川村渇真の「知性の泉」

どんな分野の設計にも適用できる考え方がある


設計対象が複雑なほど効果が大きい

 どんな設計においても、出来の良し悪しがある。つまり、良い設計と悪い設計だ。何が良くて何が悪いのかは、細かな点まで見るなら、分野ごとに異なる。しかし、設計するときの基本的な考え方では、分野に関係なく適用できる重要なポイントが存在する。設計の全体像が把握しやすいとか、変更しやすく作るといった点だ。また、設計したものが使いやすいことも重要である。これらの条件を満たして設計できれば、出来上がったものの質は高い。
 設計における工夫は、使い勝手などの一部を除くと、対象が複雑なほど効果を発揮する。ソフトウェア開発を例に挙げるなら、1本のプログラムを作るときは、なくてもさほど困らない。だが、大規模なシステムを設計する場合には、全体を把握する工夫が不可欠である。設計の複雑さは難易度と比例するので、「難しい設計ほど効果を発揮する」とも表現できる。
 ここで対象とするのは、製品などの物体だけではない。報告書や提案書などの作成も、書類全体を設計すると捉えることが可能だ。何十ページもの書類になると、上手な設計術なしでは分かりやすく作れない。何を作成する場合でも、その最初の部分には設計と同じ要素が含まれる。

設計における考慮点や視点を提供する

 設計という作業では、どんなことを考慮するかが非常に重要である。たとえば、使い勝手を考えてない設計者が、使いやすいモノを作るのは非常に困難だ。どんな視点で設計するかは、出来上がったモノの質を大きく左右する。
 まず最初は、より多くの視点を知ることだ。そのうえで、対象となる設計では、その中からどれを重視すべき部分を決める。1つだけを最重要視して、他の数項目を少し重視する場合もあるだろう。また、2つか3つの項目を重視する場合もある。どの項目を重視するかは、設計のコンセプトを決めるための準備作業といえる。
 複雑なものの設計では、何かの指針がないと良い成果を得られにくい。いくつもの視点を知ることは、指針を得ることに等しい。それにより、行き当たりばったりの設計から、論理的に思考する設計へと変化させられる。設計作業全体や設計内容全体を、システムとして捉えることが重要だ。

より突っ込んだ具体的な工夫が重要

 設計におけるポイントといっても、ただの一般的な話では役に立たない。「設計の全体像を把握できるように作りましょう」と言うだけなら簡単だ。大切なのはその中身。どのようにしたら把握しやすく設計できるのかなど、もう少し突っ込んだ、より具体的な内容が求められる。どんな方法で実現するのか、どんな箇所に適応するのかなど、実際に役立つ内容に価値がある。ただし、具体的になるほど特定の分野でしか利用できない可能性が高く、そのバランスは相当に難しい。それでも、適した例は見付けられるだろう。
 もう1つ重要なのは、各視点の底にある考え方だ。そのような点をなぜ考慮すべきなのかを考えると、提供された工夫の例以外にも応用できる。また、新しい視点を自分でも思い付くようになるだろう。ちょっとした部分の設計であっても、何か工夫できないかと考えてみると面白い。すべての視点に共通するのは、良い設計のためには何をすべきなのか深く考えることだ。この点こそ、もっとも強調したい部分であり、感じとってほしい部分である。

(1997年7月12日)


下の飾り