川村渇真の「知性の泉」

質の高いレビューは設計能力を向上させる


レビューによって成果物の質が上がる

 設計した成果物の質を高めるためには、途中や最後でのレビューが欠かせない。レビューには、設計者とは別な人が設計内容を評価することで、悪い点を発見する効果がある。具体的には、単純なミスや見落とし、条件として考慮していなかった部分、別な解決方法や過去の失敗事例の未認識、製造段階で発生する問題点、保守の容易さへの未配慮などが発見できる。
 ただし、単にレビューを実施すればよいというものでもない。レビューの目的を理解し、適切に実施しないと、期待した効果は得られないからだ。最悪なのは、重箱の隅をつつくような内容を指摘することで、そんな風だと誰もがレビューを受けないだろう。
 そうではなく、設計での重要な点に絞って、内容が適切かどうか評価しなければならない。基本構造は適切か、採用した技術は最適か、見落としている考慮点はないかなど、後から気付いたのでは手遅れになる点の発見に集中すべきだ。
 このような要点を理解し、最初のうちは誰かが議長役に専念する。重箱の隅をつつくような意見を止めさせたり、より本質的な話題へと導く役割を担う。こうした経験を繰り返すと、議長役がいなくても、きちんとしたレビューができるようになるだろう。レビューを本気で実施するなら、レビューの質を確保することに注意を払ったほうがよい。
 設計の対象によっては、良い評価方法を採用することも大切だ。最適な評価方法を用いなければ、質の高いレビューなどできない。業界で広く認められているとか、優秀な技術者に信頼されているとか、多くの人が納得できる評価方法を選ぶ必要がある。
 レビューの質が確保できれば、重要な欠点が指摘されるため、設計での大きなミスが減らせる。早目に発見できたほうがよいので、設計の最終段階ではなく、もっと早い適切な時期に実施することも大切だ。

設計者の能力を向上させる効果が大きい

 質の高いレビューを受け続けると、設計者の能力も高まる。もっとハッキリ言うなら、能力を高めるために非常に大きな効果を発揮する。レビューは、それほど重要な作業なのだ。
 レビューで指摘されるのは、設計上の大きな欠点である。全体の構成が悪いとか、考慮していない点があるとか、ベストな解決方法が採用されていないとか、かなり重要な点ばかりだ。このような点を指摘されるのは、それらの点を考慮して設計していないからで、指摘されることで欠点に気付く。場合によっては、レビュー後に相当な勉強が求められるだろう。このように設計内容の欠点を指摘され続けると、どんな点を考慮して設計したらよいのか分かってくる。数多くの考慮点を知れば、その分だけ良い設計ができるようになって当然である。
 レビューで指摘される経験は、能力を高めるのに大きく作用する。本を読んで知る場合に比べて、本人に与えるインパクトが大きいからだ。言われたときの印象が大きいと、忘れる可能性が低い。さらに、レビューで指摘された点は修正を求められるため、イヤでも改善を経験できる。
 質の高いレビューを若いうちから受けると、本人の能力が効率的に高まるので、非常によい環境といえる。逆に、レビューをまったく実施しないと、設計内容の欠点に気付かない。まったく改善しないため、能力が低いままで保たれる。他の代表的な解決策は独学だが、重要なノウハウほど雑誌には載らないので、自ずと限界がある。やはり、良いレビューを実施している組織へ移るのが最良の解決策だろう。つまり、どんな組織で仕事をするかは、能力の向上に大きく関係することを忘れてはならない。その意味で、良い組織を選ぶことは非常に重要だ。
 以上のような効果を発揮するかどうかは、レビューの質に大きく関係する。レベルの低いレビューでは、指摘する部分がさほど重要でない点なので、能力の向上にはあまり貢献しない。レビューの質を確保することが、能力向上の決め手である。

能力が高まると設計やレビューの時間も短縮

 一般的な開発組織では、レビュー専門の担当者を用意するのではなく、設計者が互いにレビューを担当する。その結果、組織内の全員の能力が高まっていく。設計する面でもレビューする面でも、能力が高い状態に向かうわけだ。
 このような組織が実現すると、設計やレビューにかかる時間が短くなる。設計では、大切なポイントを押さえながら作業し、迷う時間を限界まで少なくできる。また、設計内容を自分で評価できるように整理しながら設計を進めるため、前の工程へ戻るようなミスが減り、全体として無駄がなくなる。整理した資料はそのままレビューにも使えるため、レビューのために余計な作業はほとんど発生しない。
 レビューする側でも、かなり短い時間しか使わない。設計の質が高いと、レビューで指摘する項目が少ないので、同じテーマのレビューを何度も繰り返えさなくて済む。また、設計の能力が上がると、レビュー用に整理した資料も分かりやすく作れるので、レビューする側が短い時間で理解できる。これもレビュー時間の短縮に貢献する。全体としては、レビュー全体の負荷が大きく軽減する。
 このような状態になると、レビューのために集まるのは、本当に重要なテーマだけに限定して構わない。それ以外のレビューでは、集まらないでレビューする方法が採用できる。レビュー用の資料を電子メールに添付して配布し、レビュー結果を電子メールで送ってもらう方法だ。好きなときに見れるので、レビュー担当者の効率は上がる。指摘箇所が少なければ、メールに書く作業負荷は小さい。ただし、予想外に多いと感じた場合には、集まってレビューしたほうが安全なので、すぐに切り替えてレビューを開催しなければならない。

 以上のように、質の高いレビューを実施することで、設計者の能力は確実に高まる。とくに組織では、全体の能力向上に大きく貢献する。重要な仕事ほどレビューをきちんと実施し、成果物の質と設計者の能力の両方を一緒に高めよう。その鍵を握っているのは、レビューの質である。

(1999年10月14日)


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