川村渇真の「知性の泉」

手順:設計の目標を明確に示す


適切な設計目標で開発資源を有効活用

 設計の中で一番最初にやらなければならないのが、設計目標の明確化だ。あまり考えずに設計を始めると、良い結果が得られる可能性は少ない。ほとんどの設計では、期間、予算、人材などの資源が限られている。その中で最高の結果を出すためには、重要な部分へ資源を集中する必要がある。それを決めるのが、設計目標である。一度に全部の性能を良くすることなど、絶対にできない。
 何を設計する場合でも、そのときの状況を把握する必要がある。競合製品が存在するなら、それに負けないような性能や機能を持たせなければならない。どんな点で差別化するのか、競争力を高めるための条件を規定することが、設計目標の作成である。
 悪い設計目標を掲げると、いくら技術力が高くても、魅力ある製品は作れない。適切な設計目標を示して、間違った方向へ進むのをできるだけ防ぐ。これが、設計目標の役割であり、良い製品や設計への近道となる。

設計の目標は3種類に分けられる

 しかし、設計目標の役割はそれだけではない。もっと広い視点で設計目標を捉える必要がある。その前に、設計目標の中身を考えてみよう。広い意味での設計目標は、設計対象物の機能、その内部構造、設計手法の3種類に分けられる。それぞれ簡単に説明する。
 対象物の機能とは、設計した物が実現する機能を指す。ソフトウェアであれば、ユーザーから見えるインターフェースや機能が該当する。何かの機器なら、筐体のサイズや重量、いろいろな機能や性能値などがある。意外に見落としがちだが、使いやすさも項目の1つとして含まれる。3種類の中では、最も重要な項目といえる。
 対象物の内部構造は、設計した物の仕組みや構造などを指す。ソフトウェアならば、システムの構造をどのようにするかであり、機械装置なら、動作機構や部品構成などが含まれる。内部構造に関する目標の指定方法には、直接と間接の2つがある。直接の場合は、「○○構造を採用する」とか「○○方式で実現する」というように、具体的な仕組みや構造を指定する。間接の場合には、「変更に強い構造にする」とか「既存の部品をできるだけ利用する」などと、特徴や方向性を示す表現となる。間接的な目標のほうは、実現のための構造を求める事前工程が必要となり、どのような構造を採用するかは設計担当者に任される。直接的な目標に比べて、設計者にとって自由度の高い設定方法だ。設計者の能力が高い場合は、間接的な方法で目標を定める。
 設計手法は、設計の技法、工程、手順、組織などをどのようにするか指定する。新しいプロジェクト管理を使ってみるとか、設計仕様書の書き方を変えるとか、レビュー方法を改良するなども含まれる。少し毛色は違うが、開発コストも項目の1つだ。設計部隊の規模が大きいほど、この種の目標が重要となる。

できるだけ具体的な数値で目標を設定する

 設計目標を決める作業では、まず最初に思い付く項目をすべて洗い出し、その中から重要な項目を選ぶという手順を踏む。その際に、3種類の分類を利用する。これらを別々に考え、それぞれで思い付く項目を挙げてみる。3種類の分類ごとに、最低でも1個を選ぶのが基本だ。
 目標の設定では、個数と程度を上手に選ばなければならない。個数というのは、目標をいくつ用意するかだ。たとえば、小型軽量を目指すなら、重量と体積の両方を軽減する目標を掲げる。程度というのは、各目標ごとの値である。「重量を20%減らす」のように数値を用いて、可能な限り具体的に示したほうがよい。目標の個数や程度に関して、いくつにすべきという条件や制約などない。基本的には、“頑張れば実現できそうな範囲内で”多くの目標を含める。この部分こそ、もっとも難しい点である。あまりにも難しい目標を掲げると、達成できないとあきらめてしまう。逆に簡単な目標では、最大限の努力をしない。設計者の能力や設計期間によっても左右されることも、設定を難しくしている。最終的には、悩みつつ決断するしかない。
 設計目標を3種類に分けたのは、設計者の能力を高める意味もある。新しくて有効な設計手法を採用すれば、最新の設計の考え方に付いていける。設計内容を仕様書としてまとめる能力や、きちんとテストや評価する能力も、一流の設計者には必要だ。この部分は、個々の設計者ごとに目標を設定して成長を促す。何回かの設計プロジェクトに参加すると、だんだん能力が向上できるように、目標を設定すべきである。設計者の能力が高まれば、最終的には設計した結果も良くなる。以上のように、設計目標を定める効果は、かなり広い。また、グループで設計する場合だけでなく、一人で設計する際にも確実に役立つ。
 なお、洗い出したものの採用されなかった目標だが、そのまま消える訳ではない。次回以降の設計で採用される可能性もあるので、項目のリストは保存しておき、次に設計目標を決めるときに利用する。すべて無駄にせず、何でも有効に活用したい。

(1997年8月27日)


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