務を規定して、プロとしての責任ある行動を求める
2. 考慮すべき重点項目の選択(以降で、項目ごとに具体的な改善案を解説)
  2-1. アカデミズムの独立性の確保
  2-2. 市民に対する透明性の確保
  2-3. より多くの資金の調達
  2-4. 研究の質の向上
  2-5. 知的能力や研究成果の社会への還元
  2-6. 知的教育の質の向上
  2-7. 現状の細かな問題点への配慮
3. アカデミズムの独立性の確保
  3-1. アカデミズムの独立が、社会の進歩を推進する
  3-2. 自己改革の仕組みも一緒に組み込む
  3-3. アカデミズム全体の質を良くする組織の設立
  3-4. 反論を受け付けて公開し、きちんとした検討結果も公表する
  3-5. 指摘された問題点は、アカデミズム内で可能な限り対処する
  3-6. 資金的な独立も可能な限り進める
4. 市民に対する透明性の確保
  4-1. 適切な評価方法や公表方法を、多くの関係者が理解する
  4-2. 資金利用、採用、研究評価などをレビュー可能な方法に
  4-3. いろいろな意思決定経過と結果をきちんと公表する
  4-4. 意思決定の結果を適切に評価し、その結果も公表する
  4-5. 研究者や研究成果を定常的にアピールする
  4-6. 運営計画を出させる形で学長を公募し、その内容を評価して選ぶ
  4-7. 職員の採用方法、責任、業績評価を改善し、プロとして働いてもらう
5. より多くの資金の確保
  5-1. 税制改良と名誉的な感謝方法の導入
  5-2. 知的資産から資金を生み出す
  5-3. 知的活動を通じて資金を得る
  5-4. 特許取得や資金有効利用などの支援組織を設置する
6. 研究の質の向上
  6-1. 評価担当者の適切な選択と、評価結果の事後評価と公表
  6-2. 仮想的な評価担当者としての自由参加の実現
  6-3. 研究成果の評価過程の整備と継続的な改善
  6-4. 研究テーマ募集型における選択過程と結果の公表
  6-5. 市民運動の支援など、業績評価の範囲を広げる
  6-6. マイナーと思われがちな研究分野への配分の確保
  6-7. 長期型基礎研究の契約と評価の方法
  6-8. 自由な研究を保証し、成果報告方法を厳密に規定するルールに
  6-9. 研究者の採用方法および契約方法の改善
7. 知的能力や研究成果の社会への還元
  7-1. アカデミズム総合ポータルサイトの設置
  7-2. 広い分野における建設的な提案を公開し続ける
  7-3. 各種政策のアカデミズム側ので評価を公表する
  7-4. 論理的で科学的な分析や評価の方法を、率先して示す
  7-5. 市民の意識改革に向けた援助を様々な形で実施する
  7-6. 社会人に向け、知的な講座や講演会を定期的に開催する
8. 知的教育の質の向上
  8-1. 良い教育に求められる基本条件を規定する
  8-2. 学生のスキル向上が可能な教育内容の作り方を採用する
  8-3. 良い教育方法を教育担当者の全員に習得してもらう
  8-4. 教育担当者の教育内容や評価方法をレビューする
  8-5. 分野に関係なく必要な能力の習得を手助けする
  8-6. 受講の対象を可能な限り広げ、社会人も参加可能に
  8-7. 学生側からの改善要望を受け付ける機関の設置
  8-8. 単位制とそれを中心にした卒業資格の導入
  8-9. 卒業条件を厳しくして、一定の質を確保する
9. 現状の細かな問題点への配慮
  9-1. 細かな問題へ対処する基本的な考え方
  9-2. 自校研究生の囲い込みの防止
  9-3. 学生に向けた意地悪な行為への効果的な対応
  9-4. 予想できない問題へ対処する仕組みを用意する
10. 以上の内容を統合した姿(今回は省略)
11. 本内容を正しく理解するための補足事項
  11-1. レビュー可能な形式で公開することの重要性
  11-2. 物事を適切に評価する方法
  11-3. きちんと議論するための方法
  11-4. 反対意見などへの適切な対処
  11-5. 告発などがもみ消されない仕組み
12. 実現に向けた活動での注意点と期待
  12-1. 小手先の対処では効果がほとんどない
  12-2. 改革の法則を理解して行動する
  12-3. 世論を動かすしか、日本では実現が困難
  12-4. 官僚の一部だけでも、目を覚ましてほしい
13. おわりに

 もっと時間があれば、すべての内容を細かく説明したいが、そのために時間を使う価値がないと判断した。教育に関する研究に時間を割り当てるなら、新しい教育内容を設計した方が、より重要な成果が出せる。実は、他の研究テーマを優先したいのに加え、もう1つ理由がある。この考察の詳細を発表したとしても、今の日本の現状では、採用されて前進すると到底思えないからだ。
 細かい説明がないものの、この考察の一部の内容は、本サイトに含まれている。「1-4. レビュー可能な形式で各種情報を公開し……」、「2-6. 知的教育の質の向上」、「8-1. 良い教育に求められる基本条件を規定する」、「11-2. 物事を適切に評価する方法」、「11-3. きちんと議論するための方法」などだ。他の項目でも、理解に役立つ内容が本サイトから見付かると思う。
 この考察に関係する仕事をしている人は、これを少しだけでも参考にして、良い状況を作ってほしい。大学改革は、教育改革の中でも重要な位置を占めるからだ。現実を冷静に見るとき大破できないものの、予想に反して大きく改善が進めば非常に嬉しい。

(2001年11月10日)


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