川村渇真の「知性の泉」

設計の手順


設計の作業を広く捉える

 設計という言葉からは、計算しながら図面を描くとか、試しに作ったものを実験して測定するとか、実際の作業が思い浮かぶ。確かに、狭い意味で捉えた設計だと、そのような作業が中心となる。また、設計する対象が複雑でない場合は、狭い意味の作業だけを考えても、あまり支障がないだろう。しかし、ある程度以上に複雑なものを設計するとか、設計の質を高める場合には、設計の作業をより広く捉える必要がある。
 実際の設計を細かく観察すると、狭い意味の設計を始める前に、いろいろと検討する。今回はどんな点を重視して設計すべきかとか、どんな条件を満たすものを作るべきかとか、設計に求められる条件を最初に規定する。また、設計の途中では、設計した内容が良いかどうかを評価する必要もある。さらには、製造して使ったあとでの評価も重要だ。これら全部が、設計という作業に大きく関係している。設計途中での評価は、悪い設計の防止に直接役立つ。また、使用後の評価は、長い目で見たときに、設計に質を向上するために貢献できる。設計の質を高めたいなら、これら全体を設計の作業と捉えるべきである。

設計全体での最適化が必要

 設計する対象が複雑になると、がむしゃらに前へ進むような方法では、質の高い設計結果が得られない。まれになら、運が良くて成功する場合もあるだろう。しかし、きちんとした成果を安定して得たいとしたら、そのような方法では無理だ。
 より良い設計を求めるなら、設計の手順を広く捉えて、全体を最適化する必要がある。多くの場合、使える時間や資源は有限なので、もたもたしている余裕はない。どの時点で何をしたら、できるだけスムーズに設計が進むのか検討しなければならない。必要な作業にはどんなものがあるのか、それらはどの順序で行えばよいのか、全体として整理する。この結果こそ、設計の工程だ。
 設計の対象物に合わせて、手順を調整する必要もある。ある対象物で成功した手順が、性格の異なる対象物で成功するとは限らない。自分が関わる対象物の設計には、どのような特徴があるのか、見極めることも求められる。

押さえるべきポイントがある

 設計という作業は、管理と相反する性質を持つ。何もかも細かく管理することは、設計者のヤル気を失わせ、設計の質を低下させることにつながる。実は、ここが問題であり重要なのだ。設計者にはある程度の自由を保障しながら、目標や条件を規定することで、設計の大枠や方向を示さなければならない。各設計者には、その範囲内で最大限の力を発揮してもらう。これが現実的で最善の方法である。
 以上のことを別な視点で見るなら、押さえるべきポイントだけは管理し、それ以外の部分では自由にさせることだと解釈できる。設計全体の作業で、どの工程のどの部分を押さえるべきか、理解する必要がある。その箇所に関しては、設計の種類による違いがあまりないようだ。ここでは、押さえるべきポイントを中心に、設計の工程を検討してみたい。

(1997年8月13日)


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